第7話 採取日和


 翌朝。

 よく晴れた清々しい朝である。


 採取するには持ってこいの天気だ。

 準備をして、冒険者ギルドへと向かった。



「おはようございます、クレインさん。早いですね」

「マリィさんおはようございます。早いですか? さっき鐘鳴りましたし、9時ですよ?」

「ええ。ギルドは8時から受付ですが、昼過ぎに来る方が多いですからね」


 なるほど。冒険者って夜遅くまで飲んで、朝は遅いとか、そんな感じなのか。

 冒険者って時間とかお金にルーズそうなイメージがある。

 

 マリィさんに確認をしてみると、そもそも新しいクエストをギルド開始時刻の8時に出しているわけではなかった。緊急の依頼は、時間に関係なく、即時発行。緊急性がないものは、ギルド長の許可が下りるのを待ってからのため、お昼ごろと夕方に発行する。決まった時間ではなく、その日のギルド長次第。

 


 つまり、今ある依頼は前日の残りで、良い依頼は取られてしまっているので、うま味がないそうだ。私みたいな新人は常時クエストを受けることが多いので関係ないけど。



「この薬草採取の受注をお願いします。あ……スライム討伐も追加で」

「はい。わかりました。今回のクエストは常時発注されていますが、そうではないクエストを受ける場合、あちらの掲示板に貼られている受注の紙をお持ちください。依頼は早い者勝ちですので、ちゃんと確認したほうがいいですよ」


 掲示板……でも、Fランクの場所にはほとんど貼られてない。

 CとかBランクにいっぱいある。う~ん。需要があるクエストはこのランクらしい。

 護衛クエストはDランクとCランクで金額がだいぶ変わるので、どちらにも張ってある。モンスター退治はC以上が多かった。



「わかりました。あと、今日もレオニスさんの講習を受けますので、料金の支払いお願いします」

「はい。聞いております。2回分でお間違いないですか?」

「えっと、延長するようならまた払いに来ます。その、優秀な講師の方を独占してしまい申し訳ありません」

「大丈夫ですよ。職員は他にもいますし、こちらでも体制が整いましたから。ただ、レオニスさんは奥さんがいる方なので注意してくださいね」


 注意って何を?

 レオニスさんに惚れるなってこと? タイプじゃないよ?

 ディアナさんも、嫉妬深いタイプには見えなかったよ? どういうこと?


 よくわからないといった表情をしていると、「あれでモテるんですよ」と苦笑していた。


「新人の女冒険者に優しくして、惚れられちゃうんです。タンクで守ってくれるのも、ピンチな時なので、素敵なんだとか」

「なるほど? 元々冒険者していたから、お世話になる新人多いんですかね。昨日、奥さんにもお会いして、食事をご馳走になりました。ディアナさん、若かったのはそういう理由もあります?」

「まあ……お二人は同じパーティーを組んでいたのがきっかけですけど。詳しくは、知りません」


 ん?

 なんか、言いたくない感じ?

 にっこり笑ってるのに、ちょっと拒否感がある。


「レオニスさんにもディアナさんにもアドバイスをもらっているのできちんとお礼をしたいと思ってます……稼げるようになったらですけど」

「そうですね。なら、頑張らないとですね」

「はい」


 マリィさんにクエスト受注の手続きをしてもらい、待ち合わせ場所まで歩いていく。

 聞かなかったけど、昨日の昼頃には大勢いた冒険者が今日は少なかった。慌ただしい雰囲気もなかったので、ギルドはなにか手を打つようだ。

 いや、触らぬ神に祟り無し。私は無関係を装う。異邦人なんて知らない。




 待ち合わせ場所についたが、まだまだ時間がある。

 昨日もらった紙とペンを出して、マリィさんから預かったクエスト受注紙の中にある薬草の名前を書いていく。この中の薬草のうち、一定量を納めればクエストクリア。

 何が採取できるかはわからないけど、レオニスさんが大丈夫と言っていたので、なんとかなる。量が足りないなら、翌日とかにまた行こう。締切まではまだ日にちがある。



「お前さんがクレインかい?」

「あ、はい。クレインと言います。おばあさんは、今日、講師をして下さる方ですか?」


 声をかけてきたのは、かなり年配に見えるおばあさん。でも、足腰は丈夫そうだ。しっかり歩いている。

 私の名前を知っているということはレオニスさんが言っていた薬師の方。雰囲気も薬師っぽい、というか、黒いローブ姿がとても魔女っぽい?


「レオ坊の紹介と聞いたが、ずいぶんとひよっこさね。こんなのに任せられるのかね?」

「新人冒険者ですが、ちゃんとお世話になった分がお返しできるよう頑張ります。よろしくお願いします」


 姿勢を正して丁寧に挨拶をする。薬草の採取をするならお得意様になる可能性も高い。最初が肝心。信頼してもらえる、丁寧な接客が必要。


「ひよっこ、あんたは冒険者らしくないさね」

「えっと……薬草採取とかで日銭を稼ぐタイプの冒険者になる予定です」

「それを堂々というのがおかしいんだよ。戦えるのかい?」

「一応、技能はあります」


 なんだか、ちょっとグサッと刺さった。昨日から、私、冒険者っぽくないと連発されてる。

 そんなにダメな見た目なのか。ひよっこって言われるくらい、冒険者っぽくないようだ。


 技能があるという言葉にもかなり微妙そうな顔が返ってきた。戦えるようになるために頑張るから、信用して欲しい。



 冒険者ギルドにいた冒険者は、ほぼ男性だったから、女性冒険者が少ないことはわかる。でも、ディアナさんだって元冒険者。あの美人さんがやってたくらいだから、私がやっててもいいと思うんだけど。


 う~ん。小さいから?

 でも、13歳から冒険者になれるって、書いてあったから、もっと小さい子もいるはず。


 私の見た目は15,6歳くらいの見た目のはずなんだけど……中身もしっかりしてるつもりなんだけどな……何がダメなんだろう。



「まあ、無理じゃと思えば辞めればいいさね」

「あ、はい……あの、おばあさんのお名前をうかがってもいいですか?」

「わたしゃ、パメラ。ばあさんでもなんでも、好きに呼ぶがええ。」

「おばあさん……パメラさん……パメラ様…………じゃあ、パメラ様って呼びます」


 ばあさんと呼ぶのは、失礼だよね。すごく、こう……「高名な薬師です」って感じの人だ。

 レオニスさん、よく「ばあさん」なんて呼べるね。それだけ仲がいいと言うことだと思うけど。


「そうかい……で、おまえさんは何をしていたんだい?」

「はい。薬草の名前を書いていました。名前だけでも書いておいて、あとは実際に見たときに特徴とかを書けばいいと思って」


 メモしておけば、あとからでも分かりやすい。

 あまり、草とか花って種類知らないけど。今後、必要になる知識ならきちんと覚えたいというのもある。


「ふむ……では、一つずつ教えてやろう。まず、お前さん作れるようになりたいのが傷薬だろう? 傷薬に使うのは、薬草は主に3つ、例外が一つだね。どの薬草でも同じ傷薬が作れるが、それぞれ特徴があり、手間も変わるでな。百々草、セージの葉、ラゴラの根。このうち、百々草だけは少々面倒だね。町の外ならよく見つかる草で、すぐにダメになってしまう。根ごともってきて、きちんと保管しとけば3日くらいはもつかどうか。草の部分だけじゃと、1日程度しか持たないから、すぐに処理をしないと使えなくなる。そのせいで技術が廃れてしまって、最近じゃ作れるもんがおらん。ギルドに納めても無駄じゃが自分ですぐに調合するなら取ってくるくらいだね」


 なるほど?

 でも、簡単に手に入るならそれで作ればいいと思うけど……しかも、廃れた技術でも、この人は作れるってことだよね?

 即日作るというところがネックなのかもしれないけど、近場で見つかるなら、その日に取りに行けばいいだけだ。その辺の雑草で傷薬作れるなら、手早く高収入が約束されたのでは?


「百々草……はい。その取ってきて庭に植えておいたら日持ちしますか?」

「無駄だね。土を外からもってきても変わらん。植物は水がないと育たんが、町の水がダメなのか、枯れてしまう。根っこごと持ってきてあとは、生命力次第さね」

「なるほど……」


 言われたことをメモしていく。

 すぐに悪くなるけど、使えるんなら問題がないと思うけど……1日しかもたないってところが重要かな。ギルドに納品して、その後依頼者に納品という形では、手元に届くのが遅くなるから使えないってことだね。



「セージの葉は、出来るだけ拾っておくんだよ。セージの葉が一番扱いやすい。これは日持ちもええ、乾燥させて他の薬にすることもできる優れモノさね。薬草採取といえば、まずはこれのことを言うよ。ギルドでは5枚で10G。小遣い稼ぎにしかならんが、もともと木にたくさん葉がついておるから、他の物より量は取れるよ。ただし、木についてる若葉をとっても使えん。木から落ちている葉を持って帰るんだよ」

「セージの葉……はい。書けました。ありがとうございます」


 言われたことをメモしていく。現物については、見つけたときに教えてもらおう。

 視点が製作者側なので、注意事項も分かりやすくて助かる。今後を考えるとこの出費は必要経費なんてものじゃない、破格のお値段!



「次はラゴラの根じゃ……」

「ばあさん、クレイン。そろそろいいか?」


 いつの間にか、レオニスさんが来ていたようだ。全然気づかなかったが、そろそろということは、結構前から来ていたのかもしれない。


「なんじゃ、レオ坊。今は説明している途中さね」

「それはわかるが、実際に見ながらのがいいだろ」

「生意気な坊主さね。ついこの間まで鼻垂らしていた小僧が」

「いつの話だよ! おら、行くぞ」


 レオニスさんの言葉こそ、雑に言っているけど、パメラ様の荷物を当然のように自分の魔法鞄に入れ、立ち上がるときに自然に手を出して、支えているあたり、結構慣れているようだ。

 護衛任務というよりも、お年寄りに対する気遣いだけど。本当に大切にしているというのが分かる。


「おはようございます、レオニスさん」

「おう。おはようさん。今日は天気も良さそうだから、採取日和だ。ちゃんとついて来いよ」

「はい。よろしくお願いします」

「ああ、町の外では魔物が出るからな。俺はばあさんを守るから戦闘はおまえさんが一人で倒してみてくれ」

「頑張ります」



 気合を入れて、町の外に向かった。

 ここから、初めての魔物狩りと素材採取だ!


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