第43話 キノコの森 一日目(2)



 さくさくとダンジョンを進んで、5階の入口。

 今までの階は、入口は大きな広場のようになっているが、キノコの大群が遠くまで見渡せて明るかった。


 しかし、この5階は全く違った。

 入口は大きな広場になっているが、幅3メートル、高さも3メートルくらいしかない、すぐに通路が折れ曲がり、いくつも分かれ道を作っている。ちなみに、広場から行ける道は7か所ある。

 さらに、真っ暗であり、松明などの明かりが無いと先は全く見えない。


「今までの階とだいぶ雰囲気が違う……」

「ああ……これは、迷路の階だな。厄介だな」

「えっと?」


 レオニスさんが頭を掻いて、説明をする。


 迷宮ダンジョンには、たまにこういう迷路のような階層が現れるらしい。

 罠はあるが、基本的には魔物が出ない……ただし、罠の先にはモンスターハウスということもあるので、極力罠にはまらないように気を付ける必要がある。しかし、暗いため罠は見つけにくい……駄目じゃん。


 まあ、現代の巨大迷路のアトラクションと言われると納得する。

 これって、からくり屋敷みたいに、隠し通路とかもあるんだろうか……あ、なんかありそうな気がする。ちなみに、キノコ要素が全くないわけではなく、分かれ道の下にはキノコが植えられていたり、通路には大きなキノコが埋まっていることもある。



「なかなか次の階層の入り口は見つからないことが多いし、時間をかけると体力も減っていくから、嫌がられるんだよね~」


 まあ、確かに、こういう迷路にずっと迷うというのは精神的には来るかもしれない。

 数時間かかるのが普通……ん? 10階に行かないと今日の攻略は終わらないのに、数時間って、この階で日付変わるよね。


「参ったな……悪いが、この階では君が罠とかを気を付けてくれ」

「兄さん? どうしたの?」

「いや。暗いと見え辛くてな……罠とやらもこの暗さでは俺は見つけられん可能性がある。戦闘も少し苦労するかもな」

「え? そうなの?」

「……先に言え」


 兄さんが〈鳥目〉というアビリティを持っていることは知っていた。明るいところでは、かなり視力が高い一方で、暗くなると見え辛いとのこと。かなり視力に差があるので、本人としても暗い状態で見ようとするのはストレスが溜まるのと、疲れるらしい。



「とりあえず……光〈ライト〉。これで、兄さんの周りは明るいから」

「おお! 俺が光り輝いている!」

「とりあえず……兄さんの周囲を光らせてるから……この通路なら、周囲2メートルくらいあれば、松明代わりになる、かな? 遠くが見えない点は改善できないけど」

「そうですねぇ……松明を持たないという点ではよろしいのではないかと愚考いたします。しかし……MPは大丈夫ですか?」

「MPの消費は、これくらいなら……大体自然回復と同じくらいのペースで消費する感じです。魔物が出ないなら、これくらいは……駄目ですか?」


 なんで、レオニスさんもラズ様も微妙な顔してるのかな。フォルさんはいつもの怪しげな笑顔だけど……。なんか変なことしたかな? でも、松明って、こんな狭い場所で焚いていいのかなって思うわけで……換気とか。一酸化炭素中毒とか、心配だよね。

 魔法という不思議な力を使って明るくしておいた方がいい気がするんだけど。



「なあ、とりあえず、俺を明るくしたところで、俺は暗いところを見えるようになるわけじゃない。前を歩く奴を明るくして、俺は下がった方がいいんじゃないか?」

「あ、確かに? じゃあ……」

「こちらのガラスに掛けていただいてもよろしいでしょうか? こちらをこの棒に付けて、松明代わりに致します。この階では罠の見極めのために、私が先頭に立ちましょう。クレイン様もご一緒にどうぞ」

「わかりました」


 ガラスに魔法をかけ、明るくし、棍の先に巻き付けると提灯の出来上がり? 結構、棍が長いので、それをつかって先を確認しながら進むことになった。


 兄さんは私の後ろ、その後ろにナーガ君。レオニスさんとラズ様が最後尾となった。



「さて、どちらに参りましょうか?」

「う~ん。ここ、でお願いします」


 正面に3つ、左右に2つずつある迷路の入り口に立ってみて、良さそうな道を選ぶ。

 なんで私が選ぶのかと思ったが、こういう時は運がいい人が選ぶジンクスがあるとのこと。全員一致で、私が一番LUKが高いと判断した……まあ、そのための〈直感〉と私も信じてる。むしろ、このダンジョンでは〈直感〉が結構役に立っていると思う。


 逆に言えば、〈直感〉がないと危険が多いってこと……レベルが足りない。


 なんだか、他の人たちも〈直感〉への信頼度が高いようだけど、実際に自分ではそんなにはっきりわかるものでもないので、すごく心配になる。大丈夫なんだろうか。



「迷路だな……」

「ああ。ナーガ、分かれ道のたびに印はつけているが、長時間になると消えるケースもあるから気をつけろよ?」

「え? 長時間ってどれくらいですか?」

「早ければ5,6時間。長くて2,3日だな。こういう迷路はヤバい時は、壁破壊をしてでも、無理やり突破することもあるくらいだ」


 ダンジョンが生きているって言われる由縁は、ダンジョン内を破壊しても、そのうち修復してしまうことがあるらしい。とくに、迷路の場合は、数時間おきに印の形を変えるとかしておいた方がいいとか。

 まあ、今のところ同じところに戻った形跡はないらしい……印とかは、まったく気にしてなかった。


「ん? …………いま、なんて?」

「どうした? 何かあったか?」

「いえ……ちょっと気になったので…………壁破壊できるんです?」

「ああ……まあ、今はまだお前たちでは破壊は厳しいかもしれんが……ダンジョン内で壁をすべて破壊すると天井が落ちてきて危険な階層もあるが……迷路の場合は、柱は多いからな。天井が落ちるようなことにはならん。……広範囲でない限り。ただし、最終手段だ。他のパーティーに迷惑をかけることもあるから、気を付けろよ」


 なるほど。

 このダンジョン、今のところ他に人いないんだよね……。もう少し、上の階に行けばもう少し人はいるとのこと……入口で入ダンしてる人数確認してたのはそのためか。


「…………わかりました。あの………………キノコ、焼いていいですか?」

「あん?」

「……」

「キノコって目の前の? 何かあるの?」


 そう、分かれ道ではないけど、ちょうど目の前に、通路に1メートルくらいの太さがある大きなキノコが埋まっていた。

 前も後ろの分かれ道もキノコ側には進めないようになっているので、なんとなく……このキノコ破壊するのがいいと思う。


「多分焼けば道が出来るかなって……問題あります?」

「いや、まあ、構わないが……」

「火破裂〈フルバースト〉! ……あ、ほら、道が出来ましたよ」

「…………」

「君、たまに突飛な行動に走るよな」


 火の魔法を打つとキノコは結構簡単に燃えた。有毒ガスとかはないと思う……一応、距離は離れていたし、風魔法で流れを作って四散させておいた。壁を破壊するより簡単に、そして、入口の広場ほど大きくはないけれど、休憩できそうなくらいの部屋に繋がっていた。あと、宝箱もあった。


「……そういう発想はなかったな」

「そうだね。まあ、宝箱もあるし、良いんじゃないかな。奥に繋がってるみたいだね~」

「念のため、今後も燃やすときは先に言ってくれ」

「はい」


 どうやら、レオニスさんもラズ様もこの迷宮に来たことはあるが、キノコを燃やして道を作ることはなかったらしい。

 天井が低いから燃え続けるようならまずいけど、一瞬で燃えて消えるので危ないことも無さそう。宝箱もありがたく貰っておく。ニコニコ顔が少し陰ったフォルさんがちょっと怖い。


 宝箱の中身は、HPが上がる〈アースペンダント〉とMPが上がる〈銀の腕輪〉という装備アイテム。

 とりあえず。アースペンダントはナーガ君、銀の腕輪は私がつけることになった。兄さんは次に良いものが手に入ればという話になった。


 ちなみに迷宮ダンジョンの他の宝箱は、迷宮内で亡くなった人の装備品とか持っていた物とかが出ることもあるらしい。……遺品ってことは中古? と思ったけど、何故か、武器や防具などの装備品は新品同様になってるらしい。使い込んでいた武器ではなく、新品になるとか……どんな原理なんだろう。


 まあ、入手したので使っていくけどね……遺品として回収されるのかなと思ったけど、新品だから別物という扱いにしているので使っていいそうだ。


 5階の迷路については、ところどころでキノコを燃やして進むと20分ほどで次の階への入り口を見つけることが出来た。宝箱もたまにあったけど、ポーションとか素材で、装備品はなかった。

 迷路は結構面白かった。ただし、本来は数時間かかるので、嫌がられる。今回はかなり短い時間で抜けたが、闇雲に歩くだけで同じような場所をぐるぐると周るので精神的にもストレスを感じ、辛いとのこと。今後、他の人と来る時には立ち回りは注意しないといけないかもしれない。

 ついでに、罠があまり無かったので、罠の見極めはまだまだ練習が必要となってしまった。



 6階からは、再び魔物が出る。

 しかも、1~4階の魔物と違い、虫系の魔物が増えた。キノコに擬態しているつもりなのか、変な色の虫が多い上、大型犬くらいの大きさで、結構気持ち悪い。正直、切りかかって変な液体がかかるのも嫌なので、できれば避けたい。


「あの、聞いてもいいですか?」

「どうした?」

「……虫、続きますか?」


 いや、今までも虫型の魔物は倒してきたけれど……この階に出てくる虫、ぜんぶ毒持ちだと思う。色だけでなく……解体したときに手に入るアイテムが毒とか痺れ粉ばかり。素材になるので、気持ちが悪いけど解体はする。多少傷が付いたところで、問題ないのでさくさくと手早くやるけど……切り落とす時に体液がかかると麻痺することもある……。

 

 正直……解体はまだいい。動いているのが、すごく気持ち悪い。

 


「ああ……そうだな。ダンジョン内の魔物は多少変わるが……」

「むしろ、虫系・植物系の魔物が増えていくんじゃないかな~」

「……苦手なら下がってろ」


 ナーガ君が心配そうに言ってくれるが……他は、諦めろという顔だ。

 まあ、戦いたくないと言って置いていかれても困るから、戦うけども……。ここで、剣よりも魔法を主体に変更を余儀なくされるとは……だけど、ちょっと嫌なので、前衛に行くのを止めておこう。


 虫系は素早いことはないけど、たくさん出てくる。特に蟻と蜂と芋虫は数が多い。注意しながら進んでいく。


 状態異常にかかる可能性があるとのことで、聖魔法の状態異常抵抗上昇〈レジスト〉を兄さんとナーガ君にかけておく。レオニスさんからは、ボスなどの場合には、全員に掛けるように指示を出された。聖魔法を使っていることについては、「便利だし、いいだろ」と流された。


「実際、他の魔法と違って、光魔法と聖魔法は区別がつけにくいから、ヒーラーでないとわからないよ」

「そう、なんです?」

「風魔法と雷魔法だと、効果が別系統だからわかるけどね~」


 ヒーラー同士なら、分かる可能性もあるが……そもそも貴重なので、一緒に組むことは稀らしい。そして、他の冒険者から広まることも少ない。なぜなら、他人の情報を余所に垂れ流すような奴と組む人は少ない。

 他に情報を流すと、自分の情報も流されるのではと警戒される。流された人は、その人と組まないとギルドに申告し、ギルドもその意思表示は考慮してくれる。


 使えるなら使って、鍛えておいた方がいいそうだ。聖魔法は光魔法の上位であるだけに、回復系は優れている。何かあってからでは遅い。


「もし、聖教国に絡まれるようなことがあれば対処するから、自分でなんとかするようなことはしないでね」

「はい……」


 報連相は大事ということで、報告した方がいいようだ。許可が出たから、聖魔法は鍛えるためにもガンガン使っておこう。


 なお、「ラズ様にきちんと報告してくださいね?」と、フォルさんからもこっそりと耳打ちされた。怖い……レオニスさんに伝えておけばいいと考えていたことがバレている。

 冒険者ギルド(レオニスさん)経由での報告では駄目なようだ……。



 そのまま、10階までは特に苦戦するような敵は出てこなかった。大きな怪我とかもなく、無事で何より……レベルもちゃんと上がっている。10階は、ボス戦。気合をいれていこう。



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