第3話「桐花さんの事」
周りの女子やら男子やらのヒソヒソと話す声が聞こえた。
「…なあ、あいつ、天使様とやけに距離近くないか?」
「……あの人、女神様と仲いいのかな?」
「くそー、羨ましいぜ、あんなに気軽に話せるなんて…」
なんだよ!初対面なのに俺の事あいつ呼ばわりすんなよ!と、指摘したくなったが心の内に留めた。
桐花さんはまたもや女子に呼ばれて別の席へと去ってしまった。
「なあお前、桐花様とやけに仲が良かったように見えたが、何があった?」
男女がヒソヒソと話していたことと同じ質問を暁斗がしてきた。
「別に、朝挨拶されただけだ」
「お前なぁ、絶対それだけじゃないよな?でなきゃ、あんなに懐いてこないぞ」
「懐くって、あれが懐いてるように見えるか?そうなら眼科行った方がいいな。紹介するぞ?」
「まだこの町のこと知らないのによく紹介できるな」
「お前のそういうとこ嫌い」
「まあそういうなって」
俺はふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「ほら、式前に担任来るから、早く座れ」
暁斗の指摘と同時に朝のHR(ホームルーム)のチャイムが響いた。
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HRから入学式までを終え、今日は下校ということになった。
校門を出て少ししたところで聞き覚えのある可愛らしい声が俺を呼び止めた。
「有明くん、一緒に帰りましょう」
「ああ、桐花さんか。帰るとこ同じだもんな」
そう、声の主はもちろん彼女、桐花さんだった。そもそも俺に声をかけてくれる女子なんか桐花さんだけだ。
中学の頃は陰キャでも陽キャでもないその間、いわゆるごく普通の人間として生きてきた。特に関わりが深かったのは暁斗くらいしかいなかった。他の男子や異性とは趣味等が合わず、級友とだけでしか見てなかった。
しかし、桐花さんはどうだろう。異性との関わりがなかった割には何故かスっと躊躇いなく話せる。
わからない。何故、桐花さんを受け入れることが出来たのだろうか。そういえば…………
「有明くん…?どうしたのですか?難しい顔して…」
考え込んでる途中で桐花さんが心配な顔でこちらを見つめていることを声をかけられ気がついた。
「うん?あ、ごめん、少し考え事してただけ」
「そうなのですね、遮ってしまってすみません…」
「いやいや、全然大丈夫だから」
「…そうですか」
考え事を遮ってしまった罪悪感を感じたのか申し訳なさそうに謝ってきた。そんなことで謝られてはこちらも困ってしまうのだが……
「そ、そうだ。桐花さんの事、もっと教えてよ。ほら、好きな食べ物とか特技とか、さ」
少し暗くなった雰囲気を少しでも明るくすべく、話題を逸らした。そういえば桐花さんの事あまりよく知ってなかったなと思い、色んな意味相まって、良いタイミングで話を切り替えることができた。
「好きな食べ物ですか……あんまん…ですかね」
「あんまんか。冬とかに食うと美味いよな」
「はい、甘くて体が温まるので寒い時期には持って来いですね」
どうやら甘いものが好きらしい。別に意外ではなかった。女子なら甘いものが好きなのではないかと思い込んでいたからだ。前にも言ったが、俺は女子との交流が極端に少ない小中学生時代を送っていたのだ。無論、異性の好きなものなど知るはずもなく自分の勝手な憶測を立てるしかなかった。今回はそれが的中した。
「有明くんは何がお好きなんですか?」
「あー、俺は……カップ麺…かな」
「カップ麺……もしかしてそればかり食べているわけではありませんよね?」
痛いところをつかれてしまった。そう、一人暮らしを始めてから1週間ほどの昼飯夕飯はカップ麺か菓子パンなどしか食べていない。料理は出来ないこともないがやるのがめんどくさく、全くやっていない。桐花さんはそこを見抜いてきた。なんて鋭い洞察力なのだろうか。
「じ、実は1週間くらいそんな感じのものしか食ってないんだ…」
「はぁ…、ちゃんと栄養管理をしないとダメですよ。」
「はい…」
ご最もな意見をぶつけられ反省の態度を示した。
「仕方ないですから今日の晩御飯は私が作ってあげましょう」
「……へ?」
あまりにも衝撃的な発言に、気の抜けた声が漏れてしまった。
(晩飯を…………作ってくれる……?)
普通はありえない。出会って初日、ましてや異性に晩飯を作ってもらうなど、どこかの恋愛漫画などでしか見た事のないような発言に思考が停止しかけた。
「…えっと、晩飯を…作ってくれるの…か?」
「はい。話を聞いている限り、この1週間でかなり栄養が偏っているように感じたので。それとも、私が作るのが迷惑でしたか?」
「いやいやもうホントに、いや、作ってください。お願いします」
必死に懇願すると桐花さんはクスクスと笑いを含めながら、「いいですよ」と返してくれた。
正直、桐花さんの手料理は凄く楽しみだ。そういえば、学校で暁斗から桐花さんの話題が出た時に料理が上手いらしいとの噂があるとの情報を聞いたのを思い出した。それも相まって期待値がグンと上がった。
そんな話をしている間にマンションの前まで帰ってきた。
「では、荷物を置いたら買い出しに行ってきますので。何も食べずに待っていてくださいね」
「ああ、本当に何から何まで申し訳ないな…」
「いえ、気にしないでください」
桐花さんは晩飯の買い出しに行ってくれるらしい。本当に頭が上がらないが、彼女自身がそうしたいというのなら任せてもいいのかもと思ってしまった。
「それに、あなたの役にも立ちたいので…」
ボソッと呟いた彼女の声は俺の耳には届かなかった。
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