第18話 異邦人の処遇 (ギルド長ヨーゼフ視点)


[ギルド長・ヨーゼフ 視点]


 異邦人の少女との情報交換を終え、冒険者ギルドに戻る頃にはすでに日付が変わっていた。ここ1週間の間に目まぐるしい程の状況の変化に対処が追いつかない。だが、一刻も早く対処をしていかないと大変なことになる。今日も満足いく睡眠時間を取れず、備え付けの仮眠室で寝ることを覚悟してギルドに入る。


 すでに冒険者ギルドでは営業は終了しているが、中に入るとレオニスが待っていた。


「ラズ。クレインはどうなった!?」

「はいはい。説明するから、落ち着きなよ。ギルド長、部屋借りていいかな」

「もちろんじゃ」


 焦った様子で、あの少女のことを聞いてくる。本来であれば一緒に参加する予定だったのを一人で帰されたのだから、気が気ではなかったのじゃろう。だが、レオニスの望む穏便な解決にはなっていない。


 考えていたよりも真っ当で賢い者であったからこそ、今後も上手くいくと考えたいが……他の異邦人のやらかしがあるだけに、代償はわしの身だけで足りなくなることもあり得ることを覚悟しておく必要がある。

 レオニスにそのことを含んで説明をすると……今夜も就寝時間は3時間も取れんじゃろう。老体にはきつい仕打ちじゃな。



「ふむ……それで、ラズ様。あれで宜しかったのですかな?」

「うん? いいんじゃないかな、こっちとしてはある程度知りたいことは知れたしね~。あの子なら囲って置いてもまずいことにはならないでしょ」



 契約により縛った異邦人の少女。

 この世界のしくみを良く分かっていないのを承知の上で、とある契約を結ばせた。


 あの契約は、一定の自由を縛る。奴隷のように心身を拘束するほどの力はないが、契約を破ろうとすると他人に分からない範囲で影響を及ぼす。こちらに協力的な間はいいが、互いの意見が合わなくなった時、精神的に不安定となる可能性がある代物。


 王家が管理する特殊な紙で、互いの血を媒体として結ばせる契約。下位の使役契約であるが効果は高い、代わりに王族の命令でもない限り、使用することはできない。

 今回の場合は、王弟並びにラズ様からの命により、ギルド長として契約を結んだ。

 わしも別に結んだことで、何かあった場合には冒険者ギルドも巻き込まれることになる。他の支部の冒険者ギルドにまで及ぶことはないじゃろう。


 あの嬢ちゃんは契約内容は、こちらに対し、嘘を付けないくらいだと考えているだろう。アーティファクトで先に嘘を封じていたため、たいして変わらないと考えたのか、契約をすんなりと受け入れていた。

 契約によって、何か嘘を付こうと意識をすれば、すぐにわかる。これだけでも余計な情報で混乱することが減るため、益がある。ついでに、協力者としておくことで、一定の管理も可能となった。


 冒険者登録をした他の異邦人以上に、嬢ちゃんについた足枷は大きい。

 代わりにこちらが用意する物は、命の保証。対価として、釣り合っていると考えるかは、人によるだろう。


 ふぅっとため息をつくと、じろりとレオニスが睨んでくる。



「……それで、ギルド長。クレインは……?」

「こちらの条件を飲んで、契約を行ったぞ。わしがギルド長である間は、冒険者ギルドにある程度制限・拘束されることになる」

「…………本当に必要だったのか?」

「レオニス。最終的にあの子を手元に置くことを決めたのは僕だけどね。他の異邦人と同じ、十把一絡に扱うか、こちらの協力者にするかの二択しかない。そして、異邦人を歓迎する方針を現国王が出すことはない」

「そうじゃのう……この町だけの問題ではないのが、あの少女からも言質が取れた。……他国の動きを考えれば、異邦人は国が管理することになるじゃろう」


 

 成長すれば戦力となることが間違いないのに反し、言動が幼く、周りが見えていない。自分の力を過信している。何も知らないからこそ、洗脳し、使い勝手のよい駒にする。言う事を聞かないなら消してしまえばいい。元から、偶然の産物、無くなったところで困る者もいない。


 だが、そもそも冒険者ギルドは国と一心同体で動いているわけではない。国が違ってもギルド同士で協力することもある。国が戦力を増強するのをただ見ているだけでは、いられない。

 一部をこちらの協力者に組み込むことで、国から横取りをした形になっても、使える者は確保しておきたい。

 実際、王弟派の協力をしていることで、問題が生じる可能性もある。この町の冒険者ギルドとしては危ない橋を渡っているが……この町の領主であるラズ様の意向に逆らうことはできない。



 あの少女は優秀な駒になる。

 あの危険察知能力。自分の状況を判断し、的確にするべきことの見極め……是が非でも手元に置いておく価値があるだろう。

 この世界で生き抜くためにどうすればいいか、それを無意識であろうと実践している。こういう能力は冒険者には最も必要であり、ギルドとしても活用できる可能性がある。


 

「好きにさせてやるわけにはいかないのか?」

「好きにしている異邦人が何をしたか、君も分かってるでしょう? ……他の異邦人の仕出かしたことを考えれば、騙し討ちではあるけど、身の安全のためにも最善だと思うよ~」

「…………いや、そうだな…………すまん……」



 レオニスは情に厚い。ギルド職員の中でも異邦人と最も会話をしている。結果、情が芽生えている。特にあのお嬢ちゃんへの肩入れもだが、他の冒険者についても悪い奴らではないと考えている。

 悪い奴ではない可能性もあるが……自分達が特別だと驕っている異邦人達は、こちらを見下しているだけでなく、問題行動を起こし続けている。


 町の外に屯していることで、住民が不安を感じていることもあり、冒険者ギルドとして、冒険者登録をしたのが、昨日の正午。


 この町に現れた異邦人は32名。

 この中で、1名はすぐにこの町を離れていった。戻ってくる様子もない。見張りをつけたが、半日で見張りは戻ってきた。魔物を狩ったりしているが、町に戻る様子はないらしい。少々独り言をボヤいていることが多いというが、ここから離れたのであれば、管轄外だろう。


 初日に一人で町に入った異邦人は、仲間を町に入れるように要求した後、暴れたため、牢屋に入れていた。脱獄を試み、看守含む4名に対し重軽傷を負わせ、その場で処刑。殺したのに生き返ったなどの話もあるが、再度、胸を一突きして死亡を確認。


 二日目、3人で町に入った異邦人は、同じく問題を起こし、牢屋に入れていたが、昨日、ギルドの計らいで冒険者となった異邦人が面会。面会を希望した冒険者達3人が、面会の場で、立会人を殺害し、牢屋の3人を脱獄させ、6人で逃亡。


 この6人については、追手を放ち、町の外に出たところで、全員を捕え、情報を吐き出させた上で処刑している。この時も、普通なら死ぬはずの怪我を負ったのに、全快した者がいるという報告を受けている。

 

 ただし、1回で死んだ者もいるため、何が起きているかを確認中であるが……これこそが、<天命><天運>の効果じゃろう。一度死んでも生き返る……まるで、御伽噺のような事が実際に起きていることに頭をかかえた。



 冒険者ギルド内で、他の冒険者と乱闘騒ぎを起こした2名。町中で魔法を撃っているため、拘束された1名。牢屋に送ったが……正当防衛を主張し、反省をする様子はない。



 セージの葉を大量に納品した男3女1のパーティーには監視を付けた。鑑定をして、セージの葉だったから、そのまま受領した。受付嬢は大量であることに不審を感じつつ、落ちていたのを拾ったという言葉をそのまま信じた……結果として、使えない・売れない在庫を多数抱えることになった。


 お嬢ちゃんの報告をもとに急ぎ調べたが、葉がほぼ落とされている木は、1本や2本ではないという。使えないセージの葉を大量に抱えてしまった。唯一の救いは、薬師ギルドに納品する前であったこと……。使えない葉を納品なんぞすれば、問題が悪化する。こちらの対処は明日以降になるが……頭の痛い問題じゃ。



 さらに、教会の前で、勝手なパフォーマンスを行っていた少女は、貴重な回復魔法の使い手になる可能性がある。聖女であるからと特別扱いを要求しているため、冒険者ギルドでは対応できない。ラズ様に任せることになった。


 冒険者登録を断った2人の青年についても対応が必要じゃが……しばらくは様子を見るしかあるまい。


 半数近くが問題を起こし、それぞれ影響も大きく、対処が追いつかない。嬢ちゃんからの異邦人目線の情報の精査も必要になる。

 


「僕としては、あの子には冒険者よりもパメラ婆様の後を継ぐ薬師になって欲しいんだけどね。レオニスの方でもきちんと見ておいてね」

「……あいつについては、俺が責任をもつ。ギルド長、例の件だが」

「うむ。戸籍じゃろう? 契約にて用意する話もしておる。まだ具体的な話にはなってないが……問題ないじゃろう」

「え? 戸籍ならこっちで用意するよ~?」

「俺が後見として付く理由になるから、あいつの子にする。お前が用意するとなると貴族の血筋になるだろ」

「う~ん。その方が横やりが入らないからね」


 戸籍か……。レオニスが後見になるのであれば、奴の子として、届け出た方がよいが……たしかに、貴族籍の方が横やりも入らぬか……。


 ふむ。明日の夜にでも、昔馴染みに話しに行って見るかのう、嫌そうな顔はするじゃろうが……嬢ちゃんの身柄は……かなり重要になりそうじゃ、一肌脱いでおくか。

 

 



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