第21話 新たなる出会い



 昨日の夜は、錬金と調合を繰り返していたら、夜遅くなってしまい……寝坊した。気づいたら9時を過ぎていたので、慌てて身支度を整える。


 今日は1日自由時間。近場で百々草を取ってきて、調合・錬金をする。

 火魔法以外の魔法も覚えておきたい。今日は最低でも1つはLV上げ、他の魔法を覚えるかを試す。すでに中和剤を各100個ずつは作ったので、レベルが上がれば覚える可能性がある。


 レベルが上がった後は、町で少し買い物をしてみるのもいい。

 ギルドでもらった手紙には納品リストとは別に、教会への紹介状も入っていた。理由は書いてないけど、顔を出した方がいいということだろう。こっちも行けるようなら、今日行こう。



「マリィさん、おはようございます」

「はい、おはようございます」

「あの、今日も傷薬の納品と、ギルドに預けてるお金、一度持ち帰りたいんですけど」

「はい。それは大丈夫ですけど、何かありました?」

「いえ。とりあえず、借りた家の掃除も出来たので、家具とか服を買って、住みやすくしようかなと考えてまして」

「なるほど。では、全額おろしますか?」

「はい。お願いします」


 出来立て傷薬を納品して、ついでにお金を用意。

 洋服を……冒険者用の動きやすい服と、作業用の匂いがついてもいい服と、日常用の服。替えも含めて買いに行きたい。出来れば、食器とか、家具とかも欲しい。

 よし、さっさとレベルを上げて、今日は買い物だ。



 街道から外れて、百々草を採取しながら、魔物が出てきたら倒していく。

 魔物は街道から離れるとそれなりに出てくる。主にスライムが多い。レベルが上がってきたせいか、近場の魔物だと手応えがないので、調合でレベル上げする方が効率が良くなってきた。


 錬金には小さな魔石をたくさん使うから、数が多くても困らない……というか、中和剤をたくさん作って、魔法を覚えたいから、どんどん出てきて欲しい。



「なあ、君。手を止めさせて悪いんだが、少しいいだろうか」

「えっと…なんでしょう」


 あれ?

 話しかけてきた人の顔を見て、首を傾げる。


 癖が強そうで、でも柔らかそうな白い髪に、大きいぱっちりした目にはちみつ色の瞳。男の人だけど、髪色とか髪質、瞳の色とか…………顔の作りも、なんか、すごく私に似てる?


 あ、いや……うん。すごくカッコいい。いや、男なのに私よりもまつ毛ばさばさで超美人だけども!

 自分にも似てるけど、そんなことよりカッコいい、美人、綺麗、優美! ちょっとびっくりしました。声も落ち着いた低めの声でもっと聴いていたい。


 一緒にいる中学生くらいの子もかっこいいけど。こっちはちょっと嫌そうにしてる。

 短髪でさらっとした赤髪の子……面倒だというのが顔に出てるけど、嫌な感じがしないのはイケメンだからか。


 だが……。

 二人ともちょっと草臥れた感じ……というか、元気が無い……げっそりしているようにも見える。


「昨日も同じような草を採取していたが、理由を聞いてもいいか?」

「……使うからです」


 昨日……。

 午前中に短時間だけど採取していた。だが…………採取してたけど、場所は全然違う。

 同じ場所で採取して目を付けられないように、近場でも方角を変えるようにしている。採取してるのは同じ草だけど……割とどこにでも生えるので、場所変えて採取してるのに……なんで知ってるんだろう。


「ああ、すまない。責めるつもりで声をかけたわけじゃないんだ。ただ、気になってな」

「……調合に使います」

「なるほどな。それにしては君以外に採取してるのを見かけないが」


 この町では、師匠の特製レシピでないと作れないので、誰も欲しがらない。師匠と私で独占……しなくても、沢山ある! 他の人にはただの雑草だから、当然だ。


 他の人に見られないように採取してるつもりだった。この人は、多分、私のことを認識した上で、声をかけてきている。

 目的がわからないので、警戒をしつつ、会話を続ける。


「何が知りたいんですか?」

「いや……すまないな。そうだな、色々聞きたいことはあるんだが……こいつを採取していけばお金になるかい?」

「なりません。日持ちしないから一般的には使わない素材で、買取もしてないと思います」


 うん。要らない草を傷薬とか回復薬に使えるようにした師匠ってすごいよね。もっとも、昔は作れる人が結構いたらしいが……。素材を毎日取りに行くのが手間だったのかな。



 調合のレシピは一子相伝。上級以上になるとほぼ秘匿される。ギルドに売ってるのは初級・中級で、スタンダードなつくり方のみ。それでもお値段はすごく高い。他にはない、オリジナルレシピなんて天文学的な金額になる模様。

 素材代も馬鹿にならないので、上手くやらないと大変らしい。


 師匠、知り合ったばかりの私を弟子にしてくれて、本当にありがとうございます。


「ふむ……困ったな。君、同郷のよしみで俺たちに金の稼ぎ方を教えてくれないか?」

「関わりたくない……」


 同郷……つまり、考えないようにしていたけど、やっぱり異邦人か。

 私は自分から異邦人って名乗ってはいけない。肯定しないように関わりを拒否しようとするが、腕を捕まれた。逃げようとしたのがわかったのか……逃げることを許してくれないらしい。


「……すまん」

「悪いとは思っている。だが、俺たちも生きていかないといけないんでな。頼む」


 もう一人の子も頭を下げて、謝罪してくる。

 二人とも、真剣な表情。ここで逃がすわけにはいかないってことか。


 お金。

 つまり……ギルドの提案を断って、ステータスを開示しなかった人がいると言っていた。


 異邦人であるなら……。

 お互いに、頼れる人がいない状況……。


 正直、私は運が良かったと思う。レオニスさんが、めちゃくちゃ目をかけてくれているから、生きていく目途が立ったわけで……。何もない状態であれば、詰んでいた……そして、現在詰んでいるのが目の前の二人。


 ……こちらの世界に来て、1週間は経っている。どうやって暮らしてきたのか?

 野宿はいいとして、食事とか……なにも食べてないから草臥れた感じになっている状態かもしれない。


 気付いた事実に目を丸くして、二人を観察する。

 ……どう考えても、このままじゃ生きていけるわけないのか。


「……確認していい? あなたたち、異邦人で間違いない?」

「まあ、この世界の人間からそう呼ばれたな」

「冒険者ギルドからの登録代金と引き換えのステータス開示に従わなかった?」

「ああ。君、良く分かったな」


 わかるよ!

 登録してれば、お金がない、稼ぎ方がわからないってことにはならないからね。まあ、稼ぎ方を間違って迷惑な奴もいるようだけど。


「なんで、私に声をかけたの?」

「……こいつがあんたを覚えていた」


 さっきから口数の少なめの少年は私のことは知らなかったらしい。

 つまり、私に似た風貌のイケメンが私を知っていた。


「すまんな。俺は君より早くこちらに来ていたからな。見た目がそっくりだなと……君がこの世界に来て、すぐに町に入ったのは覚えていたんだ。そして、昨日も町をでて、草を採取しているところを見かけたんでな。今日も来ないかと見張っていた」


 えっと……昨日から目をつけられていたのか……。

 全然気が付かなかった。もう少し周囲に気を使っていた方がいいかもしれない。


 私ならと思った理由はわからないけど……このまま放置するのは、良心が痛む。


「………………わかった。じゃあ、採取を手伝ってくれる? お礼に100Gずつ払う。そのお金で、とりあえず町には入れるようになる……で、どうかな?」

「わかった。その草を集めればいいのかい?」

「うん。根っこごと、土は落とさないで。土を落とすとすぐに悪くなって使えなくなるから。魔法バッグが1メートル四方の範囲で入るから、そのくらいの量を集めて欲しい」

「……わかった」

「ああ、任せてくれ」

 

 言われたとおりに黙々と草を採取してくれている。様子を見ながら、これからについて考える。

 ついでに他の香草とかもあればとお願いしておいたが……なんか、すごく手際よく見つけているような? 百々草は多いけど、香草は見つけにくいはずなんだけどな。


「さて……どうしよう……」


 ギルド長とラズ様という偉い人の契約は……まあ、今のところは問題ないはず。

 手を差し伸べても……王国への悪意はないし、異邦人と名乗ってはいない。あっちに最初からばれていただけで、私のせいではない。


「あ、食事!」


 とりあえず、二人が採取をしてくれている間に、火を起こす。先ほど倒したヤコッコを解体し、肉を串に刺して焼いていく。焼き鳥ってこんな感じでいいのかな?

 お腹すいているだろうから、食べれればいいだろう。

 塩は好みで振ってもらおう……胡椒とか醤油とか欲しいけど、この町では売っていなかったので、仕方ない。


 野菜は持ち歩いてないから、諦めてもらおう。

 今日は軽く採取したら、買い物するつもりだったからお弁当持ってこなかった。果物は……まあ、おやつ用に持ってきていたので、サービスでつけよう。


 焼いていたら、匂いに気が付いて、そっくりなお兄さんが寄ってきた。肉に目が釘付けになっている。よっぽどお腹がすいているらしい。


「えっと……肉、焼いてるけど…………食べるよね?」

「ああ。いいのかい?」

「うん。飲み物は水筒のコップ一つしかないから、二人で順番に使って。……足りないようなら、もう少し肉を焼くけど」

「頼む!」

「わかった」


 2人で二羽分の肉を食べ、食欲は落ち着いたらしい。

 水も水筒では足りないので、追加を魔法で出した。喉もカラカラだったようだ……野宿生活が長ければそうなるだろう。


「落ち着いた?」

「ああ。助かった。いや、魔物の肉を食っていいのか判断付かなくてな」

「生はやめたほうがいいけど……まあ、種類によるけど、美味しいみたいだよ」

「……助かった、ありがとう」


 少年の方は深くお辞儀をしてくる。よっぽど、辛かったようだ。

 

 採取を頼む前に、食事にするべきだった。ごめんね、二人とも。謝罪にデザートの果物を二人にあげるから許してください。

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