第34話「悪役貴族、弱点を突かれる」


「俺の不死身は無敵じゃない。むしろ弱点や相性の悪い相手は無数にいる」「そうなのですか?」



 突入前に、レジネリスはアルバルゴからおおよその手の内を聞かされていた。

 身体強化魔法による超人じみた体力と、死んでも蘇る復活能力。

 いずれにしてもとんでもない力だ。

 それこそ、王城を陥落させてしまえるのではとすら思える。

 暗殺者を軽々と屠った身体能力も、圧倒的な不死性も、レジネリスは実際に見て知っているのだから。

 アルバルゴは、丁寧に説明した。



「例えばそもそも殺さずに拘束するような相手だな。俺のパワーで振り解けない魔法を、遠距離からかけられたらチェックメイトだ」

「まあ確かに」



 言われてみればそうだ。


「でも、多分そういう人はいなかったような気がしますが」



 王城内にも、もちろん腕の立つ武官はごろごろいる。

 それらすべてをレジネリスとて知っているわけではないが……主だった顔は知っていた。

 そしてその中に、拘束魔法に秀でたものがいないことも。

 逆にレジネリスが知らない程度の人間が、アルバルゴに勝てるとも思わなかった。 

 というか、一対一でアルバルゴに勝てる人間は存在しないとすら思える。

 噂によればアルバルゴ・サトゥーゴは魔法一つ使えない無能だということだったが、話が違う。

 むしろ、武官としてみれば頂点に君臨すると言っても過言ではない。

 実際、処刑前の――かつてのアルバルゴは心優しく、決して強いとは言えなかったので、無能という評価も間違いではないのだが。



「まあ、それならいいんだけどね」


 アルバルゴは、それでもなお不安そうだった。

レジネリスはあくまで文官だ。武官の詳細を彼女が把握しているとは限らない。



「例えば、本人以外だれも知らない奥の手として隠している魔法があるかもしれない」

「それは、まあ、そうね」



 レジネリスとて、そんなことはあり得ないと言い切れるほど愚かではなかった。というよりは、アルバルゴの負け筋を潰さんとするその姿勢に関心を持ってしまったくらいだった。



「それ以外にも、可能性はある。例えば、敵がレジネリスをだましていた場合だ」

「いやいや、さすがにそれはないですよ」

「ありえないと、どうして言えるんだ?」

「だって、私に嘘は」



 通じない、と言おうとして、それをアルバルゴによって遮られる。



「嘘をつかないまでも、本当のことを言わないって方法はある。むしろそういうことは、君の方が詳しいんじゃないかな?」

「それは、そうかもですが」



 同時に、レジネリスは何とも言えない気持ちになった。アルバルゴの言ったことは文官側のやり口であり。

 宰相の得意分野でもあった。

 彼が主導で今回のことを決めているなら、文官らしいやり方を多用することは十分に考えられる。



「例えば、魔法の効果を部分的に説明すれば、私の『嘘を見抜く魔法』をすり抜けられると思います」

「まあそうだね」



 それはアルバルゴも考えていた。例えば、アルバルゴが「俺の能力は自分を蘇生させる能力だ」と言ったとする。それは意図的に他人を蘇生できることを伏せている。

 本当のことを全て話したわけではないが、完全に嘘をついているわけでもないから『嘘を見抜く魔法』は発動しない。



「ともあれ、そういう手合いが現れる可能性だってある。俺は、ピオナと術式の最終調整に入るよ」



 アルバルゴは、自分の天敵への対策を考えた。それが必要とする場面が来るのかすらもまるでわからないままに。



 ◇



 国王の死亡を確認したアルバルゴは、即座に攻撃に移った。

 敵である宰相が単独でいる現状に加え、人質に取られる可能性のある国王も既にいない。仮にレジネリスが人質に取られたら、その時は最悪レジネリスごと殺してレジネリスごと蘇生するプランもあった。

 


「ここにいるのが、私だけだなんて思わないでくださいね」



 宰相が指をパチンと鳴らす。同時に、天井をすり抜けて、四人の人間が現れる。魔術を使って現れたのか。

 四つの魔術が同時に飛来する。

 とっさにアルバルゴは右手で一人の首をもぎ、もう一人の腹を指で裂く。

 直後、二つの攻撃魔法がアルバルゴに命中。火炎弾がアルバルゴの全身を焼き、土の槍がアルバルゴの心臓を貫いて絶命させる。

 半ば焼け焦げた死体ができあがり、転がる。

 そのまま、残機を消費して、蘇生を。



「【留まれ】」



 しない。



「え?」



 レジネリスの疑問の声が、部屋中に響く。

 茫然自失になりつつも、一瞬にして三人の人間が死んだことで、彼女は現実に戻ってきていた。

 だが、将器に戻っても何にもならない。

 なぜなら、異常事態が発生しているから。



「アルバルゴ、どうして、蘇生しないの?」

「ああ、そういう能力でしたか。強いとは聞いていましたが、詳細はわからなかったもので」

「……何をしたの?」

「私の魔法ですよ。簡単に言えば、彼の蘇生は無効化しました。今後、もう彼は生き返りません」



 なぜなら、と宰相は前置きし。



のが私の魔法ですからね」



 アルバルゴが危惧していたその予感は正しかった。

 しかし、根本的に勘違いしている部分もあった。

 アルバルゴたちは、武官のいずれかがアルバルゴの天敵である可能性を想定していたが。

 実際にはそうではなくて。

 アルバルゴたちの目の前にいる宰相は、間違いなくアルバルゴの《天敵》だった。

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