電柱の隙間

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言い知れない恐怖を感じるものがある。

電柱の隙間である。

平垣と電柱の間にある、人が一人通れるくらいの空間。

それは神社の鳥居を渡る時のように、日常を断絶させてしまう境のように感じる。

路地の真ん中から外れて電柱の隙間を歩いたが最後、私という存在はこの世界から一生失われてしまうだろう。

そんな予感。

隙間を渡って出て来た私は、全く私のようであるが、それはもう以前の私とは違った何者かであるのだ。

アルバイトの帰り、時刻は23時過ぎ。

自宅までの帰路に、野良猫が一匹、座っていた。

街灯の無機質な明かりに照らされながら道路のど真ん中に陣取り、通せんぼをするように、微動だにせずこちらをぢっと見ている。

深夜の裏路地とはいえ、車通りも多少はある道である。

道の真ん中に陣取るのは普通ではないように思う。

気味が悪かった。

私は、それを避けるように大回りしながら、猫から視線を切らないまま路地の端を壁伝いに歩いて、ふと気づいた。

電柱が遮蔽となって、私から猫を隠したからだ。

私は、今まさに、電柱の隙間を渡ろうとするその境界に居るのだ。

数秒、そこで歩を止めていたが、踏み出した足を戻すほどの論理は私の中の迷信には無く、私は電柱の隙間から踏み出した。

なんて事はない、私は私のままである。


路地へ向き直ると、猫は居なかった。

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