第10話 解体って奥が深い



 西の丘からの帰り道でも魔物を退治していたら、LV4になり、〈採取LV1〉を覚えた。

 聖魔法も上がったけど、部屋掃除の浄化と、複合魔法の〈乾燥〉をさせた結果かな。他の魔法は使ってないから伸びない。実はLV3になったときに〈観察〉は覚えていたので、とりあえずの目標は達成した。


 魔物の討伐については、問題なく処理ができていたとお墨付きを貰えた。ただし、今後の課題として魔法の使い方、複数・遠距離の戦闘については今のままならソロは危険とも言われた。戦闘については、ソロでやるなら……と言っているので、ソロとパーティーで考えることも違うようだ。レオニスさんの生き残りたいならという言葉が重い。

 何人も知り合いを失って、A級まで上り詰めたんだろうか。


 申し訳ないが、私には仲間を失っても続けるなんてメンタルが無さそう。そもそも仲間と上手くやってく自信はない。



「クレイン。ほら。今日とった獲物ギルドに行って、解体してもらってこい。あと、やる気があるなら、そのうち解体の講習受けてみろ」

「わかりました。後でラビットのお肉、お届けしますね」

「いや、お前が狩ったんだろ」

「食べきれません……昨日ご馳走になった分だと思ってください」

「わかったわかった……。これで講習も終わりだ、きっちり冒険者として稼げよ?」

「はい! 頑張ります」


 町の入口で、師匠とレオニスさんとは別れた。レオニスさんはギルドに戻る必要があるのでは?と思ったけど、今日は講師をする届出を出しているから顔を出す必要はないらしい。

 とりあえず、ギルドに行って解体をしてもらおう。「兎の肉は美味しい」と師匠も言っていたので、師匠の分とレオニスさんの分に分けて、お裾分けに持っていこう。



「すみません。解体をお願いしたいんですけど……」

「あ? なんだ、お前?」


 ギルドの裏にある解体の作業場に行くと、ちょっと強面な髭面のおじいちゃんがいた。

背も成人男性にしては低いし、耳がちょっととがっている。ファンタジーでよくいる、ドワーフなのかな。作業服がよく似合っている。


「えっと、新人の冒険者です。今日取れた魔物を解体お願いしたいので……えっと、ホーンラビットが6体とヤコッコが2体です。お肉が欲しいのでお願いします。あと、おっきなトカゲ……」

「……こいつの解体か。30分ほどかかるから、適当にまってろ」


 袋から今日狩った魔物を取り出す。

 食べられる魔物の肉は、解体をお願いする。できれば、次から自分で出来るように見せてもらいたい。


「見ていてもいいですか?」

「あん? 邪魔になるだろうが」

「えっと……邪魔しません。解体の仕方覚えたいんです。あ、きちんと講習代をお支払いします」

「……ちっ…………まあいい。おら、講習してやるから見ていけ。今日の解体分以外にも、3時間まで見学して構わねぇ」

「ありがとうございます」


 素早くナイフで皮を剥いで、解体をしていくが、見やすいように角度を調整して、説明をしながら器用に解体している。一人相手でもこんなに丁寧に説明してくれる。すごくわかりやすくて助かる。す~っとナイフが入って、骨と肉が分かれていく。


「こんなとこだ、わかったか?」

「あ、えっと、正直早くてわからなかったので……その、次、ラビット1体を横でマネして解体しながらとかでもいいですか?」

「……おう。俺は手を止めないが、やってみればいい……あと、今後も解体素材を自分で持ってくるなら横で練習しても構わない。講習代はかかるがな」

「それはもちろん、お支払いします」


 自分の持っていた素材はすぐ終わってしまったけど、他の冒険者からの魔物の解体を見せてもらい、色々と教えてもらった。


 ホーンラビットの角を折っていたことを聞かれたので、パメラさんに納品すると説明をしたら、まじまじとこちらを観察された。知り合いかと聞かれたので、レオニスさんの紹介と伝えると……はっとしたように私を見て、その後、ぐっと何か言いたそうにしてから、息を吐き出す。

 そして、パメラに納品するならという理由で、他の素材についても、取っておくと良い部位を教えてもらえた。理由はわからないけど、何か事情があるのだろう。


 冒険者ギルドでは、依頼の時に必要だと言わないと破棄してしまう。ただし、必要な部位分だけ金額も割増になる……うん。今回みたいに先に取っておこう。素材は大事。無駄にしない。



「コツというわけではないが、お前さんの場合はもう少し力がないと厳しい。鍛えてこい」


 講習の最後のアドバイス……はい。力を入れずに、すぅ~っとナイフが入っていた気がするが、一定の力は必要らしい。

 うん。難しいね……要練習。とはいえ、ホーンラビットとかなら、町出ると結構いるので困らないけどね。


「ふん。まだ、腕は荒いからな。たまに顔を出すようにしろ」

「はい、ありがとうございました」


 最後の方は、結構さばけるようになっていたと思ったが、まだまだらしい。週に1回くらい顔を出して、練習するようにしよう。魔物も色々と種類を用意しておいた方が覚えるのにちょうどいいかな。

 講習代と解体代で120Gだった。解体代、安いなと思ったけど、そもそも素材を傷めないためにギルドでやっているので、高くすると依頼せずに、自分達でやって素材を傷める。そんなことが無いようにすることが目的とのこと。なるほど。

 まあ、希少な魔物ならそうなるのかもしれない。そんな予定はないので、自分で覚えよう。

 次にレベルが上がった時に〈解体〉を覚えるといいんだけど。



 その後、肉をお届けに行くのが遅くなり、レオニスさんには、無理するなよと、呆れられた。家に帰って、今日は頑張ったし、ゆっくり休もう……と思っていたが…………。



「×××! ××××××!」

「×! ×××××××! ××××××××!」


 家に近づくと、大声で怒鳴り合っている声が聞こえた。

 すでに、日がくれてから数時間は経っているので、深夜とは言えないがだいぶ遅い時間だろう。この時間になると正面の倉庫は閉まっていて、人の気配もなく静かだった。隣の工房の方は、少量のトントンと音が聞こえているので、まだ作業をしている。


 それにしても、怒鳴り声は男女のようで、どんどん近くなってきている。

 近所で喧嘩してるのかな~と思いながら、自分の家の前までくると見知らぬ男女が家の前で怒鳴りあっていた。


「えっ? なんで?」


 思わず口から出た言葉に気づいた男女が、こちらを見てくる。


 一人は初老に入るくらいの美魔女系。昔は色っぽいお姉さんとしてモテてそう。着ている服も、この町では高級だとわかる光沢のある布で作られたワンピース? ドレス? がオシャレ。ピシッと立っていてスタイルもいい。

 もう一人は背の高い白髪で髭をたくさん生やしているお爺ちゃん。背中に大きなハンマーを背負っていて、頭には大きなゴーグル。服は防火服のような厚手の生地の作業着。おしゃれとは無縁な職人のようだ。

 どうみても、お互いに関わり合いが無さそうな二人が、何故か、家の前で、怒鳴り合っていました。

 そして、こちらに気づいて睨まれてます……どうして?


「…………あ、あの……うちになにか?」

「……お前さんがこの家を借りたっていう変わりもんか」

「ようやっと帰ってきやんした。お待ちしましたわぁ」

「え? ……あの?」


 ただ……お待ちしましたわと言われても……知り合いじゃない。美魔女さんはにっこり笑って私の腕を引っ張って家の中に入っていく。その後ろから背の高いおじいちゃんも入ってきた。

 あれ? 鍵閉めてあるのに、なんで入れるの?


 え? 私、なんかしたっけ?



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