第14話 東の森の異変



「……ちょっと…………なにがあった……」


 セージの葉を採取しつつ、魔物を倒して奥へと進んでいたが……。

 さきほど、少し大きめのワイルドボアが出てきた。レベルが高い個体の可能性があると思い、木が密集している西の方に逃げ、突進攻撃を出来ないように、狭い場所に追い込み倒した……が、ふと周りを見たら、周囲がだいぶ荒らされている。


「う~ん。セージの木から落ちた葉……無理やり取ったか、落とされた若葉が多いかな。これじゃ、使えないんだよね……ここらへんは冒険者の足跡いっぱいだし、木の枝とか無理やり折って、この道進んだのかな」


 目の前にあるのはセージの木。この木から落ちる〈セージの葉〉は調合の材料であり、今日の採取の目的物であるが……木の周りには不自然に大量の葉。しかも、手に取って裏側を確認すると……若葉であることがわかる。


 足跡を見ると、何種類かの靴の跡があるから、パーティーを組んでることは間違いなさそうだけど……。どうも、森林破壊を気にしないで突き進んでいるようだ。


「使えるセージの葉を探す方が大変…………若葉だと必要な要素が足りないんだっけ……とりあえず、使えない若葉は根本にまとめておくくらいしかないかな……」


 1枚1枚の確認をしてないけど、ぱっと見て、使えないことは間違いない……。

 ここら辺の魔物も少し怒っているように見える……誰だって、自分の縄張りを荒らされたら嫌だよね。仕掛けてこない限り、こちらから倒すのはやめておこう。


 あたりを調べながら、被害が広がっている場所をしらべて地図に書き込んでいく。


「さて、ここらへんが最奥かな。崖でこの先はいけないし……魔物は特にいない。このまま反対側も調べてみないと。何もないといいけど」


 暗くなるまで調査をしてみたが、一部が荒らされている以外には異常はなさそう。まあ、中腹から奥にかけて荒らしているのが不思議だけど……入口付近はそのままに、途中から突然、荒らし始めたみたいだ。


 最初は剣とか刃物での傷が多かったが、一部は魔法も加わったようだった。というか、森では、火魔法は使わない方がいい。木々が焼け焦げていたので、山火事とかなる可能性もあるよね。周囲に水たまりが出来ていたので、一応、消火はしたようだけど。


 魔物は思っていたより少ない……というか、魔物も倒されてるから減ったのか。

 現在は荒らしてる人がいないので、わからないけど……報告して、判断は任せるしかない。



 なんだか、面倒なことになっている。これ、報告しても大丈夫かな……。

 巻き込まれるとか、疑われるとか……う~ん。


 巻き込まれたとしても死ぬことはない……かな。直感さんを信じよう。




「マリィさん。戻りました」

「おかえりなさい、クレインさん。どうでした? 採取できました?」

「えっと、報告したいので……ちょっと人がいないとこを希望します」

「わかりました」


 ギルドに戻って、マリィさんに声をかける。ついでに報告のために、人がいないとこを希望したら、あっさり頷いて、奥の部屋に通された。


 うん。マリィさんだけだと、ちょっとほっとする。冒険者の人たちって、基本的に厳つくてちょっと怖い。気さくに挨拶してくれる人もいるので、返しているけど……。

 ギルド内には何人か冒険者がいたけど、この報告内容……他の人たちに聞かせない方がいい気がする。


「それで、わざわざ人がいないとこということは……採取できなかったとかです? クレインさんが出掛けたあとに、大量に納品があったので、そういうこともあるのかと……」

「えっと……そう、ですね。納品……やっぱり、無理にとったのかな……」

「クレインさん?」

「えっと、まず、東の森の状態から報告していいですか?」

「ええ、お願いします」


 真剣な表情を作り、相手の目を見ながら、ゆっくりと聞き取りやすいように心掛けて。

 疑われるような言動はしない。よし……言うぞ。

 


「東の森の魔物は、スライム、大芋虫、大ネズミあたりが多かったです。ゴブリンもいましたが、少数でした。特に集落などはなさそうでしたが、深追いはしてません。ワイルドボアは少し大きいくらいのを倒しました。東の森を一通り周ったつもりですが、魔物は、気が立っているのは多かったですが、生息しない魔物がいるとか、数が多いということはなかったです。初めて行くので普通がわからないですが、西の丘よりも魔物は少ない印象です」


 マリィさんは話を聞きながら、メモを取っている。

 まあ、上司に報告するのだから、当然だよね。私も一応書いてきたんだけど、どうしよう。渡しそびれてしまった。

 まあ、最後に渡しておこう。自分の控えはいらないよね。


「う~ん。魔物が少ないのは気になりますが……何故、気が立っていたんでしょう? 全部の地域で、その状態でした?」

「入口の方は異常なしです。入口から西側の中腹から奥の方、やや木が密集しているあたりに人の足跡がたくさんありました。すでに人はいませんでしたが、木を傷つけたり、根っこを切断したりと、争った跡もあり、荒らされてるように見受けました。森林が破壊されていて、そのあたりの魔物も好戦的で怒ってるように感じました」

「んん? なるほど?」

「荒らされてると判断した理由ですけど、無理やり道を作ろうとしたのか、剣とかの刃物で木や葉、根っこが折られたりしていて、それが平行に2本作られていて、予想ですが、二人が競って作ったものではないかと……それと周辺のセージの木は、無理やり葉を取ろうとしたのか、若葉が大量に落ちていました」

「ええ!?」


 セージの木はやっぱり、おかしいよね。

 若葉は使えないことは、普通なら知ってる。実際、若葉だけがかなりの量残ったままって、使える〈セージの葉〉だけは持っていったとしても、やってることがおかしい。


「手が届く範囲の葉は無くなっていて、上の方だけ、葉がついてましたけど……とりあえず、若葉は集めて木の根元に置いておきました」

「えっと……若葉というと……」

「一応、何枚か持ってきましたけど…………これです。まだ、葉が柔らかく、必要な効能が抽出できないので調合では使えないです」

「たしかに……〈セージの若葉〉ですね。……クレインさんはまだ〈鑑定〉ができないと聞きましたが、よく見分けられましたね?」

「ああ。セージの葉は、裏側を見ればすぐにわかりますよ? 裏側の縁の部分、色が薄いので。この縁の部分が無くなって、2日経過すると自然に落ちるそうです。縁の部分が残っている〈セージの葉〉は、普通に調合すると品質が下がるため、調合でひと手間必要になるので、購入するときは縁の部分を確認するように教わったばかりです」


 〈セージの葉〉は、調合の基本材料の一つ。しかも、長期保存に優れているから扱いやすい。ただ、木から離れた時点で品質が固定されてしまうから、早いうちに採ると、熟すことがないので品質が悪いままになってしまう。調合に使おうとすると手間だけかかる。


「ま、待ってください。セージの葉であっても、縁の部分が残ってることあるんです?」

「はい。縁が5㎜以上あると若葉で、5㎜未満は〈セージの葉〉になると教えてもらいました。昨日、師匠がわざと混ぜておいて、縁が残った状態のものを調合して、品質悪くしちゃったので間違いないです」

「………………クレインさん。少し、席外しますが待っていていただけますか?」

「はい。いいですよ」


 慌てて、部屋を出て行ったマリィさんを見送り、〈セージの葉〉のメモを取り出す。師匠から扱い方を聞いてメモしたもので、今、マリィさんに伝えたことも書いてある。間違ってないことを確認して、冒険者ギルドで必要な情報のみをメモに書いていく。

 マリィさんにはこのメモを渡しておけば、問題ないよね。


 しばらくして、マリィさんがセージの葉をもって戻ってきた。


「……クレインさん。こちらの〈セージの葉〉なんですけど、調合ってできますか?」

「縁の部分がまだ薄いので、そのまま調合するとたぶん品質下がります。師匠に教わった方法を使えば調合はできますけど……倍以上の時間がかかるので、これで作るのは勧めません」

「……他の薬師さんの場合はどうですかね?」

「えっと……私は師匠、パメラ様しか知らないのでなんとも。薬師ギルドに確認を取った方がいいと思います」

「……ですね。そうします。ちなみに、……セージの葉……しばらく、取れないとか……あります?」


 うん。そこだけど……私だって、師匠から教えてもらったのは、調合の仕方、ひいては若葉が使えないって話だけで、セージの葉の生え変わる時期まで聞いてるわけではない。ただ、普通に考えて……ゲームじゃないんだから、1日たてば元通りに葉が生えますってわけにはいかないはず。


「えっと、多分そうなりますね。西側の中腹から奥にかけて、7割方の木が葉を落とされていたので、そこ一帯はそうなると思います。ただ、東側とか入口付近は大丈夫だったので、100枚は持って帰ってくるのはできたので……一部だけ、ですかね」

「…………まずいですね。ちょっと本格的に調査したほうがいいかもしれません」

「すみません。一応……調査した内容です。大雑把な地図ですが、書いてみたので……裏には倒した魔物と数、採取が出来たセージの木を記載してます。他の素材採取した物も記載していますけど、被害はほぼセージの木だけです。あと、これがその魔石になります。あ、ワイルドボアだけ解体を依頼する予定です。お肉と皮が欲しいので」

「お預かりしますね……魔石はこちらの紙と確認後に返却します。他の素材についてはどうしますか?」


 マリィさんの顔色が悪い……まあ、これを上司に報告ってしたくない。

 私だって、マリィさんだからいいけど、他の人には怖くてできない。


 ……私の担当というだけで、こんなことを上司に報告しなくてはいけなくなったマリィさんにはちょっとだけ同情する。


「師匠に渡して、要らない物はあとで売却しにきます」

「わかりました。明日はこちらに来れますか?」

「えっと、必要なら午前中に顔出します。午後は師匠のところに行くので難しいです」

「では、午前中に来ていただいてもいいですか?」

「わかりました」


 ……明日、何を聞かれるんだろ。

 怖いけど……第一発見者って事情聴取受けるのは仕方ない。私がやったんじゃないということだけは主張するけど……誰もいなかったので、証明とか難しい。

 ただ、私だって言い分はある。使えなくするなんて勿体ないし、そもそもなんとか100枚は採取したけど、自分用には確保するのを諦めたので、得してない。

 


 ……実際、傷薬はセージの葉でなく、百々草で作れるから、私はそこまで困らないけど…………これから、どうなるのか。


 あんまりいい予想がしない……何事も無ければいいけど。


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