第45話 キノコの森 一日目(4)ボス戦
目の前にいるボスは、ビッグマタンゴ。
この10階にいるボス。大きなキノコの魔物で、全長7メートルくらいある。
でかい。
とにかく、でかい。…………そして、見るからに毒キノコという紫色の傘から、胞子を出してくるので近づきにくい。
最初の一撃は、距離を取った状態で、ラズ様が魔法攻撃。どうやら、雷魔法が得意らしく、周囲の平らな場所で背の高いビッグマタンゴは当てやすいとのこと。
ビッグマタンゴがこちらに気付いたところで、横からフォルさんの攻撃。フォルさんは、手裏剣のような、ブーメランのような…………投擲武器を使っている。直線で飛んだり、カーブを描いたりと軌道が読めない。
そして、事前に兄さんには弓を返しておいたので、兄さんもフォルさんと反対側で、弓で追撃している。ただし、刀と違って、こちらはそこまで攻撃力はない。レオニスさんとフォルさんも兄さんの様子をちらっと確認したあたり、気づいたようだ。
その間に、聖魔法・状態異常抵抗〈レジスト〉をナーガ君とレオニスさんに唱える。戦い方は、ナーガ君とレオニスさんがビッグマタンゴを盾で抑え、遠距離攻撃で削っていく。
スピードは遅いのでこちらに向かってくる前に、レオニスさん達が止めてくれるので、戦いはスムーズ。
「ナーガ、下がれ。胞子が来るぞ!」
マタンゴが身体を震わせ始めた瞬間に、レオニスさんから指示が入り、二人が距離を取る。
この胞子は、麻痺・毒・混乱・睡眠などの効果があるため、吸わない方がいいと事前に聞いていた。ただし、距離をとればマタンゴを自由にさせてしまうため、後衛である私とラズ様の方に来てしまう可能性がある。
「風〈ウインド〉!」
胞子を風魔法・風〈ウインド〉で風を起こして吹き飛ばす。マタンゴが胞子を飛ばすと聞いた時点で考えていた策、誰もいない方に風で吹き飛ばしてしまえ! を実行してみる。胞子は軽く、風に押し流されて奥の方へと飛んで行った。
追加で胞子を出すことはしてこないようだ。
「よしっ! よくやった。そこから離れろ、クレイン!」
レオニスさんの言葉に、ん? と周りを見る。
胞子を吹き飛ばしたせいか、マタンゴが私のいる方を向いて、突進をしようとしている。
「怒らせた!?」
「まあ、普通に考えて怒るよね~」
近くにいるラズ様を巻き込むわけにはいかないので、急いで兄さんとレオニスさんがいる側に走り出す。おおよその位置取りは、マタンゴを中心に、ラズ様が6時の方向、兄さん達が2時くらいの方向にいる。
うん。私の方向を向いてきているので、完全に狙われている。
「そのままこっちにこい!」
レオニスさんが私とマタンゴの間に入るように向かっていたので、その後ろに走りこむ。
「〈鉄壁〉」
突進してくるマタンゴに対し、レオニスさんが技を繰り出すと、その場でマタンゴが止まる。マタンゴが進もうとしても、レオニスさんがピクリとも動かず、突進の力が空回りして、自滅……というか、ダウンをした。
「総攻撃! 行くぞ!!」
「おぅ!」
レオニスさんの号令に合わせて、兄さんとナーガ君とフォルさんが左右・後から一斉攻撃をする。いつの間にか、兄さんもフォルさんも接近戦の武器に持ち替えている……早い。
「神の雷〈インディグネーション〉!」
「炎の渦〈フレアエディ〉」
ラズ様の雷魔法がドーンと大きい音を立てて発動し、そのついでにマタンゴに炎の渦を巻きつかせ、継続ダメージをいれていく。
「UGOoooo!」
マタンゴがダウンから起き上がってからは、たまに遠距離で攻撃しつつ、状態異常抵抗〈レジスト〉が切れると再度かけ直す。戦いの基本はタンクが抑え、横から間接攻撃をしている。
マタンゴが胞子を纏うと風〈ウインド〉で晴らすのは、2回目からは兄さんが積極的にしている。ヘイトが溜まるのがわかったので、私やラズ様が晴らすのは良くないと判断したらしい。
兄さんの素早さなら逃げきれるのと、レオニスさんが突進を止められるから被害はない。流石に2度目以降はダウンしなかったので大ダメージには繋がらなかった。
兄さんが魔法を戦闘で使うのは初めてだと思うけど…………二人も、特訓の成果で魔法は使える。INTが低いせいで、ほぼダメージは入らないが、こういう風を起こすくらいなら出来る。ナーガ君も出来るんだろうけど、素早さが足りないので、兄さんの仕事になっている。
戦闘は危なげない状態で、HPを削っていく。半分削ったところで、眷属…………小さなマタンゴが10匹召喚される。小さいと言っても80センチくらいあるので、身長の半分くらい。しかも、キノコの傘の色が違う……紫・黄色・青・赤……おそらく、状態異常の種類が違う。毒・麻痺・睡眠・火傷といったところか。
「任せろ」
「こちらで処理を行います」
兄さんとフォルさんが眷属を相手にするようだ。
小さなマタンゴに遠距離から攻撃し、ビックマタンゴから分断する。
二人は心配が無さそうだけど、念のため、状態異常耐性を上げておこうと魔法を唱えようとしたら、ビッグマタンゴの方に動きがあった。
「ちっ、回復するつもりだな……いけるか、ナーガ」
「ああ!」
「魔法を撃つから下がって!」
ビッグマタンゴがキノコのくせに、根っこのような、触手のような何かを出して、地面に突き刺そうとしている。二人が近づいて触手を切り落とそうとしているが、間に合わないと判断して、二人に声をかけて、魔法を発動する。
「岩棘〈ロックソーン〉!」
マタンゴの周囲3メートルに岩の棘を出現させる。触手が地面に着くのを妨害。
岩の棘が刺さり、触手が怯む。地面に触れようにも棘が阻むので、ビッグマタンゴが触手をたたきつけ、さらに食い込んでダメージを負っている。
「よくやったね、いくよ~。風乱鎌〈ウインドスキャットサイズ〉」
ラズ様の風魔法が発動し、いくつもの鎌のような風が触手を切り裂いていく。マタンゴは回復ができずに触手を失い、心なしか悲しそうな瞳をしてこちらを見ている。
その間に、兄さんとフォルさんはあっさりと眷属を倒していた……。
結局、そのまま押し切るようにボスを撃破した。意外とあっさりと勝ててしまった。
事前情報通りの動きがほとんどだったので、対策もできたのが大きい。初見ではこうはいかないだろう。
レベルアップ。私は一つしか上がらなかったけど、〈睡眠耐性〉〈混乱耐性〉を覚えた。前回と今回のレベルアップではだいぶ魔法とかアビリティも上がったので、良き良き。
兄さんも〈睡眠耐性〉と〈混乱耐性〉。私もだけど、マタンゴの纏った胞子に睡眠・混乱効果があったのかな? 胞子の攻撃は受けていないけど、覚えたのはラッキー。
そして、ナーガ君が〈大剣術〉。どうやら、剣術が5になったから覚えたようだ。剣術の派生系……兄さんの刀術とかも、剣術が5になったら覚えるのかもしれない……。アビリティとか、5まで育てるのを目指したいところだ。
「う~ん?」
そして……戦闘を振り返ってみて、気付いたけど……ほぼ回復魔法は使ってない?
レジスト〈状態異常抵抗〉こそ、ナーガ君とレオニスさんにかけたが、遠距離戦に切り替えてるフォルさんや兄さんにはかけていない……しかも、結局誰も状態異常になってない。
タンクの二人も、大きくダメージを受けることはなかったので、戦闘後に回復するだけで済んでしまった。ほぼ役に立っていないことに気づいてしまった。
「大丈夫か?」
「ナーガ君。お疲れ様……怪我、無いね?」
「ああ……タンクはほぼあいつがやっていたからな」
いや?
確かに、大きな攻撃とかはレオニスさんがタゲを取っていたけど、結構ナーガ君がタンクしていた時もあったよ。ちゃんと防御していたので、ダメージなかったみたいだけど。今回は、ほぼ私のフォローはレオニスさんが入ってたので、反対側のナーガ君の様子は見えにくかったけど。
ナーガ君、HPも防御も1000を超えてるから、大したダメージじゃないのか?
おかしいな、私はまだHP500で、防御は160しかないんだけど……。ほぼレベル差が無くなった状態で、ステータスがかなり違う……。
ふと、視線を感じて、首を動かすとフォルさんが視界に入った。
こっちを見ていたらしく、視線が合うとにっこりと笑っている。
「どうした?」
「…………なんでもない」
こちらを観察するような瞳は決して好意的ではない。
まあ、兄さんも警戒をしているようで…………ラズ様との関係を考えると変なことにならないように祈るばかりだ。
「お~い。クレイン、ナーガ、宝箱、開けるぞ」
「うん、今行く!」
兄さんから声をかけられて、ボスマタンゴのいた場所に向かうと宝箱が置いてあった。
マタンゴが落としたらしい。ボスはたまに宝箱を落とす。必ずではない。
中身もランダム。装備もあれば、ボス素材のこともある。外れは普通のポーションだったり、大当たりだとアーティファクトもあるらしい。
今回の中身は、〈マタンゴの根〉。
調合にも錬金にも使えるレア素材。戦っているときに出した触手を乾燥させたようなもの。ちなみに戦ってる最中の触手はすでに消えていて素材にはならなかった。
一応、解体して他にも〈マタンゴの胞子〉、〈マタンゴの身〉なども手に入っている。レオニスさんの話では〈マタンゴの根〉については、師匠にお土産にしたいので、欲しいとのこと。入手した物の分配については、しっかりと決めていたわけではないけど。とりあえず、師匠へのお土産であれば誰からも文句はでない。
ちらりとフォルさんを見るが、「私もお世話になっております」とのこと。とりあえず、あの町では師匠が最強か? 貴族だと思われるラズ様達も一目置いてる。
レオニスさんが師匠に渡すということで一致した。ちなみに、私が採取した物は私が使うが、兄さん・ナーガ君・レオニスさんは師匠に渡す予定。
師匠にお世話になっているから私も渡すべきなんだけど…………今回は、素材は私用にさせてもらう。貴重な物は今回みたいにレオニスさんから師匠宛てになるので、許して欲しい。
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