第16話 情報交換と取引
尋問? 聴取? 査問? とにかく、私への彼らの質問は続く。
「覚えている範囲で、ポイントの割り振りを教えてくれる?」
「……魔法は、風、土、水、火、光、聖、闇の7種類の属性魔法。技能は、剣、斧、槍、弓、杖、盾の6種類の武器。あとはアビリティがたくさんあって……」
思い出せる限りを思い出そうとするが……うん。
メモ用紙を取り出し、魔法や技能、アビリティを思い出せるだけ書いていく。いや、アビリティは実は全然覚えてないけど。
生産系はちょっと悩んだから、何があったか覚えてるけど……記憶はあやふやだ。
「ふむ……」
「やっぱりね」
「えっと?」
「うん。後で説明するよ。割り振りは?」
何か変な事を書いたかな……青い光をはなってるから、嘘はないのはわかるよね?
ただ、私も何かが引っかかる。それが何か、わからないけれど。
「各レベルごとにポイントが異なって、LV1が10、2が20、3が30、4が50、5が70、6が90、7が120、8が150、9が180、10が220ポイント。私は、まずユニークスキルの2段目、〈直感〉に150ポイント。次に、魔法を水、光、聖、複合をLV1でとって、あと、技能を剣術がLV1、体術LV3,生産系の錬金と調合、付与をLV1。あとは〈祝福〉をとってます」
「これで全部?」
「はい」
「間違いない?」
「はい……あの?」
うん。これで全部……。間違いはないか念押しをされたけど、間違ってない。ちゃんとステータスを確認したけど、とくに抜けてない。他に覚えてるのは、こちらの世界に来てから覚えたものだけだ。
「君の説明通りなら、ポイントを全部たしても、270にしかならない。30足りないよね?」
「え? あれ……でも、300ポイント使い切ったはず……?」
確かに……合わせても150+120で270しかない。
でも、余らせるようなことは絶対にしない。お金と違って、後から振れない可能性があると困るから、絶対に振ったはず……。
覚えてない。
何かに振ったのに、それを忘れている。思い出せない状態ってこと。なんだろ……何に振った? なにか、あるはず……。
あれ? そういえば、祝福って何で取ったんだっけ? 他のと違って、取った覚えがない?
「うむ。実はのぅ、レオニスから異邦人がこれ以上増えないと報告を受けてな。昨日の正午に、町の外にいる者たちにステータスや技能をすべて報告することを条件に、冒険者登録を無料でおこなってのう。鑑定も受けさせ、スキルやアビリティも確認させてもらった。じゃが、何人かが他の者にはない特殊な魔法や技能を持っておるんじゃ」
「えっと? 全員同じ条件じゃなかった……?」
「お嬢ちゃんらがわからないのに、わしらが分かるわけないじゃろう。じゃが、お嬢ちゃんが嘘をつこうとしているわけでもないようじゃ」
「そう、ですね……」
嘘はない。こんなことで、嘘をついて、警戒されるのは困る。だけど、自分の記憶が信用できない。
一部のポイントを覚えていないこともだけど……そもそも、異世界に行くことに拒否しなかったこと。
家族とかいたはずなのに、会いたいとか、寂しいとか……そんな気持ちが浮かんでこなかった。今も……いたはずの家族のことを思い出せない。そして、謎の頭痛。
「何か、気になることがあるかのう?」
「いえ……自分でもよくわからなくなって……この世界で生きようって思ったことすら、なんでかなと……いい年した大人だったんで、生活が変わるのとか面倒なはずで……なんか、すごく自分が可怪しいのが気持ち悪くなってきたというか……」
自分のことがわからない。
何を信じればいいのか……見失ってしまっていることに気づいた。
そもそも、なんでこの世界に行くことも、許容していたのか。
ズキズキと頭が痛み出すのを堪えながら、考えて、考えて…………答えは出ない。
「この世界で生きていくのかの?」
「そう、ですね。私は生きていくために、能力を選びました。危険を察知することができそうな〈直感〉を筆頭に、危険な世界である可能性を考えて、武器が無くても戦える体術。回復魔法やいつでも水を出せる水魔法を取得することで、生き延びる確率を上げたつもりです。あと、日々を暮らしていくためには、手に職があった方がいいと思ったので、錬金や調合を選んでます。………………真っ白い世界で、本能的に元の世界に戻れないと…………でも、死にたくなかった……」
そう。生きていたいという思いがあった。
何故か…………覚えていなくてもわかる。前の世界では死んだのだ。死んだ理由はわからないけれど。
頭に手をやりながら……前の世界より、こちらで生きないといけないと考え直す。
少し……痛みが引いた気がする。
「ふ~ん。君にも考えがあるのはわかったよ。まあ、僕から見て、君が一番変なんだよね」
「え?」
「そうじゃのう」
二人が頷いて、こちらを見ている。
変と言われるようなことをした覚えはないけど、他の異邦人と何か違うのか。
なぜ、そんなことを言われないといけないのか、分からない。
「そう構える必要はない。お前さんはまともじゃ。自分で考え、自分の行動に責任を持とうとしておる。この世界で生きていく覚悟がある」
「……大人として、迷惑をかけ続けるわけにはいかないので。自分のできることをして、お金を稼ぎ、生きていくのは普通のことだと」
「そうじゃの。じゃが、そうでない者もおる。こちらが手を差し伸べたことに『遅い』と不満を持ち、自分達が優遇されて当たり前だと思っておる」
「……」
つまり……異邦人達を冒険者として受け入れをしたが、相手は感謝するどころか、怒っていた。厄介事の自覚がないので、対応に困ってるとか?
ついでに、初日から問題行動を起こした人がいるかもしれない……ってことで、処分に踏み切るとか? 私のこともバレてるので、自分の目で見極めに来たんだろうな……。
「お嬢ちゃん。こちらも異邦人情報が欲しい。お嬢ちゃんは信用できそうじゃ。取引をせんか?」
「条件を教えてください」
悪い取引では無さそうだけど……異邦人の情報と言っても、知っていることは多くない。
それでも、ここで乗らないということはできなかった。
取引とは……一体何をするつもりだろうか?
少しだけ、寒気から解放されたのを感じ取り、笑顔を浮かべている青年をじっと見つめるが、にっこり笑うだけだった。
「うむ。わしの条件は、4つじゃな。1つ、わしらに嘘をつかない。まあ、言えないことは言えないと言ってくれればいい。今後はアーティファクトを使うことはしないが、嘘の情報は困るのでな。2つ、お嬢ちゃんは異邦人であることを自分からは名乗らない。これは、嬢ちゃんを守るためでもある。異邦人としての特権を使えないことにもなるが……」
「構いません」
「うむ。3つ、冒険者ギルドから他のギルドに移らない。嬢ちゃんは薬師ギルドにいかれては困るのでな。4つ、マーレスタット町の冒険者ギルド長ヨーゼフと、こちらのラズの協力者となることじゃ」
「…………協力者って具体的には何を?」
「契約したら教えてあげるよ。ああ、協力者の対価として、こちらの世界の戸籍を用意するのはどうかな? 異邦人とは違う証明にもなるしね」
協力者。ヨーゼフさんとラズさん……いや、ラズ様にしておこう。なんか気になる。別々の契約ということだよね。
嘘をつかない。
まあ、報告に嘘が混じってたら困るのはわかるし、まあ、言えないことは言えないでいいっていうなら、許容できる。嘘ばかりついていたら、信用にかかわる。円滑に進めるための嘘もあるだろうが、どちらかと言えば、関係は上司と部下に近いから、嘘の報告とかしたら成り立たなくなるよね。
異邦人と名乗らない。これは構わない。
むしろ、名乗ることは、現況では良いことにはならない。別に、異邦人=仲間であるとも思ってないから、構わない。私は自分の身が大事。だが……一部にバレてる可能性はあるわけで……身の上の設定とか、少し考えないとかな。
冒険者ギルドから移らない。これも構わない。
冒険者ギルドの所属に不満はない。今日、一人で戦闘をしたけど、普通に戦うことはできた。魔物が多くても、きちんと対応できたし、無茶をしなければ大丈夫だと感じた。
調合も面白いが、その素材の値段とか聞いたら……自分で調達しにいく方が楽だと思う。冒険者に取ってきてもらって、その素材が使えないとか……胃に穴が空きそう。自分で採取して、調合するという自給自足の方が胃に優しい。
協力者となる。
これが、私に何をさせるのか……契約しないと教えないっていうのが怖い。
けれど……逆に考えれば、協力者になればこちらも守ってもらえる可能性はある。
しかし…………結局、拒否することは出来ない。
「…………わかりました。契約します。ただし、人を殺せとか、人道に背くことに対し、協力を求められても、協力しないことはあります。その場合はどうなりますか?」
「うむ。奴隷ではないから、無理やり従わせることは出来ないから心配しなくて大丈夫じゃ。互いに協力する。敵対しないことが目的じゃな。あと、人道に背くようなことは頼まんよ。まあ、情報提供と、逆に情報発信を頼むこともあるのじゃが……きちんと説明し、納得した上での協力要請じゃな。都度、報酬も払おう」
「僕の方は、今のところは何か頼むことはない、かな。今後、状況により変わるけど、嫌がる子に協力させても効率が悪いからね。調合については、パメラ婆の弟子として腕を磨いて欲しいな~」
調合、ね。なんとなく、これは本心だと思う。弟子がいなかったことは聞いてるので、レシピとか含めて継いで欲しいということだ。
私の方も目的と合致するから嫌ではないけれど。パメラの弟子……ここが大きいようだ。師匠、やっぱりすごい人だ。
「わかりました」
「じゃ、この紙にサインして血を垂らしてくれる?」
「………………できました」
契約書は普段ならきっちり読んでからするけど……ここでは、相手の条件に従うしかないので、さらっと見て、説明通りだったので、サインした。
2枚あって、ヨーゼフさんとの契約とラズ様の契約は別々のものだってこと、あと、4つの条件以外にもう一つ、王国の所属となることが書かれていた。
契約は、双方の合意がないと破棄出来ないというのが怖いけど。それでも、こちらの世界での身の安全を考えれば、破格の取引だろう。
お互いの利害は一致……してないよね。
今のとこ、私にかなり有利。話を持ち掛けてきた方が不利というのは可怪しい気がするので、私が気づいてない何か、あちら側のメリットがあるはず。
とはいえ……分からない物は仕方ない。契約をした以上、信用を害すことのないように気を付けよう。
「すまんの。では、こちらから話をするが……協力者としたのは理由がある。……が、今はまだ話せんので、異邦人の話に戻そうか。まず、異邦人たちのうち、だいだい7割くらいが〈天運〉又は〈天命〉というアビリティを持っていることを鑑定で確認している。口頭でも確認したんじゃが、本人たちは自覚がない」
「天運……天命…………ユニークスキルですよね」
幸運の上にあったんだよね、たしか。
運だから気になったけど……天命って運命とか、そんな意味だから全然興味なかった。
でも、7割の人が取る? あり得ないよね?
私としては、運が良くなりますようって考えだったけど。そもそも、運が良くなりたいと考える人がそんなにいると思えない。謎のユニークスキルをわざわざ取るとか、ないよね。
「どんなアビリティだか、わかる?」
「いえ、先ほども言いましたけど、ユニークスキルもですけど、魔法や技能、アビリティはまったく説明がなかった……能力は私の予想で取ってます。それと、一度選択したら、解除もできないので……詳細はわからないまま選んでます。……〈幸運〉の上に〈天運〉が表示されていたことを覚えていますが、それを取りたいとは思わなかったので」
「天運を持っていない者はお嬢ちゃん以外にもおる。共通しているのは、300Pとユニークスキルの認識があるんじゃ。天運と天命を持つ者は、何かを割り振ったことは覚えているんじゃが、具体的なポイントを使って割り振ったことを覚えとらんのじゃ」
つまり……7割が記憶あやふやってこと?
この町にきたとき、20人くらいいたよね?あれから増えたとしても……30人とか。
そのうち、3割とすると、7,8人しか情報を持っていない?
「……記憶がないってことですか?」
「うむ。記憶力が悪いという問題ではなく、記憶にないようじゃ」
「……私が30ポイント分を覚えていないのと同じですか?」
「そうじゃの。指摘するまで違和感はなく、指摘しても覚えとらん」
「ウソでもないから困るんだよね。むしろ、天運持ちじゃないのは、鑑定受けたがらないしね」
うん?
持ってないのが分かってる時点で、鑑定してるよね? どういうこと?
「どういうことですか?」
「鑑定とは同意があれば、詳しい情報がわかる。じゃが、同意がなくとも能力値に差があればある程度は情報を得ることはできるんじゃ」
「同意がない状態で先に鑑定したんだよ。特に、アビリティ……ユニークスキルをね」
一番重要なのは、ユニークスキルか。
おそらく……いくつか持つことができる。『嗜みを複数もつことができれば人間兵器』とギルド長の言葉をそのまま受け取るなら、複数もつことが不可能ではないという認識。
そこを確認したが、〈天運〉という謎のスキルを持つことが確認できた……ということかな。
「……えっと。ユニークスキルが、重要ということですか? 技能や魔法は?」
「そうじゃのう。まず、前提として、牢に入っている異邦人たちの能力は調べておる。そこで、初期レベルではありえん、アビリティや技能・魔法を持っていることは確認しておる。初期レベルで高い技能や魔法も脅威じゃが、お嬢ちゃんのいうユニークスキルの方が上じゃな。そして、先に鑑定していることを悟らせるわけにはいかないからのう。こっそりと鑑定しておる。もちろん、鑑定を受けることに同意したものは、さらに詳しく技能や魔法も確認しておるのじゃが……お嬢ちゃんの話では、好きにユニークスキルを選べたのじゃろう? なぜ、皆同じなのかも不可解じゃ」
確かに、全員のステータスをばれずに鑑定なんて出来ないか。
断られることも考えて、ユニークスキルだけでもというのはわかる。
そして、そこで発覚した〈天命・天運〉という謎のユニークスキルを大多数が持っている。
その効果がなにか、気になるのは当然だよね。
「そこで、天運・天命持ちに確認し、その効果を調べようとしたけど……不明ですか?」
「そうじゃのう……何でもいいので、心当たりはないかのう?」
天運・天命……たしかに、7割もの人が自分からそれを取るとは思えない。何も情報がないなら……。攻略情報みたいに、何か情報があるなら別かもしれないけど……あの空間で、そんな言動は無かった。
なら、ステータスを選ぶときに、何か仕組みがあって天運・天命を選ぶように出来ているということかな。特に覚えはないけれど……。
「……すみません。特に心当たりとかはないです」
「そうか。では、何か思いついたら言ってくれるかの。こちらで把握したステータスを調べたが、割り振りのポイントは同じようにレベル1なら10、レベル10なら220として、鑑定した技能・魔法・アビリティをポイントとして計算してみたんじゃ。じゃが、持っておるポイントは100~300Pとばらばらじゃな。全員が同じポイントを持っていたとは思えん」
う~ん。
相談しながら決めてる人もいたから、全員が同じ条件であることは確実。でも、私も何かに振ったことを忘れてる。もやっとするが、何にポイント使ったかを覚えてない。
でも、相手方の主張もわかる……。同じ条件ではない、そう考えた方がしっくりくるんだろう。
何か見落としていることとかないか。
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