身分証明としての勾玉、婚姻戦略による平和

 では、まず①から行く。


”①縄文時代と思われる口碑

 天皇家は、神武天皇以前から上方様(うわかたさま)と呼ばれた時代が約6000年続いた。上方様の時代、天皇家は末子相続制だった。子だくさんの時代であり、兄弟姉妹は、民間に降りて婚姻し、多くの人々と血縁関係を結んだ。人口が増えてくると、人々の一部は、新しい土地を求めて、土地を去って行った。”



 末子相続というのはこれに限らず世界でもある。例えば、チンギスハンで有名なモンゴル帝国も末子相続である。領土が拡大していくような時代においては末子相続制になりやすいと見ている。長男、次男はどんどん他の地域に出て行き、末子が親の領土を相続する、という形である。


 それと、おそらく飛騨王朝は政略結婚、計画的婚姻によって権益を拡大した勢力なのではないかと思われる。今、ここで詳しくは書かないが、仮に飛騨王朝が存在し、日本建国に関わっていたのだとすれば、婚姻政策によって平和的に、悪く言えば、ずる賢く勢力拡大したのだと考えている。




” そのときに、上方様の血族であるという証に、勾玉をもらっていった。勾玉は、湾曲した石で、その湾曲した部分には、皇室の魂が宿るとされた。去って行った人々は、それを我が身の係累の「証」として大事な折には身につけることを伝統とした。”


 これに関しては、私も似たような考えを持っていた。勾玉は天然石を加工したものであり、石の種類や色、形の微妙な差からどこで作られたものかを推測する事ができる。つまり一種の身分証としての役割を果たしていたのではないかと考えている。



” そうして何世代かが経つと、それぞれの土地に定着した人々が、はじめはひとりふたりだったものが、幾世代を経て、何百人かの集落となる。こうなると、同じ先祖を持つ親戚同士(村同士)でも、何百年も交流がなくなることがあり、そういう村同士が、ある日、なんらかのことでトラブルになる。村同士のイクサですから、これは村国家の一大事で、村長であるリーダーは、胸にご先祖伝来の勾玉を下げてイクサの場に赴き、相手の村国家の軍団と対峙してみると、相手の村長の胸にも、同じ勾玉が!  

 そこで、


「やあやあ、あなたも上方様のご一統ですか」

「ハイ、私は何代の○○様の時代にこの土地に来た者です」

「そうですか。私は何代の□□様の時代ですよ」

「それなら、お互い親戚ではありませんか。ならばイクサなど辞めにして、一緒に酒でも酌み交わしましょう」


などとなって、流血事件が避けられたのみならず、互いの村国家同士の交流が深まり、互いに発展することができた。

 そんな「証」が、勾玉であった、という。”


 先に続いて、勾玉が所属勢力、出身勢力を示すものであった、という事が書かれている。この中では「イクサ」と書かれているが、実際には戦争というよりももっと小規模な喧嘩に近いものだっただろう。


 私の出身中学は在籍していた頃、荒れていて隣の中学とよくトラブルがあった。喧嘩となると、互いに人数を集めて乱闘もどきをやるのだが、小さな市なので、互いのグループに親戚同士の者がいたりする。そうなると、なんだ、親戚かよ、となって取りやめになったりしていた。


 つまり、殺し合わなくてもいいほどのトラブルであれば、一旦、ヒートアップしたとしても取り止めにする理由さえ見つかれば和平となるのである。この時に勾玉が活躍したんじゃぞ! という話になっているが、上方さまと呼ばれる酋長?が広範囲で政略結婚をしていて、そのご威光を語る話になっている。(上様(カミサマ)、つまり祖先は偉大なのだ、という類の話)


 これが国家間の戦争であれば、大きな利権と生存権の奪い合いであるため、血縁者がいるから~などという牧歌的な理由で取り止めになったりはしない。あくまで小規模な村同士の小競り合いの域を出ない、同時に、殺されるリスクを負ってまで奪い合うべき土地などがないという条件があっての事である。


 この手の話は世界的にはどうなのだろう?

 うちらの祖先は強い王様がいて、あちこちと戦って勝ったのじゃ! みたいな話はよくあるが、たくさん親戚がいたから戦にならずにすんだのじゃ! というパターンはあまり見ない気がする。


 戦争に勝つことよりも、戦争にならずに済む方が価値が高いのだ、という事を伝えている話でもあり、それにも特異性を感じる。

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