想い想われ伝わらない⑪




その僅か数十秒後、その言葉が届いたかのように思佑が現れた。 かなり息を切らしていて駆け付けてくれたのが分かった。 ただ男との遭遇から探したのではとてもこんなすぐに来ることはできないだろう。

おそらくはその前から愛海を探していたのだ。


「愛海!!」

「ッ、思佑くん・・・!」

「おい、アンタがしようとしていることは犯罪だけど分かってんのか!?」


思佑の苛立ちの発言。 ゲームセンターの時もそうだが、いつもより荒い言葉に少しドキリとしてしまう。


「ちッ。 何だ、男持ちかよ。 早く言えっての」


思佑の姿を見ると驚く程あっさり男は逃げていった。 元々大した覚悟もなく軽い気持ちくらいだったのだろうが、それが余計に腹立たしかった。 チラリと思佑を見る。


―――もしかして私の心の声が届いた・・・?

―――・・・なんてそんなわけないよね・・・。


男がいなくなるのを最後まで見届けた思佑。 思佑が振り向くと目が合ってしまった。


「愛海、大丈夫?」

「あ、う、うん・・・。 助けてくれてありがとう」

「無事ならいいんだ」


つい先程まで喧嘩していたということもあり再び気まずい空気が流れる。


―――・・・もしあの占いの結果が本当ならこの状態を打破できるのかもしれない。


「あの」 「あのさ」


二人の声が重なった。


「な、何?」

「いいよ、愛海から言って」

「ううん、思佑くんから」


譲り合ってまた沈黙。


―――もうタイミング悪過ぎ・・・ッ!


これでは埒が明かないと思い勇気を出して口を開いた。


「私、思佑くんのことが好きです!!」 「俺、愛海のことが好きなんだ!!」


―――え・・・?


これもまた重なってしまった。 二人は同じことを言っていて互いに目を見開く。


「・・・今言ったことは本当?」

「本当だよ? ・・・愛海も今言ったことは本当?」

「本当! 私はずっと前から思佑くんのことが好き」


―――今のはタイミングが物凄くよかったんだ・・・!


そう言うと思佑は照れ笑いした。


「な、何だ。 そっか、そうだったんだ。 最初から俺たちは相思相愛だったんだ」

「え、最初からって?」

「あぁ、いや、何も。 愛海もそう思わなかった? なーんて」


誤魔化そうと笑顔を見せる思佑だが嫌な気はしなかった。 ただどうもその言葉には引っかかる。


「・・・思った。 思佑くんも私のことを想ってくれているな、って」

「え・・・」


その返しに思佑は驚いた顔をした。


「さっきはごめん。 無理にブレスレットを付けようとして。 男の子だからピンクを身に付けるのはおかしいよね」

「愛海・・・」

「それは分かってた。 どうしても同じものを買いたくて、でもどうしてもあのブレスレットしか二つ以上あるものはなくて。 急いじゃったのがいけなかった、もっと冷静に考えていれば・・・。

 本当にごめんなさい」


素直になって頭を下げながら謝る。 すると思佑は慌てた様子を見せた。


「いや、愛海、顔を上げて! 俺の方こそごめん、愛海に怖い思いや痛い思いをさせて。 怪我はしてない?」

「それは大丈夫」

「って! 痣になってるじゃん!」

「あぁ、これはさっきの男の人に掴まれたところだから」

「はぁ!? もうそれって犯罪に足を突っ込んで・・・」

「もう大丈夫。 こうして思佑くんが来てくれただけで。 腕の傷は簡単に治るけど、心の傷を引きずったら嫌だから」

「そっか・・・。 俺も焦る一方で愛海の気持ちを全然考慮できていなかった。 本当にごめん、これからは気を付ける。 それと・・・」


思佑は愛海の腕に優しく触れると袖を捲りピンクのブレスレットを外した。


「このブレスレットもらってもいい?」

「え、でもピンクだよ?」

「よくよく思えば愛海とのペアルックならそんなに恥ずかしくないかな、って。 あの時は付き合っているわけじゃなかったから何となく抵抗あったけど」

「・・・!」


まだ想いを伝え合っただけで恋人同士に既になっているとは思わなかった。 自然と恋人同士が確定されていたことを嬉しく感じた。


「・・・うん。 でもやっぱり一緒に色違いのお揃いのものを買いに行こう? 私もほしいから」

「いいね、それ。 これはこれで大切にするけど、今から買いに行くのは付き合った記念ということで」


思佑は手を差し出してきた。 今までも一緒に出かけることはあったが、当然恋人ではないため手まで繋いだことはない。 差し出されたことに嬉しく思い愛海も手を重ねた。


―――これが恋人になった特権かな。



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