第23話 武器への付与



 


 町には、西門から入った。

 門番の人には、私の兄と幼馴染という説明をして、家出じゃないけど、勝手に出て行ったから故郷から追いかけてきてしまったことにした。身分証はないけど、これから冒険者登録すると言って誤魔化した。


「なあ、こっちの門の方が遠いだろう?なぜこっちの門にしたんだ?」

「西門は遠方から家族が訪ねてくることが多いから、お金を払って入ることも結構あるみたい。東門は冒険者が使用することが多い分、悪目立ちする可能性もある。まあ、こっちからだと冒険者ギルドは遠いから見られることも少ない……逆に冒険者の恰好の場合は、東門使った方が悪目立ちはしないよ」


 簡単に町の説明をしながら、家に向かう。まあ、人通りが少ないわりに賑やかというか、煩い場所なんだけどね。

 家に入って、そのままお風呂場まで直行し、火魔法と水魔法の複合魔法でお湯を出して、浴槽に張る。ついでにたらいにもお湯を作っておこう。



「お風呂、用意したから入ってくれる?」

「おおっ? 風呂があるのか!?」

「その間に、服とか買ってくるから」

「いや、そこまでして貰う訳にはいかないだろう」

「……その……冒険者って、あまり見た目拘らない人が多いけど、結構汚れてるから、新しい服を買ってから行った方がいいと思う。登録に来ただけなら、防具つけてなくても可怪しくないけど、汚れた服だと変に勘繰られるかもしれないから」

「そうか?」

「あと……ちょっと匂うから」


 匂うと伝えたら、二人が微妙そうな顔をした。

 いや……普通に、仕方ないのはわかっている。だから、言わなかった。


 でも、1週間も同じ服で、外でマントとかもなく野宿だとね……そうなるよね。


 正直、うちのお風呂は広いわけではないけど……素材加工するために、普通のユニットバスよりは広い浴室なので、なんとか二人でも入れるはず。せっかく綺麗にした部屋を汚さないためにも、お風呂で汚れを落として欲しい。


「……すまん」

「私も服を買いに行く予定だったから気にしないで」


 とりあえず、服を2着ずつ買って、家に戻る。日用品については、二人が登録に行くついでに買ってきてもらおう。追加の服が、必要なら自分達のセンスでお願いしたい。

 サイズは多分、入ると思うけど……多分。駄目ならベルトで調整してもらう。


 家に戻り、風呂の前に着替えを置いたことを告げ、上の部屋で二人を待っている。



「いやぁ~さっぱりした。ありがとうな」

「……助かった」

「まあ、乗り掛かった舟だしね……。とりあえず、私はお昼にするけど、ふたりはどうする?」

「ぐぅ…………すまん」

「いいよ。じゃあ、用意するね」


 少年の方がお腹で返事をしたので、少し笑ってしまった。

 さっき食べたとはいえ、動き回っていたので、お腹も減るだろう。


 師匠仕込みの美味しい香草仕込みのお肉と野菜を焼いて、パンと一緒に出す。

 お茶は出してあげたいとこだけど……ちょっと節約。水で我慢してください。



 食事を終えると、二人は眠そうにしている。

 魔物が出るような場所で野宿だと、まともに寝ていないと思われる。


「じゃあ、私はこれから付与をするから、好きに過ごしてて。眠いなら、そっちの部屋は使ってないベッドがあるから」

「いや、大丈夫だ。作業を見させてもらってもいいかい?」

「うん、まあ……構わないけど」


 なぜか、二人とも興味があるようで、作業場についてきた。まあ、自分達の武器だし、気になるのもわかる。



 付与はちょいちょい試しているが、あまりうまく出来ていない。

 お風呂の浴槽に保温効果を付けるとかね……してみたいので、まずはコップに保温効果を付けようとした……。…………が、失敗。

 そして、本とか調べて思いついた。理由は付与の時に使う魔石だと気づいた。

 師匠が錬金用にと用意してくれた魔石と私が魔物から倒して入手した魔石。なんか違うのだ。透明感のある魔石に対し、魔物が落とした魔石が黒ずんでいる。そのせいで上手く付与出来ないのでは……と、考えていたが、試せていなかった。

 同じようにするために、魔石に聖魔法〈浄化〉してみたのが昨日。

 確認してみると、多分、同じようになった気がする。何が違うのか、詳しくはわからないけれど、これで、試してみるしかない。


 ぶっつけ本番で武器への付与になるが、錬金で魔石に魔力を流して形を変えるとかも慣れてきたので、最悪、デザインだけでも変わるようにすればいい。大体のやり方はわかる。 

 レッツ、チャレンジ!



 預かった太刀を作業台に置く。

 まず、太刀の手元、鈨に魔力を通して、魔石をはめる穴を作り、魔石をはめ込む。

 この魔石は、西の丘に行ったときに出てきた、オカオオトカゲという大きなトカゲの魔石。動きが遅いので、攻撃を避けながら倒したけど、結構強かった。

 ……というか、鱗が固くて、攻撃が入らないので、なかなか倒せなかった魔物。攻撃に当たらなければ怖くないとレオニスさんに言われて、頑張って倒したあとに、魔法を使うと早いと教わり、苦々しく思った思い出の魔石。


 他の粒のような魔石に比べると大きくて、3センチくらいある。他のよりも魔石が大きいので効果も高いはず……実は魔石(中)はこれしか持ってないが、使ってしまおう。



 この魔石を通して、刀の刃紋に火魔法を通していく。

 魔石に少しずつ赤い色が広がっていき、最終的には濃く赤い宝石、ガーネットのようなとても綺麗な色に変わった。火魔法が入ったということだろう。

 刀の刃紋は、元は綺麗な直刃だったが、うまく魔力がまっすぐに通らず、ぐねぐねと波線を打つような乱れた刃紋になってしまったけど、まあ、これはこれでいい味を出していると思う。ついでに、樋の部分に細かい粒の魔石を置いて、魔力を通して溝の部分を魔石で埋めて、こちらにも火魔法を付与していく。

 〈鋼の太刀〉改め、〈火の太刀〉といったところかな。刃紋と樋の部分が赤くきらめく。うまくできたと思うけど……。


 魔力を通してみると、刀全体に火が灯る。うまくいったようだ。

 魔力を通していないときも、刃紋の部分に赤い筋が通っているので、差別化は出来たはず。刀の形は変えられないが、ついでに鞘とかの装飾も少し変えて印象を変えておこう。

 


 刀を作り終え、顔をあげると……作業場にあるソファーで二人が仲良く寝ていた。


 だよね……すごく眠そうだったから、そうなると思っていた。寝かせておいて、続きをしよう。



 大剣は魔石をはめる場所がないので、無理やり鈨のようにリングをはめ込んで、魔力を通して定着させてから、くぼみを作って、表と裏に魔石をはめ込む。

 こっちの魔石は、東の森にいたワイルドボアの魔石を二つ。ワイルドボアは美味しい豚肉みたいなお肉だ。落ち着いたら、また狩ってこようと思ってる。魔石は1.5センチくらい。

 ビー玉くらいの二つの魔石から、刀身の真ん中にまっすぐ魔力を通す。赤い筋が刀身に着いたので、そこに粒の魔石を乗せて、さらに魔力を通してから、火魔法を付与する。大剣の方はすごくシンプルなつくりなので、特徴がつけにくい……。

 剣先の部分にも、ひし形に粒魔石を置いて魔力を通す。ついでに一本の線を柄まで伸ばして魔力を通して、火魔法を付与した。


 魔力を通したが、剣先から20センチくらいまでの部分に火が灯り、全体には火が灯らない。伝線はつながっているのに、何故だろう?

 しかも、なんだか、色合いも太刀とはだいぶ変わってしまった。


 とりあえず、これで量産品の大剣とは全然違うものになった。どちらも、魔力を流せば先端部分から火魔法が出てくるけど……デザインも炎をイメージしているが、太刀は優美な光彩を放つ炎だけど、大剣はマグマのように黒と赤が先端だけ宿る形になっている。



 魔道具の魔力の込め方の本を参考に、手直しをしていく。錬金で魔道具作ることはあまりないみたいだけど、アストリッドさんのメモ書きとかも書き込まれていて、分かりやすかった。 

 この本を見ながらでも四苦八苦したため、すでに時間は夜。付与を始めたときは、まだお昼過ぎだった。時間が経つのは早い。


 そして…………作業を終えても寝ていた二人を起こす。

 寝ぼけている二人に武器を渡し、もう夜だから、急いで登録だけでもするように伝える。



「かっこいいな……」

「……ああ」


 二人に渡すと、気に入ったようで、手に取って魅入っている。

 お気に召したのであれば、何より…………私としては、ちょっと思ってたのと違う感じになってしまったので、失敗ではないけど悔いが残ってたりするのだけど……。


 思った通りに付与するのは難しい……ついでに、彼らも火が無くて、食事が出来ないということは無くなる……はず。火を通せば、魔物の肉も美味しいので、次から少しは飢えることもない。

 使っていれば魔法を覚える可能性もある。今後の旅に役立てて欲しい。


「君、やるなぁ」

「……礼をいう」

「うん。思ってたのと違う形になっちゃったけどね……火は出せるから、少しは冒険の役に立つよ」


 MPの成長はかなり良くて、最大168もあるMPが枯渇して、魔丸薬で回復させながらの付与になってしまい、すっごく疲れた。MPはまだ枯渇中。

 でも、付与は面白い。鋼素材は意外と魔力の通りが良かった。


 魔力を通すと、多少は金属の形を変えられる。狙ったデザインになるまでには時間がかかりそう。

 ただ、魔石が……せっかくたくさん集めたのにすっからかん。粒の魔石は二人が狩った魔物の分も〈浄化〉をかけて使い、さらに師匠が錬金用にくれた分も含めて使ってしまった。



「ありがとう。とりあえず、ギルドで登録してくるか。行くぞ、ナーガ」

「おい……」


 名前を呼ばれた少年が、睨んでいるが、もう一人は全く気にしていない。

 私に情報を与えないって話だったのに、名前を言ってしまったからだろう。


「なに、名前くらいはいいだろう。君も協力したのに名前も知らないのは不自然で疑われると思うだろう?」


 呼びかけるのにも困っていたので、私は助かるけど。でも、協力したことがバレたとして、困るのは二人だと思う。

 私の方は、契約解除は双方合意とあるからいきなり切り捨てるのが難しいだろう……。危険なのは二人だと説明したつもりだった。伝わらなかったのだろうか。


「まあ、えっと。ナーガ君。私はクレイン。よろしくね」

「ああ」

「俺はグラノスだ。よろしくな、クレイン」


 グラノスさんが手を差し出してきたので、こちらも出して握手する。次に、ナーガ君とも握手。

 なんだか、ちょっと不思議な気分だ。少し安心する。


「うん。まあ、これでお別れだろうけど……それじゃ」

「おいおい、登録したら戻ってくるぞ。金を返さないといけないし、何より今放置されても俺らは生きていけん」

「…………たのむ」


 お別れと思ったら……登録したら、戻ってくるらしい。

 とりあえず、登録したら放置でも生きていけると思うんだけどな……午前中に、解体方法教えた。剣や太刀を使って火もつけられるようになったよね? お金も二人には500Gずつ渡した。登録料以外に200Gあれば、2,3日は平気なはず。

 水はどうにかするしかないけど……お金も稼げるようになったはずだ。


 ちらりとみると、二人とも目が真剣だった。


「…………2階の左側の寝室使って。私は右側使ってるので、そっちは入らないで欲しい。地下室で調合してるから、お腹へったらキッチンの食材使っていいので、適当にどうぞ。あと、ベッドは……一つしかないけど二人で使ってください」


 二人でベッドを取り合うなり、なんなりして欲しい。地下室にはソファーがあるけど、作業している後ろで、ずっと寝るのはやめて欲しい。


「わかった。じゃあ、行ってくるぜ」


 とりあえず、調合をもう少ししよう。できれば、他の属性の魔法覚えるとこまで行きたい。今日の目標、全然できていないことに今気が付いた。

 でも、MPは付与に使い切ってしまったので、今日、錬金は止めておこう。


「……今日中に調合でレベル上がるといいんだけど」


 百々草を洗い、土を流してから根と葉に分けてすりつぶし……魔丸薬作ろう。失敗も多いけど、予備に沢山作っておかないと、足りなくなりそう。


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