第37話 更なるハプニング



 一騒動を終えて、二人と合流。

 今日は〈西の丘〉でいくつか素材を採取しつつ、特訓開始しようと思っていたけど……。

 

「う~ん。人、多いね」

「ああ……」


 採取目的で行った〈西の丘〉は、冒険者のパーティーが3組……テントも張ってあるので、泊まりかな。研究者っぽい人の護衛をしている。


「お、お前さん達も納品依頼か? 悪いが……」

「おう。パメラばあさんに世話になったんでな……何かあるのかい?」

「あ~そういうことか……ちょっとこっちこい」


 兄さんが軽く答えると、冒険者の一人がわざわざ他のメンツと距離を取らせるように、岩陰の方に呼ばれる。悪意は無さそうだけど……二人も少し警戒をしている。格上の冒険者と揉めたくはない。


 あちらのメンバーからは全く見えない死角に入ったため、いつでも武器を抜けるような体勢で付いていく。


「まてまて。警戒するのはわかるがやり合う気はない。俺ら、薬師ギルドからの直接依頼を受けたんだが……どうも、様子が可怪しいってんで困ってたんだ」

「どういうことですか?」

「いや。高額報酬に釣られて、ギルドを通さずに護衛任務を受けちまってな。護衛は構わないんだが、かなりぎりぎりの量の採取をしてる……具体的には、これ以上採取すれば、次が育たず、枯渇するってラインだ。ついでに、薬師ギルドが素材を独占するってぼそぼそと呟いているんだ……パメラさんへの嫌がらせ行為なのか、よくわからんが……おれらはあと5日……1週間、護衛依頼を受けている。冒険者ギルドへも報告が出来なくてな。困っていたところにお前らが来たんだ」

「……東の森の報復行為か?」

「でも、べつに冒険者ギルドのせいじゃないのに? まあ、素材ないと作れないってことで、素材独占して困らせるとか?」


 素材ね……つまり、私達のパーティーが採取するのは難しいってことかな。

 ここがダメとなると……他のところに採取に行くか……でも、先に報告しといたほうがいいかな。


「お前ら、これを報告してくれないか? 俺らのパーティー名は〈アーク〉、俺は斥候担当のライだ。リーダーが現場離れるとばれるかもしれないんでな。これが冒険者証な」

「わかりました。ギルドで見かけたこともありますので……大丈夫です。私はクレインと言います。パーティー名、まだ保留で……その、ギルドにはきちんと報告します」

「そうか。じゃあ、頼むな」


 薬師ギルドの職員? にバレない様に現場を離れる。

 う~ん。これについては、師匠にも話をしておきたいところだけど……。

 〈東の森〉がどうなってるかも、見ておきたいかな……あとは、もう一つの採取ポイント〈緑の沼地〉も行ったことないから……。



「やれやれだな……どうする?」

「ごめん。今日の特訓は二人でして……」

「……だめだ」

「そういうところは、君の悪い癖だな。俺達だって協力するに決まってるだろ? 俺やナーガも冒険者ギルドに貢献しておいた方が良さそうだしな。別に特訓はいつでもできるだろ」

「……クレイン、あんたの指示に従う。何をするか、指示をくれ」


 兄さんを確認するとこくりと頷く。

 待って、私が指示出す側なの? リーダー保留で届出したけど、兄さんに頼む気満々だったのに? そもそも、私が二人と組むのも一時的じゃないと実力が合わなくなる。


 どうしようと、視線をさ迷わせていると、ぽんと肩に手を置かれ、正面に兄さんが向き直る。


「クレイン。落ち着け」

「いや、あのね……私は二人の命預かるとか、絶対無理なわけで……その…………」

「わかってる。べつに、リーダーは俺やナーガがやってもいいが、君は参謀だ。意見を出してくれ。俺らの中で一番頭がいいんだ。君の案を俺らが採用するか、判断する」

「え? あ、うん?」

「……リーダーはグラノス、参謀にクレイン。判断は3人全員の合意。意見が分かれた時には…………どうする?」

「え……じゃあ、コイントスとか? 運に任せたらどう?」

「いいんじゃないか」


 えっと……。意見は出すけど、責任は負わないってことでいいのかな。

 いや、口だけでいいとか、どうなの? 嫌じゃないのかな。う~ん。


 そもそも……頭がいいって……INTの数値上だけだよね?

 兄さんだって素養高いと思うけど……う~ん。まあ、リーダーじゃないならいいのか?



「ほら、クレイン。君の考えは?」

「急いで報告が必要だと思う。第一報、ナーガ君がギルドにパーティー〈アーク〉の件を報告」

「……俺でいいのか?」

「うん。このパーティー登録証をもって、マリィさん……金髪の受付嬢に報告。可能なら別室報告か、レオニスさんに繋いでもらって……その間に兄さん。〈緑の沼〉、場所分かる?」

「行ったことはないが、地図で把握はしてる。まあ、何とかなるだろ」

「うん。そこの様子を見てきて欲しい。多少、ここら辺よりも強い敵が出るから、警戒はしてね。もし、〈西の丘〉と同じなら、ギルドに直に報告」

「ああ……なるほど。他の場所も確認をするのか。君は〈東の森〉かい?」

「うん……素早さと強さを考慮すると、多分、これが効率がいい。どう、かな?」


 薬師ギルドがどう動いているか。報告した後に動かすにしても、こちらでわかることは報告しておいた方がいい。

 まあ、私と兄さんのAGIはそんなに差がないけど……どっちが強いかと言ったら、間違いなく兄さん。強い敵が出る方は兄さんに任せる。


「いい案だ。ナーガ」

「ああ。……師匠にはどうする?」

「伝えたい……けど、冒険者ギルドの出方と……兄さんと私の方の確認もしてからがいいと思う……」

「わかった」



≪ナーガ視点≫


 クレインの指示に従い、急いで冒険者ギルドに戻った。受付を見ると、指定していた金髪の受付は冒険者の相手をしていて、すぐに報告は難しい……が。クレインがレオニスさんと慕っている男職員がホールにいた。

 こちらに直接話した方がいいだろう。


「なあ……あんたに話がある」

「おっ……お前はナーガだったか? どうした?」

「……聞かれたくない内容だ」

「ああ。研修を受けたいなら、こっちだ」


 ぼそりと呟いた言葉にたいし、大きな声で研修であると答えて奥の部屋に案内された。

 二人が、脳筋に見せて優秀だと言っていただけあり、機転が利く。


「で、どうした?」

「……今日、〈西の丘〉で、〈アーク〉というパーティーの斥候・ライという男から伝言を頼まれた。薬師ギルドから直接、高額依頼を受け、1週間の護衛任務についている。調合に使う素材採取の量が異常だそうだ。冒険者ギルドに報告して欲しいと頼まれた」

「異常? 具体的にわかるか」

「素材を薬師ギルドで独占するつもりじゃないかと、ライという男が言っていた。そういう発言があったらしい」

「そうか……」

「クレインは、もしもを考えて、〈東の森〉に確認に行った。グラノスは〈緑の沼〉だ。何かあれば来るはずだ」

「…………わかった。悪いがここで待機しててくれ」


 レオニスとやらが、部屋を出ていき、一人で部屋に残された。

 グラノスはともかく、クレインはそのうち顔を出すだろう。それまでの退屈しのぎにクラフト・木工の練習をしておく。


 ナイフで木を彫りながら、考えてみるが……何が起きているのか、よくわからない。


 依頼というのは、ギルドから受けるものだと思っていた。しかし、今回、ギルドはギルドでも、薬師ギルドであることが問題だったのか。

 素材について、師匠に渡さないことを目的としているのであれば、その理由も良く分からなかった。


「……はぁ…………」


 結局のところ、俺はガキなんだろう。

 今まで、言われたことをやるだけで、自分で行動をしてこなかった。この世界にきて、身体こそ大きくなっているが、何もできていない。


 早く大人になりたいと思っていた。だが、なって見ると、自分一人で生きることがこれほど大変だとは思っていなかった。


 クレインとグラノスがいなかったら、生きていくことすら出来てなかっただろう。だからこそ、二人を守りたいと思っているが、上手くいかない。



「すみません。お待たせしました。マリィと言います、よろしくお願いしますね」

「……ああ。ナーガだ……クレインとグラノスとパーティーを組んでいる……」


 しばらくすると、金髪の受付嬢が部屋に入ってきて、挨拶をするので、こちらも返しておく。クレインが世話になっているらしいが、何を言っていいかわからず、沈黙が流れる。


「それで、またまたクレインさんは巻き込まれた感じですかね?」

「……またまた?」

「いえ、なんていうか、〈東の森〉の時もなんですけど。本人意図せず、事件に巻き込まれてるようだったので」


 〈東の森〉の件は、何かあったと聞いてるが、詳しくは聞いていない。自分に関係ないと思っていたが、クレインが関係しているのであれば、きちんと聞いておくべきだった。

 巻き込まれたという言葉も気になるが……。


 まずは、言われたことだけでもこなしておく。


「今日、俺達は……調合のための素材確保を目的として〈西の丘〉に行った。だが、入口に入る前に青髪の男に声をかけられて、伝言を頼まれた」

「はい。〈アーク〉の斥候・ライさんであることは間違いないですか?」

「冒険者証を提示していた……悪いが、俺は聞いていただけで確認したのはクレインだ。ただ、頷いていたから、そうだと思う。先ほど、預かった冒険者証はあの男に渡したが……」


 会話は聞いているが、確認を取ったのがクレインのため、間違いないとも言えない。

 つくづく、何をやっているんだと……人任せで済ませようとした自分にいら立つ。


 グラノスは自分が何をすればいいかときちんと把握していたのに……俺は伝言だけでいいだろうと思い込んでいた。

 

「なるほど。それで、伝言というのが……」

「任務内容は〈西の丘〉で一週間の護衛。あと5日離れられないことを、冒険者ギルドに報告してくれ。薬師ギルドで高額依頼を受けた。採取の量が異常。独占する旨の発言をしていた。これらを伝えて欲しいと……相手に名乗ったのはクレインだ」

「それで、クレインさんが引き受けたんですか?」

「……パーティーリーダーであるグラノスが受けると判断している。ただ、クレインも相手も互いに顔を知っていたようだ。それで、他の採取場が気になるから確認すると言い出したので、手分けすることになった。俺より素早さのあるグラノスが〈緑の沼〉、クレインが〈東の森〉だ」

「確かに、素材を独占したいなら、その3か所をすべてでやらないと意味がないですからね。まあ、それでも流通が滞るのはこの町だけですけどね。結構な嫌がらせですね。セージの葉に対する報復にしても……徹底的にやるなら、こちらも手加減しないですけどね」


 静かな怒りが見える。にこにこと表情は崩していないが、目が違う。

 こういうのは余計なことを言うべきではない。怒らせると怖いタイプだろう。


「それで……ナーガさん。緑の沼は、他の2か所に比べると少々実力がないと厳しいのですが……大丈夫ですか?」

「……クレインと違って男だから、多少傷を負ってもいい。クレインの提案をそのまま受け入れたが、行くのが逆だったら俺は反対した」

「そうでしたか……。ナーガさんはこの後、ご予定は?」

「ない……クレインを待つか、師匠のところへ顔を出すつもりだ…………今回の件、守秘義務とかはあるのか?」

「そうですね……まず、相手パーティー名および依頼者の名前は絶対に伏せてください。本人達への聞き取りなど調査を行います。その間に変な噂が流れない様にするための処置です。調査後に改めて指示をしますが、基本的には外部に言わないで欲しいです」

「……そうか」


 外部。俺達3人の間で、情報のやり取りは構わないが、師匠に話すことはできないということになるか……。

 だが……師匠に話さないという選択肢は、あいつらにもないと思うが……。


「クレインさんの師匠に言う場合、『薬師ギルド所属と思われる人物が、素材の独占を狙っている』くらいにしておいてください」

「……ああ。言うのはいいのか?」

「弟子であるクレインさんが報告しないとも思わないので……出来れば、具体的な報告は調査を待って欲しいですが……」

「わかった。クレインにも伝えておく」


 受付嬢との会話を終えて、一度家に戻り、置手紙を書いて、師匠の元へ向かった。師匠の家で集合することになるが、嫌とは言わないだろう。

 

 

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