想い想われ伝わらない⑩




愛海は行く宛もなく彷徨っていた。 足取りは重く姿勢は俯き気味で表情も暗くなる。


―――あーあ、やっちゃった・・・。

―――何か心の声が聞こえるようになってからどこか調子が狂う。

―――確かにブレスレットは可愛かったけど、思佑くんが付けるとしたらあまり想像がつかないっていうのは冷静に考えれば分かる。

―――どうしてあんなに浮かれて独りよがりで選んじゃったんだろう・・・。


愛海は自分の腕に付けているブレスレットへ目を落とす。 可愛いとは思う。 可愛いとは思うがどう見ても女性、いや、女子向きのアイテムだ。

もし思佑に骸骨の黒いブレスレットをもらったらどう思うのだろうか。 人によっては有りという人もいるかもしれないが、どう考えても愛海の趣味ではないそれを好んで身に着けたいとは思わなかった。

愛海は知らぬ間に駅へと来ていた。 自然と人通りが多いところを求めていたのかもしれない。


―――だけど今日の思佑くんはおかしかったな。

―――普段なら手を握ることすらしないのに。

―――もしかして睦秋くんに何か言われたりでもしたとか・・・?

―――無理しているのは伝わってきたし。

―――それにやっぱり思佑くんは男の子だね。

―――力が強くてなかなか抜け出せない。

―――・・・それでも私は思佑くんのことが好き。

―――たとえ嫌われたとしても私から諦めることなんてできない。


自分の感情がぐちゃぐちゃになり涙が出てくる。 人通りが多い駅ということもあり抑えようとしてみるも涙は勝手に溢れてきた。 そのような時、ふいに声がかかる。


「かーのじょ? もしかして振られた?」

「・・・」

「ぼくちん暇だから落ち着いていてカラオケのできる場所ででも慰めてあげようか?」


かけられた声は軽率で、チラリと確認してみると髪を金に染め上げ明らかにチャラそうな40代くらいと思しき男がそこに立っていた。


「・・・構わないでください」

「こんな天下の往来で泣いているとこの街の気分が沈むのよ。 悪いことは言わないからお兄さんといいところへ行こ?」

「・・・」


流石に人通りもあるため強引なことはしてこないだろうが、何となくその場に留まるのが嫌だったため足早に離れようとする。


「ッ・・・」


だがあろうことか男は強引に腕を掴んできた。 思佑が掴んできた時とは比べものにならないくらいの強さだった。


―――思佑くん・・・!


咄嗟に思佑のことが頭に浮かんだ。 思佑の力も強く男の人の力だと思っていた。 だが明らかに自分を気遣う優しさがそこにはあったと気付き胸が痛んだ。 しかし今の相手からはそれが全くない。

ただただ痛かった。 それなのに今は痛みや恐怖よりも思佑とこのような関係になってしまった悲しさの方が勝っていた。


―――・・・思佑くんは今日らしくないって思っていたけど今日の私もおかしかったんだ。

―――それはきっと思佑くんの心の声が聞こえていたから。

―――一喜一憂したりずっと思佑くんの声に振り回されっぱなしだった。


「お? 抵抗しないの? まぁ、ちゃんとお小遣いもあげるからさ」


ニヤニヤと笑う男を心底気持ち悪いと感じた。 しかし掴む力は強く簡単には逃げられそうもない。


―――思佑くんと離れ離れになるなんて嫌だった。

―――あの占い通りになるなんて本当に嫌だった。

―――別れた方がいいって?

―――今実際離れ離れになってこんなに辛い思いをしているのに?


「お小遣いって聞いて明らかに力が弱まったね」


もちろん愛海にそのようなつもりはない。


『残念ながらお二人の今の相性は最悪です。 この状態が続くのなら今すぐに別れた方がいいでしょう』


占いの結果が脳内でリピートされた。 そこであることに気付く。


―――・・・あれ?

―――でもあの占いは“今の相性は最悪”って・・・。

―――この状態が続くのなら、ってもしかしたら・・・!


「・・・は、離して!!」


ズルズルと引っ張られていたがようやく抵抗できた。 咄嗟に振り返る。


―――もう駅からこんなにも離れてるじゃん!!


「今更もう遅いでーす。 人通りも少ないしホテルへ行かないほうが安く上がるからここでいいか」


男の声色が変わりより強い力で引っ張られる。 それを全力で拒んだ。


「嫌、離して・・・ッ!!」


―――お願い思佑くん、助けてッ!!

―――私、○○の近くで変な男に絡まれてる!!



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