第29話 特訓1日目



 翌日。

 各自のステータス情報を共有し、技能と魔法、アビリティの取得をするために、町を出て、人目に付きにくい場所へ移動すること2時間。

 西の丘に行く途中の道から少し南に向かう。街道も無くなり、魔物は増えるけども、人通りもない。他の町や王都に行く方向とはズレており、ダンジョンもないため、人がほぼいない。見晴らしのいい場所なので、人が来たらすぐにわかるのも良い。


「さてと、町から結構離れたので、ここら辺でいいかな」

「…………人がいないな」

「うん。あまり、人に見られたくないからね」

「それで、まずはどうするんだ?」

「技能から行こう。昨日のお互いの情報を確認して、覚えられる技能は、体術・弓術・槍術・盾術。まずは盾からでどうかな」


 兄さん達との情報を考慮して、まずは持ってる武器種については取得をしてみようということになった。その中でも、一番期待しているのは盾。


「うん? 何かあるのか?」

「私が魔法を打ちこむ。これを盾で防御する」

「魔物と戦わずに、盾術を覚えることができるのか確認するってことかい?」

「それもある。私は、水魔法を元々取得していたけど、火・土・風はこっちにきて、錬金で属性素材を100回使ったことで覚えた。素材にある魔法の元素? とやらを扱うことで覚えたという仮説ね。なら、魔法を撃ちこむことで、元素に触れ合う=魔法を覚える可能性もあるかなと思ってる」

「なるほど。防御していればいいのか?」

「そう。……意識して、防御してみて欲しい。あ、まず……〈ガード〉……と、こんな感じでアクティブスキルを覚えるから、これを真似した形でやってみて」


 盾術の〈ガード〉を発動する。

 まあ、動けなくなるので実戦には使えないかなと思ってるのだけど……こういう感じで盾構えてくれれば、私も魔法を撃ちやすい。


「わかった。まずは君の魔法を100回防御してみて、そのあとレベルを一つ上げてみるか」

「う~ん? でもさ、MPが枯渇するから全属性を100回試すとなると、1日かかると思う。今日の最後にレベルを上げれば良くない?」

「……一つずつ試してもいいと思うが」

「技能とかを一つ覚えるごとにステータスが上がる。強くなるなら、早いうちに沢山覚えた方がいいのは間違いない。効率を考えて、1日の最後の仕上げでレベルを上げてみよう。駄目だったら、また次を考えればいいよ」

「そうだな」


 二人に魔法を撃ちこむこと……100×6属性×2人。MPが200弱しかないので、回復する間は、SPが切れるまでスキルを打つ、他の武器種で素振りや手合わせをして、技能の取得を試しつつ、夕方になって、魔物を倒してレベルを上げた結果。


 ナーガ君がレベル4になって、色々覚えた。

 水耐性LV2、火耐性LV2、土耐性LV2、風耐性LV2、光耐性LV1、聖耐性LV1、火魔法LV1、盾術LV1、観察LV1。

 兄さんは、風魔法LV1、火魔法LV1、風耐性LV1、盾術LV1、SP不足LV1、解体LV1。


 何故か、ナーガ君の耐性がレベル2から覚えている。昨日の時点で、確認した時に持ってなかったのに、突然レベル2。二人とも同じような特訓内容だったのに、取得したアビリティは違う。

 事前に、言われていた通り、個人差があるということは確認が出来たけど……検証は難しそう。


「う~ん。覚えたけど、なんか違うような? 同じようにしてるのに、覚えるのが全然ちがうね」

「そうだな……たしか、人によって覚えるとか覚えないがあるんだったか?」

「……次だ」

「このまま、続ける? 野宿になるけど……」

「いや。とりあえず、成果はあった。今日はこのくらいにしておこう」


 ナーガ君は残念そうにしているが、今日は帰ることになった。お互いの気付いたことを話しながら帰る。帰り道で人がいないのはいいが、距離が結構あるのは、時間のロスという話になり、次からはもっと近場でやるかという話になった。

 人を避けることは決定しているが、近場でも見つかりにくい場所とかはあるだろう。穴場については、マリィさんにでも聞いてみよう。


「今後の予定についてだが、希望はあるかい?」

「私は奇数の日の昼から師匠に教わることになってるから。その日は近場で午前だけなら、可能かな。ただ、教会に行きたいから、明日はやるとしても朝だけ参加かな」

「……教会?」

「うん。ギルド長から行くように指示があったから。……興味があるなら一緒に行く?」

「ああ…………頼む」


 一緒に行くかを提案したら、食い気味に返事が来た。ナーガ君にしては珍しい。何か思い入れとかがあるんだろうか。聞いてみたい気もするけど……あんまり、前の世界での事は聞かない方がいいかなという気もする。そもそも、私自身の記憶が曖昧なのに、人の事を聞き出すのはいただけない……。


「教会か」

「兄さんはどうする?」

「まあ、二人が行くなら一緒に行こう」


 兄さんはあまり乗り気じゃない。

 こっちも珍しいかな。割となんでも興味を持つタイプなので、初めて行く場所とか好きそうな印象だった。教会が気に入らないのか、ギルド長が気に入らないのか……どっちもという可能性もあるか。


「明日の予定はそれでいいが……」

「偶数の日は1日、そのまま強化訓練にするとして……魔法と耐性は覚えるみたいだから、続けてみよう。出来れば、私も耐性を覚えたいから二人が魔法を撃つ側もやって欲しい」

「そうだな。盾以外は、今日覚えなかったが……」

「……体術については、俺とグラノスで組み合うのがいいだろう。他の武器については、クレインと組んだ方がいい」

「おっ、なんか考えがあるのか?」

「……単純に、刀以外の扱いはクレインの方が上手い。相手取るなら、そちらの方が効果的だろう。あんたの型はめちゃくちゃすぎる」


 確かに、兄さんは型とかに捉われない動きをするから、対人戦で強いと思うけど……初心者向きではない。私は一撃もらうと吹っ飛ぶくらい、パワーに差があるので、体術とかは相手にならない。武器があると結構受け流しができたり、躱せるようになったから成長しているけど。

 

「あとは……他の武器種、買ってみる?」

「結局、俺もナーガも槍術覚えてないしな……まだ早いんじゃないか?」

「……増やすとして、何を増やすんだ?」

「う~ん。斧とか? 杖はいらない気がするし……斧があれば、木の根っことかの採取に使えるとは思ってるんだよね」

「あ~確かに、君が採取に必要なら買ってもいいんじゃないか。まあ、武器というよりも伐採目的のものを買った方がいい気がするが……」

「あと、棒? 槍と剣だとリーチが合わないから、長柄の武器を買うのはありだと思う」

「……大剣だと振り回すのが辛そうだしな」

「うっ……パワーが足りないのはわかってるんだけどね」


 手合わせするには、似たような長さの得物の方がやりやすい。斧は剣でいいと思うけど、槍は剣で相手をするのは難しい。どうしても、長さを生かして戦うと不利になる。

 お金がかかるのがネックだけど、効率を考えるならありだと思うんだけど……そもそも、武器より先に二人の防具を考えるべきという気もする。


「別に魔法系だからいいんじゃないか?」

「それはそれ! まあ、二人に比べると貧弱だけど……」

「……まあ、やっていればそのうち覚えるだろう。焦らずに続けるのが大事だな」


 今日の二人のレベルアップのステータスの伸びにも、だいぶ差がある。ナーガ君の力の伸びとかすごい。兄さんも力と速さが上がってるので、強い。

 まだ、1回レベルアップしただけだから……レベルを上げればもっと覚えるかもしれないので、その通りだけど。法則みたいなのがわかれば早いとも思う。


「他に何か気になったところとかある?」

「……あんたがステータス以上に動きがいいのはなんだ?」

「えっと、〈直感〉によるパッシブ効果はあるみたい。レオニスさんからも言われたけど、結構効果があるみたい」


 私は手合わせしたら全然ダメだろうなと思ったが、意外といけた。まあ、攻撃は弱いんだけどね。数撃てば当たる戦法。割とちまちまと攻撃が入る。

 あと、大振りは避けるので、二人は結構びっくりしていた。レベルの差という可能性もある。

 


「確かに、こっちの予想以上に動けるよな。しかも、途中から動きが良くなった」

「うん? 刀持った兄さんの動きを真似たからだと思う。なんか、兄さんの動き綺麗で無駄がなかったから」


 兄さんの動きはすごく綺麗だった。刀を持つと雰囲気が変わる。しかも、鬼強い。

 なので、それを真似て動くようにした。そんなに動きが良くなったのだろうか。


 今日、私はレベルが上がらなかったので、成果がわからない。二人よりレベルが高いので仕方ないんだけど……この後、大量の調合でもして、レベル上げようかな。


「……ユニークスキルはパッシブ効果があるんだったか?」

「え? うん。あるみたいだよ」

「なら、それだろうな。〈刀の極み〉を持ってるから、刀のときは動きがいいんだろ。他の時にも同じように動けるようにしたいがな」

「なるほど…………俺のは効果が乗らなそうだな」

「そう、なの?」

「……ドラゴンキラー……いや、〈竜殺し〉だったか」


 竜殺し……ドラゴンキラー……。

 なんか、納得。ちょっと中二病入ってるセレクトがナーガ君っぽい。ゲームで英雄とかが呼ばれてるイメージ。そんなユニークスキルあったんだ。

 しかし、ドラゴン相手に戦うのは勘弁願いたい。まあ、そもそも足手纏いなので連れていく選択肢はないと思うけど。


「君らしいセレクトだな!」

「……どういう意味だ」

「まあまあ。確かに、ナーガ君のユニークは試せないね。あ、でも、ナーガ君の耐性が上がりやすいのってそれのせいじゃない? ドラゴンって、魔法に強そうだから」

「確かに。耐性は一通り上がってたよな。しかも、ステータスの伸びは一番いいようだしな」

「……あんたたちのおかげだ。ありがとう」

「おっ、デレたな」

「なっ……デレてない」


 素質の部分にユニークスキルが効果を発揮するか。そもそも、持ってるだけで強くなるって話だから、あり得ない話じゃない。兄さんの〈刀の極み〉もだけど……ステータスの上り方がいいのは、これが原因なら危険視するのもわかる。

 二人を守るには……情報を売らずにとなると結構ハードルが高そう。


「どうしたんだ?」

「え? あ、えっと……私だけレベル上がらなかったから、この後調合しようかなって」

「ダメだ。夜中の調合は禁止する。君は無茶しがちだからな。今日はゆっくり休むんだ」

「……ゆっくり風呂でも入って、寝ろ」

「え~…………わ、わかりました。じゃあ、お風呂に入ってきます」


 兄さんとナーガ君の双方から睨まれたので、大人しく従うことにする。

 今日は、調合を諦めたほうが良さそう。水魔法と火魔法を複合して、お湯を出して桶に溜める。そういえば、保温できるように付与もしたいと考えていた。


 兄さん達の強化が落ち着いたら考えよう……あと、出るときに沸かし直さないとね。

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