いん○ゅう村

木村雑記

第1話☆あたし達がプリンセスに!? 村の祠とふしぎ犬!

「きみ、あの祠に行ったの!?」

 あたし、ほうつかイチゴ! 十四才!

 村の長老のようなことを言っているこっちの生き物は、あたしの使い魔を名乗るマスコットキャラクター! 名前は焦土ショートっていうんだって!

 ことの発端はあたしが幼馴染でマブダチのまきかわらむねと行った裏山の神社、鳥居の奥にあったボロい祠を開けて、中にあったこ汚い石を持ち帰ってきたこと。ガッコーでは習ってないへんな文字がいっぱい書いてあるシールみたいなのをぜ〜んぶ剥がしたら、頭が二つある犬みたいなのが見えるようになったの!

「あの祠に行って、魔導石を持ち帰って、封印を解いても肉の形を保ったままだなんて! イチゴ、キミはすごいよ!」

 二つの頭で同時にしゃべるから、焦土の声はいつでもステレオみたい。すごい。イミフなルールだらけのつまんない村だと思ってたけど、こんなマカフシギなことも起きるんだ。あたしとらむねは顔を見合わせた。

「なんであたしの名前を知ってるの?」

 どっちの頭に話しかけたらいいのかわかんないから、とりあえずふたつの頭の中間点くらいに尋ねてみる。

「もちろん知ってるよ! この村では、男児の精通時期も女児の初潮時期も、なんなら初体験の時期も、ていうかキミ達の生まれる前、着床シーズンだって村民達にツツヌケだからね!」

「マジきも。だから早く出ていきたいんだよなこの村」

 らむねは大きな音を立てて地面にタンを吐いた。あたしもそれに倣う。多少ワクワクするようなことが起きたと思ったけど、やっぱりこんな村は早く出ていくに限る。

「とにかく、イチゴ、らむね、キミ達には才能があるよ!」

「なんの才能か知らんけど、才能があるならなおさら早く出ていきたいなこの村」

 気色の悪い発言によって、さっきまでは多少なりともかわいらしい生物に思えなくもなかった双頭のイヌのような何かがもうとたんに汚物にしか見えなくなってきた。祠から持ち帰ってまだ手にしたままのこのこ汚い石でぶん殴れば、くっそキッショいこいつをこのくっそキッショい村の土にまるごとお還ししてやることができるだろうか。

「もうムリだよ。その魔導石の封印を解いたことで、キミ達のタマシイは祠に紐付けされた。村から出れば今度こそその肉体は爆散し、完全に消滅するだろう」

「は? イミわかんねーんだけど」

「頭ふたつ付いてんのに脳みそは詰まってねぇのか?」

 あたしとらむねは口々に焦土をののしる。ホントにイミわかんないんだもん。なんでそんなことになんなきゃいけないの。

「タマシイをとりもどすには、プリンセス看護職員ナースに変身して村の平和を守る仕事を完遂するしかないんだ。そういうルールだからね」

 焦土はにっちゃりと微笑んだ。双頭の口元から獣臭い唾液がどばどばと溢れ出る。ぼとりぼとりと落ちた唾液に反応してか、地面がジュッと溶けて煙が上がった。あたしとらむねは、今度は額にギュッと力をこめて、もう一度顔を見合わせた。

「キミ達みたいな愚かな子供は今までもたくさんいたよ。たくさんいるキミ達みたいなのをプリンセス巫女巫女看護職員、あるいはプリティウェポンボーグ、あるいはフォークロアキャプター、あるいはバラバラ木乃伊コレクター、あるいはエンドレスドール……そうした存在にするために、ボク達は村のいたる所に存在しているんだ。肉体が魔導石に適合するお年頃と、こうした村のルールを破りたくなるお年頃っていうのは奇跡的に一致しているからね。素体集めにもってこいなんだ。……みんな最終的には契約内容を飲んで、そうして村を守ってきたんだよ。だからキミ達も、生きて村を出たいのならまずは、沼の大蛇をやっつけないとね」

 あたし達はようやく気付いた。

 ここは因習村ではない。

 因習に憑りて少年少女を搦め捕り魔法的存在に変貌させる、淫獣共の蔓延る村――そう、淫獣村だったのだと。

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