第28話「悪役貴族、四兄弟を破壊する」
「そんなバカな……」
「ああ、契約書は発動するのか。まあ、仕方がないか」
アルバルゴは、血を吐きながら、嘆息する。
嵌められた、と悟る。
死んだうえで復活させた後で、どうやって切り抜けるのかを考えていた狙撃手。
だが、そもそもそれが間違いだった。
契約など、不死身の怪物の前では無意味なのだから。
「ま、待ってくれ。だったら何で、俺に残機を?」
狙撃手は、どうにかして会話を続けようと話題を転換する。
だが、彼がとっさに口にしたのは本心からの疑問でもあった。
そもそもおかしいのだ。敵を殺す、という考え方は決して間違っていない。
それをしなければ、自分の命や仲間を守ることが出来ない。
では、なぜわざわざ狙撃手を元に戻したというのか。
「そんなの決まってるだろ。何回も何回もお前が殺してきたから――」
狂気に満ちた目をかっと見開いて、アルバルゴは告げる。
「その分、お前を何回も殺すためだよ」
自分にとっての敵に報復する、ということは彼にとって最も大切なことである。
それ自体は理解できないことではない。
だが、彼はその在り方があまりにも歪だった。
命のストックを、生き残るための盾ではなくより苦しめるための拷問器具として使用する。
アルバルゴ・サトゥーゴはどこまで行っても復讐者で、怪物なのだ。
「俺に攻撃したことを、俺を殺したことを……死ぬほど後悔させてやる!」
彼の不死身の能力でも、魔法で強化された身体能力でもない。
恐るるべきは、彼の心であるのだと。
「くそおっ!」
とっさに狙撃手は後ろに跳んだ。
距離を話したうえで攻撃魔法を打てばまだ可能性はあると思ったのだ。
「残念」
「ごふっ」
アルバルゴは、手に持った剣を投げた。
剣は狙撃手の体を貫いて壁に縫い留める。
心臓を貫かれており、息絶える。
「ラストワンだ」
アルバルゴは裂けるような笑みを浮かべると同時、壁に刺さった剣が抜け、狙撃手の体が修復される。
「【雷」
「おせえよ」
詠唱が終わる前に接近し、顎をつかむ。
そしてそのまま全力でつかむ。
魔法で強化された右手は、容易く顎の骨を粉砕した。
「あ、お」
「終わりだな」
これでもう、狙撃手には魔法が使えない。
身体強化魔法を除いたすべての魔法には詠唱が必須であり、これでもう攻撃手段がなくなった。
彼が勝つ可能性は万に一つもなくなったことになる。
「ひっ」
絶望した彼が逃げようとするも。
「無駄だぞ?」
床に落ちた、血の汚れ一つない剣を手に取り、狙撃手の脚の腱を切る。
「おっ」
狙撃手は倒れ伏す。
「どうして、こんなことになったのかわかるか?」
「お前が、俺を殺そうとしたからだ」
「お前の弟三人が、苦しみながら死んだのも、お前がこうしてみじめに這いつくばりながら死んでいくのも――全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部」
アルバルゴは、がちゃりと、置いてあった宝箱の鍵を開け、箱をひっくり返し、中身をぶちまける。
「お前のせいだなあ」
それは、三つの球体だった。
それには、三者三様の苦悶に満ちた表情が刻み込まれていた。
くしくも、弟と似たような表情を浮かべている狙撃手を見下ろしながら、アルバルゴはせせら笑う。
「なあ、お前の弟と再会できたぞ?今、どんな気持ちだ?うん?」
「え、あおおおあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
狙撃手が、絶叫する。理性も駆け引きも損得勘定も殺意すら忘れて、弟の首に這いずって近づこうとする。
「許すと思うか?」
アルバルゴは、弟の首を抱こうとして、這い寄ろうとする両手を粉砕する。
「お前が、俺の敵が、死の間際に家族に触れることを許すと思うか?お前には救いは何一つ与えてはやらん。このまま身も心も余すところなく絶望に染め上げて殺してやるよ」
「あ、あ」
狙撃手の顔が絶望と恐怖に染まる。
「あー、やっぱり命を与えた相手を殺しても残機は増えないんだな。まあ、これができたらリスクゼロで拷問し放題になるし、ズルは許さないってことなのかね。変なところで制限付与してくるなあ」
カウントの数字から、能力の欠点を考察する。
ピオナに与えるなど、色々使い道は多そうな「命を与える力」だが、自身のストックを消費する都合上こうして楽しむために無駄遣いしていいわけでもなさそうだ。
「まあでも、敵を殺すにしても苦しめて殺したほうが満足感があるしな。やっぱり、そこのバランスが難しいところだね」
まるで性交した様な、どこかすっきりとした表情をしながら、アルバルゴは牢を出る。
「ああ、あとで掃除もしてもらわないとな。さすがにピオナ一人には任せられないし、一緒にやろうか」
牢の中には、三つの生首と一緒に、新たな生首と、泣き別れになった胴体が転がっていた。
新しい首は耳と鼻をそがれ、眼球は潰され、歯は全部おられていた。
◇◇◇
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