黒服の二人組③
「アッレレレーー?⭐️」
などと女はよっぽど意図しない事でも起こったのだろう。素っ頓狂な声を出して困惑している。この女はこういう時も笑顔のままだ。
「こ、困ったな」
「うん、ホントだねー⭐️」
男の方は完全に焦り出して営業スマイルをやめてしまう。彼は胸元から今度はスマホを取り出して、どこかへ連絡を取り出した。
「先輩、時間押してるネ⭐️ このあと田中さんの所へ行かなきゃだよ〜⭐️」
「うん。分かってるよ」
なかなかスマホは繋がらないようだった。そうして受信待ちのスマホを片手に、二人は私に背を向けてヒソヒソと会話を始めた。
「‥‥この人、そもそも、ちゃんと手順踏んでるの?」
「‥‥ちょっと待って調べる。(タブレットを見て)あ、やってる。けど、もー、ウミちゃん、テキトーだな⭐️」
私をそっち抜けで、二人組は分からない内容の事を喋り続けている。私はずっとなんのこっちゃの状態だ。
「ちょっと、込み入ってまして、待っててくださいね」
と、男が申し訳なさそうに言ってくる。
トラブルが起きて男と同じ作業をしていても仕方ないと、女の方も別の対応に取り掛かり始めた。彼女もスマホを取り出してどこかへ連絡を入れている。
「田中さんのところに急いで誰かを行かせなきゃだね。正規は動かせないから、準天‥‥、じゃなくて、あの子に行かせよう⭐️」
私は言われたとおり待つ。
しかし、しばらくしても問題は収拾つかないようだった。
「こっちも連絡つかないや。あ、絶対ウロウロしてどっか行っちゃダメだよ。ウミちゃん、待機だよ⭐️」
私は続けて待つ。
飽きてきたので鼻くそをほじり、人指し指でピンと飛ばす。
すると当然、鼻くそは地上に落ちてゆくのだが‥。
おおそう言えばコイツ(鼻くそ)には実体がある。あの落ちていったヤツ、地上の誰かにくっつかないかな、などと思っていた。
「うみねこ様、ここはあまりいい場所ではないから気をつけてくださいね。あ、繋がった」
「そうそう。危ないよ。幻覚とか、あと誘惑–––。こっちも繋がった⭐️」
私はいよいよ飽きた。
二人を残して、辺りをウロウロとする事にした。
⚪︎
やはりここは神秘的で摩訶不思議な場所であった。
空の上をのんびり散歩しながら楽しんで、二人から少し距離が空いた時である。
空というのは海にも似ているので、そんな風景を眺めていたら、ふと何気なく釣りでもしたいなあ、と思った。
本当に何の脈絡もなく、そう思っただけなのであるが‥‥、
すると突然、目の前に釣り道具一式が出てきたのだった。
おお、と歓声を上げ、私はそれらを手に取り確認する。間違いなく私が普段使っている装備一式であった。
ならばと思い、
––––出よ、うみねこブラックファイヤー28号!
と念じた。
すると先ほどと同じように漆黒に輝く釣竿が出てくる。
間違いなく私がカスタマイズし、磨きに磨き抜いた最高級釣竿そのものであった。
だいたいの仕組みは分かった。
私はこの時、すでに目の色を変えていたのだと思う。
必然、ならばならばと思い、次の物を念じた。
––––出よ、私の生涯の夢で、けっきょく夢に終わった憧れのクルーザー!
再び驚くべきことが起こった。
まさに奇跡だった。
私が憧れに憧れて抜いた、購入すれば家一軒の値段にもなるという釣り人すべての夢である船が現れたのだ。
おおおおおおお!
おおおおおおおおおお!
私は嬉々として飛び上がった。
年甲斐もなくはしゃぎ回った。
こうなったら他のことなど考えることなどできない。私のするべきことは一つだった。
何か警告されていたような気もするが、そんなものは速やかに忘れた。
私は小躍りしながら憧れの筐体に乗り込み、ワクワクしながらエンジンをかけ、空という大海原へ出航したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。