第28話 報告の続き


 

 〈天運・天命〉の効果と、異邦人の扱いを聞いて、黙りこくってしまった私に、後ろから声がかかった。


「なあ、一ついいかい?」

「ん~? へぇ……君、似ているね?」

「兄妹なんでな。話をしているところ、悪いな。ちょっと気になったんでな」

「構わないけど? 僕に何か話あるの?」

「いや。君にというよりはクレインにか? 君のいるところで聞いた方がフェアーだろう?」


 兄さんが話に加わってきた。当然のように、隣の椅子に腰を掛けた。

 ナーガ君は心配そうにこっちを見ているが、こちらに近寄ることはないようだ。


 二人には席外した方がいいとは言ったんだけど……一蓮托生だと聞かなかったんで、ずっと同じ部屋には居た。大丈夫だと言ったんだけどね、心配してくれてるらしい。


「さっきのクレインの言い方が気になってな。俺は鳥人の混血という種族を選んだわけだが、君、種族を選んだ覚えがないのか?」

「……ない。でも、やっぱり選ぶ項目があった?」


 鳥人の混血。

 兄さんがそれってことは、私も同じなのか? 似た外見なので可能性はある。


 ナーガ君は首を振っているので、多分覚えてない。

 兄さんは覚えていて、私とナーガ君は覚えてないのか。


「へぇ……クレインはかなり記憶がある方だと思ってたけどね。選んだってことはポイントとか覚えてる?」

「純血は150、ハーフは100、クォーターは60、混血は30だな。裏を取りたいなら集団の連中にいた金髪碧眼の魔法使いに聞いてくれ。あいつは種族をエルフ系にしたことを自慢していたからな。他の記憶が曖昧だが、エルフになりたかったことを煩くアピールしていたから覚えている可能性がある」

「なるほどね~。貴重な情報だね、助かるよ。ちなみに、なんで鳥人選んだか覚えてる?」

「……空に対する憧れだな。空を飛んでみたかった……まあ、混血程度じゃ無理だったわけだが」


 そういえば、兄さんは自分のやりたいことを優先したって言ってた。生き延びることとか、手に職をという考えがなかった。でも、種族はやりたいことがあったから選んで、記憶に残ってる。

 私は……種族に対しては、そこまで思い入れがなく選んでる? 覚えてないのは、種族と〈祝福〉。たしかに、他は明確に意思を持って取っているとも言えるが、種族は特に思い入れが無いかもしれない。

 混血って、8分の1くらい? ちょっと血が入ってますという程度だろうか。足りない30ポイントの謎はこれだろう。



「………………意思……やりたいこと……それだけが反映される空間だった?」

「俺はやりたいことを選んだ。君は違うかい?」

「うん……生きるために、それができる内容を選んだ。そして、種族は生きるためではなかったから、記憶にない…………自分の意思、しかも強い意思で選び取ったものしか記憶に残っていない」

「ああ。だが、覚えてない奴ほど肥大化された欲求がそのまま残っている感じだがな」

「え?」

「君と違って、集団の連中とずっと一緒にいたからな。やることなくて暇だったから観察していたが、記憶がない奴ほど理性の箍が外れてる。なあ?」

「…………知らん。言っておくが俺はこの世界に来る前の選択の記憶はない。だが、あいつらの言動が可怪しいのは間違いない」


 集団の人たちは30人くらいだっけ? その人たちを嫌っているのは何となく知ってたけど。これが、偉い人に伝わることを承知で、話をしているなら……よっぽど、何かあったのか。


 普通の人であれば犯罪をしようなんて思わないはず……それでも構わずにやらかしている異邦人が多いってことは、なんかあるんだろう。


 でも、ナーガ君が何かやらかしてることは無い。……記憶なくても、真っ当な人いるじゃん。

 兄さんは、ナーガ君の「記憶ない」宣言に驚いてる……知らなかったのか。ナーガ君にひどいこと言った自覚はあるようで、謝っている。



「貴重な意見だね。……うん、いいね。クレインもだけど、君も面白いね。名前は?」

「俺はグラノス。あっちのはナーガ」

「ラズ様。私の意見として上げてください。彼らのことは……」

「だろうね。いいよ、そこらへんはこっちでなんとかしておくよ~。確かに、彼らは自分を認めて欲しいという意識が異様に強いのは事実だからね。そう見えたっていう話は信憑性もあるしね~。嘘だとは思ってないよ」

「この子は、生存欲求が強いだろ。生き残るために必要となることに敏感だろ? 強さに全振りした俺らとは対極だけどな」

「なるほどね~じゃあ、種族のこと、異邦人の異常な欲求について、適当に報告しておくよ」


 う~ん。

 あんまり、報告しないのも飼ってる意味がないって思われてしまうけど……重要な報告をして、存在を認識されるのも嫌だな……。


 まあ、ラズ様の手腕にもよるけど……こっちでも、色々と調べておいた方がいい。


「ラズ様。一般常識がわかるような書物、あれば貸して欲しいんですけど」

「うん。君がそういうかなと思って、貸出の許可取ってきたから、これを貸しとくよ」

「……新聞?」

「そう。こっちの束が、直近1年分。こっちの束は、10年分のうち、重要な事件とかのだけ選んできた新聞。あと、こっちは他の国のものだよ。それからここら辺の本は、建国記やら……まあ、歴史書かな。成り立ちわからないと困るでしょ? あ、新聞は庶民向けの物じゃないからね? パメラ婆様なんかは気にしないと思うけど、他の人には見せない方がいい」

「……時間があるときに目を通しておきます」

「うん。何か気がついたとか、伝えたいことがある場合には、この封蝋をしてレオニスに渡してくれる? 内容は書かなくていいよ。君からの手紙が届いたら2,3日以内に寄るようにするから」


 手紙は誰に見られるかわからないから、中身は書くなってことだよね。

 白紙を送るのも微妙だから、季節の便りとして、中身のない手紙を送ればいいのか。


 面倒……というか。こっちの世界の手紙の書き方ってどうなってるのか。同じでいいのか? とりあえず、当たり障りのない文書を練習……するほどでもないかな。何とかなるだろう。むしろ、こちらから何も出さずにいれるなら、その方がいい。



「……わかりました」

「それじゃ、帰るね。…………ああ、そうだ。君達二人はあまりギルドでクエストを受けない方がいいかもね~」

「情報提供ありがとうございます。私の方でもわかることがあれば、報告するようにします」


 ラズ様を見送り、一息つく。

 

 わりと面倒ごとに巻き込まれてる気がするのは気のせいじゃない。

 しかも……ラズ様への報告ってタダ働き? 命の保証という時点で、金なんかでは済ませられないけど。


 報告するネタ切れだけどね。まあ、何かあった時には報告しよう。



「はぁ……」

「君、大丈夫かい?」

「……まあ、なんとか」

「あれが君の契約相手か。なかなか手強そうだな」

「そう、だね。今日はこの前ほど危険を感じなかったんだけど」

「……気を付けろ」

「あはは、ありがとう。ナーガ君。でも、異邦人の処遇、国が管理ってどんな規模で行うんだろ?」

「楽観はできそうもないな」


 まあ、楽観視できる立場じゃない。


 でも、二人については、私と同じように保護対象になるみたいだから、有意義な話もあったわけで……信頼とはまではいかないけれど、信用は出来そうではある。


「とりあえず、二人の身分は保証されたけど、クエストは受けるなって」

「……ああ。問題ない」

「そうだな……クエストは受けないでも、討伐報酬で金はなんとかなる。それより……君はどうやったら強くなると思う?」

「えっと? 精神的な話?」

「いや。こちらの世界が物騒な世界であり、現状、目を付けられている。早急に実力を付ける必要があるだろ。そこで、君の意見を聞きたい」

「…………私の推測では、魔法や技能、アビリティを覚えることで、ステータスが2~4くらい上がると考えてる。で、覚えたアビリティごとに上がるステータスが違う」


 強くなる方法。

 こっちの世界では、レベルを上げればステータスが上がる。でも、ステータスの伸びも実は、魔法や技能の数で変わる。師匠やレオニスさんからも、たくさん覚えた方がいいような話をしてるから間違いない。


「……これが私の成長メモ」

「……なるほど。確かに、覚えた分だけステータスが上がってるようにも見えるな。しかし……」

「ん?」

「なぜ、覚えれば強くなるのがわかっていて、アビリティの取得方法が確立していないんだ? 普通ならもっと解明するだろう?」


 それは私も気になって、考えた。

 レオニスさんの言い方も曖昧で、個人差があると誤魔化していた。この世界、おそらく貴族の力が大きい。なら、規制された情報、貴族の目的がある。



「民間人を強くしたくないんだろうね……おそらく、貴族内では知られている情報が庶民に伝わってないとかだと思う。強くさせたくない……強くしない方がいい理由はなんだと思う?」

「うん? どういうことだ?」

「さっきの話、根幹部分には種族に対する差別がある。で、この国は他の国よりも民間では混じり者が多い。でも、貴族ではきっと……人の方が多いよね? 他の国との交流をするのは貴族なんだから。侮蔑された状態で国交はできない」

「ふむ……」

「つまり、混じり者や他の種族の方がステータスが上がりやすいから、出来るだけアビリティを覚えさせないようにしてるとしたら? アビリティに何があるかを公表しない、取得方法も教えない」

「…………」

「……なるほど」

「私の予想だけどね?」


 混じり者が集まるとはいえ、はっきりと種族が違うと認識できる人と会うことはそんなにない。20人に一人といったところだろう。

 私や兄さんみたいに、一目見て分からない混じり者はそれなりにいる可能性もあるけれど。だからこそ、曖昧に暈しておくのが、政策なんだろう。混じり者を受け入れると言っても、国の根幹は人が担う。そして、管理できるように強くさせない。そんなとこだろう。



「アビリティを取得することを目指すなら。まずは、兄さん達が覚えてる魔法とか技能とかアビリティ書き出して。何があるかわかっていれば、それを取得する方法を考えよう。報告しなくていいってお墨付きもらったから、協力していこう」


 お互いの情報を交換。

 ラズ様への報告義務があると困るから聞かなかったけど、どうやら報告させるつもりはない。それなら、お互いの情報を確認しておいた方が、これからの効率が変わる。


 目指すは、色々なアビリティの取得だ。

 あと、武器系統での技能は、強くなるために有用なはず、どんどん覚えていきたい。槍と弓も……他の人に見つからなければ、使ってもいいだろう。人のいない場所で特訓しよう。


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