第30話「悪役貴族、王城へと入る」

「ということで、俺達三人で宰相を殺し、国家転覆を目指すことになった」

「えええええええええええええええええええ!」


 地下牢にある死体を処理したり、拘束していたメイドたちを解放し、レジネリスに説得させたりといった事後処理が終わった後。

 顔を真っ青にしたピオナがこの世の終わりのような叫び声を上げる。



「ピオナ、落ち着け。そう騒ぐことじゃないだろう」

「待ちなさい、どうして国家転覆することになっているの」

「十中八九、王族の誰かが絡んでるからだ」


 宰相というトップの座についているものがわざわざ王族に手を出す意味はない。

 これ以上上り詰めることは難しいからだ。

 だが、バックに王族の誰かがついているならば可能性はある。



「宰相に子供はいるか?」

「ええと、十五歳の娘と、十三歳の息子が」

「じゃあ確定だな。王族の誰かと組んで、お前を排除しようとしてる。んで、お前と王様を殺した後に自分の子供と新しい王様をくっつけて権力を握りたいんだろう」



 宰相より権力を持っている王、そのさらに上。

 王すら操る影の権力者になるつもりだとすれば、これまでの彼の行動にも納得がいく。


「この場合、まずはお前の父親を助ける必要がある。そうすれば、あちらを賊軍として討伐できる。こっちには王様と継承権第一位がいるんだからな」

「もしも、それが叶わなかった場合は?」


 ピオナが、気づかわしげにレジネリスを見る。

 レジネリスの肩がびくりと震えた。もしかすると、もう殺されている可能性もある。


「その場合は、おそらく宰相が擁立する王族が王を名乗っているはずだ。その場合は国家転覆……国を潰すことになるだろうな」


 まあ、やることはさほど変わらないがな、とアルバルゴは告げる。


「とりあえず、俺はもう行く。ピオナはここに残って籠城の準備と、使用人たちの説得を頼む。退職を申し出るものがいれば、この金を渡しておいてくれ」


 相手が何人いるかもわからない状況下だ。それに無理に巻き込むつもりはなかった。



「はい、わかりました。入って来る敵が全員半死半生になるような呪いを準備しておきますね。うひひひひひ」

「ああ、頼りにしてるよ」


 ちらちらと上目遣いで見てくるので、ぽんぽんと頭をなでる。顔を赤らめつつも、ピオナは嬉しそうにしていた。



「あなたは、何をするの?」

「敵を殺す。ついでに、王は助ける」


 人ひとり担ぐくらいならさほど消耗しないこともわかっているしな、とアルバルゴは呟いた。


「あの……」

「何だ?」

「お父様と、できればお母様も……」


 アルバルゴは一瞬考える。


「善処する」



 そういって、アルバルゴはサトゥーゴ邸を出ていった。



「え?」

「じゃ、行ってくるよ、ピオナ」

「はい、行ってらっしゃいませ!」


 ただし、王女を担いで。

 窓から身体強化魔法をかけたアルバルゴは、飛び出していった。

 


「ちょ、ちょっと待ってください。何をしているんです?」

「何とは?」

「どうして私も王城に向かっているんですか?」

「どうしてって、敵味方の区別をつけたいだけだが?」



 レジネリスの嘘を見抜く魔法の有効射程は十メートルもない。

 だから、王城にいる人間のうち、誰が敵で誰が味方であるのかを見分けるにはレジネリスも王城に入らなくてはならない。

 それはわかっている。

 だがそれでも、この殺人鬼を入れるのは――。



「ひとつ、言わせてもらおう」



 アルバルゴは冷たい表情を浮かべて、レジネリスを見た。



「お前の能力で敵ではないことを証明できている人間に関しては、危害を加えるつもりがない。だが、それ以外については別だ。攻撃してくる人間、武器を向けてくる人間、そいつらは全員殺す。敵になりえるからな」

「馬鹿なことを……」

「止めたいなら――わかるな?」


 レジネリスは考える。アルバルゴを武力で倒すのは無理だ。埒外の身体能力と、残機による不死性。はっきりいって勝ち目はない。

 犠牲者を減らす方法は――一つしかない。



「わかったわ」


 レジネリスは、ため息をついて王城の門への動向を承諾。

 それからほどなくして、レジネリスの説得によってアルバルゴたちは城内に入れることになった。


「説得ご苦労様」

「どの口が?」



 レジネリスはため息をつきながら、アルバルゴを睨む。

 門番の命がかかっているため、レジネリスも必死だった。

 門番は難色を示したが、レジネリスが全責任を負うと発言するとあっさり首を縦に振った。

 アルバルゴとレジネリスは城門をくぐり、城の中に入った。



「広いなあ」


 アルバルゴは王城の廊下を闊歩する。

 ちなみに、武器は当然取り上げられている。

 まあ、最悪素手でも戦えるからいいか、とアルバルゴは所持していた剣を差し出した。



「そういうところは素直よね」

「何の話だい?」

「いえ何も。ちぐはぐだなと思っただけよ」


 意外そうな顔で、剣帯だけがついている腰を見ながらレジネリスが苦笑する。

 どちらもアルバルゴの本質なのかもしれないと思う。

 殺人鬼の冷酷な面があり、素直な子供のような一面があるということだ。

 レジネリスもまたそうだ。

 根っからの悪人ではないのかなとアルバルゴを微笑ましく思う一方で、本能的に恐怖を抱いている。



「まあ、王様に早く会えるのならそれに越したことはないからね。最悪素手でも戦えるし――最悪に備えて切り札も切ってるし」

「ああ、あれのことですわね」



 レジネリスは、できれば発動しないでほしい切り札のことを考えて。



「【陥没せよ】」



 声がした。

 同時に、廊下が消失する。


「これは……」

「レジネリスっ!」


 足場を失い、何もできなくなった状態で。アルバルゴは、とっさに彼女の手を掴み。


「【穿て雷槍】」

「【切り裂け風刃】」



 空中にとどまる彼らを、攻撃魔法が絶命させた。


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