第17話 情報と記憶の欠落



 ギルド長達がこちらに聞きたいように、私も他の異邦人について気になっていることがある。


 勇者を名乗るとか、使命があると言っていた。

 そんなこと、私は聞いたことがない。まずは……そこを確認してみたい。



「えっと……勇者の使命=天運とか、使命があるって宣言している人達は天運持ちですか?」

「確かに、使命があると言った者たちは天運か天命があるのう。じゃが、具体的に何をしろとは言われてないようじゃ。ただ、『魔王を倒すに決まっている』と言っていた者がおるんじゃが、魔王とはなんじゃ?」


 う~ん。

 あの空間を認識した瞬間だけ、声が頭に響いただけで……この世界に来た時とか、何も指示はなかった。

 どんな世界に行くかも聞いてなかった。まあ、平穏じゃないだろうと予測したのは合っていたわけだ。

そして、私でなくても考えるのが……勇者の召喚をした場合に、魔王を倒して欲しいというお願いをされるという定番のストーリー。


 そうなると思い込んでの発言ということか?

 異世界に行ったら魔王を倒す……。そこまで積極的に世界に干渉しようという考えってすごいな。一人での行動ではなく、止める人もいないのか……。



「何か知ってる~?」

「魔王……人間と対立する悪の種族の総称を魔族と言い、その王を魔王と言います。そういうファンタジーの小説とかであるので……ん?」


 ファンタジー世界…………。

 魔王を勇者が倒すっていうのは定番。じゃあ、他にファンタジー世界で定番といえば?



「あれ……?」

「どうかした?」

「あ、いえ……今、考えをまとめるので、ちょっと待ってください……」


 ファンタジーの世界なら……人ではない種族とかがいてもおかしくない。

 さっき、獣王国とか言っていたのだから……間違いなく人以外の種族がある。

 ギルドの解体師だって、ドワーフかなって思った。子どものような背丈の冒険者も、エルフのような長い耳の人もいた。


 種族は一つじゃない?

 その種族にポイント使うとしたら……私なら選ぶかもしれない。



「何を思いついたの?」

「えっと……変な事聞いてたらすみません……異邦人って、人という種族だけですか?」


 何を聞いているんだという顔が返ってくる。

 まあ、私も何を言ってるのかとは思うけど。私を含めた異邦人は、人だけだろうか?

 この世界に人ではない種族がいるなら、人以外にもなれるのでは?



「……ふむ。種族か…………」

「種族に対する差別は色々と問題になるからね。王国内では、種族について、各ギルドで把握しない。種族はわからないとしか言えない。ただ、異邦人でもエルフや獣人の血を引いている容姿の異邦人はいたね」

「私のいた世界は、エルフや獣人はいません。白い世界にいたときは、普通の人でした。肌の色は違う方もいましたけど。異なる……種族はいなかったんです。それで……そこにポイントを振ることができそうだと、ふと思いつきました」


 ファンタジーの世界に行くなら……。

 エルフとか猫耳の獣人とか……結構、好きな人はいると思う。そして、ゲーム世界の設定では、エルフなら魔法が得意とか、獣人はフィジカルが強いとか、特徴がある。

 覚える魔法とかにポイントを使うなら……強い種族にも使うのはおかしいことではない。



「お嬢ちゃんの見た目は、他の種族を彷彿とさせることはないがのう」

「えっと。私の場合ですよ? 私だったら、周囲から浮かないように人に近く、ちょっと能力が高くなりそうな種族があれば……それを選びます。性格的に、はっきりとわかるような種族にして、迫害されるとかは嫌なので、ほんのちょっと違う、けどわからないくらいの……。私以外だって、動物が好きな人は獣人とか、エルフは長生きできそうとか……種族を選びたい人は一定数いると思います。そして、種族により強さが異なるならポイントで選ぶのは不思議ではない……可能性ですけど」

「う~ん。調べてみたいけど、難しいかな~。種族については、色々と政治的問題があるからね。まあいいや、少なくとも、君はそれだと思うんだよね?」

「……はい。でも、覚えてないので……」

「なに、いい情報じゃよ。わしらは他の世界でも、種族はあると思い込んでるからのう。可能性であっても、助かるのう」


 う~ん。なんかすっきりしない。

 種族が選べたなら、なぜ、それを忘れてしまったのか。そこが謎なんだよね。そして……同じく覚えてない〈祝福〉のアビリティ……。


 例えば……。種族とセットで自動的に覚えるとかがあったとして〈祝福〉を覚えた。……〈天運〉〈天命〉もそれだったりしないか。



「あの……種族にポイントを振りそうだけど、覚えてないのと合わせて…………その、もしかしたら、ですけど……」

「うん、なにかな?」

「アビリティの中で、唯一、〈祝福〉を選んだ記憶がなくてですね…………その、もしかしてですけど……種族選んだ時に自動的に選ばれるとか……ないかなって?」

「まあ、あるかもしれないけど。それは君たちのが分かるでしょ?」

「えっと、本当に覚えてないんですよ。だから、自信がないんですけど……もし、種族を選んだら自動的に〈天運〉が付いてくるとか、ないかなって……ちょっと、考えたんです。普通、7割が同じもの選ぶってことは考えられないけど……自動的に付いてくるなら……7割がもつのも不思議じゃない」

「ふむ……選んだ自覚がないのは、自分で選んでいないからということかの?」


 一度、息を吐いて、落ち着いてから考える。記憶が無いのがなぜかは分からない。

 他の異邦人より覚えているだけで、覚えていないことがある。

 

 では、それがなぜか?

 自分達で選ばせて、なんらかの使命を持たせる。全員ではなくても、一定の割合で使命を持たせられれば十分だとしたら……異邦人に何かをさせたい? そのために、選別することが目的だったとか。


「…………例えば、ですよ。まず、条件としてユニークスキルは一つしか取れない。これは、確認してます。そして、私は最初にユニークスキルを選びました。そうすると、もうユニークスキルを取ることは出来なくなります」

「そうなるじゃろうな」

「でも、ユニークスキルって、一番下にあったんです。その前に他の魔法とか技能とか選んだら、その時点で〈天運〉が付いちゃったら……どうですかね?」

「う~む。仮定であるが、おもしろいのう」

「まあ、7割が同じものを選ぶより、なんらかの仕掛けがあると考えるのはわからないことじゃないね~。他には気になることはある?」

「……白い世界での記憶が曖昧な理由がわからないので…………いまは何とも」


 

 そうだ……頭痛の件もあった。

 自分自身の何かを思い出そうとすると起きていた頭痛。あれも、なんなのか……いつの間にか治まる……というか、他のこと考えだすと引いていく?


 いや、それよりもまだ、聞いておきたいことがある。


「さっき言っていた……他の人が持ってない魔法と技能って何ですか?」

「君の場合は、聖魔法。基本魔法に聖は入らないんだよ。火水土風光闇の6種類。聖魔法は、光魔法の上位魔法。聖魔法を持っている人は聖教国の司教クラスじゃないかな。まあ、光魔法との違いがわかる人の方が少ないけどね」


 司教!! 司教って偉いよね?

 詳しく階級知ってるわけじゃないけど……教皇、枢機卿、大司教、司教……って続くんじゃなかった?


 聖教国っていう時点で、宗教国家だと考えられる。

 司教はそれなりに偉い人という予想はつく。民間人が持っていたらおかしい魔法持ってると言ってしまったわけか。


 でも、それがわかる人は少ない?

 ん? つまり、バレたときは、教団の関係者ってこと?



「……えっと、私が聖魔法もっているのはここだけの話、ですよね?」

「もちろんじゃ。記録に残すこともないが……お嬢ちゃんも扱いには気をつけるんじゃぞ? まあ、冒険者のヒーラーには一定数、教団からのはぐれ者が混じるので、聖魔法を使う者もいないわけではないが」

「はい……あの、上位魔法って」

「……爆・氷・植・雷・聖・邪の6つじゃな。まあ、他の異邦人で上位魔法を持っている者もいるが、規則性はわからんのう」


 ……爆は火の上位かな? 氷が水、聖が光……邪は闇…………となると、雷は風かな。植は土と。上位魔法か……規則性がわからないっていうのが怖いけど。

 少なくとも、聖……いや、多分、光も言わない方がよさそう。

 希少な属性であることを意識してなかった。


 いや、でも? そもそも、ソロだから、関係ない気もするけど。だって、仲間いなければ自分を回復するだけだから関係ないよね?


「嬢ちゃん。冒険者には、町への襲撃に対し、救援に応じる義務がある。その時には他の冒険者とともに戦うことにもなる。他にもレイドでのクエストなどな。能力の高いヒーラーは貴重じゃから要請は多くなる。どうするかは、嬢ちゃんに任せるが……ソロだから関係ないとは思わんことじゃな」

「あ、はい」


 あれ? 口に出してた?

 ソロだろうと、他の冒険者と組ませるってことだよね。

 待って……責任重いじゃん! ヒーラーって名乗るつもりはないんだけど?


 自分を回復するための手段であって、その役割を持ちたくないからソロ希望なのに!


「ヒーラーはパーティーで大切に保護されるからね。ヒーラーだけ貸して欲しいという依頼には大抵応じない。かといって、実力に見合わないレイドにパーティーごと参加させるのは面倒でね~。君みたいな回復手段を自分で持っているソロは需要高いんだよ~」

「は?」


 つまり……冒険者ギルドの管轄するレイドクエストとか、協力要請が入るってこと?

 ヒーラーするつもりは無いのに? 有無を言わさず、協力させられる?



「嬢ちゃんの成長次第じゃが、優秀なヒーラー候補は確保して損はないからのう」

「うぅ……その考えは読めてなかった……」


 さっき、調合の方を磨いて欲しいとか言ってたのに?

 冒険者としても、使う気満々ってこと?


 でも……せっかく持っているのに、使わないという選択肢はない。聖魔法って掃除に便利だし、素材の加工とかにも使えるから、今後も使用していく。

 むしろ、光魔法のが使わないんだよね、今のところ……部屋明るくするくらい? でも、作業場は魔道具で明かりがある。寝るときは別に暗くてもいいので……使いどころがない。



「嬢ちゃんは賢いが抜けておるな」

「……無理なことは無理と断りますからね。協力出来ないことは出来ないんで」


 いい様に転がされている。年の功ってこと? 勝ち目が見当たらない。

 使われる分、保護もしっかりお願いしたい……冒険者としては構わないから……国に徴兵されたりしないようお願いしたい。


 ついでに確認をしたところ、光魔法はそこまで希少ではないらしい。

 子供のころから教会に通っていると覚えることがある? ただし、光魔法を使えるから、回復魔法を使えるわけではない。

 

 うん? 良く分からないが、回復魔法は個人の才能によるとか。個人差で覚えたり、覚えなかったりというのは、回復魔法が一番言われるらしい。風や水で回復魔法を覚える人もいる。

 できるなら、回復魔法を覚えたいのはみんな一緒ってこと。覚えるかは、信心深いかどうか、これに尽きるらしい。いや、私は信心深くないけど?

 たしかに、宗教としては、信心深さで決まると言うのは都合が良さそうではある。


「そういうことにしておかないと信徒増えないでしょ~?」

「なるほど。……とりあえず、どうするかは考えます」

「そうじゃのう。実際、調合の方も見極めたいところじゃからな」

「師匠の弟子になったからです?」

「それもあるけどね。異邦人は付与・錬金・調合・仕立て・鍛冶……生産職のアビリティはもってないんだよ~。君以外、戦うための魔法・技能しかなかったんだよね」

「…………え……?」


 強さよりも希少価値……安定した生活のために、手に職を持つことを考えた。器用貧乏って言われることがあっても、色々できれば危険は減らせる。

 私でなくても……一定数は生産職を選びたがると思うけど。だれもいない?


「まあ、これから他の町とかの情報も集めるから、君だけではないかもしれないけどね。君達が欲しいと思う能力を選べるとして……欲しいと認識しなかったら、そのアビリティは認識しない。それなら、君達異邦人が戦う能力に特化しているのも納得できる」

「うむ……恐ろしいことじゃな」


 欲しいと思う能力……異邦人ってみんな戦闘民族ってこと?

 ファンタジー世界に夢見て、冒険したいなら……強くなりたいか? いや、私はこの世界でも死ぬことになるのは嫌だけど。


 荒事は嫌な人は絶対にいるはず……戦いを選ぶように意識を誘導していたんだろう。私も異世界に行くこと、戦うことになるのに、拒否感なかった。あの世界での自分の意識……普通ではなかったと思う。



「……これから、どうなりますか?」

「まずは、他の町にも異邦人がいるのか、情報を集める。もう少し、情報が集まらないと異邦人をどうするかも決まらんが……正直良い印象がないのう」


 戦闘能力に特化した、無法者……うわ、最悪。

 それこそ、捨て石にして、数を減らしたい…………うん? えっと?

 常識を知らない、扱いやすい……戦力。


 全部を取り込むには危険な可能性があるわけで……。


「あの……この国って、他の国と戦争とかって、してますか?」

「ふふっ、君ってなかなか鋭いよね~」

「うむ。今は、どこの国も戦争はしていない。じゃが、停戦状態であり、いつ起こってもおかしくない国もあるのう」

「まあ、王国は一番交流している国が多いけど、その分戦争を起こさない中立地帯でもあるから、安全な方だと思うけどね~。帝国なんて、外部だけじゃなく、内戦の可能性もあるよ。政治が不安定だからね。ちなみに、南東側にある山脈地帯を越えたら帝国だから、距離だけならすごく近いよ」


 見せかけの平和……。魔物の脅威があるから、各国が必ず手を結ぶことはない。

 国同士、自国が優先。わかる……。それは、戦力の増強ができるなら利用するということになりそうだ。


「…………人間兵器として異邦人を使う国は?」

「あははは。もちろん、いくつかの国ではそうなると思うよ。だって、都合のいい説明して、戦場に送り出せるからね」


 つまり、この町でもすでに異邦人の使い道として、他国への牽制・肉壁要員という利用を考えているということ。

 

 怖っ。


 しかも、それを私に対して隠さないということは……そこも織り込んだ上で、協力者として自覚を持てといいたいのか? 私は腹芸は苦手だと思う……すぐ表情に出ると……。

 

 一瞬、頭が痛くなったのを誤魔化す様に首をふり、忘れる。


「……私は、協力者として何をするんですか?」

「うむ。お前さんは異邦人じゃが、異邦人の特別待遇をしていない。冒険者ギルドの登録料も自分で支払っておるし、鑑定もしていない。国に報告義務がないんじゃよ。まずはそれでよい。とりあえず、好きに過ごしていて構わぬよ。調合を磨くのも、冒険者としてレベルを上げるでも、何をしてもいい。犯罪でなければ。協力が欲しいときにはこちらから連絡するが、しばらくはないじゃろう。こちらも無駄に探られたくはないのでな」

「……あの、あんまり戦闘能力を伸ばす予定ないんですけど」

「構わんよ。もう一度言うが好きに過ごしてよいんじゃ。お主がどのように成長するかによって、使い道は変わるだけじゃ」


 好きに過ごしていいって、最初に比べると随分と対応が優しくなった。

 うん……なにか、裏がある可能性も…………考えても、分からないか。分からないなら、疑ってかかるよりは成り行きに任せよう。



「あ、あと……セージの葉については……」

「うむ……明日から、採取に慣れている冒険者にさらに詳しく調査をさせるつもりじゃ。セージの葉を大量に納品した異邦人のパーティーもおる。ただ、森を荒らしたのが異邦人の場合……おそらく、国境送りになるじゃろう」


 国境送り……危険地帯って認識でいいのか。

 初犯だから許すわけにはいかないけど、死刑じゃないだけマシなのか……そもそも死刑制度とか、どうなってるんだろ。調べようと思っていても、結局後回しになってる……。


 あと、何か気になること……聞いておきたいこと。




 装備!


 みんなお揃いだった。銅と鉄の差はあれど、胸当てのデザインが同じだと、異邦人とばれてしまう可能性がある。


「…………あと……装備品について、お願いが……」

「うむ。同じ装備品を身に着けていれば異邦人とわかってしまうからのう。明日、マリィから新しい装備を渡すようにしようかの。今、装備していた物は引き取り、新しいものは無料というわけにはいかんが……足りない分はギルドへの借金として、すぐにではないが返済してもらうかのう。銀行でわかるようにしておくのでよいか?」

「はい。お値段はお手柔らかにお願いします」

「新人に渡す装備じゃ。そんなに高い物にはせんよ。一応、修理で預かっていたことにしようかのう」

「はい、お願いします」


 装備品を渡して、代わりの装備をお願いした。

今後についてはマリィさんを通して知らせる。又は、レオニスさんを通すこともある。直接関わりがわかるようなことはしないことになった。


 これから先……どうなっていくのか。不安しかない。


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