ハローマックの匂い
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ハローマックの匂いがした。
ふと、である。
電車の中で、発生源は分からない。
近くの誰かの香水なのかもしれないし、いくつかの要因が混ざり合った結果なのかもしれない。
当然であるが、そんなものは忘却の彼方にあった匂いだ。
ハローマックというのは20年ほど前に全国展開していた玩具店であり、平成の空気と合わさってインターネット上ではノスタルジーの代表として語られたりもしている。
匂いというのは強烈に記憶を喚起するもので、記憶の片隅にすら置いていなかったような情景をその一瞬で甦らせる。
その、『ハローマックの匂い』というのが、建築物そのものの匂いなのか、真新しい玩具のプラスチックや紙の匂いが混ざり合ったものだったのか、それは分からない。
あるいは、単に、たまたま置いていた芳香剤の匂いを私が記憶していただけかも知れない。
突発的に街中で再開したのだから、そう珍しい種類のものでも無かったのだろう。
記憶とは物事を適当に紐付けてしまう。
好きな音楽を聴きながら読んでいた本が、その曲のフレーバーに引きづられてしまうことはザラであるし、その逆も然りだ。
雨の日の土の匂いがノスタルジーに紐付くように、私の中でその匂いは遠い遠い思い出の中に紐付けられていたのだ。
電車を降りて、しかし、もうその匂いは忘却の中に揺蕩い始めている。
また会う日まで。
さようなら。
嘘日記 私ちゃん @harukawanosora
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