第5話「奇跡の再会」
7年前━━━━━━
それは、俺が小学3年生の夏休みのときだった。
長期休暇ということもあり、隣県(現在住んでいる所)にある祖母の家を生まれて初めて訪ねることになった(ほぼ親の都合なんだが…)。それは2~3週間程だったろうか。無論、特に何もすることがなく、見兼ねた祖母が近所に住んでいる同年齢の女の子を遊び相手として紹介された。彼女はいつも笑顔を絶やさず、とても元気そうによく外で遊ぶのが好きだったような記憶がある。彼女の名前は……もう覚えていない。というか名前言われたか?
色々と曖昧なことばかりだがただ一つ、思い出したことがある。
それは、地元へ戻る1~2日前だっただろう。その日も変わらず彼女と外遊びをしていた。彼女の家の庭は少し広めでボール遊びが出来るくらいだったのでその時はボールをキャッチし合うゲームをやっていた。彼女が投げたボールが庭の外、つまり道路側に飛んでいってしまった。
幸い交通量の少ない道だったことから走っていた車に当たるということはなかった。
ボールを取りに行くことになったがまだ幼い、1人で道に出ていくのはさすがに危ないだろうと思い、2人で取りに行くことにした。
その時だった。角道から突然現れた車がこちらに向かって走ってきた。まずい、このままで彼女が轢かれてしまう。幼いながらも不意に彼女を守らなければということを思う前に行動していた。
結果、俺は轢かれた。といっても車は減速体制であったため、骨折すらしてない軽傷で済んだが、一応1週間ほど現地の病院で入院ということになった。
入院してすぐに彼女と彼女の親が見舞いに来た。当時、彼女は酷く泣いていたような記憶がある。
『ごめんね…私のせいで……』
彼女は重く罪悪感を感じていたらしい。見舞いに来た時はいつも謝ってばかりいた。
ようやく退院し、地元へ戻れる日が来た。退院したら彼女と会おうという約束をしていたのだが、今日という日に彼女は家にいなかった。
電車の時刻も迫ってきているので遅れることは出来ない。
そのまま、彼女とは会わずに俺は地元へと帰ってしまった。
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「ああ、思い出したよ。あの時の…7年前のは君だったんだな」
「うん…うん、そうだよ……」
彼女は俺の胸で少し泣いていた。言葉を拙くなっている。なんとも言えない胸の締めつけ具合が苦しい。
「もう泣かないで。俺は大丈夫だから」
これでも精一杯の慰めの言葉掛けだった。当時も謝られてばかりで少し胸が苦しかった。もうこれ以上、彼女に心配させたくない。彼女の為にも。
「落ち着いたか?」
「…はい」
あれから数分、ようやく落ち着いてきたのか泣き止んでくれた。2人でソファーに腰をかけた。
「そうか、あの時の君が……君が桐花さんだったのか」
「ええ、そうですよ。本当に感謝しています。あの時は言えませんでしたが…ありがとうございます。」
彼女は笑顔を取り戻し、ニコッとした表情をこちらに向けながら感謝の意を述べた。
俺も少し微笑み返答した。
「どういたしまして」
彼女は少し目を見開いてこちらを見つめていたが、ふふっと笑みを零した。
「なんだか変ですね。数年ぶりにこう言い合うなんて」
「本当にな。まるで奇跡みたいだ」
「奇跡……本当に…奇跡ですね」
彼女は微笑みながら俯き、胸に手を当てている。まるで、本当に奇跡を受け取っているかのように。
「そういえば、なんで俺の事知ってたんだ?」
「?それは、名前を覚えていたからですが…」
「あれ、俺、そんとき名前言ってたっけ?」
「出会ってすぐに名前を言い合ったはずですが…」
「わり、全然覚えてないや」
「……もうっ!」
どこまでも記憶が乏しい俺に対して、彼女は可愛く怒りプイッとそっぽを向いてしまった。
「ごめんごめん」
俺が即座に謝ると彼女はまたもや、ふふっと微笑してこちらを向いた。
「では"これからも"よろしくお願いしますね」
「ああ、もちろん。よろしく」
「あ、あと、恩返しがどうしてもしたいので、毎日ご飯作ってあげますね」
「……え?」
恩返しとして、毎日あの美味すぎる料理が食べられるのか…!?
しかし、金銭的な面で考えて彼女に食材を買ってもらうのは俺の本心が許さなかった。といって、ここで断るのも申し訳ないと思ったので彼女にこう提案した
「…分かった。ただし、俺の分の食費は俺がきちんと出す。それでいいよな?」
「うーん、元々私が全て払う予定でしたが…まあいいですよ」
危ない危ない。俺が提案しなければ彼女にとんでもないことをさせようとしていた。
「では、交渉成立ですね。精一杯、美味しいご飯を作ってあげますね」
「楽しみにしてるよ」
「あと、もう呼び捨てでいいですよ。苗字でも名前でもどちらでも構いません」
こう言われたらつい名前で呼びたくなってしまう。しかし、学校ではそんなこと絶対にできないであろう。
「じゃあ……冬華」
「はい、楓くん」
思わずハッとした。まさか自分の名前で呼ばれるとは思わなかった。驚いた表情で冬華を見つめていると…。
「ごめんなさい、驚いちゃったよね」
「いや、いいんだけどさ…」
なんだろう、恥ずかしい。親か暁斗にしかそう呼ばれないから戸惑う。
彼女は少し照れながら何か言いたげにモジモジしていた。
「その……もう1回、…ハ、ハグしてもらえませんか…?」
「……え?」
本日n回目の戸惑いと驚き。今日だけで色んな感情を受けたような気がする。
「こ、これも恩返しの一環だと思って!」
恩返しにしてはあまりにも内容濃すぎやしませんか冬華さん。こんな豪華な恩返し受け取っちゃっていいんですか?
両手を広げてハグ待ちのポーズをしている冬華を見てこのままハグしないのも可哀想だし、俺の理性が持たなかった(多分こっちの方が強い)ので覚悟を決めてハグすることにした。
「…ん、これでいいのか……?」
再び、体が密接にくっ付き合う。今度はちゃんと抱き返すような形をとった。髪からはフワッと甘い匂いが舞い、先程よりも幸せそうな顔を俺の胸に沈めている。
「……とても…………幸せです」
冬華が囁いた言葉がより力強く抱きしめる原動力になった。
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