第4話「急展開」
桐花さんが買い出しに行ってから15分後、部屋のインターホンが鳴った。
勿論、玄関前には桐花さんが食材が入っているであろうエコバッグを提げて待っていた。
すかさず部屋のドアを開け向かい入れた。
「お邪魔しますね」
「どうぞ…というか、買い出しありがとな。俺の分の食費代出すよ」
「いえ、結構ですよ。今日は私の奢り…という言い方で合っているのでしょうか?それでいいですよ」
「いやぁ、もうホントに……なんか申し訳ないな、俺のせいで…」
「ですから、私が勝手にやっているだけなので気にしないで下さい。しかも有明くん、インスタント系のものを食べ続けるといつか本当に病気になってしまいますよ」
「ごもっともです…」
食材を買ってもらったというなんとも言えない罪悪感を抱きつつも俺の事を心配してくれていることに感謝している。色んな感情が混ざってよく分からない。
「調理道具はありますか?」
「基本的な道具は一通りあるはずだが…」
「では、有明くんのキッチンをお借りして料理をしてもよろしいでしょうか?」
「お願いします…」
彼女からの提案で淡々と物事が進んでいく。
さっそく買ってきてもらった食材をキッチンの上へ並べる。見た限り、肉じゃがだろうか。とにかく、桐花さんの手料理をいただけるのはとても楽しみだ。
「有明くんは座って待っていてください」
「はい…」
何か手伝おうかと思ったがどうやら全て作ってくれるらしい。もう申し訳なさがいっぱいで爆発しそうだが、ここで俺が手伝いに参戦しても桐花さんの足を引っ張ってしまうだけだろうと思い、大人しく座って待つことにした。
待つこと20分後……
「うお、美味そうだな」
テーブルの上に並べられたのは予想通り、肉じゃがだった。
「食べましょうか」
「ああ、いただきます」
「いただきます」
味が濃くついているのだろうか、タレの色が染みたじゃがいもを箸で掴み、口に運ぶ。
するとどうだろうか。口の中に広がる濃いタレの味、インパクトのある味で癖になる。とにかく美味い。
「美味い…美味すぎる!」
「そ、そうですか。ありがとうございます…」
あまりの美味さに語彙力の無い褒め言葉を口にすると、桐花さんは少し頬を紅潮させ恥ずかしがっているように見える。その様子を見た俺は少しドキッとしてしまった。元から可愛らしい顔に更に可愛らしい表情をのせられたら心を奪われる他ない。思わず見とれてしまうほどだ。
「そ、その……あまり見つめないでください…」
「え、あ、す、すまんな…」
自分自身でも桐花さんに見とれて見入ってしまったことを忘れるくらい集中していた。
「は、早く食べましょう。冷めないうちに」
「そうだな…」
俺は少しドキドキしながら飯が美味いという感情が混じりあった複雑な感情の中、味わうことを忘れずにそそくさと食べた。
また、彼女もそうであっただろう。
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桐花さんが作ってくれた夕飯を食べ終わり、片付けまでやってもらうのは俺の中の罪悪感が許さなかったのでやる事にした。
その間彼女は少し話したいことがあるらしく、彼女の部屋に帰してまた俺の部屋に来るのも大変だろうと思い、俺の部屋で待っててもらうことにした。
ようやく慣れない皿洗いなどを終え、桐花さんと話すことにした。
「えっと…俺に話したいことって?」
「……やっぱり、気づかないですか?私の事…」
私の事……なんのことだろうか。桐花さんとは今日が初対面のはずだ。どこかで会ったことは……ないだろう。多分。
直後、彼女が驚愕な行動にでる。
「思い出してください!」
座っていたソファーから急に立ち上がり、なんと、俺にギュッと抱きついてきたのだ。
彼女の細い腕が俺の背中に回り、体を極めて密着させてくる。フワッと舞った女子特有の甘い匂いが鼻を包む。
あまりにも衝撃的な状況に次に出す言動が分からず思考が停止しそうになる。これは、抱き返した方がいいのか?いや、なんとなくダメな気がした。
そんなことを考えている内に桐花さんの方から言葉が出た。
「もし、思い出せなかったとしても……私…必ず恩返しするって決めたんです!」
……ああ、なんとなく思い出したような気がした。
本当にその記憶が正しければ、それは約7年前に遡る。
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