第41話 迷宮に入る前に



「……やっと、ついた……」

「…………ああ」

「お疲れさん。少し休憩していいぞ」


 迷宮ダンジョンの入口にあるセーフティエリアについた。

 丁度良さそうな石に座って、水を飲む。ナーガ君と兄さんも横に腰をかけた。


 周囲を警戒しながら、10時間、歩きっぱなし。途中からは山道だったので、さらに疲労が倍増。迷宮ダンジョンについた時には、すでに日が暮れていた。「こんなに距離があると思わなかった」と言ったら、「そんなに遠くないだろう」と言われた。こっちの世界での移動手段が歩きなのが、辛い……いや、馬とかで移動してもいいんだろうけど、ダンジョン内に連れていけないからな……。

 この半分くらいの距離で行ける、鉱山の迷宮ダンジョンが人気な理由がわかった。


 ちなみに、多少、遠回りするルートでもあったらしい。念には念を入れて……他の人と鉢合わせしないためのルートだったとのこと。

 先に言っておいて欲しい。次にこのダンジョンに来ようとしたとき、迷子になってしまう。


 道中では、魔物を倒しながら進んで、レベルが上がり、私は15、ナーガ君は12、兄さんは13まで上がっていた。それなりに強化されているが、迷宮ダンジョン・キノコの森の推奨レベルは40以上。攻略を目指すなら50以上ということで、半分もない。


 だが、レベルは格上と戦うならガンガン上がっていく。アビリティもちゃんと戦っていれば、熟練度は上がりやすいと聞いてる。戦いに参加しないでレベルだけ上がるというのは避けたい。



 ここまでの道中でレベルアップにより覚えたアビリティ等はこんな感じ。

 私は、〈斥候〉、〈炎耐性〉、〈水耐性〉、〈殴り耐性〉、〈斬撃耐性〉、〈気配遮断〉、〈気配察知〉を覚えた。さらに、〈観察〉がLV5になったことで、念願の〈鑑定〉を覚えた。ついでに〈解析〉も。これにより、物質とか、魔物について、より詳しく調べられるようになった。


 漸く、自分が作った物を納品する場合に、師匠に鑑定をお願いする必要が無くなった。今までは薬とか、できた物を作業場に置いておくと、師匠が鑑定をしてくれていた。一つ一つを鑑定しているわけでは無かったようだけど、それでも手間を取らせていたわけだが、自分でできるようになれば負担は減らせる。


 そもそも、師匠は元気に過ごしているけど、80歳を過ぎている……正直、まだ70くらいだと考えてたのが、過去の話を聞いて驚いたわけだが。生涯現役を地でいっているのが凄すぎる。

 出来る限り、負担は取り除いて、長生きしてもらわないと。



 ダンジョンに入る前に、予定通り、斥候のアビリティも取得して、出来るようになったわけだが……兄さんの方が、魔物を見つけるのが早い。視線を送るとにんまりと笑っていたので、兄さんも多分、取得していると思う。


 ナーガ君や兄さんも色々と覚えたようだけど、流石にレオニスさん達がいる前で話すわけにもいかないので、把握できてない。


 わかることは、兄さんはステータスに関係なく攻撃特化である。刀を持ってるとさらに強い。〈刀の極み〉がヤバい物だと確信する。刀での攻撃、〈クリティカル〉と〈貫通〉が付いて、基本的には一撃で殺していく。正直、動きがいいだけですまない、戦闘力のヤバさが際立つ。

 ただ、刀は両手を使うので、盾とか防御できないのはちょっと心配……かな。避けているので大丈夫だと思うけど。

 本人もわかってるのか、道中の後半は、わざと当たって試しているようだった。確かに、格下ならそれもあり。格上と戦う前に試していたので、無理はしないはず。


 ナーガ君は、安定した防御力と攻撃力。素早さはないけど、当たったところで問題がない防御力。回復魔法をかけようとしても、平気だというが……正直に言おう。私、そんなに光魔法をつかってないから、使っておかないといざという時に使えませんでしたじゃ困る。

 練習させてと言って、戦闘の度に使わせてもらい、魔法レベルを上げた。

 なお、攻撃については、高いSTRで攻撃するが普通である。兄さんのような毎回、一撃必殺ではないし、そんなに切れ味がいいわけでもないので、すぱっと真っ二つに切れたりはしない。

 

 そんな二人と私に対し、レオニスさんから、迷宮ダンジョンでの行動について、再度アドバイスがあった。兄さんとナーガ君は十分な能力があるので予定通り前衛とのこと。ナーガ君にタンクの方法については、都度レクチャーをしていくらしい。そして、道中は好きにさせたが、私については後衛を勧められた。

 

 ヒーラーとして、みんなのHP管理と自分のMPの残量に気を付ければいいとのこと。うん、迷宮ダンジョンでは無理しなくていいのはうれしいが……HP管理って何すればいいのか、よくわからない。

 とりあえず、熟練度上げのためにずっと余剰回復をしていたけど、迷宮ダンジョン内では、HPが4割減ったら回復するとか、余剰回復は止めるようにとアドバイス。あとは……やってみないと分からないけど難しそう。

 攻撃について、「ダメージ入らないから止めとけ」と言われた……くそぅ。もっとSTRが上がれば……レベル上がればワンチャンあると思う。

 魔法ならダメージ入るだろうけど、ヒーラーなのでMPを使い過ぎも駄目だと釘を刺された。


「クレイン。君はこれを使え」

「……師匠の弓?」

「ああ。一応、取れてるだろ? 後衛からこれを打った方がいい」

「わかった……でも、大丈夫な時は参加するから!」


 前衛を諦めたわけではない……。なぜなら、前衛のアビリティもここであげておかないと、ソロの時に苦労するからね。 できることなら、オールマイティにできるようになるのが理想。…………理想と現実の差があるのは理解している。それでも、努力しない理由にはならない。死ぬかもしれないので、当然だけど。


 さて……小休止してから、迷宮ダンジョンに挑むのだけどね……ちなみに、このダンジョンは人気がないそうです。

 なぜなら、もう一段階低いレベルで挑めるダンジョンが鉱山ダンジョンで、採取できるものが高く売れるし、状態異常の対策をしなくても良い。こっちに来る必要がほとんどないとのこと。


 冒険者ギルドでは、迷宮ダンジョンはスタンピードが起こらないように定期的に確認及び魔物を間引いていて、今回はその一環で、レオニスさんが率いる冒険者ということで許可が下りてるらしい。


「この後の予定だが……まず、この迷宮ダンジョンは〈キノコの森〉。最大階数は50階だ。今回の目標は30階で出現するボス・モルボルの討伐と、以降の階でのモルボル系の数減らしということになっている。まだ慣れてないお前たちが徹夜で潜ることは厳しいのはわかっているからな。ここで30分ほど休憩し、10階を目指す。おそらく、3時間から4時間くらいで10階に到着するだろうから、そこで夜明けまで休み、朝になったらさらに下を目指す予定だ」


 結構本格的に潜るのか……。


 師匠から聞いたが、このダンジョンは混乱・麻痺・毒などの異常状態にしてくる魔物が多いとのこと。逆に、調合の素材もたくさん入手できるダンジョンでもある。納品依頼の薬の素材はここで全て入手可能とのこと。ただし、階数は20階以降にならないと揃わないと聞いていた。


 階数を上がれば、状態異常が複数になる可能性もあり、状態異常を防ぐ手段が限られるため、無理はしない方がいい。一応、師匠から餞別にと〈万能薬〉をいくつか渡されている。……どんな状態異常も治すとのこと。もちろん、上級の薬なので私は作れない。

 一応、私でも作れるだろうとレシピをもらった、中級〈なんでも治し〉もいくつか持っている。ただし、この薬で治る状態異常については、魔法が使えるなら魔法で治した方が、コスパがいいと教えてもらった。

 師匠の話だと、魔物によって使う毒も変わるため、一律の毒消しでは効果が無い場合もあるが、魔法の場合はかなり幅広く治せるらしい。師匠は回復魔法を使えないため、聞いた話だと言っていたが、助かる。


「そうそう。ここまでは同格くらいの魔物だったけど、ダンジョン内は格上だから警戒は最大限にね~。後衛だからって油断してると後ろから一撃でやられるよ~」

「……わかってます。後衛でも攻撃参加したほうがいいんですよね?」

「できるなら、だ。無理をする必要はない。俺やラズはボスでもない限り問題はないが、お前達は危険が伴う。ナーガは防御力が高そうだが、お前達兄妹は警戒が必要だ」


 

 う~ん。

 防御に関しては、兄さんも警戒が必要なレベルなのか。

 確認をしたところ、DEF・300は欲しいとのこと。なるほど。兄さんはまだ足りてない……とはいえ、兄さんはあと1、2回のレベルアップで足りると思う。……私は82なので全然足りないどころじゃない。

 まあ、後衛に行けと言われるはずである。私が一撃でやられるというのも納得。


 ちなみに、私は素材入手を考えるなら、キノコの森ダンジョンは今後も通いたいところだが、一人で入るならBランクまで上がってもきついかもしれないとのこと……。

 装備が良くなれば、防御についてはなんとかなるのではないだろうか……お金がないけど。Bランクになるまでは時間はかかるので、今回出来る限りを採取しまくる予定。


「油断しなければ大丈夫だと思うが……お前らのレベルが推奨レベルに上がるまでは無茶はしないようにな」


 だいぶ、心配をされている。まあ、かなりレベルが低いせいだけど。

 でも、それを承知でこの計画を練ったはずだけど……ギルド長が企画したのか? レオニスさんも、無理そうだと思ったら階層は低めで滞在するか、レオニスさん達だけで上の階にて採取する予定らしい。


 「ダンジョンに入るとすぐ戦闘になる」と注意を受けながら、ダンジョン内へ、足を踏み入れた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る