第24話 共犯者



 調合を続けること、数時間。

 結構前に、二人が帰ってきたのは把握しているけど、手が離せないと伝えて、そのまま作業を続けた。そして、レベルが上がったのは深夜だった。


「ようやく……レベルが上がった…………ってもう、2時!? やばい、早く寝ないと……」


 今回は、土魔法LV1、風魔法LV1を新しく覚えた。錬金や調合、付与のレベルも上がっている。覚えたアビリティをメモしつつ、上がったステータスと確認を取る。


 予想通り、土と風魔法は中和剤の作成で魔法を覚えたと思われる。火魔法と付与も上がっているので、今回はステータスがかなり上がっている。


 アビリティが増えるとレベルアップしたときのステータスも上がるが、そのステータスにも偏りがある。

 今回は魔法を覚えたということで、MPとINTが前よりもかなり数値が増えてる。できることなら、STRやDEFを高くしたいところではあるけれど……何かいい方法がないだろうか。


 

 地下室から2階へ上がろうとすると、グラノスさんが1階で本を読んでいた。

 昼間寝すぎて眠れないのかと思ったけど、どうやら、話をするためにこんな時間まで待っていたらしい。


「終わったのかい?」

「うん。待ってたの?」

「ナーガは先に寝ている。……俺は今後のことについて、君と話しておかないといけないと思ってな」


 今後について。

 困っているのはわかるけど、実際には宿と食事の提供くらいしか出来ないので、今後もないと思う。だが、相手はそう思っていないようだ。


「……とりあえず、暮らせる目途が立つまでの協力関係でいいでしょ?」

「ああ。それはもちろん。ただ、女性の家に男が二人泊まっているのは外聞が悪いだろう?」


 外聞が悪いと言われても、この家自体は独り暮らし用ではないので一緒に暮らすことは可能である。

 2階が居住スペースだけど、2LDKある。まあ、3人だと部屋の数は足りないけども……実際、外見から兄妹設定を通せば、いくらでもごまかせると思う。


「…………そんなことないよ、兄さん」

「……そうだな、妹」


 私が、兄と呼んでおけばそれ以上の追及はないという意図で兄さんと呼べば、妹と頷いたのでそれでいいだろう。兄妹としておいた方が、異邦人であることを誤魔化すこともできるので、悪くないと思う。田舎から出てきた兄妹と幼馴染。冒険者ならこの町に来るのも可怪しくないので、その設定を継続でいいだろう。


「外見は似ているので、とりあえずそういうことにしておこう。実際、今後どうなるかわからないから、宿よりはいいと思う。…………ただし、長期間になるなら、家賃の支払いは協力してね」

「……ここ、借家だよな? よく借りれたな」

「うん、たまたまだけどね。調合するには、専用の部屋が必要ってことで、紹介してもらった。今月分については借金してるから、さっさと稼いで返さないとだけどね。来月分の家賃も確保する必要があるしね」


 まあ、調合で稼げるからいいんだけど。

 でも、傷薬が納品出来なくなるといきなり収入が減る。実際、今、異邦人に傷薬を渡したから一時的に不足しているだけなんだよね。今日も納品したから、そろそろ冒険者ギルドとしての在庫は十分になる気がする。30Gが25Gになったとしても、元手を考えるとプラスだけど。

 品質のいい傷薬を作るならもっと高くなるんだけど……明日、師匠に聞いてみよう。


「なあ、この世界の物価はわかるか?」

「う~ん。なんとなくだけど、100円=1Gくらいで考えてるよ。お昼に食べたこれくらいのパン2個で1G、野菜とか束一つで2Gとか3G。芋とか小麦が主食で、調味料は塩しかなくて、結構高かった。胡椒はたまに入荷するみたいだけど、さらに高額で手が出ない。宿屋の1泊料金は、10G~50Gくらいと聞いてるから、宿は安いのかな。物流については、あまり良くないから、この町で手に入らない物は割高かな」

「冒険者の一日の収入は?」

「ピンキリだけど……結局、魔物を倒して、その素材を売るのがメインだから、どんな魔物を狩るかで決まる。とはいえ、ダンジョンに行けない状態で狩れる魔物は、たかが知れてるからね」

「暮らしていけるか?」

「Fランクの間は別々に稼いだ方がいいかもしれない。二人だから収入半分ならいける気もするけど……強い魔物なら、魔物を狩るだけで収入安定するみたいだから……二人なら余裕だと思う」

「君の見立てでか?」


 私の見立てというか……。

 

 二人はおそらく戦力になるユニークスキルもち……。おそらく、3段目の極み系。またはそれに準ずる何かを持ってる気がする。レベル1の状態でホーンラビットをあっさり一撃で倒してたしね。力も強いし、攻撃力が私とは段違いだった。


 正直、こんなに違うのかと、レベルアップした二人をみて思った。

 ステータスとか見なくても、さっくりと魔物を倒す、その切れ味が全然違う。



「うん。二人は強くなると思う。ただ、弱いうちに余計なことして叩かれないよう気を付けてね。レベルアップで気づいたと思うけど、ステータスはすぐに上がる。私は二人よりレベルが高いだけで、素の能力は低いからもう、二人のが強いと思う。……まあ、私は冒険者兼薬師で稼ぐ予定だから強くならなくてもいいんだけど」

「そうか……君は冒険者として頑張る気は無いのか?」


 おそらく、異邦人の中で私の実力は最弱クラス。魔法使いよりのステータスで、剣とか使ってる時点で中途半端。さらに、生産職に伸ばそうとしているから実力差は広がっていく。

 この周辺の魔物とかには負けないが、ダンジョンとかに行けば弱いのがバレる。足手まといとして参加するのは嫌だ。


「うーん。コミュニケーション能力がないし……パーティー組んでもうまくいかない気がして……素材を自分で入手して、物作りするのが楽しいから。一人で自由に生きたいかなって」

「……そうか。まあ、たまにで構わない。今日みたいに一緒に出掛ける日があってもいいだろう?」

「うん? まあ、目的が一致してれば、臨時で一緒に組むのは構わないよ。ただ、二人よりも能力が低いから足手まといになるよ?」


 二人なら無理やり強いところに連れ出すとか無さそうだから、臨時で組めば、採取もできるので助かるけど……私と組みたい理由がわからないな。ヒーラーって言ってないよね?


「そうか! 大丈夫だ、君の護衛をする、少しでも恩を返させてくれ」

「え? あ、うん」


 恩返しだった。

 護衛……まあ、確かに薬師の人が採取するのを護衛する任務とかあるんだから、そういうのもありか。自分でも戦えるつもりだけど……まあ、貴重な素材採取したいときには護衛頼むとか出てくるかもしれないよね。今のとこ予定はないけど、頼りにさせてもらおう。


「それで、今後のことなんだが、冒険者登録はしたが、しばらくは様子見であまり動かない方がいいと考えてる。今日、ギルドでの登録のときも、他の冒険者からの印象が少々な……」

「ああ……。すでに他の異邦人がやらかしてるからかな。まあ……そういうことなら二人の生活費は出すけど……。念のため聞くけど、傷薬の材料になる素材、ダメにした異邦人……君たちではないよね?」

「そんなことがあったのか……。まあ、町の近くにはいないようにしてたが、君に声をかける以外はなにもしてない。近寄ってきた魔物は倒すつもりだったが、なぜか寄ってこなくてな」


 なるほど。

 レベルが上がってなかったのはそういうことか。積極的に狩りにいかないと、魔物が避けるってすごいね。


 そして……。

 様子見というのは、私も賛成する。異邦人への対応がどうするか決まってない状態で、目立つようなことは避けておくべき。私も異邦人同士でも交流は避けたい。


「俺らはステータス拒否したことを知られているから、他の者を警戒しているが、君は、何を警戒しているんだ?」

「……私がギルドと協力することにした理由。それは、対応次第では殺される……異邦人の召喚を無かったことにされると思ったんだよね。確証はないけど、それができる人と取引している。私は、他の異邦人より自分が大事だから、自分のために契約した」


 自分だけが助かればいいと思っていた。

 でも、実際にそうなったらと思うと怖い。


 平和に生きたい。でも、それが許される世界ではない。


 そもそも……異邦人は歓迎されてない。異邦人達の考える魔王の脅威とか、そんな危機的な状況がこの世界にはない。……いや、諸問題はあっても、それを異邦人なんていう突然現れたイレギュラーに任せることは無いようで……戦闘能力が高い異邦人は危険と考えている。

 これが、この町だけ、この国だけなのか……他の国でどうなってるのかも、情報がわからないから大人しくしている方が良い。自分だけなら……。


 

「なあ……契約の内容は?」

「知らない方が良くない?」

「君だけに背負わせるくらいなら、俺も共犯になるさ。他人の気もしないしな」


 いいんだろうか。

 一緒に背負ってくれるのか。


 他の異邦人を見殺しにしようとしていた私を。


 たまたま、目に入った人だけを助け、その他を見捨てた私を。


 巻き込んで、背負ってくれるなら……一人で頑張らなくてもいいのかな。



「教えてくれ。君を同じように、俺も背負う」


 真剣な瞳だった。

 リスクがある。契約を話すなとは言われていないけど……最悪、殺される。

 そうでなくても、首輪が付くのと同じ。


 身分を保証する代わりに、自由が奪われる。


 私は構わなかった。素材採取を目的とするだけで、外へと……魔物を狩り、栄誉を求めるなんて考えていなかったから。この町に縛られても全然かまわなかった。


 二人は……ステータスの提示を拒むくらいに、自由でいたかったはず。

 縛られたくなかったのに、縛られる可能性があるのに。


 それでも、一緒に背負ってくれるのなら……。



「…………契約者に嘘をつかないこと、協力者となること、異邦人と名乗らないこと。あっちは私の身を保証すること」

「ふむ……協力する内容次第だが、悪くはなさそうだな」

「まあ、ね。あっちも異邦人の視点を知りたいから、飼っておくことに意義を持ってると思う。ただ……使えない駒と判断したときにどうなるかはわからないけど」

「だが、君はそうならないと考えたから、契約したんだろう?」

「知ってることを伝えつつ、有用になると必死に頭つかってアピールした結果かな。正直、能力を考えると私である必要はないと思ってる」


 むしろ、強さを求めないからこそ、私を飼うことにした可能性の方が高いか。

 扱いきれない道具は、早めに処分ということなら、強くならなそうな私は適してる。逆に……二人は、強くなるからこそ危険。手を出せないくらい強くなってしまえばいいと思うけど。


 

「……君から見て、異邦人をどうすると思う?」

「すでに犯罪を行い、捕まった異邦人は国境送りになるって聞いた。この国は場所的に中立地帯だけど、戦争は……今、起きてないだけっぽい。ステータスを開示した人達は…………多分、戦争の駒とか……自由にするのはリスクが高いと思うから」


 犯罪を行っていない者も…………冒険者として身を立てさせ、野放しにすることは、脅威だろう。この世界の常識も知らない戦いに特化した異邦人。手に負えなくなったときに、処分できないでは困るから、管理しつつ、数を減らしていくとしたら……この国に戦争が無くても……他の国では戦争の駒にされる。そうなれば、この国でも戦争になったときの戦力として用意する。他の使い道は……。

 

 ない。


 私は、そう思う。

 使い潰して構わない、使い勝手のいい、何も知らない戦力。

 そういう風に思われるような下地を……この町の異邦人は築いてしまった。


 他の町では、わからないけれど……。


「……俺らは?」

「……わからない。私は、ギルドにきちんとお金を払ってる、一般の冒険者扱いにしてくれてる。…………二人も、そうなるかは……わからない。そう、なって欲しいと思ってる。でも、こちらからそれを提案するのは……勧めない。同じ内容になるとは限らないから、こちらから願うのは……縛りが増えるかもしれない。……だから……お金を払った後は別れた方が巻き込まないと思った。情報を持ってないなら、見逃すかもしれないと…………でも、一緒にいてくれるなら……大人しくしていて欲しい。私も……二人を売らないですむようにするから」


 交渉相手は、ラズ様。ギルド長よりも偉い……おそらく、貴族。

 彼が望むモノが何か……。わかっていない状態で、交渉しても、いい結果にはならないと思う。


 何か、切り札があればいいのだけど……。



「君の判断に従おう。だが、君が考えすぎる必要はない。俺らを受け入れてくれるかもしれないだろう?」

「でも……」

「大丈夫だ。しばらく居候させてもらうが、君に迷惑はかけないようにする。必要な事があればなんでも言ってくれ。採取とかは俺らも手伝える。無理だと判断したら、俺らを追い出せ」

「うん……大丈夫、心配しないで、お兄ちゃん」

「…………兄さんで頼む」


 お兄ちゃん呼びは不服らしい。せっかく、可愛く呼んでみたのに、嫌そうに眉間に皺を寄せて、拒否している。

 私も兄さんのほうが呼びやすいので、構わないけど。



「情報共有しておいてもいい?」

「何でも聞いてくれ」

「……他に、登録を拒否した人はいる?」

「俺がこっちにきて、ギルドから登録の話が出る前までで、君以外で町に入った奴はいなかった。まあ、代表して入った奴が戻らないと話していたが。最低、二組か? 君以外で町に入った奴はいるらしい。あとは……1人、集団の話を聞いた後、町にもいかずにその場を離れた男がいる。それくらいだな」

「……う~ん。どこかに行ったってこと?」

「ああ。戻ってこなかった。俺とナーガは、ステータス開示に難色を見せて、そこで知り合って、一緒にいたが……俺ら以外はステータスを開示していた。まあ、一部は技能レベルが高いことを自慢していたしな。ナーガとはお互いにステータスの話はしていないから、何を持ってるかも聞いていない。悪いが聞き出す気もない……必要なら俺のは開示してもいいが」

「言わないで。情報は武器になるけど……諸刃でもあるから。二人のステータスは知らないままにしておきたい。あと……この世界でどうするとか、考えてる?」

「……何の因果か、この世界で生きてるからな。生きるしかないだろ?」


 生きるしかない。

 その通りだった……もう、死にたくない。ああ、また頭痛がする……。

 

「君、大丈夫か? 顔色が悪いぞ」

「うん……現実世界で死んだ、よね……? 覚えてる?」

「多分な。死んだ瞬間は覚えてないが……不治の病だったんでな。こんなふうに立って、歩けるのもびっくりしている」

「えっ……重っ…………私は自分のこと全然思い出せない。思い出そうとしても頭痛がする……」

「頭痛か……俺はそもそも体が健常ではなかったから、多少の頭痛は平気だしな……」


 やっぱり。

 向こうの世界で死んだ人が、なんらかの力を持って、こっちに来たのか。


 取引材料にはならないな。だから、何? ってなる。


 しかも、死んだ理由もバラバラなのかな? 少なくとも私は病気ではないはず。


 異邦人はみんな……この世界に来るときに一度死んでいる。死んで、この世界に転移してきた。だから、前の世界に帰りたいという気持ちがないんじゃないか。


「他の異邦人をどう思う?」

「他の奴らはゲーム感覚が抜けてないよな。俺も技能とか決めるときノリノリでキャラメイクしたんだが。君みたいに、もっと、現実的に暮らしていける技能を覚えるべきだった」


 ゲームの世界。

 少人数なら、世界を救う勇者となると考える気持ちもわかるけど。

 沢山の人が来ているのがわかっていて……ただの厄介者になってるのに気づかないのも変だ。


 兄さんも、この世界に来るまで、この世界を救うためとか考えていたのだろうか。

 


「君。賢いのはいいが、考えすぎは良くないぞ」

「え?」

「過去を振り返ったところで、元の世界には戻れないだろう? この世界で生きるにあたって、君は手に職がある。それは強みだ。冒険者として無理に戦う必要がない、いいじゃないか」

「え? そう、だね?」


 無理に戦う必要がないのは、いい事なのかな。

 自分だけ、安全地帯にいるということを……嫌に思われないのか。他の異邦人は戦争の駒として死んでいくことを傍観する……この人は許せるのだろうか。



「…………君、白い世界で、平常心でいられたか?」

「後から、可怪しいことに気づいた。あと、一部の記憶が飛んでる」

「ああ……やっぱりか。俺もだ。他のやつらの話を聞いたが…………白い世界の記憶がほとんどないやつもいる。いや……ちがうな。前世も白い世界も覚えていないが、この世界をゲームか何かと思っている奴らばかりだった。それと、自分がという主張が強すぎる……違うな、欲に溺れているといえばいいか」

「え?」


 欲に溺れている?

 そんなに可怪しい言動があったんだろうか。


 この世界をゲーム感覚でいるというのも可怪しいけれど……。


「正直、誰の言葉が正しいのか、判断がつかないくらい……言ってることが可怪しいことがあった。この世界の人間もこちらに有利になることしか言わなかったから様子を見たんだが……」

「……なんで私に声をかけたの?」

「賭けだった。食糧が無いから、長くは持たないが、一人じゃないんでな。年長者としては何とかしたかった。それでも、登録した奴らに頼むわけにもいかない。君のことは……似ている奴が来たなと覚えていた」

「まあ……いや、むしろ、1週間もなんとかなった方が驚きだよ」

「君がまともな奴でよかった……命の恩人だ。……でかい借りができたから、俺は君のためになるなら構わないと考えている。だから、俺らの事を助けようと君が無理をする必要はない」


 無理、しているのかな。


 そんなことはない。二人と出会ったのだから、出来る限りをしないと……。

 考えないと……わからないことだらけ……。理解しないと……生き残るために。

 


「……恩はそのうち返してくれればいいよ」

「そのうちでいいのかい?」

「今、返せるものもないでしょ?」

「色々とため込んでる気持ちを受け止めるくらいはできるぞ?」


 グラノスが近寄ってきて、優しく抱きしめられた。そのまま頭を撫でられると、ぽろぽろと涙が出てきた。止めようとしても……止まらない。


「…………なんで……?」

「出会ったばかりの俺が無理しているのがわかるくらい……君、目が死んでることがあるぞ」

「…………正直、きつい……」

「ああ……」


 おかしい……そんなにため込んでいたんだろうか。

 抱きしめられて触れる身体から伝わる体温に安心する。


 涙が出てきて……服についてしまっているのに気付いているだろうに、そのまま胸に抱きしめてくれていた。




 しばらく、そのまま泣いていたが、ようやく涙が止まり、顔を上げる。


「ありがとう………………もうへいき…………結構、いっぱいいっぱいだったみたい……」

「役に立てたなら、なにより」

「……何かしてないと不安で…………だって……私の話次第で、異邦人の対応が変わるって……本気っぽいからさ……でも、やらかした現場見て……ゲームの世界じゃない、破壊した木々が簡単に元に戻るようなこと……あり得ないのに…………なんか……どうするのがいいかわからなくて……」

「……そうか」

「ごめん……」

「無理するな。いいか、君は君だけのことを考えろ。他の奴らのことなんか気にするな」

「……そんなことできない」


 他の人のことなんか……自分だけでも……そう考える。


 でも、不安になる。

 師匠は優しい。レオニスさんも優しい。マリィさんも、大家さんやお隣さんも気にしてくれている。お互いにメリットがあると保護してくれる人もいる。

 でも、そんな価値、自分にあるんだろうか。

 

 私も、好き勝手にやりたい放題している……他の異邦人と何が違うのかな。


「大丈夫だ、考えすぎるな。いいか、まずは自分の安全確保。次に……そうだな。ナーガのことを考えろ。あいつは無口で不器用だから、誤解されやすいが、いい奴だ。それにちょっと幼いしな」

「うん……一生懸命、採取してくれたよね。兄さんはちょっとサボってたでしょ」

「……周りを警戒していただけだ。君、あんなに大量に採取すれば目を付けられるぞ。珍しい草でない分、おかしく思うだろ」

「……うん。気を付けるよ」


 そんなに危ない橋を渡るつもりはなかったけど。

 変な奴だなと認識されるだけで……そもそも、二人以外、近づいてくる人はいなかったはずだけど。


「よし。そうだな。ナーガの次が俺だ。いいか?君の手は二つ。俺とナーガのことで手一杯だ。他の奴らを気にする余裕なんてない」

「……いいのかな」

「ああ。俺もそうしよう。君のことは俺が守る。……君は俺の妹だ。なにがあっても守ろう。約束する」


 いいのかな。

 自分達だけで……でも……確かに、私の手は二つしかない。


 救える人が限られているなら……二人がいいかもしれない。

 二人も……そう考えてくれるなら、嬉しい。



「……ん…………私も、兄さんとナーガ君を守る。ほっとしたら眠くなってきた」

「ああ……一緒に寝るかい?」

「うん……今日だけ、いいかな?」

「ああ。もちろんだ」


 不安そうな顔でもしていたのか……兄さんの方から一緒に寝るかと提案され、頷いた。

そのまま一緒に寝る。兄さんの心音を聴きながら……そのまま目をつむる。


 兄さんが一緒に背負ってくれるなら……。自分と……兄さん達が生き残るために、出来ることをしよう。




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