第19話 冒険者達の動き


 

 冒険者ギルドは8時に開く。この時間は空いていると聞いていたが、8時ちょっと過ぎにギルドに行ったのに意外と人が多く、賑わっている。


 異邦人も多い。一目でわかるくらい……変に目立っている。


 通常の冒険者と合わせて40人くらいいる。そして……異邦人と通常の冒険者がパーティーを組もうとしている。勧誘合戦のようなことになってる……おそらく、下位の冒険者たちの間では、いい戦力と判断したようだ。


 逆に元々実力がありそうな人達は、異邦人のことを見ているだけで声を掛けたりしていない。冷ややかな態度で様子を見ていることから、冒険者同士でも温度差が結構ある。



「マリィさん、おはようございます」

「はい、クレインさん。おはようございます」


 受付は空いているので、人の集団はそのまま素通りして、マリィさんに声をかけるとにっこりと笑って挨拶が返ってきたので、私も笑い返す。

 他の受付の人もいるけど、マリィさんが安心する。美人なお姉さんは好きです。にこにこと笑った対応してくれるので好きです。昨日は厄介事持ち込んですみません。


「さっそくですが、お預かりしていた魔石をお返しいたしますね」


 袋から、魔石を取り出し、一つ一つ確認をしていく。適当に袋に入れて渡したのに、すごく丁寧な対応だった。メモと照らし合わせ、数に間違いがないかを確認され、サインをして受け取った。


「あ、はい。それと…………修理に出していた装備なんですが」

「はい。聞いてますよ。こちらになりますね」

「ありがとうございます」

 

 防具と武器が渡されたので、ささっと身に着けてみる。実は、防具も何も身に着けてないせいで、ちょっと気まずかった。

 

 胸当ては、サイズが大きすぎたので、最小サイズに調整。

 他の女性冒険者の人よりも小柄である。町の中では普通なんだけど……冒険者の人たちは体格が良くて、比較すると小さく見えてしまう。…………これから、成長したりするんだろうか。


 小手は、グローブに変わっていて、殴って倒せるように鉄が組み込まれている。元は皮装備だったんだけど、鉄が含まれているので強くなってるのか? 手首が動かしやすいのでこれの方が使いやすそう。

 マントはローブに変わっている。こちらも使い込まれているが、まだ使える感じ……少し長いので引きずらないように長さを調整する。

 ブーツについては、新品っぽい。……もしかして、足のサイズが合うのがないから買って用意したとかかもしれない。

 小盾・小剣は使い込まれて、多少傷がついているが、切れ味とか防御に問題は無さそうだった。


「お待たせしました」

「いえいえ。よくお似合いですよ。それでは、さっそくですが、昨日の続きです。お時間は大丈夫ですか?」

「はい」

「では、奥の部屋に行きましょうか」


 マリィさんが立ち上がり、奥の部屋に案内される。

 さらに、冒険者の何人かが立ち上がり、後ろから着いてきて、一緒の部屋に入る。


 え? なんで?

 びくっと反応した私を見て、マリィさんが「大丈夫です、怖い人じゃないですよ」と声をかけてくれるがドキドキが止まらない。なんか後ろで舌打ち聞こえたからね。

 絶対、怖い人だよ? イラついてるって、わざわざ示している。


 悪いことしたわけじゃないので、ビビる必要はないと分かっている! それでも!

 人相悪い人が多いんだよ、冒険者! 怖いよ!



「まず、手書きの地図ですが、お借りしたままでいいですか?」

「あ、はい。大丈夫ですけど……」


 部屋に机があり、マリィさんの隣に座った。

 一緒に部屋に入ってきた冒険者の人たちのうち、3人が対面に座り、二人は扉の入口にスタンバイしている。物々しい雰囲気で委縮してしまうので、早くここから去りたい。


「なあ、この地図がもう2枚欲しいんだが、あんた用意できるか?」

「え? あの……」


 急に声を掛けてきたのは、正面に座る30代くらいの男性冒険者がこめかみ辺りに指をおいて、「無理か?」とさらに尋ねてくるので、どうすればいいかわからず、マリィさんの方を見ると、苦笑している。



「クレインさん。この方たちは、今回、東の森の調査に協力してくれるパーティーのリーダーの方達です。3パーティーありますので、できれば地図が3枚欲しいのですが……」


 たしかに、効率を考えるのであれば地図は必要……。でも、ギルドで地図とか保管してないのかな? まあ、書くのは出来るから構わないけれど。

 そのために、呼ばれたってことか。


「あ……はい。用紙とお時間いただけるのであれば、書きます。えっと、30分くらいかかりますけど、いいですか?」

「クレインさん。では、こちらがギルドで保管している地図ですので、クレインさんの地図と合わせて参照してください」

「わ、わかりました。急いで書きます」

「ああ。悪いが、裏の倒した魔物について、ここらへんで倒したとかを書いてくれ」


 地図の裏にメモ書きしてしまったのを後悔する。

 どこで倒したとか、見かけたとか書いておけば分かりやすいと思ったけど、その分が手間になっている。仕方ないので書いていくけど……あ、ちなみに何故か文字は日本語でOK。……といっても、漢字は学者や一部の上流階級しか読めないらしいので、全てひらがなで記載している。


「わかりました。ここのテーブルを使っていいですか?」

「ええ。こちらが、紙と筆記具です」


 地図用の大きな紙と筆記具渡された。

 良かった……紙は値が張るから、使い過ぎ注意……大量に貰ったのも、素材とかのメモでかなり消費してしまっている。余計な出費はさけたかった。


「それで、おチビちゃん。セージの葉は本当にダメになってたのか? 俺らとしては、この仕事は割に合わないんで、おチビちゃんの気のせいだったとしたら困るんだが」


 地図を書き始めようとすると、右側に座るリーダーさんの一人に声を掛けられ、手を止める。いや、悪戯で報告なんてしない。

 初めていった場所だから、普段の様子を知っているわけじゃないけれど。異常だと判断したから報告している。


「セージの木のみ、大半の葉が落とされていました。木に登った痕跡も残っていて、登っても手が届かない上の方だけ葉が残ってる状態が一帯に広がってました。さらに言えば、他の調合素材にできる草や根っこ、木の実はほぼ無事でした。みなさんだったらあの森で、セージの葉だけでなく、ラゴラの根や万寿草などがあれば採取するのでは?」

「ああ。セージの葉よりよっぽど金になるからな。つまり、セージの葉しか知らない素人の仕業ということか」

「……セージの葉だけは、調合する前でも多少の回復効果があり、そのままでも品質変化は少なく、長持ちします。それを知って、乱獲した可能性もあります。あと、環境に配慮がない……無理やり道を作った痕跡、争った痕跡がありました。お疑いなら、アーティファクトに手をのせて証言しますけど?」


 面倒になって、地図を描くのに集中しているように下を向く。私が新人で信用がないにしても、疑われる筋合いはない。冒険者ギルドでは嘘ついてないことは、いくらでも証明できる。


 怒った表情を作ってみるが、効果は無いようだ。

 マリィさんが横で可愛いとか言ってる……私は怒っていると主張したいのに、可愛いってなに?

 マリィさんの方をじ~っと見るが、にっこりと笑顔を返された。ちがうでしょ! ここは威厳を出すとこなのに!

 

「いや。疑って悪かったな、おチビ。そんなにむくれるな」

「むくれてません。それと、おチビはやめてください」

「おう。まあ、書きながらでいいから、色々と聞かせてくれ」


 地図に書き込みをするたびに状況を聞かれ、細かく説明をしていく。

 当初は30分くらいで終わると思ったけど、色々と説明したり、なんだかんだ1時間以上経過していた。


「書き終わりました。確認してください」

「…………ああ。問題ない、おチビ、ありがとうな。お前さんが困ったら手を貸してやるから」

「……はい。その時はお願いします」

「おう。あと、人手足りないときは指名してやろうか? おチビなら多少実力不足でも使えそうだから、レイドとか足りないときには声かけてやろうか?」

「え? べつに、いいです」


 いきなり何言ってるんだか、よくわからない。人手が足りないときってなに?

 使えそうってことは評価して貰えてるってことで、嬉しくはあるけど、ソロ希望なんですけど? 他の冒険者と一緒に行動したいとかはない。


「クレインさん。この方達は優良冒険者なので、ギルドが発行する合同討伐=レイド等によく参加します。レイドは美味しい依頼が多いのですが、身内で固まりやすいため……お一人で参加する場合、紹介者がいた方がいいんです」

「えっと……冊子ではDランク以上って書いてありましたけど。Fランク冒険者が参加できないですよね?」

「お前は大丈夫だ。すぐにDくらいにはなるだろ。やる気があるなら声かけろよ、おチビ。じゃあな」



 色々と質問攻めしてきた冒険者が頭を撫でて、去っていった。おチビと呼ぶのはやめてくれなかった。しかも、他二人も便乗しておチビと呼んでいる。そんなに小さくないからね? 平均身長はあるはずなんだけど。

 他の人たちも頷いたり、手を振って部屋を出て行き、マリィさんと二人きりになった。


「ふぅ……」

「お疲れ様です。気に入られたようですし、ほっとしました」

「えっと? 嫌われるとまずいんです?」

「今回の調査は犯人捜しでもあるので……クレインさんが巻き込まれないとも言えず……でも、先ほどの様子だと、クレインさんへの疑念を報告することは無さそうですから、安心したんです」

「ああ……やっぱり、容疑者なんですね」

「ギルドでも死活問題ですから……。数日以内にセージの葉を納品した方は容疑者になってますね。本命は泳がせていますが。ただ、クレインさんよりも怪しい方がいるので大丈夫だと思います」


 数日以内ね……。

 異邦人は全員容疑者かな。他にもセージの葉を納品した人がいるなら、その人もか。妥当なのか……そもそも、調査してわかるものなのかな。

 ギルド内でも、納品物のチェックについて、きちんと把握してなかったわけで……鑑定だよりも良し悪しなのかもしれない。

 

「それと申し訳ありません。……あと、これを渡しておきますね」

「これは?」

「今後、納品して欲しい物についてまとめたリストです。必ず引き受ける必要はありませんが……渡しておくようにと指示がありました。それと、先ほど作図についてはギルドからの依頼ですので、料金を支払います。口座に直接で構いませんか?」

「はい……ありがとうございます」


 うん。なんだか、すごく疲れてしまった。

 なんとなく会話の誘導があったのは感じていた。だから、私も容疑者なんだろうな。

 第一発見者が犯人っていうのもあるんだろう。協力しないと疑われそうだから、協力するけど……腹の探り合いは、疲れるからやりたくない。

 報告しなければしないで問題になるだろうから、本当に面倒くさいことに巻き込まれた。


「東の森の調査については、先ほどの方たちが行うことになってます。その内容を確認してから、クレインさんの報告の判断を行うことになりました」

「えっと……まずかった、ですか? その、報告書の出し方がおかしいとか……」

「いえいえ。通常は口頭だけですから、地図や魔物がわかるだけでも助かります。重大な報告と判断されれば、上乗せ支給がありますから」

「なるほど?」


 確かに、情報の価値はすべて終わってからでないとわからない可能性はあるか。

 作図についてもお金貰えるなら、私としては損がないので、ラッキーだけど。


「あと、調査の間はクレインさんは東の森は立ち入りしないで欲しいんです。調査に支障をきたす可能性がありますので」

「あ、はい。わかりました。今日は午後用事がありますし、明日も近場で活動するようにします。マリィさん、問題無くなったら教えてもらえますか?」

「はい、承知しました。よろしくお願いします」



 さて……百々草取りにいこう。

 東の森に行けない理由が出来たから、近場で採取してても可怪しくない。


 よし、沢山取って、調合するぞ。ついでにスライム狩りだ!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る