第22話 登録前に事前の備え



 さて、食事をして落ち着いた二人が採取を再開しようとしたので、「ちょっと待って」と座らせて話をする。


採取はべつに急がなくても何とでもなる。そもそも一人でしようと考えていたので、だいぶ予定よりも早い。そんなことより、二人の今後について考えた方がいい。


「採取はとりあえずいいよ。手伝ってくれてありがとう。お腹空いてるのに、無理させてごめんね。ちゃんと約束のお金は払うから。それより……町に入って、どうするの? 冒険者ギルドに登録しないと身分証が手に入らない。身分証がないと毎回お金取られることになるのは知ってる?」

「それなんだが……君、俺たちを雇わないか?」


 真剣な表情で、頭を下げる二人。

 まあ、他に頼れる人がいない状態なら、そうなるのはわかる。ただ、私が雇うとなると……色々問題もある。協力者として……と契約を主張されると、私も彼らの情報売る必要が出てきてしまうわけで、どうするのが最善か分からない。


「やめておいた方がいい」

「ずっととは言わない。俺たちが登録料を払えるようになるまででいい」

「……頼む」


 登録料を払うところまではなんとかしないといけないのはわかる。

 私もここで放りだすのはちょっと……気が引ける。ただ……協力者として、君達を売るかもしれないと伝えないと……フェアじゃない。

 その上で、二人が判断することなら問題はない……よね?


「私は冒険者ギルド長ともう一人、多分お偉いさんだと思われる人と話をして、協力者となる契約をしている。せっかく、冒険者ギルドとの関わりを拒否したのに、情報が渡ってしまう可能性がある」

「なるほど。だが、必ずバレるわけではないんだよな?」


 確かに、バレるわけではない。知らないことは知らないと言えばいい。嘘は言わないってことになってるから、知らないならそれでいい。

 だが…………二人にも同じ契約を持ちかける可能性の有無。


 私だけが契約しているとなった時に、二人に恨まれるのも困る。

 ……でも、二人にも声をかけるのか、私にはわからない。同じ異邦人なのにと主張され、結果、私まで外されても困るから……。どうするのが正解か。


「……私はあっちには嘘をつけない。貴方たちが私を利用するだけで、何も話さなければ情報が洩れることもない」

「…………君、いいのか? 利用されるってことだぞ」

「いや、知らないものは知らないで通す。でも、君らを助けたことは報告することになるよ? こっちの世界の事情がわからないから、出来る限り協力関係が多い方がいいから、二人のために契約を無くすことは選ばない。……君達を放置して死なれても寝覚め悪いから、金銭供給はするよ。でも、あとは自分達でお願いしたい」


 その顔のせいもある……。

 他人の気がしない……くらいには、似てるんだよね。ほっとけない……お金を出すくらいは構わないよ。ただ、契約うんぬんは、私がどうにかできるわけじゃない。


 二人とも少し考えたようだが、他に手段もないと割り切ったらしい。


「……で、君は登録料金を肩代わりする金はあるのか?」

「幸い、調合のアビリティを取っておいたおかげで、普通の冒険者よりは稼ぎやすいから。町への入場料100、ギルド登録料300、二人分で800G……大丈夫だよ。ついでに宿代とか多少の資金も渡すから」

「おお……まじか!」

「……助かる。すまない」


 お金。たまたま持ってるんだよね……買い物する予定だったから。

 登録料金……私が無かったら、どうするつもりだったのか。


 まだまだ、普通の異邦人がこの金額を肩代わりするほど稼げるわけがない。調合で稼いだからこそ言える。Fランクで、パーティー組んでも、金にならないよ!

 だって、一人で討伐できる魔物をパーティーで討伐しても、貰えるお金は一緒だからね! 一人ひとりで分けると少ないよ! 調合はまじでお金稼げると主張したい!


 

「えっと……ギルドで持ってる技能は確認されるけど……戦える技能が、もし、レアなら隠した方がいいかもしれない。まあ、上層部にはユニークスキルがばれてるっぽいから、あまり意味はないかもしれないけど」

「隠す方法はあるのか?」

「登録の時に、何か、技能や魔法があるかを確認される。それが戦える技で、真実であればお金を払って登録してもらえる。何もないと冒険者登録できない。私は体術レベル1のスマッシュ、剣術1のスラッシュで大丈夫だった。嘘がばれるアーティファクトがあるから、他にないかと聞かれるとまずいけど……」


 大事なのはユニークスキル。でも、他の技能も普通を装ってた方がいいので、情報として伝えておく。

 剣はオーソドックスなので、剣術もってるだけでいいと思うんだ。意外に二人とも持ってなかった。


 うん? 剣持ってるのに?

 いや、刀? 剣ではないからってことかな。


 もう一人の子は大剣だから?

 

 まあ、剣術1は持っておいた方がいいだろう。多分。登録するならそれだけ提示したらいいと思う。


「君、技能の覚え方はわかるかい?」

「とりあえず、素振りとか、魔物と100回くらい剣で戦うとか? 熟練度というのがあって、それが満たされていればレベルアップの時に覚えるらしい」

「よし。なあ、君の剣貸してくれないか。剣術を覚えたい」

「いいけど……武器なしだと困るから遠くにいかないでね」

「おう。すまんな」


 まあ、ここらへんの魔物は強くないので、拳でもいけるけど。ついでに、盾も渡してあげよう。二人がレベル上げてる間に、私は採取して、時間を潰そう。

 

「そういえば……二人とも、防具なし?」

「いや~。鋼の武器と鉄の武器を選んだら、0Gになった」

「…………ああ」


 まあ、鎧とか何もつけてない時点でそうかな~とは思ったけど。なんていうか……武器二つもいるんだろうか? その感覚がわからない。

 持ってないなら、その方がバレるリスクは減るけど……魔物と戦ってケガするとか、怖くないんだろうか?


「そっか。武器二つという発想はなかった…………防具で異世界から来た事ばれる可能性があるから、防具なしは逆にいいのかもしれない、けど……」

「武器で異邦人とばれるのか?」

「武器も防具も量産型だからね。同じ武器もってれば、多分バレるよ」

「だから、君、防具が変わってるのか?」

「まあ、そうなるね……そこまでしたから、異邦人だとばれないと思ってたんだけど」

「ああ……俺は印象的だったが、他の奴からは覚えられてないと思うぞ」


 印象的っていうのは、外見だよね。

 まあ、私も一目見れば覚えると思う。似てる。でも、あっちのが美人……なんで? いや、目の保養だけどね。

 

 

「異邦人ってバレない方がいいんだよな?」

「多分……現状、不利に働くことはあっても、有利にはならないと思う」

「いっそ、武器を捨てるか?」

「体術があるならそれもあり……いや、でも……武器はあった方がいいよね」


 う~ん……。そもそも、武器を持ってないのに冒険者ってなれるのか?

 ダメだった時に困るからな…………それに、ちょっと試したいことがある。

 調合と錬金は出来るようになったが、付与は使ったことがない。使い方については、本があったのを見ただけだが、多分、やれないことは無さそう。


「…………壊れてもいいなら、試してみたいことがあるけど?」

「へぇ? ……構わないぜ? どうせ使えない武器なんだろ? 何をするんだ?」


 私の提案に、にやりと楽しそうに笑う。

 う~ん。こういう顔って、私は出来ないんだよね。男っぽくてカッコいい。


 まあ、男だからとかじゃなく、性格の問題だと思うけど。自信ありげに、にやりと笑っている姿がかっこいい。


「私は付与も使える。武器に使ったことはないけど……魔力通して、多少の成形とかもできるから」

「なるほど。つまり、付与で武器を変えちまえばいいと! 面白いな!」

「どうする? 成功する保証はできないけど」

「俺は構わない。君はどうする?」

「……頼む」


 武器に付与はしたことがないけど……ちょっと試してみたかった。

 師匠の話だと、付与はレシピとかはないみたいだし、感覚でやることになる。それはそれで楽しそう。

 二人とも、使えないよりはいいだろうとあっさりと承諾してくれたので、試してみよう。この世界だと、色々とやってみたいことは多い。


「わかった。家に戻ったらやってみる。とりあえず、採取してるから技能を覚えてきたら? 弱い魔物でも、倒せばすぐにレベルが上がるから素振りしてからのが良いかもしれない」

「ああ。すまんな」

「……わかった」


 二人が近くでモンスターを狩っている傍ら、採取をしながら倒した魔物を回収しておく。

 ついでに、解体のことも教えておいた方がいいかな。


「レベル、上がった?」

「……ああ。だが、覚えなかった」

「じゃあ、もう少し素振りとかしてみてから、もう一度レベル上げたら? あと、魔物の魔石の取り方教えとくね。本当は、こういうナイフがあった方がいいらしいけど……できれば、解体を覚えたほうがいいよ。見本見せるね?」


 まあ、私も覚えたてだけど。

 でも、前よりも魔石は綺麗に取り出せるようになっている。アビリティで〈解体〉を覚えたからだろう。


 ささっと、皮を剥いで、肉と分けたあとに、魔石を取り出す。


「こんな感じ。魔石を取り出すと魔物はそのうち消える。B級以上はゾンビとかにならないように死体放置は禁止らしいよ」

「……助かる」

「あ、自分でやらなくてもギルドに持っていけば、有料で解体してくれるよ」

「…………あんたはどうしてるんだ?」

「私は出来る限り自分でやれるように練習中。とはいえ、弱い魔物だからだよ。希少な魔物ならギルドにやってもらった方が素材の価値を損ねない。こうやって、魔石取り出して、動物とかなら皮をはいで、肉は食べることも出来るけど、売ることもできるよ」

「……わかった」

「はい、じゃあ、やってみて」


 ナイフを渡して、取ってきた魔物を解体する……が、ちょっとどころでなく、不器用?

 一つ一つ丁寧に教えていくが、なかなか大変そう。


「待たせたな」

「覚えられた?」

「ああ。ほら、交代だ」

「……行ってくる」


 大剣だと覚えない可能性があるのか、二人で武器を交換している。

 まあ、私の剣だけど……太刀と大剣と剣……大まかにいえば、全部、剣だと思うけど。


「俺にも教えてくれるかい?」

「うん。でも、冒険者ギルドでも教えてもらえるからね。私よりもプロに教わった方が間違いないよ」


 解体を教えていくが、こっちは器用だった。1回見せれば、そのまま出来るようになっている。ヤコッコを渡すと私よりも綺麗に捌けてる。


 何回か練習したあと、スライムとかは、近くに魔石が転がっているはずと伝えたら、取りにいった。

 放置してたらもったいない……というか、極小粒でも魔石は買い取ってもらえると伝えてなかった。スライムの核も納品すれば少しはお金になる……冒険者ならだけど。

 小さな魔石については買い取らせてもらおう。ギルドの値段よりもちょっと色を付ければいいよね。



 二人がレベル3になり、技能を覚えたところで、とりあえず家に戻ることにした。


「ああ。とりあえず、君の家にいこう」

「うん。じゃあ、残りの物はカバンに入れるね」


 二人でそれなりの数を倒したので、鞄に入る分だけ入れて、残りは魔石を取り出してその場に置いておく。価値の低い魔物ばかりだから、欲しがる人もいないので問題ないだろう。



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