第3話 技能講習の前に


「失礼します」

「おう。講習希望の異邦人か」


 部屋にいたのは、ムキムキの冒険者っぽい人。年齢は40代半ばくらいかな。髪は短髪、体格のいいマッチョ。歯を見せて、「ニカッ」と笑ってきたが、反応に困る。偏見かもしれないけど、マッチョって、どうしてこう、良く分からない微笑みをしてくるのだろう。


「……あの、異邦人ってすぐわかるんですか?」

「普通ならわからないが、2日前からそれなりの人数が何もないところから現れてるからな。その後、なぜか、多くが町の外で、集まっているんでな……こちらも常時見張りを立てている。お前さんをつけていた奴からの報告がきてる」

 

 私の跡をつけている人がいたらしい。全く気が付かなかった。門番さんにあれこれ聞いたせいで、あの人も聴取を受けていたら、申し訳ないことをしてしまった。

 それにしても……予想以上に警戒されてるってことだ。突然現れたことも、集団にいかなかったこともずっと見張られていたと考えよう。

 


「一人ひとりチェックしてるんですね」

「町に入って来た奴はな。町の外で何やっているか知らないがな」

「…………町に入らないのは多分、お金がないのだと思います」

「ほう?」


 じっと観察するような瞳でこちらを見てくる。

 何故、そんなことをこちらに教える? って感じか。


 情報がないから警戒されてる可能性がある……私が伝えることで、警戒レベル下がる可能性があるなら、知っている情報くらいは流してかまわない。この人は腹芸とか、人を騙すことができるようなタイプじゃなさそう……典型的な戦士っぽい体格で、性格も脳みそまで筋肉系に見える。マッチョだし。ついでに、人情味があるタイプだろう。


「クレインと言います。実戦経験がないので講習を申し込みました。よろしくお願いします」

「ふむ……俺はレオニスだ。ギルドの職員兼講師を務めている。講習はしてやるが、こっちも色々と聞きたいことがある」

「お答えできることなら。ただ、こちらも全然わからないので色々教えてください」


 お金払っている以上、そっちが教えるべきと……はっきり言わないが、わからないことは教えてもらうスタンスは確保しておく。

 ギブアンドテイクの関係はこういうときには大事だよね。お互いにWin-Winが理想。


「よし。まずは、金がないってとのはどういうことだ?お前さんは金払って講習受けてるんだろ?」

「う~ん。確証があるわけではなく、私の憶測ですけど、いいですか?」

「構わん。話せることだけでも話してくれ」


 こちらの懐事情を話して警戒が下がるといいけど……。

 町の入り口に武装した集団がいたら警戒するのは当たり前。こっちの視点だけじゃなく、相手方の視点でも考えてみよう。


 私が町の人だったら。どこかから現れた集団が町を囲っているなら怖いので町からでない、絶対。

 そして、「なんで、町に入らないんだ?」と疑問を持っているなら、憶測でも、町に入らない理由を伝えてることで、警戒を下げたい。


「私も、おそらく他の人たちも、この世界に何故きたのかはわかりません。気が付いたら、たくさんの人が集められた空間にいました。みんな知らない人です。他の人たちも知り合い同士には見えませんでした。異世界に行くことを告げられた後、全員が3000G与えられて……この世界に行く前に装備を整えてから来たんです」

「ふむ……」

「装備は……私は鉄や鋼の武器とか防具が重くて動けなかったため、軽くて安い皮にしています」

「確かに。それでも着慣れていない感じだがな」

「はい……でも、動けないよりましです。お金も手元に残すようにしました」

「ああ、その判断は正しいな。それで、町の外の連中は……」

「予想ですけど……鉄や鋼装備は重い。そして、金銭的にも高いので……」


 お金を残しておこうと思う人が少なかったのは何故か……若い子ならともかく、20~30代の社会人の年齢であれば、何もないところから、お金を稼ぐことは大変だと考える。ある程度の備蓄がないと苦労する。

 何をするにも準備するのには、お金がかかる。すべて用意されていると考えての行動は悪手。だけど、そのことは、自分達目線でのこと。

 こちらの世界の人たちは、お金事情は知っておいて損はない情報……だよね?


「なるほど……このこと、ギルド長に伝えてきていいか?」

「あ、はい。構いません。……あの、私も聞きたいことがあります。……町の外にずっといて、魔物とか出ないんですか?」

「ふむ…………そうだな。出るとも言えるが、出ないとも言えるな」

「えっと?」


 出るの? 出ないの?

 どっちなの?


 頭を掻いたあと、手を顎に添えて考えている相手をちらちらと見てみる。

 こっちにはあまり情報を渡したくないか? こちらの情報の対価として、教えて欲しいが……足りていないだろうか。


「…………まあいいか。まず、町の外には魔物が出る。だが、町の周囲には魔物避けが施されているため、原則は寄ってこない。スタンピードとか、緊急事態を除いてだがな」

「は、はい」

「あいつらがいる場所は、町からそう離れていない。魔物もあまり近づいてはこない位置だ。ついでに、襲ってくるような危険な魔物は町の周辺には出ないように、普段から冒険者が優先的に狩っているからな。放置しても平気な弱い魔物しか町周辺にはでない」

「なるほど」


 確かに。冒険者がいるんだから、危険な魔物は排除しているのは当然か。

 全くでないわけではないみたいだけど。言われてみれば、その通りだった。



「それから、魔物だって、生きてるんだ。わざわざ人間が沢山いるところに割っていって、自分を危険にさらすことは滅多にない」

「……じゃあ、なんでギルドの入口を含め、ホールにも冒険者が沢山そろってたんですか?」

「もし、町に異邦人が攻め入ってきたとき、すぐに駆け付けて、討つための戦力だ」

「あ、はい。ですね。すみません」


 冒険者って、酒場とかで飲んでるか、冒険に出てるイメージだったのに、なぜかギルドにて、寛いでいたのが気になってたけど……物騒な理由だった。

 完全に敵認識してた。むしろ、外に行けない分の鬱屈も加算されてピリピリしてるのか。

 つまり私も異邦人バレしてるわけで……もしかしなくても詰んでるのでは?



「聞きたいことはそれだけか?」

「え、じゃあ……私以外には冒険者登録した人とかいなかったんですか?」


 聞きたいことは沢山あるけど……なんだろう。

 もう少し、私以外で友好的な態度で、なんとかしようとした人いなかったのかなと、聞いてみた。


 私は友好的なつもりだけど、何か企んでるとか、危険だと思われてるなら、その理由とかも知りたい。


「いや、何人かは登録しようとしていた。ただ、こっちの質問には答えず、矢継ぎ早にこの世界のことを聞きたいとか、ずっと質問してきてな。キレた冒険者につまみ出された奴が暴れて捕まったのが最初で、自分は勇者だと宣言して仲間を町に入れろと命じてきた奴、無理やり城門から侵入しようとした奴……ろくな奴はいなかったな。今は皆、警備につかまって牢屋にいるはずだ」


 ダメだった。友好的どころか、怒らせてる。

 めっちゃ、怒ってる。


 牢屋……。

 ……この世界では犯罪犯さないでも牢に入るとか……ないな。犯罪をしなくても捕まるなら秩序が乱れ、もっと殺伐とした町になってしまう。

 つまり、町への無断・無銭侵入は犯罪。他にも、暴力とかが犯罪なんだろう。


 実際に私たちの世界でも国同士の往来は、パスポートないと出来ない……身分証ないと町に入れないのも決しておかしくない。

 ……冒険者ギルドのルールブックの前に、この世界のルールブックが欲しい。


 平気だろうという考えで、罪を犯しているとかがあるとヤバい。でも、普通に聞いたら、なんでそんなことも知らないんだと相手に警戒されるのも困る。

 

 とりあえず、講師の人に謝っておこう。自分は悪くないけど、異邦人は迷惑をかけ続けているわけで……私の気持ちは少しは楽になる。


「えっと、なんか、すみません」

「お前も知らない奴らだろ。なぜ謝る?」

「まあ、はい。全然知らない人です。それでも、同じ空間から来てしまったので」

「なら謝る必要はない。講習だが……技能はあるんだよな?」

「一応……」

「じゃあ、ちょっと手合わせをしてみるか」

「よろしくお願いします」


 講師の人は、少し距離を取って、剣を構えた。

 こちらも合わせるように、一度、息を吐いてから、剣を抜いて構える。


 目があった瞬間が開始の合図だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る