異世界に行ったので手に職を持って生き延びます

白露 鶺鴒

第1章

第1話 真っ白い世界で


〔お前たちを異世界に転移させる。どのように転移するかを自分で選ぶといい、時間は3時間だ〕



 突然、頭の中に声ではない何かが響いた。

 驚いて、きょろきょろと視線を周囲に向け、様子をうかがう。


 見渡せば、何もない真っ白な世界。


 自分と同じように辺りを見回す人、雄叫びを上げる人、飛び跳ねて喜ぶ人もいれば、膝をついてショックを受けている人もいる。たくさんの人が塊になっていた。


 この空間に何人いるのか、はっきりした数はわからない。

 一塊になっていて、その先はただ真っ白い空間が見える。


 突然のことに、どうすればいいかわからない。さっきまで何をしていたのか、思い出そうとするとズキッと頭が痛くなる。


「なんで……」


 自分が何をしていたのかと思い出そうとすればするほど、頭痛が酷くなっていくのを感じる。耐えられずに自分のことを考えることを止めて、再び周囲を観察する。


 周囲では、ぽつぽつと話しかけて数人でまとまって話をしている人や、何もない場所で指を動かす人、頭を抱えて膝をついてる人……この状況に混乱しつつも、動き出している人の方が多かった。


 私も誰かに話しかけたほうがいいか……。


 周囲を確認するが、うまく話しかける言葉が見つからない。



 周囲にいる人は、70歳くらいの老齢の方から、中学生くらいの若い子もいる。男女は、半々よりは男の人の方が多い。多分、7:3くらいで男性、女性は10代・20代くらいの子が多い。自分の年代に近い女性は周囲にはいない。



 日本人ではない人たちも結構な数いるけど、話している言葉は同じ。発音もきれいで、どこか違和感がある。


 しばらく、観察していると、「ステータス画面を開いて、プロフィールを自分で決めれる」、「俺は勇者になる」、「魔法使いがいい」という声が聞こえてきた。


「(なるほど……と言っても、どうすればいいかな)」


ステータスと呟くと、透明なアクリル板のような物に文字が書かれている。


・名前

・種族

・性別、体格

・魔法

・技能

・アビリティ

・ユニークスキル


残り 300ポイント


・能力    HP・MP・SP・STR・INT・DEF・RES・AGI


 何かのゲームのようなステータスの画面だった。

 画面を見ながら、どうしようかと考える。


 異世界への転移が本当だとしたら……。

 このステータスの割り振りは、今後を決める重要な内容になる。


 しかし、ステータスを振ってキャラメイキングをするようなゲームはしたことがない。

 学生時代には、それなりにゲームもしていたけど、プレイヤースキルが高い方ではなく、モ〇ハンとか1度だけ上位にいけただけだ。レベルを上げればなんとかなる類のものしか、したことがない。



 キャラメイクの仕方……強くなる方法が全然わからない。



 周りを確認しても、みんな自分のことだけで精一杯なのか、ステータス画面があるだろう空間を見て、指でいじっている。

 若い子やコミュニケーション能力が高い人たちは集まって相談しているみたいだけど。相談しに行く勇気が持てない。


 そもそも……相談をして、その通りに振った場合、今後もその人の指示に従うのか?


 初対面で、自分のすべてを託すか…………無理。

 自分で考える方がまだ納得できる。何も分からないからこそ、人任せには出来ない。



 まずは、名前。

 これは全く思い浮かばない。そのまま自分の名前を……と思ったら、頭痛が起こる。

 頭痛が激しくなり、考えることを放棄する…………自分の名前も思い出すことも出来ないらしい。


 頭痛の原因がわからない。

 自分のことを思い出さないようにするなら、学生時代のゲームのことなんかもダメなはずなのに……ゲームをしたことがあるのは思い出せた。法則性がわからない。


「くっ……」


 何故だろうと考えると、再び頭痛が酷くなる。自分の名前を考えることを放棄して、ステータスの方に頭を切り替える。


 種族は、いくつも種類がある。エルフとかドワーフとかファンタジーの定番の人種に、獣人、鳥人、竜人、天使に悪魔。


 ハーフ、クォーター、混血など血の濃さも選べる。種族によって、ステータスが変化する。


 ヒューマンはSTRやDEFなどすべての能力が15くらいで標準的。ほかの種族は10〜30で数値がバラバラになっている。

 純血種にすると、初期で50超える数値もあるけどヒューマン以外は、ポイントを使う。ポイント使う分、能力は高くなるようだ。


 性別で能力は変わらない。どの種族であっても、男女のステータスに変化はなかった。能力が変わるのであれば、ステータスが優秀なほうがいいと思ったけど、変わらないのであれば自分の性別を変える必要もないかな。



 魔法は水魔法とか火魔法とか。魔法レベルは1〜10。

  火魔法1(10)

  火魔法2(20)

  火魔法3(30)

  火魔法4(50)

  火魔法5(70)

  火魔法6(90)

  火魔法7(120)

  火魔法8(150)

  火魔法9(180)

  火魔法10(220)


 魔法レベル1だと10ポイント。レベルが上がるとポイントは増えていって、レベル10だと合計220ポイントが必要になる。

 技能は剣術とか槍術、武術系のことで、同じく技能レベルは10まで。アビリティもアビリティレベルは10で、必要なポイントは一緒か。


 いろいろと種類はあるみたいだけど、ポイントは一律で決まっている。

 技能・魔法に比べて、アビリティはたくさんありすぎて、目が泳ぐ。武器と魔法に関係しないものは全部アビリティに分類され、たくさんあって何がいいとかわからない。


 さらに下にあったのは、ユニークスキル。

 ユニークスキルは3つ並んでいる。


 剣の嗜み(50)、剣の道(150)、剣の極み(250)


 3段階で、ポイントは50・150・250。一番いいのを取ると、他はほとんど選べない。


 一通り、ステータスを見て、どうしようか考える。

 最初に頭に声が響いたときから、すでに1時間を経過してしまった。


 このまま何もしないで、3時間経過してしまうと、どうなるのか……。

 時間切れでそのまま放り出されるとか、あるかもしれない。


 急いでステータスを決めてしまおう。

 周囲も、最初より人が減ってきている気がする。ステータスを決めた人たちがいなくなっているのであれば、ゆっくりしていられない。


 まず、気になっているのは、ユニークスキルの〈直感〉と〈幸運〉。

 ユニークスキルはポイントをかなり使う。〈直感〉は2段階目だから150。<幸運>は1段階目は50。一つ上の〈強運〉なら150か。


 直感は持っているポイントの半分使う。

 別の世界が今までのような平和な世界とはならない可能性が高い。こんなに戦闘するための能力ばかりなら、危険な世界と考えたほうがいい……。


 生き抜くためには、直感や運が必要だと思う。


 私は運がいい方ではない自覚がある。選択肢の2択とかは、必要な時には当たらない、当てられない。どうでもいい時にはあたるけど。

 試験のとき、選択肢を5択から2択まで絞ることができるのに、最後で外す。記述式はきちんと答えられるのに、なぜか選択式になると外す。実力がないと言われればそれまでだけど……少しくらい運が欲しい。


 運に関係しそうなユニークスキルは、〈幸運・強運・激運〉と、〈虫の知らせ・直感・超直感〉。〈天運〉というのもあったけど、なんか違う気がする。


 〈幸運〉と〈直感〉がどう違うか、いまいちわからないけど、どちらかは欲しい。

 どんな内容なのか確認するために、≪直感≫を選んでタッチすると、他のユニークスキルは灰色になってしまった。


 もう一度タッチしても全く変わらない。もう一度、〈直感〉を押しても、何も変わらなかった。


  ……え?

 あれ、一度選んだら戻せない? 確認ボタンとかない?


 詳細が確認できると思ったのに、触れると確定だったらしい。



 …………とりあえず、悪い選択ではないと信じよう。



 異世界で危険が迫ったとき、「運よく助かった」と「危ないと感じて危険を回避」どちらがいいか。


 できるなら回避したい。最初から危ないとこに近づきたくない。虫の知らせは良くないことを知らせるって意味だとするなら……直感の方がいい…………はず。


 多分、幸運とかだと、RPG定番のアイテムドロップとか良くなる気はするけど。

 ドロップが良いのは、アドバンテージはかなり大きいけど、それよりも「いのち大事に」で生き抜きたい。



 ユニークスキルは、取りたいのを取ったと考えよう。次からは、本当に必要と思うものを取っていこう。取返しがつかないから、気を付けよう。


 残りポイント 150。


 最初に戻って、種族から考えよう。


 ヒューマン、エルフ、ダークエルフ、ドワーフ、獣人、鳥人、魚人、竜人、妖精、天使、悪魔。

 これが、純血・ハーフ・クォーター・混血とある。


 ヒューマンは、能力値は普通っぽい。竜人・天使・悪魔は全体の能力値が高い。

 エルフやドワーフは極端に能力が高かったり、低かったりする。

 獣人や鳥人、魚人は体の一部に特徴がある。能力も結構差があるけど、HPが高めだ。


 純血種にくらべると、ハーフの能力は下がってる。クォーターや混血はさらに低いけど、獣人とかは種族の特徴が減っていき、身体に痣があるが、ヒューマンと変わらず種族が分かりにくくなってる。


 ポイントは、ヒューマンを除いて、どの種族も純血種は150、ハーフは100、クォーターは60、混血は30。


 私の考えは、能力値の高さから天使族。

 悪魔はばれたときにヤバそう。魔女狩りとかの対象になったら困るので、やめておこう。

 竜人はちょっと……爬虫類っぽい目が苦手なので嫌。


 それに、天使族は光魔法の適性とかが高そう。

 魔法の種類に回復魔法という種類がなかったので、光魔法は回復だと考える。いざという時を考えて、回復魔法は覚えておきたい。


 天使族は輝く銀髪で瞳の色が黄金色なのかな。


 ハーフは同じように輝く銀髪で黄金の瞳を受け継いでる。

 クォーターや混血(天使族)になると、髪が銀髪だけど、光加減がだいぶ減っている。目が金色。ちょっとにごったような瞳になってる。天使族の外見の特徴は髪と瞳の色だけかな。



 異世界で目立つ外見は困るけど、クォーターや混血だと結構色を変えることもできるみたい。銀髪は目立つかもしれないから、白色に近いように、あんまり艶をださない輝きを消して……ほぼ白色にして、目ははちみつ色。

 瞳の色くらいしか、ヒューマンとの違いがなさそうだから、目立たない。もし、瞳の色に問題がありそうなら眼鏡でもかけよう。


 よし、種族は混血(天使族)。

 女の子で、背は平均身長と同じくらいの158センチにした。

 天使族って身長が高めなのか、体格が小柄と表示され、幼い顔つきになった。


 ついでに、混血(天使族)を選んだら、〈祝福〉というアビリティを覚えた。種族を選ぶとセットでアビリティが付いてくることがあるらしい。

 ついでに、光魔法・聖魔法の横に適性〇と表示されているので、せっかくだから、種族適性がある光魔法と聖魔法をレベル1で取得しておこう。


 あれ?そういえば、最初に魔法の種類を見たときには聖魔法なんてなかった気がする。

 適性がないと覚えられない魔法もあるってことかな。


 あとは、冒険するなら水魔法。


 探索で迷子になって持ってる食料が無くなっても、水があれば生きていけると聞いたことがある。水は大事。自分で水を出せるなら、危険が減るはず。



 魔法はとりあえず3種類。


 追加で……水魔法をとったら、なんか複合魔法が選べるようになっている。これも良さそうだから取っておこう。



 次は、技能かな。武器を何にするか。


 正直、武器は何を使えばいいかわからない。

 体術はとっておこう。武器が無くても戦えるようにしておくことは大事。


 レベル1〜3が10ポイント、レベル4で20ポイント、レベル7から30ポイントと、ポイントが高くなってるので、体術はレベル3にしとこう。

 ある程度は動けるようにしておかないと、何かあった時に対応できない。


 他の武器は……弓は近づかないでよさそうだけど…うまく使える自信はない。

 槍は洞窟とか狭いところを歩くのに邪魔になる。斧は重そうだし、剣よりリーチが少ないから使い辛そう。


 無難に剣にしておいて、実際に使いながら武器を変えてもいい。武器は変えるかもしれないから技能レベルは1。


残りポイント 30か。



「どうしよう……」


 異世界に行って、魔物とかと戦闘をするとしたら……。

 他の人達はもっと強くなるようにポイント振ってるだろう。私の振り方は強くない。


 自分が生き残るために必要だと考えて振ったんだから、強くなるとか二の次だったので、仕方ない。生き延びることを目的にユニークスキルを取ったことに後悔はないけど、強さがないなら他の道も考えておこう。



 色々と考えたけど……。

 戦いのみではなく、手に職を持っておいた方が生きていくのに困らない。

 どんな世界であっても、専門職であれば食いっぱぐれることはないのでは? とはいえ、向こうの世界がどのような世界か分からない。戦い以外の道は生産職が無難。


 生産系のアビリティは……錬金と調合か。両方とっておこうかな。何が違うのかはわからないけど、どっちもあって困るものではない。

 あと、付与?

 武器とか、防具、魔道具とかに属性を付与できるイメージだけど……。便利そうだから、取っておこう。


 まあ、私にはコミュ力がないから商売には向かないので、自分用に作るだけになる可能性は高いけど。


 最後に名前は、クレイン。ビジュアルが似たキャラクターの名前にしてみた。


 よし、残り45分。

 これで決定だ!



 決定を押したら、次の画面がでてきた。


 キャラ設定の次は武器と防具などの装備……3,000Gの予算で武器とか防具を選ぶのか。


 鉄の剣は750、銅の剣は250、木剣は100……。鋼の剣は2,250もするのか……。

 防具…………鎧も盾も鋼は2,250G、鉄は750G、銅250G、皮100G。防御力は、鋼が+30、鉄+15、銅+7、皮+3か……。


 装備は試しに持ってみることができたので、持ってみる。

 鉄や銅は結構重い。全身覆うと、ほとんど動けなくなる。

 盾を小盾にして、鎧はフルアーマーではなくて、胸当てにして、動けるように軽い装備にしよう。

 銅や鉄に比べて、皮は軽いから、盾と胸当て以外は皮。絶対に守らなくてはいけない部分だけ少しグレードを上げよう。


 確か、鉄は錆びやすいはず……手入れが大変な可能性がある。

 お金も残しておきたいから銅にしておこう。無理に高い装備買うよりも、お金は残しておいた方が、何かあったときに使える。お金は大事。


 銅の剣、銅の小盾、銅の胸当て、皮の小手、皮のブーツ、皮の帽子、皮のマント。

 合計1,150G。残金1,850G。


 通貨の価値がわからないから、残りの額がこれだけあっても不安ではあるけど……。

 これでいくしかない。


≪ステータス≫

・名前 :クレイン

・種族 :混血(天使)

・性別 :女

・体格 :小柄

・魔法 :聖魔法 LV1  浄化〈プリフィケーション〉、聖光線〈ホーリーレイ〉

     光魔法 LV1  光〈ライト〉、回復〈ヒール〉

     水魔法 LV1  水〈ウォーター〉、水矢〈ウォーターアロー〉

     複合魔法 LV1  -

・技能 :体術  LV3 スマッシュ、気合ため、カウンター

     剣術  LV1 スラッシュ

・アビリティ

     祝福  LV1 祝福を与えることができる。

     調合  LV1  - 

     付与  LV1  -

     錬金  LV1  -

・ユニークスキル  直感


・能力    HP 30 MP 28 SP16 STR13 INT20 DEF12 RES20 AGI15


 ステータスは、平均よりは魔法職よりになっている。DEFが低いのが気になるけど。防具をつければ防御は上がるので、合計ステータスは悪くない……はず。


 魔法は呪文、技能は特技をLVによって覚えた。

 予想通り、回復魔法は光だった。よかった。回復手段を手に入れたのは大きい。これで、怪我しても大丈夫だ。


 よし、行くぞ。異世界へ。

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