第27話 近況報告



 急いで素材採取をして、帰った。

 師匠が留守番をしていて、兄さん達は不在……とは言え、昼前には帰ってきて食事をした。


 午後は全員で師匠から〈クラフト〉の方法を教わった。

 何度か作れば覚えられるはずと言われ、矢羽根と矢じりのレシピを用意してくれていた。調合のレシピも貰ったが、先にこちらを練習しておくように言われたので、今日の調合レシピは1回作った後は、〈クラフト〉する。レベルが上がらなかったのでまだ覚えてないけれど。

 今日の調合レシピは、初級・中にあたる〈蒸留水〉〈研磨剤〉。魔丸薬と能丸薬が中級・下レシピなので、簡単に作れた。師匠曰く、冒険者として持っておくべきなのを先に渡したとのこと。まあ、失敗もするけど、役に立つので助かってます。

 

 クラフトは、調合と違って、レシピを個別で持つ必要はないということで、兄さんとナーガ君も一緒に作った。クラフトは物作り全般なので、便利らしい。

 師匠の話だと、クラフトをある程度覚えておくと、冒険の途中で武器が壊れても、応急措置を取れるから、覚えて損はない。

 ソロで冒険者をするなら、何かあったときの備えを考えるのが大事。


「お師匠さん、冒険者のこと詳しいな」

「薬師に成り立ての頃は、素材を集めるために冒険者まがいのこともしていたね。ひよっこも自分で素材を取りに行くというから、昔のものを引っ張り出してきただけさ」

「俺は弓を使うから矢を自分で作れるのは助かる。ありがとう」

「グラ坊は弓を使うのかい。お下がりでいいなら持ってこようかね」

「おっ、いいのか」


 意外なことに兄さんは弓術も持っているらしい。

 鋼の刀と鉄の弓を装備として選んだとのこと。弓はどうしたのか聞いたら、使わないので、部屋に置きっぱなしにしているとのこと。最初、弓持ってたっけ? 覚えてない。

 ナーガ君は槍があると……うん。まあ、二人とも防御を考えてないもんね。師匠は呆れてたけど、防具を買うお金もないんだよね……。


 師匠は仕方ない奴らだといいながら、色々と教えてくれた。

 冒険者をしていたのは50年も前らしいが、知識は豊富だった。




 そして……師匠が帰り、食事を終えてのんびりしていたところに、厄介者が現れた。


「やあ。元気にしてる?」

「……ラズ様」

「話があるんだけど、いいかな」

「……どうぞ」


 2階のリビングに案内をする。この前みたいなヤバい感じもしないのと、兄さん達のことバレてるんだろうから、顔合わせの意味もある。


「それで、ご用件は?」

「う~ん。まずは、君が匿ってる2人についてかな」

「……私から異邦人と言ったわけじゃないですから、契約は問題ないです。ただ、こちらの世界に来た時に私のことを認識していたから、装備が変わっても異邦人だとばれて、声をかけられただけです」

「なるほどね~。彼らは鑑定を拒否したことは?」

「お金がないと言っていたので、そうだろうと考えましたけど。別に、人道的な保護はいいんですよね?」


 あのまま放置してたら、死んでたかもしれないという主張を盾に引かないことをアピールしておく。実際、出会ってから、1日半という短い時間だけど、すでに情が移ってしまっている。

 現状に手一杯で、どうすればいいかわからなかった不安が、だいぶ解消されたのは二人のおかげだった。泣いて、だいぶすっきりしたのもあるけど……。



「それで、彼らの情報は?」

「わかりません。名前くらいしか聞いてないです」

「確かに知らなければ答えられないか~。嘘をつかない対策としては、重要だね~。協力する気はなくなったのかな?」

「ありますよ。ただ、人道的に見殺しにできなかったので保護しただけです。まあ、ちょっと情が移っているので、庇いたいという気持ちもありますけど。問題行動を起こすことはないように伝えてます。それから、彼らの情報を得る必要があれば、そちらでやると思いました。私に協力する要請来てないので。あと、対外的に兄妹と幼馴染ということにしてますけどね」

「そういうことにしておこうか。異邦人については、色々と問題も起きてるからね。君が責任をもって、二人を見てくれるなら僕も楽だし、問題行動がないなら構わないよ~。これ以上、彼らのステータスを無理やり君から聞き出すことはないよ」


 おや、方針転換でもあったかな?

 絶対に聞き出したいのだと思ってたんだけど。


 兄さんから、俺らも保護してもらえそうだとは聞いていたけど、情報をとるものだと思っていた。彼らの情報をいらないということは、また、何かあったのかな。


「そんな怪訝そうな顔しないでよ~。別に、人格破綻者ではないならいいんだよ。君が首輪を付けている自覚があるならね。無理やり従わせて反感を持たせるより、こちらについていた方がいいと思わせたい。彼らの扱い次第で君の機嫌が取れるなら、こっちは君に準じた扱いをするくらい構わないよ」

「そう、ですか。それで、今日はお一人ですか?」

「うん。ギルド長も忙しい人だからね~。本当の要件は君からの情報で発覚した事実の報告だよ。あ、僕の上司から、『助かった。また、気づいたことがあれば報告して欲しい』だってさ」


 う~ん。

 報告して欲しい……って言うのは、異邦人のことだよね。


 あれ以上情報を持っているわけではないんだけど。変に期待をさせてしまったのなら、まずいかな。



「……はい。上司の方って、偉い方ですよね」

「そうだね~。まだ、だれかまでは教えられない。君の報告は有意義で、だいぶこちらの有利に進んでるから助かったよ。あ、それで異邦人の処遇はほぼ確定したよ~」

「……いい報告になります?」

「ならないんじゃないかな……この町以外でも、色々やらかしがあるみたいだね。もう、野放しは止めて、国が管理することになりそうだね」


 国が管理する。

 冒険者として登録させて自由にやらせるという方針から、変わった。さらに、管理するのが国ということはかなり大事になってる。


 この国に何人いるか知らないけど、それなりの人数になるなら……大事になってる。


 一か所に集めて、教育という名の洗脳をするとか、なんか絶対良い扱いにはならないのがわかる。それが通るほど、酷いやらかしを異邦人がしているのであれば……仕方ない気もするけど。


 私とか、兄さん達みたいにまっとうな人もいると思うのだけど。

 それを見極める時間もないってことかな。それとも、そういう人はすでに囲っているとか? そもそも、この国の政治体制、派閥とか何も知らなかった。情報不足で、考えても仕方ないか。

 

「……まず、確認です。私が言ったことに確証もないのに、上に報告したんですか?」

「うん。それについて、話していいかな?」

「……はい。お願いします」

「この国は王都を中心にいくつかの地域に分かれてる。大貴族とそれに従属するなどの貴族などが各地域を治めている。すべての貴族に対し、国王の名で命令がでて、10か所の王都を含む都市町村で、異邦人が現れたのを確認した。君の言った通り10か所で間違いはなかった。尤も、人数に偏りがあって、村は一人、二人しかいなかったようだけどね。王国内で出現した異邦人はおおよそ800人くらいいるかな」

「もう、確認したんですか?」

「うん。王都では最初から確認されていたから、他の地域への伝達も早かったのが幸いしたね。まあ、3つの村を探すのは大変だったみたいだけどね~」


 伝達が早かっただけじゃない。ここから王都までは1週間かかる距離のはず。往復で情報を届けるには足りていない。

 ということは、なんらかの情報伝達手段がある。思ったよりも、この世界の水準は高いのかな。そして、800人……この町では30人くらいなのを考えると、結構多いか。



「通信機とか、普及してるんですか?」

「通信機か~なるほど。言い得て妙だね。まあ、アーティファクトでそんなものがあると言えばあるよ。数は少ないけどね~。この規模の町では、普通は常備していないよ。僕が冒険者時代にたまたま手に入れたのがあるだけだよ」

「なるほど……」


 つまり……この人か、その上の人は、貴重な道具を使ってでも、王都での情報を流してもらうだけの伝手がある。おそらく、上司という人から情報が来ているとして、その人はかなり国家権力の中枢にいる。

 ……で、私の情報が渡ってる。ヤバくない?

 少なくとも、兄さん達からの情報がすでにいらない状況になっていて、私のことはある程度上の人に知られている。自分が考えている以上に、大貴族の下についている可能性がある。

 う~ん。貴族は横暴なイメージがあるから、関わり合いたくないけど……すでに逃げられない気がする。


「他の国の情報も集めているけど、少なくとも共和国と帝国以外にも、公国には間違いなく異邦人がいるね。聖教国もいるみたいだけど、こっちは情報を手に入れたくても難しいね。なぜ選ぶ国の選択肢が異なるのか、調査はまだ続けていくよ」

「そう、ですか……」


 動きが早い。

 他の国の情報も含め、精査した上で、異邦人を国が管理することを決めた。


 もっと、ぐだぐだした政治をするもんじゃないの? こんな即断即決で動くとか…………あ、でも、逆に権力集中してればできるのかな。王様の命令は絶対とか……絶対王政っていうんだっけ? この国の王は優秀なのか?


 国の頂点が動かないといけない事態になってる……何の目的で、異邦人をこの世界に送り込んだのか…………そこがわからないと、この世界の住人との軋轢は増す気がする……。


「さて、君はこの大陸の成り立ちを知らないだろうから、説明しておくね~。この王国はね、帝国から独立した国で、隣国である獣王国とは比較的に仲がいいけど、帝国とは仲が悪い。理由の根本は種族のせいだよ」

「えっと?」

「この前、君が言ったでしょ? 種族を選べるとしたら選ぶって。だから、調べたよ」

「あ、はい。それが、えっと……関係あるんですか?」

「そうだね。まず、この国は種族が混じった者がそれなりに多い。ギルドに加入するときに種族を調べないからね。むしろ、この国と共和国に集まってくるんだよ、迫害を受ける混じり者は」


 混じり者ね。やっぱり迫害を受けるんだ。

 どっちの血も引いていることがいい方に作用しないってことだね。


 そして、受け入れる国が王国と共和国しかないってことか。数えきれないほどの国があるわけではないようだけど。


「他の国は?」

「公国では、人しか住むことはできない。入国のときに種族を調べ、混じり者の時点で入国が拒否される。奴隷も人しかいない。聖教国は人しか住めないけど、獣人族や混血でも入国くらいはできる。他種族の特徴があれば居心地が悪いから、寄り付かないけどね。奴隷なら、力の強い獣人やドワーフは結構抱えてるね。帝国は奴隷ではない獣人やドワーフが住むこともできるけど、奴隷になっている方が多いかな。エルフは、純血種はほぼ迷いの森に引きこもってる。人と交わると森から追い出されるらしいけど……まあ、ほぼいないよ。ハーフエルフは、どの国でも少数いるかな。奴隷にはできないことになってる、表向きはね」


 つまり、混じり者って、獣人・ドワーフ・エルフ関係なく、人と混じっていれば混じり者か……。国を行き来するにも種族がネックになる可能性がある。

 あと、奴隷か。帝国で混じり者は奴隷になる可能性がある。知らずに選んだ人はどれくらいいるんだろうか。


「王国は?」

「種族による差別を禁止している。だから、どんな種族でも受け入れるし、実際に集まってくる。奴隷は戦争奴隷と犯罪奴隷がほとんどかな。借金奴隷は、共和国に渡してしまうことがほとんどだから、ほぼいない。基本的には犯罪奴隷しかいないと思っていいよ。あ、知らないだろうけど、奴隷の種類によって、首輪の色が違うからね。あと、奴隷になったら戸籍を無くすための手続きがある……逆に、戸籍がない場合、奴隷の首輪さえつけてしまえば、その国の奴隷にされてしまうともいえる」

「えっと……だから、戸籍を用意するって話があったとか?」

「そうだよ。まあ、君の戸籍についてはちょっと揉めてるから、もう少し待って」

「え、あ、はい」


 揉めてるってなんだ?

 戸籍って、この国ではお金払えばいいとかじゃなかった? 一応調べたけど、冒険者でもCランクくらいなら戸籍を持つことが推奨されるって聞いたんだけどな。


 なにか面倒事が起きているってことか。


「戸籍はとりあえず心配ないよ。君と他二人も用意することは確定しているから。で、続きだけど。王国では、〈天命〉を持つ者は、純粋な人。〈天運〉は混じり者だと、改めて調査結果がでてる」

「そんなに簡単に調べられるんですか?」

「そうだね~。まあ、やり方はまだ秘密。で、調べたところ……公国は〈天命〉持ちしかいないね。これはあの国は純粋な人しか、選べない可能性があるとも言える。まあ、君達みたいな他のユニークも持っていないと報告があったのも気になるかな~」


 調査早いな……。すでに、他の国まで調査が入ってる?

 いや、でも実情を漏らすとか、ありえないか。調査するために、確証もないことを話すのは国家間で……特に、公国って仲悪そうなのに。


「……天命はヒューマンの純血種、天運は混じり者であるという可能性はある……他の国での情報も間違いないんですか?」

「そうだね。現王の姉が、公国に嫁いでいてね。そこからの情報で、間違いないみたいだね。王国内と帝国での種族も調べられるものは調べたけど、獣人・エルフ・ドワーフなどの種族は関係なく、交じっていれば天運みたいだね。まあ、仮説だけど有力ってとこだね」

「仮説としては、ありと?」


 つまり……ちょっとでも異種族の血が混じっているなら、共和国か王国……あと、帝国。

3つしか、選択肢がなかった可能性があって……帝国だと、速攻で奴隷落ちの可能性が高くて……多くが、〈天運〉を持っている。逆に、〈天命〉持ちなら、選択肢がさらに追加されてた?



「まあ、まだまだ様子見だけどね……あと、一つ、面白い効果がわかったよ」

「面白い効果?」

「ユニークスキル〈天運〉だけどね。1度だけ、生き返ることができるみたいだね」

「え?」


 生き返る?

 死んだけど、蘇生するってこと?

 どういうこと?


「殺したのに生き返ったらしいよ? もう一度、殺したら死んだらしいけど」

「…………」

「結構酷い事件起こした異邦人がいてね。抵抗してきて、生け捕りは難しかったようだね。別に、何もしていない異邦人を実験で殺したとかではないよ」

「それは〈天運〉のせいですか? 異邦人だからではなく?」

「〈天運〉みたいだよ。というか、〈天運〉を持っていない異邦人は1回で死んでるのを確認したって」

「…………」


 つまり。

 何もなければ、大多数が〈天運〉か〈天命〉をもち、1回は生き返る事が出来る。

 勇者が死んでも生き返る? 的な話はあるけど、そういうことなのか。


 そんなことより……これ、知られたらまずいんじゃ……殺しても1回生き返るとわかってるなら、拷問とか、ね……?

 異邦人の人権、すごく薄くなりそうで、胃が痛くなる……。



「王都で事件を起こした異邦人は5人。4人が1回だけ生き返ったらしい。見ていた王都の民から、奇跡だとか、色々面倒なことになってるみたいだね。まあ、街中で起きたみたいだから、緘口令を敷いても知れ渡ると思うよ。この町でもあるみたいだけど……ギルド長から報告がまだでね」

「私に教えていいんですか?」

「必要な情報を教えておかないと、こちらに提示できる情報も狭まるからね。知りたいことがあれば教えるし、知りたくないことでもこっちが必要なら教えるよ」



 つまり、末路を知っておけ。逆らえば、こうなるって脅し?

 いや、でも……流石に、問題起こしてない人を殺すっていう実験はしてないという言葉を信じるなら、何もしていないのに殺されたりしない。


 それでも……犯罪があれば、その場で殺される世界か。他人事だと思っていた戦争とか銃社会がここでは目の前で繰り広げられている。…………怖いな。

 



 

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