第40話 迷宮へ向かって
冒険者ギルド長からの話から、3日後。
朝からレオニスさんとラズ様ともう一人、初めて見る人が家にやってきた。
「おはよう、クレイン。準備出来てるか?」
「おはようございます。一応、準備は出来てます。今、食料とかを最終確認してます」
今日の焼き立てパンを大量に購入したので、(近くのパン屋さんに前もって頼んでおいたので、結構な量がある)、自作の箱に詰めた後、魔法袋に入れる。
他にも、野菜とか、肉を別々に……食べすぎたりしなければ、2週間分になるくらい。一応、3人別々でも3日分くらいの食料は持っているけど、まとめておいた方が保存はしやすいということで、こうなった。
ちなみに、日程は、5日間はダンジョンにいる予定だ。
明日には、王都から騎士団が来て、3日間滞在。なので、今日から5日間をダンジョンで過ごせばやり過ごせるという計算になっている。ただし、延長の可能性もある。
「おう……食料は少ないと困るんでな。きちんと考えてあるようだな。ナーガ達もちゃんと別で持ってるのか?」
「……ああ」
「今日からよろしくな。で、そっちの奴は?」
兄さんがレオニスさんにはにこやかに対応する反面、もう一人を威嚇している。
なんだろう? 別に人見知りというわけではないと思うけど。何かあるのだろうかと首を傾げると、ナーガ君も同じような仕草をしていた。
「こっちは、斥候役のフォル。僕の部下でもあるね〜」
「フォルと申します。以後、良しなに」
胡散臭い。
斥候役……うん。糸目で笑うのが、すごく胡散臭い。ついでに、敬語が微妙でなんか気になる。裏のお仕事している人と言われた方が納得する。
「斥候役ねぇ……ここんとこ、俺らを見張っていた奴と同じ奴だが、気のせいかい?」
「ふふっ……困りましたね。気づけるような距離ではなかったと思うのですが」
それにしても、見張っていた人いたんだね。兄さんが私達に言わなかったのは、心配させたくなかったからか。
兄さんがばっちり姿を確認しているということだけど……視力がめちゃくちゃいいからな。兄さんしか気づけない距離で……でも、こちらを覗っていたということは、この人もかなりの距離が見通せるということか。
「町中ならともかく、町の外なら、見晴らしがいいからわかるだろう? それで、なんで見張っていたんだ? 俺らとしては、信用できない奴と組みたくないんだがな?」
「あ~ごめんね~。一応、異邦人は警戒対象だからね……お仕事ってことで許してあげてくれない?」
ラズ様がこっちをちらりと見るけど……いや、私の発言権より、兄さんのがあるよ? パーティーリーダーである兄さんを納得させるしかない……と思いつつ、レオニスさんに視線を送る。
レオニスさんもやれやれと頭を掻いている。
まあ、仲裁するならレオニスさんしかいないと思う……申し訳ないけど。
「はぁ……どうなんだ、レオニスさん?」
「お前たちの安全確保のためだと考えて、諦めろ。俺やラズならダンジョンでの罠とかも平気だが、お前たちは違う。斥候役がいないと対処が厳しい可能性があるからな。胡散臭いと思うが、腕はいいはずだ。俺も組んだことはないが……斥候役の見本として、勉強してみろ。クレインは動きを覚えて、ある程度は自分で出来た方がいい」
まあ、そうなるよね。
でも、ラズ様が私達を信用してないってわかったのに、この面子でダンジョンとか行って大丈夫なんだろうか。
ナーガ君を見ると、眉間に皺を寄せている。うん……出掛ける前から不安になる。
「ひどいな~僕の部下を信用できないってこと?」
「ラズ様。斥候役が必要なことはわかります。でも、私とラズ様の間で、契約を結んでいるのに、なぜ、見張りを置いてたんですか?」
「僕は異邦人を見張れとは言ったけど、君達を見張れとは言ってない。まあ、君達の能力は脅威に成り得るから、見張っていたんだと思うよ? そこらへんは、指示してないから知らないけどね~」
「わかりました。では、……フォルさん。ダンジョンで一緒に行動することになりますけど、信用していいですか?」
「ええ。もちろんでございます」
じっと視線を合わせる……けど、目が開いてないので、視線が合っているかはわからない。でも、なんか気配に覚えがある。ついでに、〈直感〉が危険とは判断してない気がする。
ラズ様の部下……というか、護衛かな? 多分だけど、偉い人だから、護衛がいてもおかしくない。
「…………兄さん、ナーガ君。大丈夫。少なくとも、ラズ様を裏切ることはないから、私達の寝首を掻くことはないと思う」
「……何故?」
「危険を感じないので……初めてラズ様と出会ったときのが、よっぽど危険だったので………………気付かなかったんですけど、あの時、いましたよね? 護衛として……」
「ふっ……ふふっ…………ええ。その通りでございます。ラズ様の命令がない限り、あなた方を殺そうとすることはありません」
楽しそうに笑ってるけど、うん……。
……なんだろ、信じてはいけませんって、感じるけど……まあ、大丈夫だろう。
ラズ様の面子を潰すことはしないという根拠しかないけど……実際、レオニスさんとしても面倒だと感じている。わざわざ、姿をさらしてまで、寝首は搔かないだろう。
「クレイン……いいのか?」
「ナーガ君、ダメかな」
「……あんたが言うならいい」
「まあ、クレインを信じよう」
二人はとりあえず納得してくれた。
もう一度、ラズ様を見ると、肩をすくめて、フォルさんを下がらせた。
まあ、お互いに色々あると思うけど、仲良しこよしである必要はないわけで……若干不安が残ったまま、出発することになった。
「レオニスさん。その、ご迷惑かけると思いますがよろしくお願いします」
「おう。まあ、なんとかなるだろ。とりあえず、迷宮ダンジョンに向かいながら説明をするが……お前たちはパーティーを組んだことはないんだよな?」
「まあ、そもそも近場にしか出ていないというか……特訓として、お互いに手合わせをしたくらいで、本格的に3人で魔物を倒したりとかはないですね」
「そうか。まず、ポジションは決まってるか?」
ポジションね……。
う~ん。だいたいの役割は決まってると言えば、決まってるけども。
「……俺がタンクをやる。そっちはヒーラー。前に出さない」
「俺はアタッカーだろうな。まあ、素の攻撃力が高いのはナーガなんだが」
うん。まあ、無難にね。というか、私がヒーラーなのはいいとして? 前に出さないってなに? 後ろに下がってて欲しいってこと?
「うん? クレインは後衛を希望するのか?」
レオニスさんが不思議そうに見ている。
うん。私だって、ソロ希望なんだから、中衛から前衛でいいと思う。
むしろ、前に出さない発言に私も驚いている。
「慣れるまでは、後ろにいてくれた方が、ナーガが安心するんでな。少々防御力が低いから心配でな」
「ふむ……そうか。とりあえず、ダンジョン内については俺がタンクをやろう。サブタンクとして、ナーガ。物理アタッカーはグラノス。……このパーティーなら前衛で魔物の動きを足止めし、壁になったほうがいいだろう。ラズは、魔法アタッカーだ。後衛で魔法を放つことになるが……中衛をラズに任せる。クレインが後衛。ヒーラーだな。フォルは斥候で、戦闘については、中衛から後衛で、後ろ側の警戒を頼む」
「ええ。承ります」
兄さんまで後衛を推すから、そのまま後衛になってしまった。
いや、普通にラズ様が後衛でいいと思うんだけど……。二人とも心配しすぎだと思う。
「ああ。次に、迷宮ダンジョンまでの道のりだが、お前たち3人が先頭になってくれ」
「えっと、理由は?」
「迷宮ダンジョン内は罠とかもあるから、斥候が必須になる。だが、行くまでは別に罠はない。魔物の奇襲などはあるが、それも練習になるだろう。迷宮ダンジョンまでの推奨レベルは20前後だから、防御していれば死ぬことはないはずだ。まあ、やばい敵の場合にはフォローする。防御に徹しつつ、可能なら反撃で構わない。倒せないようなら俺らが倒す」
う~ん。
レオニスさん。多分……私を基準にしてない?
攻撃力、私は確かに低いけど……二人については、ザクザクいけると思うけど……。
少なくとも、私の半分のレベルだけど、二人の強さは倍以上なんだ。これが、戦闘職と生産職の違いかと、はっきり自覚した。
「あとは、〈斥候〉のアビリティが取得出来れば今後役立つから、周りを見渡して警戒して歩くようにするんだ。〈観察〉を持っているなら、それを使いながら全体を見るといい」
「〈観察〉を使って、異常がないかを確認するってことです?」
「俺は取れなかったんでな。わからん」
「そうですね。おおよそはそんな感じでよろしいかと」
「あ、クレイン。できるなら魔力を目に集中させるといいよ。君、魔力特化してるから遠くまで見渡せるかもよ?」
「わかりました……」
道中に出てくる魔物は、兄さんが素早く見つけるので、奇襲とかは無いまま、進んでいく。
魔物については、後ろに下がっていると二人がさっくりと倒してしまうので、私も前に出るようになった。二人だけで戦ったら、私の経験値が貯まらない!
二人とも、私の防御力の低さを心配してるが、別に、攻撃が当たらないなら問題はない。基本は避けて、避けきれない時は盾でガードして、攻撃。苦戦することもないので、ザクザク倒していく。
ガードをきちんとしてない二人のが危ないと思うが……うん。兄さんは避けるし、ナーガ君は全然ダメージ受けてない。
ラズ様とフォルさんは、ほぼついてきてるだけ。一応、後ろの警戒もしているけど、問題は無さそう。
レオニスさんは、戦闘を見て、アドバイスをしてくれている……主に私に。ナーガ君のガードについても口は出すけど。今はタンクではないので、攻撃しててもいい。
ナーガ君の戦い方はレオニスさんに近いらしい……「後ろを気にしなくていいなら、俺もそんな感じだ」とのこと。タンクとしてはもう少し、後ろに気を配るくらいだそうだ。
やはり、STRの差がかなり出ていると考えられる。
舗装されていない道は歩きにくい。東側の山の方に向かっているのがわかるだけで、レオニスさんに言われた方向に、魔物に警戒しながらなので、歩いていく。
冒険者たちが、踏み固めて作った道らしく、魔物も普通に出てくるし、結構いびつな道だけど、無いよりましらしい。
簡易の地図はあるけど……目印になるようなものがないので、正直、すごく迷子になりそう。道中は思ったよりも敵が強くなかった。危なそうなときは二人が結構かばってくれるので、戦闘にはかなり余裕があった。
とりあえず……迷宮に入る前にわかったことは……。
分かっていたけど、物理攻撃・物理防御については、ダメです。能力が低い。やっぱり、生産職で支えるのが私の役割かな。兄さんやナーガ君と一緒にパーティー組むと足手まといにしかならない。
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