第4話 太刀打ちできる訳がない



 目が合った瞬間に凍てつく気配が纏わりつき身震いをする。これが殺気っていう奴なのか…身体が重く感じるが、相手からは目を離さない。


 お互いに武器を構えたが、あちらは仕掛けるつもりはないようで、こちらの様子を見ている。講習なので、こちらの技量を見た上で指導をするなら、当たり前か。


 殺気は変わらずに放たれているが、このままでいるわけにもいかない。戦ったことがないとか、冒険者になったのに言えない。自分でこうなる事も想定し、冒険者になることを選んだ。

 アニメとかの見様見真似で剣を振りかぶって、仕掛ける。



 ……うん。

 これはもう、どうしようもないくらいに実力差があって……正直、どこをどう直すとか以前の話だった。


 斬りかかっても、あっさり盾でガードされ、逆に攻撃が来る。最初は寸でのところで止めてくれたが、二度目からは腹とか腕に一撃が入る。手加減してくれているので、動けなくなるほどの痛みではない。


 何度も攻撃を受けながら、少しずつ攻撃に備えるために後ろに下がったり、盾を構えてみたりと自分の動きを変える。

 だが……重い攻撃に手がしびれる。実はこっちの方がきつかった。


 距離を取ると追ってこないのは、実力を見るためだろう……だけど、強すぎて、相手にならない。


 距離を取り続けても講習の意味がない。

 再び攻撃をしかける。……適当に剣を振るうだけでなく、スラッシュとか技を使っていくが、防御している部分に当たるだけで全く効果はない。カウンターもきまらない。

 素早さも相手のが高そうだけど、防御姿勢をとって、攻撃をわざと受けているようだ。攻撃はすべて防御した状態か軽くいなされる。

 バランスを崩したりしても、攻撃してこないのは、多分……一発でもまともに攻撃が入ると一発KOになることがわかってるからだろう。


 これが太刀打ちできないってことか。お互いに打ち合うってことが出来るのは、ある程度実力がないとだと学んだ。



 時間にして15分程度。「ここまでだな」と声をかけられたところで、その場に座り込む。


 きつい。

 何度も攻撃をした。全く意味がなかった。これでは……実戦はすぐに死んでしまう。

 ぶるっと身体が冷え、震えが出る…………死にたくない。



「ふむ……お前、実戦経験ないんだよな?」

「ないです」

「そうか……筋は悪くない。技もちゃんと織り交ぜてる。強い技を連発してうぬぼれていた前の異邦人達よりましだ。そいつらより弱いけどな」

「強さより生き延びること目指したので……」


 弱いと言い切るってことは、戦ったことあるのか。

 異邦人と戦ったってことは……つまり、捕まえて牢屋に放り込んだその場に、この人いたのかな。私も何かしたら……同じことになるのか。

 いや、でも異邦人相手に講習受け持ってくれてるので、迷惑かけなければいい人だ。


 たぶん。

 手加減してくれなければ、ぼろぼろのぼろ雑巾になって、そこらへんに転がっていたはず。


 でも……でもね…………。

 弱いってはっきり言わなくてもいい。自分でわかってる。

 レベルが上がる前から……そんなにダメなら、方針を考え直す必要がある。

 冒険者になるというのが難しいなら、他の道を考えないといけない。


「異邦人はみんな実戦経験ないのか?」

「……わからないです。私は元の世界で人と戦ったことはなかったけど、趣味で格闘技をやる人もいます。他の国が……戦争をしていることもあります。……国を守るためにその職業に就く人もいます。…………どんな人達が来たのか、全然知らない」


 平和な時代に生まれた。戦うことなんてなかった。暴力を受けたこともない。

 

 でも、祖父母や曾祖父母の世代には戦争をしていた。

 他国では、今も兵役が義務になっている国もある。

 

 聞かれても、答えはわからない。自分以外の情報を私は全く持っていない。


「ふむ…なぜ、冒険者になることを選んだんだ?」

「この世界の情報がなく、他になにがやれるかわからなかったので。……突然、異世界に行かされるって聞いて……私は必要そうな技能を取得してみたんですけど……その、やりたいことは人によって違うと思います……」

「技能を習得か…………お前は何を持っているんだ?」

「えっと……剣術1、体術3と水魔法1・光魔法1と……」


 持っている技能と魔法をそのまま伝えていくと、相手の眉間に皺が深くなっていく。

 何か変なことを言ってるのだろうか?


 講師の人が手のひらを向けてストップという仕草をしたので、こくりと頷いて、黙る。

 ぽりぽりと頭を掻いているのは、困ったときのこの人の癖だろう。

 

「お前、それを他の奴にはいうなよ?」

「えっ?」


 怖い表情と声に、少し後ずさりをして、こくこくと頷く。なんだか、空気が痛い…気がする。

 すごく怖い。こっちはビビりなので、止めて欲しい。


 講習で、相手がお仕事だから話が出来てるだけで、この人、身長高いし、ガタイがいいし、強面なとこがあるから、何もないなら近づかない。


 私が距離を取ったので、「はぁ」とため息をついて、表情を戻して、こいこいと手招きをされた。うん……まあ、話をするには距離が遠いのはわかる。でも、本気で怖かったので許して欲しい。


「いいか? 技能ってやつはそう簡単に身に付くものじゃない。実戦経験がない奴がいきなり技能が3なんてありえないんだ」

「あ、はい」

「戦闘技能が1つもない奴は冒険者になれない。だが、冒険者になれるための技能は、簡単には持てない。熟練度を上げ、レベルを上げてから初めて覚える。それと、魔法を使えるやつは魔法使いに剣を使えるなら剣士になる……最初から両方使える奴は少ない」

「やっぱり……」


 聞いたことある。極振り……ある程度特化したステータスのが、強いと聞いたことがある。魔法の使える剣士って中途半端だ。どちらかを極めるのが正しいのは、理解している。


「あん?」

「あ、えっと……」

「俺を警戒して、話をするか迷うなら無理する必要はない。ただ、お前の話を全部報告するわけじゃない。ここには俺しかいない。わからないことは教えてやる。そのための講習だろ?」


 確かに。……わからないままにすることは出来ない。

 正直、周りは全部敵と思って対応するよりも、ある程度は人を信用して、話をした方が自分の気が楽でもある。たまたま、講習を受け持ってくれた人ではあるけど、この人を信じて話をした方がいい気がする。


「その……普通、技能って特化させた方が強いだろうなとは、私も思っていました。でも、それって役割が出来るっていうか……出来ないところをカバーしてもらう人が必要になるので」

「ああ、まあ、そういうものだな。パーティーを組むのは、タンクやアタッカーという役割があって、効率よく魔物を倒すことを目的として組んでいるのがほとんどだ」

「私には、無理かなって…………グループで仲良くしながら、役割をこなすって、ハードル高くて……自分がミスしたら……みたいなこと考えると手足が縮こまるというか…………責任が生じないように、一人でもなんとか生きたいけど……日常的には友達が欲しいな……っていう、自分の希望でして」


 コミュニケーション能力って、持っていないと、結構大変。

 豆腐メンタルなんで、すぐ凹むんです。すみません。良い人だとわかっても、結構きついことがある。そして、相手が気を使ってくれるのがわかるとそれも申し訳なくなって、胃がキリキリする。


 結論…パーティー組まないでなんとかしたい。

 失敗してもいいって言ってくれる優しい人がいるなら、まあ、頑張るけども。一つのミスで死ぬような世界で、そんなことがないのは理解している。


「……なるほどな。それで、自分で回復が出来るように光魔法か。まあ、特化しすぎれば、特殊なモンスターがでたときに対応できないからな。俺もある程度は他の役割をこなせるだけの技能を持っておくべきだと考えている。一人でやるなら、その考えは悪くはない」

「はい」


 とりあえず、頭ごなしに否定されなかった。

 自分の言う通りにやるのが正解とか言われたらどうしようかと冷や冷やした。


 この人、脳筋だと思ってたけど、意外と頭が柔軟なタイプだ。


「まず、アビリティや技能には常時効果が発動しているパッシブスキル、自分の意識で発動させるアクティブスキルがある」

「えっと……ちょっと、分かりにくいんですけど」

「あん?説明は得意じゃないんだが…………お前、戦ったことがないのに、剣を使って攻撃するときにどう動けばいいか、なんとなくだがわかってたよな?」

「え、はい。そうですね?」


 最初はわからなかった。だけど、さっきの訓練を続けているうちに、何となくだけど剣の振り方や足運びとかは理解できるようになっていった。

 まあ、適当に攻撃してると、反撃が痛いので、必死に学んだとも言える。


 アニメとかの動きなんて考える暇もないくらい、攻撃した後、相手の動きによって横に避けたり、後ろに距離を取らないと痛くて……手加減されてるけど、痛いものは痛い。


「剣術や体術のような技能は、体の方もある程度動きができる。これがパッシブスキルだ。途中で使っていた<スマッシュ>とか、発動をさせる必要があるのはアクティブスキル。技とも言うな」

「なるほど?」

「まあ、パッシブのアビリティは少ないが、覚えておくと有益だからな。それを取ったのはいい選択だと思うぞ?」

「えっと、技能ではなく、アビリティですか?」

「実戦経験なしで、体術が3だとしてもあの動きはできないからな。なんか持ってるだろう?」

「え?」


 <直感>のこと、なのかな?

 いや、でも、言わない方がいい感じがするんだけど……誤魔化すべき?

 

 戦闘中に<直感>が発動している感じはしなかったけど……でも、常時発動している。きっとパッシブスキルだから、使ってた? う~ん。わからない。


「別に話す必要はない。冒険者である以上、自分の能力をすべてさらけ出すことはするな。自分にあって他人にない能力は搾取されやすい。いい様に使われて、捨てられるなんてこともある世界だ。まあ、スキルについては、使っていればそのうち自分で感覚をつかむだろう」

「はい。あの……動きだけで、そういうことってわかるんですか?」

「それなりに観察力や洞察力がないと戦えない魔物もいる。とくに、前衛は判断が遅れれば死ぬこともあるからな。見ただけではわからなくても、戦っていれば、感覚でわかることもあるぞ」

「…………」


 この人、優秀な冒険者だったのか。感覚でわかるのが普通とは考えにくい。


 しかし、搾取されやすい……か。

 確かに、この世界のことが分かっていないからこそ、騙され、不当な扱いを受けることはあり得るだろう。魔法と剣、どちらも使う人が少ないなら、より気を付けることは多い。


「まあ、俺からの忠告としては、本当にソロでやるならソロだと先に周囲に宣言しておくことだ。便利だと勝手にパーティーに組み込まれないようにな」


 なるほど。

 じゃあ、受付でもソロ志望だと言っておかないとかな。


 他の冒険者にも聞かれたら、ソロだとちゃんと言うようにしよう。パーティーには加入しないと宣言しておくことがトラブル対策でもある。


 そこから、さらに手合わせ中の動きについて、ダメなところや良かったところを一つ一つ説明を受けた。

 全体的には可もなく不可もなく……。攻撃を受けても、止めずに、次をどうするか、きちんと考えながら続けることには評価できるとのこと。

 ただし、訓練だからいいが、ソロであれば、もっと慎重でもいいらしい。


 隙を見せることになれば、死ぬこともある。他の助けがないからこそ、一瞬の油断が命取りとなる。だからこそ、自分と相手の見極めが大事。



 それはわかる。死なないために、「是非、もっと教えて欲しい」と言ってみたら、あきれた顔で返事が返ってきた。

 

「……お前はリスクを最小限にして、保険を何重にも掛けるタイプだな……冒険者として、大成はしないな」


 その通りだけど、はっきり言うのやめて欲しい。傷つく。豆腐メンタルなんで、言われるとずっと気にしてしまうからやめて欲しい。


 ……確かに冒険者としての成功をしたいわけではない。この世界で生きていく手段の一つとして冒険者になった。やるべきことはやるけれど、無理はしたくない。


「あの、でも……異世界に行けって送り出されただけで、魔王を倒せとか言われてないです」

「あん?」

「何かしたくて来たわけじゃない。何かしろと言われたわけでもない。それに、あんなにたくさん人がいるんだから、私が、しょぼい仕事しながらこの世界に生きててもいいと思うんです。使命とかあるなら、きっと、やりたい人がやるんで。それではダメですか?」


 何かしろと言われて、この世界にきたわけではない。

 適材適所と考えたら、私は前線で輝くタイプではない。魔王とかドラゴンとか、ファンタジー小説の話のような討伐は絶対無理。戦争とかも無理。


 まあ、好き勝手に生きろとも言われてないけど……戻れないなら、自由に生きたい。

 ここでのんびり、出来ることしながら過ごしたいので、それを許容して欲しいだけだ。


 だけど……。


「おい、大丈夫か? 頭押さえて……顔色も悪いぞ」

「……平気です」


 元の世界に戻りたいと考えたとき、頭痛が起こった。

 つい、反射で頭を押さえてしまったので、心配されてしまった。


 頭痛……何か思い出そうとしたわけではないのに……? 元の世界に帰りたいと思ったから?

 白い世界でも何度か起きた頭痛と同じだった。


 何が頭痛を引き起こしてるのか、わからないことが多すぎる。



「とりあえず、座れ…………水でも飲むか?」

「いえ、ほんとに……もう、治まったので」

「そうか…………それで、な。俺は生き方はそれぞれだと思っている。お前が好きにするのを反対する気はないが……お前に冒険者の心得を叩き込んでも無駄だろう」

「えっ!? 困ります、教えてください」


 無駄って、それはない。

 ジト目で見つめるが、うんうんと頷いて両肩をぽんぽんとたたかれた。えっと、なに?


「落ち着け。……いいか、冒険者ってのは、所詮は荒くれたちの集まりだ。一攫千金を夢見て、強い魔物と戦い、ダンジョンで宝を探す。名誉を得たい連中ばっかりだ。…………お前、違うだろ?」

「あ、えっと……外にいる人たちはきっと、そうだと思います」


 「違うだろう」と問われると、「違う」と答える。

 冒険者になって日銭を稼がないと生きていけないなら、ちゃんと冒険者をするつもりでいる。その努力だってするつもりだ。

 頑張ればできる……と言うのは、ちょっと楽観的だと思うが、無理せずに、出来る範囲のことをやる。誰にでもできるようなことで、でも手間だから面倒とか……簡単な仕事をきちんと行う。一攫千金は夢見ないけど、日々の暮らしのためならお仕事をするのは嫌ではない。


「お前は、魔物と戦うより危険が少ない薬草採取の仕方とか、そういう仕事の方がいいだろ」

「あ、はい! あの、薬草採取って戦わなくていいんですよね? いくらくらいになりますか? 戦わないでも暮らしていけますか?」


 それだ! 薬草採取で稼げるなら、ぜひお願いしたい。堅実に稼ぐ方法があるなら、ぜひ教えて欲しい!


「薬草採取は採取した薬草の種類と数による。だが、恒常クエストだ。必ず金は貰える。冒険者ギルドとしては、出来る限り薬草を確保して、薬師ギルドや錬金ギルドに卸して、傷薬やポーションを用意したいからな。専門でやる奴はいないが、新人とか怪我で前線いけない奴なんかにギルドから頼むこともあるくらいだ」

「なるほど……自分たちのギルドで作らないんですか?」

「…………おまえ、俺が作れると思うか?」

「いえ……そういうタイプじゃないと思います」


 見るからに、作れないよね?見た目で判断して悪いけど。


 どう見ても戦士。脳みそまで筋肉系でないことは話をしていてわかったけど。

 でも、ボディービルダーみたいな筋肉してるし、肉体言語で「筋肉」で、同士と分かり合えるタイプに見えるんだよね……。


「そうだ。冒険者の多くは俺みたいなやつで、作れるようなやつはいない。作れる奴はそっちのギルドに行く…………が、お前、作れるのか?」

「えっ…………た、多分?」

「調合のアビリティを持ってるのか」

「……一応」


 作ったことないはけれど……調合があればなんとかなるなら、作れるよね?

 材料とか器具が必要なら、すぐには出来ないけど。


 いや。でも、なんかにやりと笑った顔が不気味……。


「傷薬くらいは作れるな。薬草の納品なら1日100Gも稼げないが、傷薬にして納品すれば200~300にはなるぞ。もっと難しい物なら、かなりの金額になる」

「やった!生きてく目途が立った!」

「だが、レシピがないと傷薬は作れん。そして、レシピは薬師ギルドに登録しないとぼったくられるか、売ってもらえない」

「…………」


 一喜一憂させないで欲しい。つまり、私では作れないということだ。

 まあ、身内には安くすることはあっても、ギルドに入ってない奴に安く売るとか、普通にない。レシピを買おうにも、所持金考えると無理だ……。お金がたまったらレシピ買う?

 まあ、稼ぐ方法はあっても、その準備にお金かかりそうだった。



「ま、そんな顔をするな。傷薬を納めてもらえるなら、冒険者ギルドから融資制度もあったはずだ」

「お金……ないですよ」

「で……残金、いくらだ?」

「……500G」


 もう少し持っているけど、宿代とか食事代を考えれば、出せるのは500まで。

 レシピは欲しいけど、まずは生活基盤を整えてから、お金を稼げるようになった後の方がいい。


「よし。なら、この講習をもう1日追加で500G、どうだ?」

「お金無くなるじゃないですか」

「お前、使える金額を言っただろ。どうせ、宿代とかは別に持ってるんだろ?」

「……だって、それは確保しとかないと……もう1日追加で講習受ける必要あるんですか?」


 なぜ、ばれてる? 完全に私の性格把握されてる?

 なんでわかるんだろ、筋肉系なのに…。戦っただけで、感覚でわかるってマジなのか。いや、私がわかりやすい性格なのかな?


 だが、使えるお金を全部つかってまで講習を受ける意味がわからん。

 お金大事!収入が安定してからじゃないと大金を使うなんて……。


「おう。明日、薬草採取の仕方を講習してやる。町の外まで行って、薬草の種類や採取の仕方とか、実地で教えてやる。ついでに傷薬の調合講習だ。調合できる人を用意してやる。必要だろ? 使えない薬草を取ってきたり、値切られたりするくらいなら、きちんと講習で学んだ方が収入の安定は早くなる。レシピについては、作れるようになってからだが、ギルドが代理購入したほうが安いぞ。……まあ、上手くいけば他の方法もな……」

「はい! 是非お願いします」

「で、残金いくらだ?」

「これ以上は出せないですよ!! 無理! 文無しになったら死んじゃいます!」


 お金がどんどん減っていく。

 薬草採取って、何取ってくるかわからないから、講習は受けたいんだけど……まだ、稼げるかもわからないのにどんどん減っていくのが不安になる。


「わかってる。だが、調合を宿でしたら、匂いが染みついたとか言われて賠償させられる可能性があるんだ。できれば、部屋借りちまった方がいい」

「そんなに臭いんですか?」

「ああ、日常的に作るならかなり匂うようになる」

「でも、保証人いないし……」

「俺がなってやる。代わりに、傷薬作れるようになったら、冒険者ギルドに卸してくれ。期間はそうだな……3カ月くらいが目安だな」


 3か月……。それ以降は好きにしていいってことか。

 最初が肝心。この世界で生きるための準備期間としても、その間に冒険者ギルドから庇護とまでは言えないけど、目をかけてもらえるのであれば、悪い条件ではない。

 よし、正直に残金を答えよう。


「残り、950Gです。でも、食べ物とか、何にも持ってないので……」

「わかった。講習の途中だが、少し上に報告してくる。そのあと、町に出るぞ。家探しと買い物だ」

「あ、はい。じゃあ、ギルドの冊子でも読んで待ってます」

「あん? ……ああ、なら、2階の資料室に行くといい。机もあるし、いろいろ資料もおいてあるからな」


 レオニスさんは、入ってきたドアとは違う、奥へとつながっているドアに向かった。私は見送ったあと、入ってきたドアを出て、階段をつかって上の資料室に向かう。


 途中、マリィさんがこちらを見ていたので、笑顔でぺこっとお辞儀をしておいた。

 さて、これからやっていくために……色々考えないとな。



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