第2話 異世界に降り立つ


 異世界に行くぞと思ったが、さらに、選択画面……行く先の設定だった。


 転移場所は国が3つ。

 帝国、王国、共和国。

 どの国に所属するか…………王国か。とくに理由はない。


 どこがいいとか選ぼうにも、国の特徴とか書いてないから、選びようがないという……。帝国とか、あまり良いイメージがない。共和制というのも馴染みがないから。……まあ、王国も似たようなものだけど。


 王国を選ぶが、どうやらこれはキャンセル可能らしく、他の選択肢が灰色になってない。

 王都と市街が3つ、町が3つ、村が3つ、全部で10か所ほど行ける場所があるらしい。

 キャンセルができたので、確認のために他の国も調べたけど、どの国でも10個の中で選べた。


 王都は……首都とか、生活費とか、その他色々にお金かかりそう。お金がかかる地域は最初は大変。逆に村は田舎過ぎて色々と不便な可能性がありそう。町くらいなら程よく人がいる気がするので、町にしておく。


 王国の3つある町の一つを選ぶ。

 

直感は働いてないような……どれでも変わらないのかな。よしっと頷いて、転移のボタンを押すと、それなりの規模がありそうな町の入り口近くに立っていた。



 真っ白な世界にいたときより人数は全然少ないけど、たぶん、同じような立場の人たちが少し離れたところにいる。20人くらいかな。


「あ、武器とか防具が、鉄とか鋼だ……すごい」


 銅装備って私しかいないのでは?

 様子を見ていると何やら演説をしている人がいる。声は聞こえないけど、みんな真剣に聞いてるようだ。


 そちらに向かう方がいいかなと思って、足を向けた瞬間、体に信号が走った。

 行くな! という警告のような感じがする。


 踏みとどまり、もう一度、集団を見る。

 別にこちらを攻撃してくる感じはしない……というか、みんなこっちには気付いてないと思われる。

 とりあえず、危険ではないけど……近づかない方がいい。


 おそらく、今のは<直感>だと思う。

 理由はわからないけど、直感が働いているのであれば、直感に従い合流はしない。


 よし、君子危うきに近寄らず……という言葉もある。さっさと町に入ろう。

 なんか、視線を感じるけど、気のせい、気のせい。私は関わらない。



 町に入ろうとして、門番さんに声をかけると……。

 身分証がない人は、100G支払う必要があった。……身分証の発行の仕方を聞いたら、各ギルドで発行してくれるそうだ。

 金額も聞いてみると、冒険者ギルドなら300G、商人ギルドなら500G、鍛冶・仕立て屋・錬金・薬師ギルドは1000G。中々に厳しい額ではある。お金を残しておいて良かった。


 町に入って、身分証を作るしかないから、必要経費。

 門番に100G渡して、冒険者ギルドで身分証を発行したいと言うと、すこし驚いた顔をされた。冒険者はならず者が多いぞと警告されたので、頷いておく。


 門番がさらに何か言いたそうにしているが、何か変なことをしたんだろうかと思って、ふと、思いついた。


 あれ?

 もしかして、町の外にいたあの人たち、町に入れなかったとか?

 装備が立派ということは……400Gもお金が残ってない可能性があるのでは?


 ふと、考えたことは頭の隅において、門番さんに必要なことを確認しておく。


 門番さんに冒険者ギルドの場所、宿などの必要となる施設を聞いておいた。宿は、最低価格は10Gだけど、30~50Gくらいの方が安全・安心だと聞いた。


 よし、まずは冒険者ギルドに行こう。説明聞いて、宿は50Gのとこにしよう。早々に稼げるようにならないとすぐに資金難になりそう。



 冒険者ギルドの場所に行くと入口には怖そうな人が何人か座り込んでいる。コンビニの入り口で座り込む若者みたいで、ギルドに入りにくい。


 こちらをじろじろ見ているのはわかるけど、声をかけてどいてもらうのも変なので、行くしかない。身分証は大事だ。この町に入るたびにお金取られてたら、お金がいくらあっても足りない。


 気合を入れて、座り込んでいる人たちの間を通り、ドアを開けると、中にいた人達が一斉にこっちを見る。なんか、観察されてる? 敵意っていうのか、うん、好意的な視線がない。


 正面のカウンターに3人、きれいな人達だけど、空気が重くて声がかけにくい。


 荒くれ相手にするから、気弱な雰囲気ではだめなんだろうけど、迫力のある美人さん達だ。でも、美人な強気なお姉さん……見てる分には目の保養になる。


 とりあえず、左側の人に声を掛けてみよう。


「あの……」

「冒険者ギルドへようこそ」


 笑ってるけど、笑っていない。目が怖い。

 なんでここ来たのって、なんか後ろにダークオーラを背負っている気がする。ようこそ、なんて全然思っていないのがわかる。


「あ、はい。えっと、どうすればいいかわからないのですが……冒険者登録がしたいです」

「はい。では、まずは300Gお持ちですか?」

「あ、あります。えっと、これでいいですか」


 300Gを取り出して、机に出す。

 お姉さんはお金を確認したら、急に後ろに背負っていた暗黒オーラが消えた。後ろで様子を見ている他の冒険者たちからも少しだけ警戒が薄まった気がする。


「はい。冒険者ギルドに登録する場合、登録料が300G必要になります。ちなみに、他にもギルドもありますが、冒険者ギルドでよろしいですか? 二重加入は出来ませんよ」

「……簡単にですが、説明を聞きました。これから冒険者として、頑張ります」


 門番さん、ありがとう。丁寧に説明してくれたおかげなのか、こちらの理解度のおかげでちょっと警戒度が下がった。

 冒険者の仕事には魔物討伐とかだけじゃない、困った人達の雑用とかもあるって、聞いておいてよかった。


「そうですか。では、何か戦闘できる技能はありますか?」

「えっと……剣術と体術が……その、実戦経験はありません」

「…………そうですか。確認しますので、こちらの水晶に手を置いてください」

「あ、はい」


 実戦経験ないって言ったら、(何言ってんだ、こいつ)みたいな顔された。

 実戦経験ない奴が冒険者になるって、おかしいことなのか。でも、身分証が必要ならみんな登録しようとするだろう。


 水晶は曇りのない綺麗な大きい球体の水晶だった。占い師さんが使うようなサイズより大きい。これ、手で触っていいのだろうか。指紋とかついちゃうけど。



「緊張しなくて大丈夫ですよ?」

「い、いえ……その……気のせいか、いろいろと見られてる気がして……」

「そうですね。まあ、皆さん気になるんでしょう……異邦人が多いので」

「う……その、異邦人って……」

「いきなり町の入り口に現れた集団ですよ。異世界から来たという。……あなたもでしょう?」


 小さな声だから、他の人には聞こえないようにしてくれているので、声は出さずに頷く。

 そんなにわかりやすいのか。あと、なんで異邦人は嫌われてるのか……気になる。


「はい……でも、知り合いとかではありません。いきなり集められて送られたので……その、異邦人っていきなり現れるとか、あるんですか?」

「そうですね……まあ、何十年かに、一度……そんなことを言う人がでるらしいですよ。伝承ですが」

「えっと……たくさんいますよね?」

「まあ、町の入り口にたくさんいますね。何もないところから現れるのも確認しています。伝承では1人とか多くても4、5人だと聞きますが……ずいぶんと多いですね」


 異世界転移は今までもあったとして……大規模な人数じゃなかったってことだ。

 う~ん。詳しく聞きたいけど。それよりも気になることがある。


「……あの、そろそろ、技能の確認、できました?」


 水晶から手を浮かせる。この水晶…私が話すと少し青く光る……。

 なんとなくだけど、嘘発見機とか、私の言動を判断している道具だと思う。普通の水晶ではないことは確かで、触っていたくない……けど、手を浮かせたら周りがどよどよと困惑の声を出している。


「……もう一度、手を置いてください」

「……はい」


 少し咎めるような声で手を戻すように言われ、水晶に手を置く。

 理由を聞こうかと思ったが、ちょっと怖い。大人しく、言われたとおりにして様子を伺う。


「……気づいたようですが、これは嘘か真実かを見極めるアーティファクトです。あなたが言ったことが嘘かどうか、見極めます。冒険者ギルドは戦闘できない人を登録することは出来ません。身分証を作成するということは冒険者ギルドがその身を保証することですからね。きちんと人物を見極める必要があります。そのためのものです。もう一度聞きます。戦闘できる技能はありますか?」

「剣術と体術」


 簡潔に答えると青く光った。

 つまり、私は尋問を受けていたということだ。嘘をついていたらどうするつもりだったのか……聞きたいけど怖くて聞けない。


 確かに、不審者の身分を保証するなんて危ないから、人物を見極めることは必要とは思うけど……いきなり、尋問である。

 気を付けないと、いきなり犯罪者にされることもあり得るのかもしれない。


「技のようなものはありますか?」

「えっと……スラッシュ、スマッシュ」


 また、青く光る。

 嘘言ったらどうなるのか、気になる……しかし、すでに疑われてるのに、そんなこと出来ない。最初の敵意も含めて、慎重に行動をした方がいい。


「はい。確認できました。それでは登録しますので、こちらのカードに血を垂らしてください」

「はい」


 ペーパーナイフのようなものが机に置いてあったのを使い、指先を軽く切り、カードに触る。なんの変哲もない銅のカードだったのに、名前と……町名とFというアルファベットが浮かんでいる。

 すごい、なにこれ。どういう仕組みなんだろう?


「はい、登録できました。クレインさんですね。ありがとうございます。では、こちらがあなたの冒険者カードになります。身分証でもありますので、無くさないようにしてください」

「再発行とかありますか?」

「ありますよ。ただし、料金がかかります。ランクによって変わりますが、Fは300G。D~Eは2000G、B~Cは10000G。A以上は50000Gになります」


 手数料を取るってことは、この素材が貴重とかかな……普通の銅に見えたけど。

 字が浮かび上がるってことは、魔法? 魔道具? なんだろう?


 ランクによっても金額が変わるのも気になる。


「わかりました……あと、その、冒険者ギルドの決まり事とか教えて欲しいのですが……」

「え~と……そうですね……。…………では、技能講習が100Gでありますが、受けてみますか?」


 技能講習!

 冒険者になるための技能を教えてくれるってことなら、ぜひお願いしたい。


「それはどのような講習ですか?」

「そうですね……冒険者ギルドは、戦闘技能がないと入れないため、戦闘技能が全く無い人は講習を受けて技能の習得を目指します。講習は1回3時間、100Gです。技能がない人が1回の講習で技能が身に付くとは限りませんので、何度も受けることもあります。他にも冒険者が必要になるアビリティの取得を目指す講習があります。戦闘技能がある人は受けなくてもいいんですけど……何もご存じないなら、教わってみてはどうでしょう?」


 なるほど。そういう制度があるなら使っておこう。色々と教えてもらわないとやっていける気がしない。

お金を考えるとそんなに何回も受けることは出来ないけど。それに、受付の人はなんか話しにくい事情がありそうだから、無理に聞いて、最初のような態度に戻られても困る。


「じゃあ、お願いします」

「はい。では、左奥の部屋にてお待ちください。教官を呼びます」

「はい。あの、ありがとうございました」


 姿勢を正して、頭を下げてお礼をいう。私が悪いことをしたわけではないけど、礼儀正しくしておいたほうがいい。

 今後も冒険者ギルドにお世話になるのであれば、少しでもいい関係を作っておきたいという意思表示にもなる……はず。多分。



「いえいえ。あ、クレインさん。私はマリィと言います。その……だまし討ちして、嫌な思いさせたと思いますので、こちらお詫びです。ギルドでのルールが書いてあります」

「あ、ありがとうございます」

「頑張ってください」

「はい。ご迷惑をかけないよう頑張りますね」


 マリィさんにお礼をいって、奥の部屋に向かう。

 とりあえず、ギルドの人はお仕事だ。きちんと礼儀をもって接していれば、普通に相手してくれる。こっちを観察していた冒険者の方はどうでるか、わからない。


 そもそも、こちらの知りたい情報を集めようにも、情報を渡すことを警戒されているようなんだよね。困ったように技能講習の話をしていた様子から、多分、技能講習の人に判断を委ねたのだろう。冊子については、まあ、新人に配るように束が用意してあったので、一応渡したというところかな。


 意外とハードモードな世界に転移したのか。

使命があるわけでもなく、現地の人に転移が望まれてない状態で、結構きつそう。なんとか信頼を得るようにしないと、暮らしていくのも一苦労になる。


 しかし……いきなり、他の転移者の人たちと溝が出来た……かもしれない。

 知らない人達だし、自分のが大事なので、いいけど。上手くやりやがってと、恨みの対象になるのは避けたい。転移者には接触しないようにしよう。

 警戒はきちんとしつつ、味方は出来る限り作っておいた方が良さそうだけど。



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