電柱の隙間
5/2
言い知れない恐怖を感じるものがある。
電柱の隙間である。
平垣と電柱の間にある、人が一人通れるくらいの空間。
それは神社の鳥居を渡る時のように、日常を断絶させてしまう境のように感じる。
路地の真ん中から外れて電柱の隙間を歩いたが最後、私という存在はこの世界から一生失われてしまうだろう。
そんな予感。
隙間を渡って出て来た私は、全く私のようであるが、それはもう以前の私とは違った何者かであるのだ。
アルバイトの帰り、時刻は23時過ぎ。
自宅までの帰路に、野良猫が一匹、座っていた。
街灯の無機質な明かりに照らされながら道路のど真ん中に陣取り、通せんぼをするように、微動だにせずこちらをぢっと見ている。
深夜の裏路地とはいえ、車通りも多少はある道である。
道の真ん中に陣取るのは普通ではないように思う。
気味が悪かった。
私は、それを避けるように大回りしながら、猫から視線を切らないまま路地の端を壁伝いに歩いて、ふと気づいた。
電柱が遮蔽となって、私から猫を隠したからだ。
私は、今まさに、電柱の隙間を渡ろうとするその境界に居るのだ。
数秒、そこで歩を止めていたが、踏み出した足を戻すほどの論理は私の中の迷信には無く、私は電柱の隙間から踏み出した。
なんて事はない、私は私のままである。
路地へ向き直ると、猫は居なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます