第31話 隠しステータス
教会で掃除など手伝いをした後、家で食事をしていると師匠がやってきて、〈調合〉を教わる……ではなくて〈木工〉を取得するために矢の棒の部分、シャフトの作成を行う。
前回の矢じり、矢羽根と合わせて、矢を作成できるようになった。
まっすぐ飛ぶようになる矢を作るまでは、まだ練習をしないとだめそうだけど……どこが歪んでるのか、それとも他に駄目なとこがあるのかさっぱりわからない……。
〈弓術〉を覚えるための矢も予備ができたので、良かった。弓術を練習する分には、多少曲がっていても……駄目か? とりあえず、出来がいいのと駄目そうなのを分けておこう。
「ふむ……ひよっこ達兄妹は器用さね。もう少し練習すれば売り物にするにも問題は無さそうだ。ナーガ坊は練習することさね。焦らんでも、やってるうちに上手くなるさ」
師匠は、調合のレシピも用意してくれているけど、初級の簡単な物だから、見本を見なくてもできる。調合の練習をするなら魔丸薬と能丸薬を続けた方が、効率がいいとのこと。
魔丸薬と能丸薬は特訓でも使うので、あとで大量に作っておく予定。素材が百々草なのは便利だ。材料が日持ちしないだけで、朝とかにぱぱっと取ってこれるので、材料に困らない。
師匠の授業は兄さん達と一緒に工作の時間になっている……結構、楽しい。
ナーガ君は一生懸命やっているのがわかるけど、結構不器用で苦労している。矢じりとか、石を加工する、力が必要な作業は上手くできるので慣れだと思う。
「調合じゃないことばかりやらせているが、嫌じゃないのかい?」
「え……師匠に何か考えがあると思うので……それに、冒険者としては必要な技術かなって……こうやって、シャフトとか作れるようになっておけば、最悪の場合、武器が壊れても木剣とか作れるかなって思うので」
「……普通は予備の武器を持つことを考えるんだよ、覚えておきな。クラフトや木工があれば、簡単な修理は出来るようになるのは間違いないけどね。一から作ろうとするんじゃないよ」
「は、はい」
「考えというほどじゃないが、少しペースを落とさんとね、あんたは無茶してレベルだけ上げちまうからね」
レベルだけでなく、技術を覚えろということか。
確かに、近場以外で魔物を倒すようになれば、普通の薬師よりもガンガンとレベル上がることになる。師匠は、その辺を考慮してくれているらしい。
「なあ、お師匠さん。レベル上がるのはダメなのかい?」
「ダメじゃないさ。普通はレベルを上げてステータスを上げていくもんだ。今やってるのは、生産効率を上げるために、色々経験をさせてるんだよ。個々の資質で異なるとはいえ、アビリティを多く覚えることは無駄にはならんさ」
つまり、師匠もアビリティの取得がいいと考えてると……あれ? 言ってないよね?
今、私たちが特訓でやろうとしてることを師匠もしてくれてるんだけど……。
「怪訝そうな顔しているね。何かあるんなら聞くよ?」
「えっと……ちょっと、だけ。その……冒険者やっていくなら、強くならないとかな……と、色々アビリティ覚えようとしてるんですけど」
「そうかい……。まあ、いいことだよ。ただ、生産系のアビリティは作ってるうちに覚えることはあるが、戦闘系についてはわからんねぇ。ただ、生産系のアビリティはDEX値を上げる。無駄にはならんということさ」
「DEX値?」
はて? ステータスにそんな値はないと思うけど。
兄さん達も? という顔をしている。
ステータスを表示してみるが、そのような値は見当たらない。なんのことだろう。
「隠しステータスのことは、まだ知らなかったようだね。まあ、冒険者は知らなくてもいいが、薬師は知っておくといい」
「師匠……DEX値ってなんですか?」
「器用さのことを、ステータス上はDEXというんだよ。自分で確認することができないステータスの一種だね」
器用さ。なるほど……その値もステータスにはあるのは知らなかった。ただし、見ることは出来ないと……。でも、それなら何でその値があるってわかったんだろ?
そもそも、一種ってことは、他にもあるってことだ。
「なあ、見ることが出来ないのに、どうやって確認したんだ?」
「とあるアーティファクトで表示することが出来るそうだよ。わたしゃ、使ったことはないがね。器用はDEX、運がLUK、魅力がCULだったかね。この3つが隠しステータスと言われてるよ。生産職はDEXが大事だ。何故かわかるかい?」
「……えっと。作成するときの成功率。レベルが上がると作りやすくなるのは、DEX値が上がってたからってことですか?」
「そうさ。だから、生産職にとって、この値は上げておかなくてはいけない部分だよ。だがね、それだけじゃない。生産職以外にも、この値は高い方がいいと言われてる」
魔丸薬は、レベルが上がるたびに作りやすくなっていた。
師匠がクラフトとかをさせていた理由はこれか。そういえば、器用だと褒められていたのに、全く気にしてなかった。ステータスは見えてる部分だけと思い込んでいた。
しかし……生産以外でも意味がある……なんだろ?
「ふむ……俺らでも意味があるってことか。理由は思いつかないが」
「アビリティを覚えるための熟練度、これは器用な者ほど覚えやすいと言われている……貴族間でね」
「……信憑性がありそうだな。民間では知られてないって辺りが。しかし、お師匠さんはよく知ってたな」
「昔にね……年の功ってやつさ。聞きかじっただけだが……あんた達には有益な情報だろう? まあ、年寄の言うことは聞いときな」
DEXの値か……。
生産系のステータスはそちらが上がるというのは、やる気が出る。DEXを上げていけば、作れる物も増えるわけだ。
「ありがとうございます、師匠。頑張りますね」
「しかし……周囲の様子だと、クレインに調合をさっさと覚えさせたいんだと思ってたけどな。そんなに悠長でいいのかい?」
「もう年だからね……ひよっこには他の薬師が10年で一人前になるところを1年でなってもらう。そのためには多少無理をさせることもでるさね。代わりに、あんたが一人前になれるようにきちんと考えるのはこっちの役目さ」
「え? 一年です?」
一年ってなんだ?
薬師が一人前になるのに一年? 10年かかるというなら、10年頑張るくらいは覚悟している。冒険者やりながらでも構わないペースで教えてくれているから、てっきり普通よりかかると思ってた。
「ああ。私だって老い先短いからね……あんたに何年も付き合うことは出来ないよ。悠長にやってるんじゃなくて、DEX値を多少無茶でも底上げすることで、さっさと中級・上級の薬を作れるようにするんだよ。ついでに、クラフトや木工・石工とかの生産アビリティをもっていた方が目立たないだろう? 錬金と付与があってもね」
「あ…………えっと」
「まあ、あんたは私の唯一の弟子さ。ちゃんと責任もって教えるよ……まあ、すぐにできるようになるだろうがね」
師匠の期待が重い。
10年かかるものをどうやったら1年でできるようになるって……できるのか? 疑ってるわけではないけど、大変なことになりそう。
「……大丈夫なのか?」
「うん? なにがだい、ナー坊」
「……短期間で…………すぐ無茶をするだろ」
「ああ。そうさね……まず、調合でもレベルは上がるが、簡単な物を作り続けてもレベルは上がりにくくなる。難しい物を作るにしても、材料も高価になるさね。どうやってもレベルが30になるには、調合だけでは10年かかると言われてる。でも……冒険者なら、レベルは1年無くても30くらいまでは簡単に上がるさ」
確かに……すでにレベルが10になっている。
中級レベルの魔丸薬とかを作らないとレベルが上がりにくくなってるのは気付いてた。素材がそこらへんに生えてる百々草がメインだから大量に練習してるけど、高い素材なら材料費で破産する……。他にも素材必要だけど、メインが百々草なのは師匠のおかげだ。
「なるほど。しかし、冒険者としてレベルを上げると調合に必要なDEX値が足りなくなる可能性があるってことです?」
「賢いじゃないか。まあ、無茶ばかりしそうだからね。ちゃんと配分をみて、無理させたりはしないよ。ナー坊」
「…………そうか」
なんだか、3人とも私が無茶ばかりすると言ってるけど、別に無茶をしたいわけじゃない。ただ、無茶をしてでも、なんとかしないといけない状態だと、多少の無茶をするだけ。まあ……不安な状態だと何も考えないために作業に没頭することはあるけど。
冒険者になること、薬師になること。自分で決めたのだから、嫌々やってる訳じゃない。むしろ、楽しんでいるのだから、無茶ではないと思う。
そんなに心配される理由がわからないのだけど……。
魔丸薬とかを作れるようになるのにも1年以上かかるらしい……理由は、普通ならDEX値が足りずに作れない。すでに、2,3年目くらいにはいると言われて驚いた……そもそもすぐに作らせるような物じゃないなら、なんでレシピを渡したのか。
冒険者として必要になるだけじゃなく……作れない物があることで、頑張らせるつもりだった? だいぶ作れるようになってきたと伝えると……師匠は楽しそうに笑ってたから、良いことだと思ってたけど。
「しかし……DEXが役に立つのはわかったが、他の二つはどうなんだ?」
「そうさねぇ……CULについては、貴族や商人が高いらしいね。CULが高いと、見るだけで好感を持つとか、話に引き込まれるとか聞くねぇ。器用さが生産職に必須であれば、魅力は商人には必須な才能とも言われているさね」
「ふむ……カリスマ性ってことか? 冒険者に必要になるのか?」
「そうだねぇ……Sランクの冒険者は高い者もいるらしいね。出世しやすいとか、騎士への転職に有利とか聞くが……詳しいことはわからんねぇ」
う~ん。確かに、冒険者には必要なさそうだけど……。
まあ、そういうステータスもあるってことだ。
「LUKについては、個人差が大きいものだからね。解明されていない。だけど、昔から『アビリティ取得が出来ないのは運が悪いから』と言われてるね。逆に運が良いと覚えやすい……ひよっこみたいにね」
「え?」
「自覚の有無は置いといて。通常では、レベル10くらいで調合LV2がせいぜいだよ。4まで上がったあんたは、間違いなく運がいいってことさ。よっぽど意識して、レベルを上げずに熟練度を上げていかないと、レベル20くらいはかかるよ」
……つまり、予定通り?
運が良くなりたいというのは、ちゃんと機能しているってことだ。〈直感〉を取って良かった!
「他にも、調合などの成功率にも関係があるとか言われるねぇ。それと……本当かは知らないけど、LUKについては、パーティー全体にも影響が出るというね」
「うん? お師匠さん、それはどういうことだ?」
「何、単純な話だよ。運が良い者がパーティーの中にいると宝箱のレアリティが上がるとか、縁起担ぎに運がいい者に引かせるとかがあるからそういうんだろ。そもそも、簡単には確認できないステータスだからね。実際はわからないよ」
「なるほど。色々あるんだな……クレインは、運が良いってのは間違いなさそうだしな」
「……ああ」
まあ……運が良くなりたいという願いがあったからね。
DEXとLUKが高いっていうのは、嬉しい。アビリティ覚えやすいのはいい事だし、調合の成功率も関係するなら薬師には向いてるってことだ。
とりあえず、隠しステータスも重要そう。CULだけ、師匠の話では詳細が把握できなかったけど。私には関係なさそう…………ただ、何となくだけど、兄さんとナーガ君は高そうな気がするんだけど。
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