第38話 急展開
ナーガ君の第一報から1時間後、私が報告した内容も、研究員らしき人物を護衛しているパーティーが〈東の森〉で採取をしているだった。
ただし、こちらの冒険者とはコンタクトが取れなかったと報告。
そこから、さらに2時間後に、兄さんも報告。こっちは、兄さんも知っている冒険者だったらしく、〈西の丘〉同様に、1週間の採取の護衛、依頼者は薬師ギルドという報告をした。
師匠の元にいって、事情を説明したが、ナーガ君が先に伝えていたらしく師匠は薬師ギルドに呆れていた。ほっとくように言われ、素材が足りない分については、しばらくは師匠が貯めこんでいるのを使うことになった。
そして、その日の夜。
「やあ、お邪魔していい?」
「遅くにすまんの、お嬢ちゃん」
「……ですよね。どうぞ、上がってください」
風呂から出て、ゆったりと読書をしている時に、ラズ様とギルド長が二人そろってやってきた。別に悪いことしてないはずなんだけど、冷や汗がだらだらしてくる。
それにしても、対応早い。
〈東の森〉の時もだけど、その日の夜に対応……うん? いや、でもうちに来てる時点で、どうなんだろう? 第一発見者に話聞きたい?
そんなことより、他にも手配とか色々ありそうだけど。でも、二人そろってということは、何かあるんだろう。
「悪い知らせと悪い知らせ、どっちから聞きたい?」
「……良い知らせはないんですか?」
「あ~じゃあ、良い知らせとして、君たちの報告で報奨金でるよ。良かったね。お金に余裕できたよ。で、どっちから聞きたい?」
「……じゃあ、今日の報告に関係する方からお願いします」
違う、違う。「報奨金でるよ」とか聞きたいわけじゃない。
いい事だけど、どうでもいい情報だって、わかってて言ってるのが、ちょっと腹立つ……まあ、なんだかんだ、こういう人なのだと分かってきたけど。
今日の私達の報告の結果が出たなら、それは聞いておきたい。
「では、わしから報告じゃな。お嬢ちゃん達の報告、確認は取れたぞ。高額報酬と薬師ギルドであれば問題ないだろうと思ったと……」
「その場を離れられなかったんじゃ?」
「冒険者から勝手に封鎖しているという報告が入り、調べに来たと言って、その場を押さえた。そもそも、セージの葉の件で警戒中じゃからな。その場で採取した量の確認を職員が行った。
冒険者ギルドは、今後、しばらくは採取禁止にするしかないと判断し、薬師ギルドにも通達をした」
「そう、ですか……」
完全に拗れたってことかな。
素材の独占……冒険者ギルドと錬金ギルドの関係も悪化する可能性がある。
たしか、薬師ギルドとの関係は断ち切りが濃厚……。なんていうか、薬師ギルドのやけっぱちの作戦なんだろうけど……あんまり効果があるとも思わないんだけど。
「それで、薬師ギルドの企み、お嬢ちゃんはどう考える?」
「冒険者ギルドが、薬師ギルドと手を切ると言ったので、他の薬師……まあ、師匠に素材を渡せない様に素材の独占を試みたってことですよね。素材がないと作れないから、冒険者ギルドは薬が無くなる。信用問題になりますね?」
嫌がらせとしては、間違ってはいない。
薬師ギルドに納品を頼まないなら、他の薬師に頼むってことだから、その前に素材をなくしておく……まあ、幼稚なとこはあるけれど。
他の町から運送するのも大変なので、この町だけなら効果があるだろう。
というか……これって大事な気がする。町の管理体制の問題になるよね。
「うむ。そんなところじゃろう……。じゃが、こちらとしても、事を大きくするのはあまり出来んのでな。セージの葉は他の町からの取り寄せは行うが、それだけじゃな。あとは、素材採取のクエストのせいで、薬師ギルドが素材を根こそぎ無くしたとか煩そうじゃから、ダンジョン以外での採取は禁止じゃな」
「ふ~ん。冒険者ギルドを通さない依頼について、お咎めはないのかい?」
隣で話を聞いていた兄さんがおもしろそうに口を出した。
確かに、冒険者ギルドを通さない依頼って……どう処理するんだろう。
別に、通常の冒険者から言えば、薬師ギルドと冒険者ギルドが仲悪くても関係ない。
なんで、依頼受けちゃいけないってなるよね。でも、通さないで成り立つとなれば、運営できなくなるから、きちんとギルド通せという話にはなるか。
「ギルドを通さずに依頼を受けることはしないように指導はするが……あまり、効果はないじゃろう。割のいい仕事というのは、誰でも好きじゃよ。指導したところで、他の者が受けることになる……イタチごっこという奴じゃな。事情を聞くだけで済ませる。相手にしても仕方ないからのう」
まあ、その通りだけど……。
薬師ギルドに付き合ってやる必要がないなら……でも、この終着地点どうするつもりなんだろう。私も師匠も、一時的な納品だと考えてたんだけどな。
「管理問題になりません?」
「なるじゃろうな。じゃから、領主様には報告ずみじゃ。冒険者ギルドは、冒険者が必要とする薬をある程度管理する義務がある……まあ、今の在庫を考えると1か月はなんとかなる見込みじゃ」
「大変ですね……それで、ギルド長。そもそも素材が無いと作成できないですけど? 私が納品をする話でしたけど、失敗も考えると大量に素材がないと、調合レベルも上げられないですよ」
「それについてはこちらから提案がある」
「そうそう。そのせいで僕までここにいるわけだけどね~」
そのためにラズ様がいるとか……。
嫌な予感しかしない。
状況を整理しよう。
冒険者ギルドと薬師ギルドはお互いに敵対行動を開始。
冒険者ギルドは私をお膳立てし、素材を自分で採取できるように、ランクを上げた。
相手に先手を打たれて、近場の素材採取は不可能になった。
素材が無い状態では、私が作ることはできない。
「お嬢ちゃんには、迷宮ダンジョンでパワーレベリングをしてもらう。ダンジョンでは素材採取は取り放題、レベルを上げることで通常の薬師よりも高いDEXを得ることも出来るということで、一石二鳥じゃな」
「……Dランク以上でないとダンジョンに入れないですよね?」
「そうじゃな。パーティーランクをDとすることは出来なくはない。とはいえ、そのためには、リーダーの許可がいるわけじゃな」
「俺だな。納得できるだけの材料を揃えてるのかい?」
迷宮ダンジョン。
世界各地にあると言われる謎の遺跡。
魔物が多く、危険ではあるがダンジョンをクリアすると、各自初回だけアーティファクトが手に入る。また、名声も得ることができる。それらを目的として、多くの冒険者達が挑む。
この町の近くにあるから、町も栄えているとは言えるけど……たしか、鉱石系が入手しやすいダンジョンだったはず。
さて……兄さんは拒否している。まあ、危険なんだよね。
兄さんが反対するのも、当然ではある……だいたい、Fランク冒険者つれてダンジョン行くっていうのは、互いにリスクがあるはず。3人以上いないと、平均ランクを上げることはできない。3人もいれば、私達のことがバレるというリスクを負う。
「ほっほっ……まずは、臨時クランの結成となる。メンバーはここにいるラズとギルド職員のレオニス、もう一人についてもこちらで調整をしているが、お主らに不利益となる面子にはしない」
「いや、信用できんだろう」
「おぬしらの事がバレても、脅すことがない面子にすることは約束しよう。信頼はせんでいいが、信用して欲しいのう。さらに、お主らもレベルが上がることで今後の活動はしやすくなる。S級・A級冒険者の腕が見れるのも、いい勉強になるはずじゃ」
「まあ、メリットではあるだろうが……今、ダンジョンなんて危険を冒すほどの理由にはならんだろ」
実際には素材採取を自分で行うことにそこまでこだわらなくても、個人指定依頼で、ダンジョンで採取してもらうことは出来るはずで……私をダンジョンへ行かせる理由には乏しい。
ただし、これが決定であると思われる。協力者を厳選する準備をしている上に、にっこり笑うラズ様の顔が確定だと言っている。
「兄さん。落ち着いて……詳しい話を教えてください。ラズ様」
「あはは~まあ、君達が嫌でも受けるしかないんだけどね。君達がダンジョンに行くべき理由……パワーレベリングはついでだよ。本当の目的は、避難のため」
「……それがもう一つの悪い知らせ、ですか」
「そう。クレイン、君は協力者だからこそ、この事を伝える。今日、正式に御前会議により、異邦人の取り扱いが決まった。各都市、町村で把握している異邦人は全て、王都に集められ、国に管理される。すでに、騎士団が派遣されている。逃れるためには、町にいられない」
「……つまり、ダンジョンに籠ることで、騎士団を回避する」
「他に方法はない、わかるよね?」
町にいれば、同じように回収されて、国に管理されることになるなら、外に出るしかない。ダンジョンというのは、隠れる場所としては最適かもしれない。そこまでして保護してもらえるとは思わなかったけど……これ、国を敵にまわすことになる。
確かに……一石二鳥の策であることは間違いない。レベルアップによって、作れるようになることも含め……断れないようにしてある。
問題は……これの許可。
私をそこまで仕上げさせる目的。薬師ギルドを追い込むためであっても、やりすぎな気もする。
この町の……現・薬師ギルドのギルド長は、ほぼ詰んでいる。今は調合薬を作れるアドバンテージがあるけど、私のレベルを上げることで無理やりにでも作らせる……その道筋がすでにできてる。私が調合薬を作れるようになった時点で、詰み。
おそらく、薬師ギルドは、素材の在庫を抱えたまま、納品先も無い状態。他の町に納品するにしても、運送につく冒険者はいない。お金を積めば別だけど……採算が合わなくなるはず。最終的には、薬師ギルドと冒険者ギルドはこの町以外にもある。この町で関係が破綻したとしても、他の町に波及させないために、薬師ギルドのギルド長を降ろして幕を下ろすことになる。
「はぁ……ダンジョンに行くしかないことはわかった。二人もいいかい?」
「ああ……」
「それは構わないけど。情報をもらいたい、かな」
「お嬢ちゃんの欲しい情報は?」
「逃げ込むダンジョンの名前、魔物、採取できる物、出発日、帰還予定日……この計画の許可を出した人物」
「うぅむ……そうじゃのう、ダンジョンは、キノコの森迷宮。魔物については、多種多様じゃから難しいのう……後ほど、キノコの森迷宮についての資料を貸そう。採取についてはすまんが……パメラに確認を取って欲しい。あやつの方が必要な物を把握しておるからのう」
「出発日は、4日後の18日を予定しているよ。王都からの騎士団は、最速で5日で来るからね。その前に離れる必要がある。帰還日は出発日からおおよそ、1週間後かな」
「……わかりました」
4日後……。
アビリティを沢山覚えるというのは、上手くいってるつもりだったけど、あと1日しかチャンスがない……それよりも、3日間は兄さん達だけでやってもらった方がいいかな。
二人のステータスの上がり方は、前衛としては理想的に上がってるから、その補強だけでもいいはず。
「俺からもいいかい?」
「うむ。なんじゃろう?」
「俺ら3人の防具を可能なら新調したい。そのダンジョンで、強い魔物と戦った途端に壊れるような防具では困るんでな。金はないがなんとかならないだろうか?」
「……うむ。しかし、のう……」
「ギルド長。それは僕の方で何とかしよう。ただし、出世払いで払ってもらうから、そのつもりでね」
「ああ、承知した」
防具……新調するもなにも、二人とも持ってないよね。
たしかに、必要なことだった。まあ、借金は3人ともヤバいことになりそうだけど……可怪しいな。もっと、平穏な生活をする予定だったのに、いつの間にか……借金地獄になりそう。
「明日の朝、届けに来るよ。慣れるまで3日間しかないけど、そこらへんは自分達でなんとかしてね」
「ありがとうございます」
二人が帰ったのを確認し、ため息をつく。
どっと疲れてしまった。
異邦人のこと……薬師ギルドのこと……考えないといけないことは多いのに、頭が上手く働かない。
レベルを上げることは間に合わない。3日間で、出来る限りアビリティを増やす? 私は生産作業をして、DEXを底上げした方がいいな。兄さん達は、出来る限り攻撃・防御アビリティを覚えた方がいい。
「なあ……なんでそんなに仲が悪いんだ?」
「う~ん。師匠と薬師ギルドの間に何かあったのは間違いないみたい……あと、師匠に感謝している冒険者が多いみたいだけど……そもそもレオニスさんも冒険者の中では人気あるみたいだから……わりと、師匠側の人が多いのかな。薬師ギルドにとっては、目の上の瘤だしね」
「何があったかは聞いてないのか?」
「聞いてない……明日、聞いてみる」
「そうだな、それがいい。今日は疲れただろ。もう寝たほうがいいな」
ナーガ君が納得していない顔をしているが、私も詳しいことは知らないので、答えられない。申し訳ないけど、明日、師匠が来たら聞いておくので許して欲しい。
翌日。
「早いお時間に失礼します。ラズ様からのお荷物お届けに参りました」
「……ありがとうございます。…………確かに受け取りました」
「あらあら~ふふっ、予想以上に可愛いわ。中身、すぐに確認するようにお願いしますね」
「はい……」
妖艶な秘書っぽいお姉さんだった。
魔法袋(小)をそのまま渡されたので、これに詰まっているということだろう。
しかし……まだ、5時なんだけど。どんだけ早いの……まあ、他の人に見られないようにするためってことかな。この辺は住宅街ではないけど、倉庫とかもあるから人通りはあるので、見られない様にするならこの時間ってことか。
「ナーガも起こしてくるか?」
「ん~むしろ、二度寝したい……」
「こらこら。君は中身を取り出しておいてくれ。起こしてくる」
中身を取り出していくと、防具は3種類。
しっかりとした赤い重鎧……。重厚感のあるフルプレートで、防御力も高そう。だけど、この色合いが不思議……赤い金属? 染めてるわけでは無さそう。兜・ブーツ・小手がセットで揃っている。ついでに盾も同じ色合いのものが入っていたので、一緒にしておく。
これは、ナーガ君が似合う……重いけど、彼なら気にならないと思われる。
軽鎧っぽいのが2種類。
今の私が付けているような胸当てだけど、銀素材? 綺麗に磨かれていて、何だか高そう? それに合わせた銀縁のついたグローブにブーツ。
白い皮を主体として、金属を組み合わせたチェニックのような軽鎧。こちらは飾りに金が使われてる? 同じ皮で作られたブーツ。マントと小手もある。さらに高そう……。
靴のサイズは……合わない場合には中底でもつくればいいのかな?
どちらも軽くて、動きを阻害しない作りになっている。私は胸当ての方がいいかな。
総評として……全部、お値段がヤバそう。
「……これか?」
「うん……多分、こっちがナーガ君に。これは兄さんなのかな?」
「ああ……試していいか?」
「いいと思うよ……兄さんもどう?」
「俺は……この白いのでいいのか?」
「うん。私は今までとあまり変わらない方がいいから、こっち希望」
「わかった」
二人が装備をしている間に、中身を全部取り出す。
入っていたのは、錬金のレシピと手紙。
「えっと……ラズ様から…………」
クレインへ
装備は3種類、こちらで勝手に見繕っておいたよ。君達の父親が昔使っていた装備が2種類と、レオニスが使っていた装備だよ。まあ、3つとも僕が個人的にもらった物だけど、君達の父と後見役からのお下がりだから、新人であっても着ていても可怪しくないはずだよ。
追伸
錬金のレシピのうち、冒険者に必須なものをいくつか見繕っておいた。こっちは納品しないこと。あくまで自分達の分のみ作るようにね。
ラズ より ~
なるほど……。HP・SP・MPの回復ポーションのレシピ。中級レベルだけど……まあ、失敗してもいいから後で作ってみよう。
錬金については、冒険者ギルドにも言うなってことだよね。まあ、薬師ギルドと揉めてるのに、錬金ギルドまで巻き込むのはマズイからわかるけど……なんで、こんなに待遇がいいんだ? このレシピも高いだろうに……。
「どうした、しかめっ面して。かわいい顔が台無しだぞ」
「なんでもない……あ、兄さん似合うね」
「そうか? サイズは少しでかいけどな……」
「ん? ここをこう……これで、どうかな?」
一般男性より華奢な見た目の兄さんには、サイズが少し大きかったらしい。サイズを調整するための紐で調整して、兄さんの身体にフィットさせる。
「おっ……いいな」
「兄さんによく似合ってるね。でも……すごくいい装備だけど」
「だな……借金が大変なことになりそうだ」
「一応、私達兄妹の父親の遺品らしいよ」
「なるほど……」
う~ん。会ったこともない人なのに、勝手に子どもを名乗ってるわけだけど……。今度、お墓参りとかしようかな。レオニスさんに聞いてみよう。
「こっちのもか?」
「たぶん、そっちはレオニスさんが使ってた物だと思うよ。重そうだけど、大丈夫?」
「…………ああ……思ったよりも動きは邪魔にならない」
「おっ……いいな。かっこいいじゃないか」
「……ふん」
うん。二人とも装備すると冒険者っぽい。
まあ、いままで防具もなしで、武器だけ振り回していたからね……。
兄さんの防具はアタッカーとか、斥候とかの軽さを生かした装備で、ナーガ君は防御力があるタンク系なのかな。そもそもの防御値高いから、ナーガ君はすっごく堅そう。
「さて……この後、どうする?」
「私は3日間、生産をするよ。可能なら、錬金、クラフト、木工、石工のアビリティを上げて、パワーレベリングまでに底上げする。兄さん達はどうする?」
「……俺は不器用な方だからな。出来るだけでもあげたい」
「まあ、戦闘技能については、もういいんじゃないか。あいつらの元でパワーレベリングする以上、警戒させてもまずいしな」
なるほど……確かに。そういう考えもできるかも?
そもそも……二人ともチートっぽい強さしてるから、これ以上はいらないか。
装備もきちんとした奴だから、危険も少なそう……私の方がどうにかしないといけないかも……防御が低いのはどうしようもないけど、二人の足手纏いは嫌だ。
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