第20話 錬金してみよう



 午後まで少し時間があるので、百々草の採取ついでにスライム退治をする。

 

 魔石については、納品しても額が少ない。しかし、品質が悪くなるものでもない上、錬金素材らしいのでギルドには納品せずに貯めている。スライムとかはたくさん出てくるので魔石集めがたぎる。一撃でザシュっと倒せるのは気分がいい。弱い者イジメかもしれないけど、ちょっとしたストレス発散になる。

 魔石以外の素材は、お肉だけ取っておく。町近くの魔物素材はあまりお金にならない。必要になれば取りにくるので、ぽいぽいっとその場に放置しておく。


「ふぅ…………これ、使いやすいかも」


 新しいグローブは、意外と使える。握りこんでパンチをしやすい。試しに殴って倒すということをしてみたけど、簡単に倒せた。前に使ってた小手よりも、しっかりと体にフィットして重心がズレないので、クリティカルも出しやすい気がする。

 何度か試した後、剣も振るってみると、こちらもとても使いやすい。前の剣よりも身幅は細く、長さは若干長い。重さはちょっと軽くなり、攻撃範囲は広がった感じ。武器の攻撃力もちょっと上がり、こっちの方が断然使いやすい。


 お金については、請求がなかった。交換でいいらしい。いいんだろうか? 絶対に、これは値段が上がってるはず。割といいものを用意してくれたのがわかるだけに、これからの相手の要求が怖くもある。


 

 午前は採取と戦闘で時間を潰してから、食事をして師匠の家に向かった。


「こんにちは~師匠」

「ひよっこ。あんた、随分と百々草を持ってきたねぇ……」

「あ、はい。午前中に取ってきました。ギルドで傷薬が不足しているので、ちょっと上乗せして買取してもらえるんです。それと、今後セージの葉が不足する可能性があるので使わずに貯めておいた方がいいので、代替品として師匠も使うかなと……」


 師匠には、昨日の〈東の森〉での採取物をそのまま渡す。私はまだ使えるレシピを教わっていないので使わない。まあ、今後使うかもしれないけど、それはそのときに採取しに行けばいいと思う。


「ひひひっ……そうかい、セージの葉がねぇ。確かなのかい?」

「昨日、東の森に行ったんですけど、セージの木が酷いことになってました。若い葉も含めて、ほぼ葉が落ちてしまったので、次に葉が生えるまではかなり厳しいと思います」


 簡単にではあるが、冒険者ギルドでの報告内容をそのまま伝える。ついでに、調査の関係でしばらくは立ち入り禁止になってしまったことも伝えておく。師匠から採取を頼まれても行けない可能性があるので、事前にきちんと報告。



「薬師ギルドでセージの葉を集める場合も東の森を使うからねぇ。冒険者ギルドは他の場所からも採取できるが、今までの通りにはならないかもしれないねぇ」

「何かあるんですか?」

「冒険者ギルドと薬師ギルドは仲が良くないんだよ。まあ、薬師ギルドが勿体ぶって冒険者ギルドにあまり薬を卸さないのが悪いんだが。失敗の可能性があるからと、必要素材を倍以上納めさせて、薬を渡す時には居丈高になる……たいしたことはしてないんだがね」


 仲が良くないか……それが、ギルド長が私を確保した理由の一つかな。何かあった時に対応できるお抱え薬師がいれば、リスク回避できる。しかし……仲悪いって、そんなことでいいのか。


「えっと……渡した素材でできた分を渡すわけではないってことですか?」

「倍の材料を要求して、半分は自分達で使うために確保しちまうんだよ。まあ、今の薬師ギルド長の方針なんぞ、私には関係ないがね。ひよっこ……今日の分のレシピは百々草でも作れるが少し難しいレシピだ。難しいがその分経験値や熟練度も上がるから、成功しなくても根気よく作ってみるといい」

「はい…………その、今日のも、前の傷薬も、他の方は百々草で作れないんですか?」

「古くからのレシピを受け継いでいる薬師どもなら作れるさね。ただ、この町じゃ他にはいないだろうね。それから、しばらくは冒険者ギルドには採取した物を卸すんじゃないよ? まだ、品質や状態がわからないんだから」


 やはり、百々草を材料とは考えられていない。そんな気はしていたけど。

 マリィさんの話では、傷薬の素材がセージの葉一択だった。あの不良品のセージの葉で作るくらいなら、百々草で作った方が早いのに、作れるかを聞かれたので、疑問に思っていたがそういうことだった。


「昨日、依頼でセージの葉は卸しちゃいましたけど」

「調査した対象物の納品なら仕方ないさね。ただ、採取した品についてはおいおい値段を覚えてからにしときな。今回みたいなことがあると価格が変動して損するからねぇ。あと、採取に行くときも、どこに採取しに行くと言わず、魔物討伐に行くことにするんだね」

「わかりました」

「じゃあ、作り方教えるからよく見ておきな」


 〈能丸薬〉、〈魔丸薬〉のレシピを貰った。

 魔丸薬は、MPの小回復と回復を早める継続回復の効果があるらしい。能丸薬はSPで同じ仕様。薬は、ポーションと違って飲みすぎても、中毒などにはならないけど、回復効果が重複しないので、飲んでからすぐにもう一度飲んでもほぼ意味がない。30分から2時間は時間を置くことになる。

 とりあえず、これを飲んで、作業すれば前よりSP不足が少しは改善されて、効率がよくなりそう! ありがとうございます。


 ポーションは錬金で、薬は調合で作る。回復量はポーションの方が大きい。さらに回復魔法もあるから薬はあんまり使用されないらしい。ただ、切り傷とかには塗り込んでおけば、傷跡の治りはよくなるので、全く使わないわけではない。あと、病気には、ポーションや回復魔法はほぼ効かない……一時的に良くなるように見えるだけ。病気は、薬で良くなる。

 薬で稼ぎたいなら、病気に対する薬を作った方がお金になるらしい。


「……………………あ、魔丸薬作ったらLV上がりました。観察がLv3、調合もLv3になりました」

「おや、随分早いね。あんたは目の付け所がいいのかもしれんねぇ。その調子で素材は適当に見るんじゃなく、しっかり見る癖をつけときな。傷薬よりも難しいレシピだからその調子で材料があるなら失敗してもいいから作れるだけ作っちまいな。調合Lv4になれば、大量生産が出来るようになるからね。それから傷薬で間に合うだろう」

「わかりました」


 師匠が見本で作ったあとは、ひたすら作ってみる。

 作業でダメなところがあれば、注意してくれるので、まずはやってみる。素材を潰しすぎとか、煮立たせすぎとか、結構、難しい部分もあるけど、師匠いわく慣れだという。量をこなしていれば、作り方も理解してくるというので、時間が許す限り作っていこう。


「SPが切れたら言いな。錬金を教えるよ」

「え? 師匠が錬金できるんですか?」

「わたしゃほとんど出来ないよ。若い頃少しだけやって初級レシピをいくつか出来るくらいだね。もうほとんど覚えちゃいないが、ひよっこ用に中和剤を4種類買ってきたからね。それを試すんだよ……本当は錬金窯があるほうがいいんだけどね」

「4種類? そんなにですか?」

「中和剤は、赤・青・黄・緑の4種類があるさね。それぞれ、火・水・土・風の属性だからね。まずは中和剤の作成を覚えちまいな。調合でも素材の成分によっては、中和して使うからね。今後のためにも作れるようになると便利さね」

「なるほど……えっと、家に錬金窯ありますけど……」

「そうかい。じゃあ、あんたの家でやろうかねぇ。それと、錬金のレシピについては、これ以上は私でも手に入らないと思っておきな。初級はできるから、弟子にもそこまでなら許可はでただけさ。今後必要な場合はあんたが自分で買う必要がある……推薦状くらいは書いてやるがね」


 いや、まさか師匠が買ってくれると思わなかったので、それだけでも助かるけど……まずは初歩の中和剤だけでも、便利! 魔物素材は、その魔物によって属性をもってる。属性を生かして、調合することもあるけど、逆に中和させて使うこともあるらしい。

 まだ、難しい調合はできないから、使わないけど……いずれ、使うという師匠。練習するのは、大事だよね。


 SPが切れるまで調合をする……しかし、新しいレシピは難しい。

 傷薬に比べて、難易度が格段に上がっている。百々草以外の素材自体はそんなに入手が難しい物ではないので、たくさん作って、失敗作という名のごみが増えてしまったけど。

 傷薬とか、他の素材にリサイクルする方法があるらしいので、大量のごみにならずにすんでよかった。

 リサイクルの仕方については、メモで渡され、後でやってみることになったが……師匠、こうなるとわかってたっぽいな。弟子がいなかったという割には準備万端だ。

 



「本当にいいんですか?」

「あんたの家に作業場があるなら、そっちで使えるようにした方がいいさ。気にせず使いな。遠慮はいらないよ」


 調合の器具一式、師匠からいただいてしまった。

 師匠の家にある奴をそのまま運ぶと聞いて戸惑ったが、そもそも私用のものらしい。師匠の使うのはちゃんとあるとのこと。作業場がある部屋を借りてると思ってなかったから、部屋があると言ったら、「早くいいな」と怒られてしまった。


 家の掃除がなんとか終わっててよかった。埃だらけのとこに師匠を案内できない。


 私のステータスはMPが上がりやすいから、掃除は最初よりは楽になってた。いや、浄化って便利。トイレと風呂掃除には毎日使っている。

 


「あんた……運がいいさね」

「え? なんでですか?」

「この家を借りたのなら……錬金術も一流になるかもしれんよ」

「え? 錬金術も?」


 師匠に家を案内したら、「ここを借りてるとはねぇ」と驚かれた。どうやら、師匠が知っている家だったらしい。しかし、一流……錬金術もってどういうこと?


 大家さん……アストリッドさんが師匠のファンであることは、何となく認識していたけど、師匠の方もアストリッドさんのこと知ってるのかな。大家さんが師匠のファンだったので、家を無事に借りれましたと伝えたけど、気にしてなかったが……名前をちゃんと言わなかったのがダメだったかもしれない。



「ひよっこ。調合は当然、一流になってもらうよ。このパメラに師事したんだ、それくらいは当然だよ」

「あ、はい! 頑張ります……けど。この家、なんかあるんですか?」

「さて、どうだろうね……まあ、この家にある本は貴重だからきちんと読んでおくといいよ。錬金だけでなく、調合の勉強にもなるからね。他にも素材の知識やら、知っておいた方がいい資料が多いはずさ」

「はい、そうします」


 何冊か、師匠は本を取り出している。私のためでは無さそうだから、師匠でも知らない貴重な本か……。この家、だいぶ埃を被っていて、手入れされてなかったけど…………。

 大家さんも結構、謎だ。どういう関係なんだろうか。


 地下室にて、錬金窯などの設備を確認したあと、レシピを渡されたので、作ってみる。赤の中和剤をレシピ通り作ってみる。品質も普通だ。


「やっぱり……あんたは器用さね。錬金も問題がなさそうだね」


 良かった。調合は最初はちょっと失敗したんだけど。錬金は最初から普通の品質で作れている。師匠からもOKを貰えた。師匠も錬金で初級くらいは作れるので、作業は見てくれた。

 錬金は錬金窯に材料いれて、MPを流してひたすら混ぜる。調合みたいに素材を潰したり、煮立たせるとかないのでそんなに難しくなかった。混ぜるのが結構大変で腕が疲れるけど。


「じゃあ、続けますね」

「わたしゃ、あっちで本を読んでるから何かあれば呼ぶんだよ」

「はい。わかりました」


 粒の魔石を師匠が材料として大量に持ってきてくれたので、MPが無くなるまでたくさん作っていくと途中でレベルが上がった。


 LV9に上がり、火魔法を覚えた。

 はて……?


 火魔法……赤の中和剤の材料に、火の要素があるせいか。

 試しに、火〈ファイア〉と唱えてみると、指先から小さな火が出た。指先は熱くない……火傷もしない感じかな。種火にちょうどよさそうなので、あとで試してみよう。



「……魔法を覚えたのは赤の中和剤を作ってたからかな? …………出来た個数は……100個以上作ってるね……他の中和剤も作ったら魔法覚えるのかな」

「どうしたんだい?」


 作業を止めて考え込んでいると、師匠がこちらに気づいて近くまでやってきた。

 心配そうにこちらを見ているので、大丈夫ですと笑って、何があったのかを伝える。


「えっと、今、レベルが上がったら、火魔法覚えたので……」

「なるほど……あり得ないことじゃないねぇ……まあ、あんたは魔法の素養が高いようだし、赤の中和剤は火の要素を使っているから、火の要素の扱いから魔法を覚えたんだろう。他の中和剤も試してみるといい」

「はい」


 夕方まで、MPが切れたら調合、SPが切れたら錬金を繰り返していた。

 錬金は失敗しないけど、調合は結構失敗率が高い。なにか見落としでもあるのかと、師匠に聞いてみると初級と中級の壁があると教えてもらった。

 本来はまだ初級を作れるくらいの技能レベルらしい。魔丸薬や能丸薬は、SPやMP回復を早めるので、使用頻度が高い。早く作れるようになった方がいいという判断で、レシピを渡しているから失敗して当たり前とのこと。素材は入手しやすい物が多いから、練習にもなるということだった。

 ただし、ポーションのように中毒などにはならないが、頼りすぎるのもダメだから、1日3粒までと制限されてしまったけど……ありがたく使わせてもらおう。



「さて、錬金も問題がないさね。調合は……まあ、中級のレシピだからね。まだ、失敗が多いのは仕方ないさね。焦らず、頑張んな。わたしゃ帰るからね」

「あ、じゃあ、家まで送ります。何冊か、本持ち帰りますよね?」

「……年寄りだからって気にするんじゃないよ」

「弟子になって、何もできてないので、それくらいはさせてください。まあ、本は私の物ではないからきちんと返してもらわないと困るんですけど……あ、この家の合鍵もどうぞ。私がいないときにも来てください」

「……そうかい。じゃあ、頼もうかね」


 師匠を家まで送っていき、ついでに食事をご馳走になってしまった。

 いろんな薬草を使った薬膳料理。美味しかったです。あと、年寄りに大量の肉はいらんと言われてしまい、渡した肉は薬草とかハーブで漬け込んである物を返却されてしまった……。調味料は少ないけど、香草は入手可能……というか、薬師なら扱えて当然と、作り方をまとめた紙をもらった。


 次からは果実とかも採取してこよう。少しでも恩返しできるように、料理の腕も磨いておこう。


 


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