第34話 調合の成功率



 マリィさんに別れを告げて、家に戻る。

 二人と一緒に昼食を食べ終わった頃に師匠がやってきた。


「さて、今日も3人いるさね……〈クラフト〉や〈木工〉、〈石工〉のレシピをあるだけ持ってきたから、やってみるといい。クレインは調合のレシピを1回だけ見本を見せるよ」


 兄さん達が離れた場所で作業を開始したのを確認し、作業を始める前に相談することにした。


「師匠……すみません。ちょっと相談がありまして」

「ひよっこ。厄介事じゃないだろうね?」

「えっと……冒険者ギルドから指名依頼で傷薬、魔丸薬、能丸薬、麻痺薬、毒薬、睡眠薬、調合薬等を納品をお願いしたいと。私で出来ますかね?」


 納品依頼の内容が書かれた紙を渡すと、中身を確認していく。


「ひっひっ……やっぱりそうなったかい。まあ、出来なくはないね。ただ、この中では調合薬だけはまだ難しいね。ああ、調合薬というのは、傷薬を上澄みしてより効果を増すために調合した薬なんだが、なかなか難しいね。作れるようになるまで時間がかかるよ」

「ですよね……それと、魔丸薬とかの成功率が5割と答えてしまったんですが、問題……あったんですね?」


 師匠が魔丸薬の成功率が5割と言ったところで、目を丸くして驚いた顔をしている。やっぱり、何かあるのかな。

 ううっ……マリィさんだからと容易に答えるんじゃなかった。


「ひよっこ。魔丸薬の成功率は5割なのかい?」

「えっ……はい。レベル10に上がった時に、調合4ランクになって、それからはだいたい5割です」

「そうだね……あんたにはきちんと説明をしていなかったけどね、調合の成功には、いくつかの基準がある。一つ目は、自分のランクとレシピのランク。調合のレシピには初級上中下・中級上中下・上級上中下・超級という区分けがある。自分のランクより高いものを作るときには成功率が下がっていく」

「あ、はい……そうですね」


 まあ、それはなんとなく聞いていてわかった。自分のランクより高い物を作った方が熟練度が上がるのと、冒険者として使用頻度が高いからという理由で魔丸薬と能丸薬のレシピをもらってるからね。

 レベルが上がっていくと作りやすくなってはいたので、気にしてなかったけど。


「二つ目、制作物の習熟度。作った回数や材料や薬への理解度により成功率は高くなる。三つ目、作成者のステータス。調合にはINTとDEXというステータスが重要になる」

「はい……二つの値が調合の成功に関わってくる……どちらも高い水準が必要ということですよね」

「薬師の肝はそこさ。特に、努力だけではどうにもならんDEXという才能……いや、それも含めて何でもやるくらいの努力がないとどこかで詰まる」


 つまり……見えない才能に左右されるから、DEXを上げるために何でもするってこと? そして、私は師匠の予想以上にすでに高くて、成功率が高いってことか。


「師匠。もう少し詳しく、お願いしてもいいですか?」

「どこから説明したもんか……そうだね。薬師は数が少ない。それは才能に左右されることがわかってるから目指すものも少ないさね。その才能というのが、INTとDEX。特に見えないDEX部分だね。錬金術士も似たようなもんだが、あっちのがまだ何とかなる。なんでかわかるかい?」

「えっ………………INTが伸びるのは、魔法系で……MPで作成する錬金術と相性がいいとか?」

「そう。薬師は錬金術師よりも作成できる回数が少なくなる傾向さ。少ない回数で実力を発揮していかないと、成り立たなくなる。INTを高くしているとMPは伸びていくがSPは伸びないからね」


 う~ん。作成してれば熟練度はあがるけど、そもそも作る回数の違い……。私もSPとMPの差があるから、絶対に調合からやってる。やろうと思えば錬金は一気に上げることが出来ると思ってる。

 とはいえ、SPはレベル上げれば増えるよね? そこまで錬金との差が出るとは思わないけど。



「さらに、薬師は中級薬師で止まることが多いさね。これは、上級の物を作ることが出来ないからさ」

「作れないんですか?」

「あんたみたいに素材を自分で取りに行くならいいが、素材自体も高価になってくるからね。中級の素材を買うのも大変になるんだよ。魔丸薬つくるなら、100Gは素材代になる。素材が無くて採取の依頼をだせば、もっとかかる」

「ああ……技術料2割でしたっけ?……売値がいくらかしらないですけど」

「冒険者ギルドみたいに一定数をずっと納品ならそんなもんだけどね。病気で、特殊な治療薬が必要なら患者は、薬師ギルドには頼まない。失敗する可能性を考慮しないでいい、最初から作れる人に頼むようになるんだよ。素材も自分で用意できないから、薬師が用意するとなると……コネでもないと、厳しい。結果として、一部の人間だけに依頼が集中しちまう。経験を積むための場所は限られる中で、稼げる奴だけが稼ぐ世界さね」


 あ、なるほど。

 師匠は昔自分でも取りに行ってたと聞いたし、レオニスさんが素材を取ってきてくれるから恵まれてるのか。逆に、素材を入手できない人は作成することも出来ないから、レベルも熟練度も上がらないと。


「……だから、たいていの人は中級で止まってしまうと」

「それだけじゃない。魔丸薬や能丸薬の素材……あんたは自分で手に入れられるから失敗なんて考えてないさね?」

「え? あ、はい……百々草で作ってますけどね。他の材料も西の丘や東の森で取ってこれる素材だから、素材が無くなったら取りに行くだけです」

「ひよっこの冒険者でも取ってこれるもんを取りにいこうともしない。薬師だから……素材は相手に揃えてもらう。それで、実力が付くまで何年かかるかね。あんたの成功率が5割ってことは、作成数は失敗も合わせれば300なんて軽く超えてるだろう……短期間でよくやったもんさ」

「わかるんですか?」

「ああ。無理しすぎさ。中級のレシピを渡したのは、冒険者として必要になるからで、すぐ作れるようにならなくてもよかったものを……」


 いや。でも、すごく便利なわけで……ポーションを作れるようになれば、ポーションとかでもいいんだろうけど。調合・錬金をしている時に、薬飲んでおくだけでかなり長時間作っていることができる。

 兄さん達との特訓も、これのおかげで回復時間を短縮しているので効率よくできている……必然的に、何個あってもいい状態なので、作れるだけ作るようになった。

 ちなみに……失敗も多いけど、魔丸薬や能丸薬の失敗物は、リサイクルして傷薬にできたりするので、失敗物で溢れたりもしない……まあ、傷薬はね……沢山あっても使えないから、納品してしまったわけだけど、300個も納品してもまだまだ沢山在庫はある。



「さて、話を戻すが冒険者ギルドの依頼が問題だね。とりあえず、レシピは用意しておくよ。まずは、キラービーを倒せるなら麻痺薬、くさいハナを倒せるなら睡眠薬を練習するといい。毒薬については、魔物は狩るのはやめときな。素材を貰った方がいい。たしか、Dランクの魔物になるから、ギルドも良い顔はしないだろうさ。他のレシピもおいおい用意するけど、この3つをまずは作れるようになるんだね」

「なるほど……でも、素材提供を頼むと利益率が2割になるんですよね……」

「普通の薬師はそれでやってるんだよ、十分な稼ぎさ。……まあ、せっかくの稼ぎ時であることも事実だからね。……そうさね。交渉したらどうだい?」

「交渉ですか?」

「納品する代わりに、冒険者ランクをEかDにしてもらうんだよ。行動範囲広げるためにも交渉してみな。ただし、無理にランクを上げるんだから、ソロは危険だよ」

「なるほど……やってみます」


 冒険者ランクを上げるか……。

 ギルドの判断によるってことは、交渉できるものなのか。

 たしかに……Dランクの魔物であっても、倒せるなら倒した方がお得。さらに言えば、冒険者ギルドに自分の調合の記録を渡したくない……というか、師匠にもばれたら怒られそう……。無茶禁止って兄さん達もうるさいからね。隠しておきたい。


 とはいえ……ソロは危険。

 いや。べつに、理由を言えば、兄さん達は頼まなくても着いてきてくれるとは思うけど……足手纏いになるのが嫌なんだよね。

 だって、私のために危険なところに一緒に来て……って、何様って気もする。二人は断らないだろうけど……なんだか、すごくもやっとする。



「それから、調合薬だけは、時間がかかると伝えときな。あんたが今のペースで調合をやるなら、他は1週間あれば50まで作れるだろう。2週間あれば望みの数を揃えられる。レシピは急いで用意しておくよ」

「えっと……調合薬は難しいんですか?」

「あんたなら……調合薬は2か月あれば……できるようになるかもしれないがね」

「えっと……調合薬のランクって」

「上級の下。作れるようになれば、上級薬師の仲間入りさ」


 上級って完全に無茶ぶり!

 薬師は中級止まりって話を聞いたばかりなのに、なんで上級の分がまぎれてるのかな……しかも、納品希望数は結構多い。


 素材も貴重になってくるという話だし、厳しそう。

 

 慢性的に品不足だから、多く書いてるのかな。

 この際、必要な物書いとけとか?


 師匠なら作れるだろうけど……作る気が無さそう。どこまで出来るようになるか、楽しんでるように見える。


「無茶ぶりってことですか……何考えてるんでしょうね」

「まあ、せいぜい頑張んな。私はあんたならレベルが上がれば出来るようになると思うがね」

「わかりました。精進します」

「まあ、悪いことばかりじゃないさ。同じ物ばかり作るよりは、いろんなレシピを試した方が勉強にもなる。このリストは冒険者ギルドでないと必要にならない物が多いからね。どうせ、一時的な依頼だと思って、やってみな」

「はい」


 リストにあるレシピの一部は、師匠から渡された。確認してみると、ほぼ中級下~中級上のレシピで、材料が足りていないので、すぐに作ることは出来ない。

 師匠から貸すだけだと、見本になる素材を渡されたので明日からは材料の採取もしていくことになる。

 兄さん達に言って、特訓場所を西の丘にしてもらうかな。

 強くなるというのも大事だけど、せっかくのチャンスだから、ここでお金稼ぎをして地盤を固めるのもアリだね。



 その後、師匠からの授業は、主に素材採取方法となってしまった。

 必要になるから覚えるようにと、兄さん達も一緒に教わった。クラフトもやるつもりだったけど、今日は新しい素材の説明時間が多すぎて出来なかった。

 というか、師匠、二人に取りに行かせるつもりだよね? すでに二人は私より強いけど……3人で行くようにと念押しをされてしまった。


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