第8話 町の外へ



 町の外へ。門から続く、街道を歩いていく。

 街道といっても、立派な道路とかではなく、踏み固められた土の道らしきものがあるだけだ。草が生えていないだけで、雨がふればぐちゃぐちゃになり歩けなくなるらしい。

 王都の近くやもっと立派な市街に行けば、もう少し立派な道があるとのこと。あと、領主が道の整備をしているかどうかで、だいぶ違うらしい。

 この地方の領主は、各村や町に向かう道と迷宮ダンジョンへの道などもそれなりに整備してくれている方だという。


 ただし、今から向かう場所は町方向でも、迷宮ダンジョンでもないため、歩きにくい道が続くらしい。


「レオニスさん。前に何かいます!」

「おう。あれはホーンラビットだな。1体だし、一人でいけるだろ。倒してみろ」

「はい!」


 草むらから顔を出した兎に近づき、剣を構える。こちらに気づいて突進をしようとしてきたので、レオニスさんとパメラさんが射線に入らないように少しずつ横に距離をとる。


「なんじゃ、戦えるのかい」

「ばあさん、戦えないなら冒険者にはなれないだろ」

「どうも冒険者っぽくないでな。真面目そうじゃし、話を理解しておるようじゃから薬師見習いとしては使えそうじゃな」

「その通りだけどな。でも、戦闘もそれなりにいけるぞ、あいつ。性格的には向いてない可能性もあるけどな」

「ふむ……確かに1対1なら問題はなさそうじゃな」


 ホーンラビットは、動きは速くない。角をこちらに向けて突進をしてくるので、避けて、後ろから攻撃していたら、無傷で倒せた。

 怪我しないでよかったけど……数が多いと戦闘がきついかもしれない。銅の剣ではあまり切れ味が良くないので、一人でもなんとかできるように対策を考えないと怪我しそう……。


「おい、クレイン。ぼ~っとしてたら危ないぞ。どうしたんだ?」

「レオニスさん! 倒せました。初めてだったので、ちょっと驚いてました」

「おう、お疲れ。外はいつモンスターがでるかわからないから、突っ立てたら危ないぞ」

「そ、そうですよね。気を付けます」


 倒したホーンラビットをどうすればいいのか、悩んでいると二人が近づいてきた。

 周りに魔物はいないみたいだけど、この倒したホーンラビットはどうすればいいんだろう。


「戦い方は悪くないが、複数で出てくる場合もあるからな。もう少し、周囲も気にするだけの余裕が欲しいな」

「頑張ります。えっと……倒したのはどうすればいいですか?」

「ひよっこ、ホーンラビットの角の部分を取っておくんじゃ」

「え? 角ですか?」


 パメラ様が死体を持ち上げて、頭の部分を見せる。さっき突進してきたときも、この角で攻撃しようとしていたのでわかるけど……何に使うんだろう? 飾りとかにするには、しょぼいと思う。


「よくみるんじゃ……ほれ、額のこの部分…………根本が固くなってるじゃろ。ここが魔力溜り…これは中級の薬に混ぜると少し効果が上がる。もっと立派な角なら効果もさらに上がる。使える部位はとっておくのが基本さね」

「そうだな。あとは魔石も取り出した方がいいんだが……〈解体〉のアビリティはないか?」

「えっと……」


 〈解体〉のアビリティ……うん。

 覚えたいけど、適当に魔物の死体を解体していれば覚えるんだろうか。


「ないなら、今は時間がないからいい。とりあえず、こいつは袋に入れておく。肉も食えるし、解体はギルドにしてもらうことも出来るからな」

「どれどれ。ひよっこ、角の部分はのぅ、こうやって根本に刃を当てて、こうするんじゃ。覚えておくんじゃ。ギルドで解体しても、角は貰えんからの。先に取っておくんじゃ」


 パメラ様はどこからか取り出したナイフを額の固い部分の横に当てて、梃子の原理でひょいっと剥がすように角を取り出した。

 結構簡単にやってるけど、薬師だよね? 〈解体〉まではいかないけど、これって普通のことなんだろうか。


 

「おい、ばあさん」

「は、はい、ありがとうございます。簡単に取れるんですね」

「慣れだね。やってればコツも分かってくる。素材は有効に活用するために必要な部位は覚えておくべきじゃ。魔物には魔石以外にも、魔力が貯まりやすい場所が個々にある。それらの素材は薬の効果を高めるために使える。もっとも、その分調合が難しくなるから、まだまだひよっこには扱えん。まあ、すぐに悪くなるものでもないから取っておくさね」


 たしかに。有効活用するのは大事。使える素材なら、ちゃんと取っておこう。薬の効果を上げるなら、すごく重要だ。

 ホーンラビットは、弱い魔物で狩りも簡単、お肉も食べれて、角も使える。これからも積極的に狩っていこう。


「はい。ありがとうございます。〈解体〉も覚えるべきですね」

「いや、冒険者はほとんど覚えてないからな。まあ、危険を侵さないで近場の魔物を狩って稼ぐなら、覚えたほうがいいってだけだ」


 レオニスさんも〈解体〉をちゃんと覚えてるとのこと。

 うん。アビリティを覚えても、ギルドに任せることは出来るらしい。毛皮とかがお金になる場合には、自分でやるよりも任せる方が、素材価値が高くなる。逆にお肉とかが目的なら自分でやるくらいでも十分らしい。

 まあ、下手に解体されては困るというのもわかるので、頷いておく。


「おら、前にスライムがいる。複数だぞ」

「はい! ……あれ?」

「一撃じゃな」

「まあ、そうなるとは思ったがな」

「えっと……破裂しちゃったんですけど」


 剣で、すぱっと切るというより、シャボンが割れるかんじで破裂した。

 そんなに強く切りかかったわけじゃないんだけど、おかしいな。


「小さいスライムは弱いからな。ほら、このぶよぶよしたのが、スライムの核だ。討伐クエストは討伐した確認の部位が必要になるから、これを持って帰る必要がある」

「わかりました。パメラ様、スライムは何か役に立つ部位はありますか?」

「錬金にはよく使うが調合は使わんのう。あとは、スライムゼリーも錬金素材さ。ドロップしたら納品しておけばええ。ほれ、この魔石は持っておけ」


 錬金に使うなら、使い方教えて欲しいけど……。

 スライムならすぐ倒せるみたいだから、必要になったときでいいか。


「魔石……?」


 あ~なんか、紫色の小さな粒だけど。石?

 そこまで大きくないよね。ビービー弾よりも小さい。粒だよね。キラキラ光っているので、綺麗だけど。


「魔石は魔物が必ず持っている。この魔石を体から取り出すと、魔物の死体は放置していても1時間やそこらで消滅する。魔物の素材を回収後、魔石を身体から取り除くのが基本だ。B級以上の魔物はきちんと処理しないとゾンビとかになることもあるから、魔石だけは確認しろ。あとは、魔石は換金してもらえる。でかくなればなるほど高いぞ」

「このちんまいのでは、金にはならんから、まだ持っておくだけさね……まとめて売るなら、ギルドも多少は金を出してくれるさね」

「わかりました。えっと、さきほどのホーンラビットは?」

「あれは、皮も肉も使えるから、魔石を取り除かずに持ち帰って処理したほうがいい。もちろん、荷物に余裕があればの話だがな。スライム討伐を受注してるなら、20体くらいは狩っておくか。10体で20Gにしかならないから、受けるやつが少ないしな」

「そうなんですね……でも、お金になるならちょっとでも狩っておきます」


 スライム狩りが必要かはわからないけど。

 素材採取が目的でも最低限の強さは必要。実践を積んでいかないと、強くなれない。

 レオニスさんの話だと、年に1,2回はスタンピードが起こることがある。それまでに戦えるようにしておかないと、巻き込まれて死んでしまう。


「ばあさんがいるから、ある程度魔物は避けていくが、スライムはいたら狩っておけ」

「このばあのことは気にせんでええ。ちゃんと魔物を倒しておかんと、今後困ることになるじゃろ」

「えっと……どうすれば?」

「……複数の場合は避けろ。1体なら積極的にいけ」

「はい」


 戦闘をしながら、目的地へ向かっているとレベルがあがった。

 LV2に上がり、〈MP不足〉を覚え、ステータスがあがった。思ったよりも結構あがったけど……やっぱり防御が低い。力も低いけど……、上がった値をメモしておいて、あとで検証しよう。


 しかし、アビリティに増えた〈MP不足〉ってなんだろう?

 昨日は浄化を使って、MP回復したら、また使うって感じで、ほぼ枯渇していた。今日はまったく使ってないから、きちんと回復してるけど……昨日のが切っ掛けだろうか。


「う~ん」

「クレイン?どうした?」

「あ、えっと、レベルが上がったら、なんだか新しくアビリティを覚えたみたいで」

「ああ。そうか。説明していなかったな。まず、新しい技能や魔法・アビリティっていうのは、レベルが上がった時に覚えるもんだ」


 つまり、持っていないアビリティでも覚えるチャンスはいくらでもあるのか。

 とりあえず、〈MP不足〉だけってことはないだろう。SP不足とかもあるんだろうけど……今は試すことは出来ないか。一人のときに試してみよう。HPについては、不足状態にするのは怖いから検証しない。

 死んでしまっては元も子もない。


「そうなんですね。どんなものがあるとか、わかりますか?」

「人によって覚えられるものが違うからな……そいつの強さを決めることにもなるから、アビリティの種類は公表しない。貴族とかなら、そういうのを管理してるんだろうがな」

「そうじゃな。ひよっこ、ステータスとアビリティはあまり公表せんほうがええ。調合があるってだけで、冒険者ギルドに目をつけられたんじゃ。利用されることにもなるから、考えたほうがいいさね」

「は、はい」


 ステータスやアビリティは原則公開しない。

 知識不足だから、色々聞いてみたいけど、藪蛇になる可能性があるのか。

 

 調合があるから目を付けられた……なるほど? 家の紹介の時にも言っていたけど、薬師が不足しているという情報は間違いないか。


「一応説明しておくと、アビリティっていうのは、覚える条件は人による。どうやっても覚えないこともある。……まあ、基本的にはそいつのステータスや覚えた技能とか、熟練度に左右されると言われてる。同じように戦っていても、ステータスが高くても、覚えないときは覚えない。逆にステータスが低く、関係なさそうなのに一発で覚えることもある。運が関係あると言われているが、解明されていない」

「へぇ~……じゃあ、覚えたらラッキーってことでいいんですか?」

「ああ。熟練度については、強い敵と戦えば上がりやすいな。例えばだが、LV1でLV3程度の敵と戦うのと、LV10でLV3と戦う場合は熟練度に違いがでる。あとは、クリティカルを出したり、弱点を突くと上がりやすいらしいな」

「物を作るときは難しいものを作ると上がるさねぇ……まあ、失敗すると熟練度は少ないし、素材が無くなるのを考えると、難しいものを作るのがいいとは言えないがね」

「なるほど……」


 生産でもレベルが上がるのであれば、強いところで戦わずに、生産でレベル上げもありかな。難しいものを作るためには素材も貴重になってくるとか、バランスは考えないといけないようだ。

 メインを生産にした方が、安定した暮らしになりそうだけど……素材採取も自分でやるならレベルは必要となる……難しいな。


「技能とかアビリティはたくさん覚えておくといいぞ。ステータスも上がりやすくなる。まあ、いろんなことを何度も繰り返していれば、色々覚えるからな。ソロの方が自然と多く覚えられる」

「え? じゃあ、特化しないで色々覚えたほうがいいってことです?」

「いや、そうとも言えないのが難しいとこだな。実際、必要なとこを特化させて極めればボーナスもある。色々覚えればその分、熟練度の割り振りが減るとも言われているからな。まずは必要なことだけを特化させるのも冒険者ならよくある」


 色々と覚えると熟練度が分配されてしまい、メインで上げたい技能が上がりにくくなることもあるとのこと。うん。まあ、自分が上げたいのが上がるとは限らないってことかな。


 特化させて極めれば……ボーナスというのはステータス上の事なのか? それ以外の何かがあるのかもしれないが、二人とも説明する気はないらしい。


「ひょっひょっ……自分の好きなようにするのがええ。試行錯誤を経て、自分で成長させる。それが若いもんの特権じゃ。最初から楽しようとせず、自分で工夫してみるのが一番だよ」

「なるほど……まあ、ソロでやっていくので、特化させずに、満遍なくやってみます」

「ああ。お前は色々覚えておくのがいいだろ。〈採取〉や〈観察〉とかは必須だぞ。今日だけで覚えろよ?」

「え!?」


 〈採取〉や〈観察〉って、今日だけで覚えられるものなの?

 簡単に言ってるけど、どうやって覚えるものだか説明して欲しい。


「大丈夫じゃ。そこのレオ坊でも覚えられたからのう。お前さんはやる気もあるし、100回も草を摘んでいれば覚えるじゃろうて」

「100回?」

「ああ。アビリティ取得の目安は熟練度が100回と言われてる。まあ、200回、300回で覚えることもあるし、人によるけどな。ただ、雑に扱わず、目的意識をもって作業すると覚えやすい」

「はい。やってみます」


 魔法はMP、技能はSPを使うが、アビリティには技や呪文のように唱える必要はなく、MPやSPもかからないものも沢山ある。普段ちゃんとアビリティを使っているか、判断できないことも多いからこそ、きちんと使っているという意識をもつことが大切。

 魔物を狩ったり、植物を採取するときによ~く見ることが、〈観察〉を覚えるコツらしい。〈採取〉は草を摘むとかでいいが、素材を使えるようにすることを心掛ければすぐに覚えるらしい。

 

 なるほど。レオニスさんも覚えたのなら、私も頑張って今日中に覚えておきたい。頑張ろう!





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