第26話「悪役貴族、暗殺者を蹂躙する」
「さて、どうしようかな」
気絶した四人を見る。
といってもあくまでも死ななかったのは結果論だ。
死ななければいいと思っていたが死んだらそれはそれで仕方がないとも思う。
「とりあえず持って帰るか」
アルバルゴは彼らの体を掴んで城に帰っていった。
四人の男を運ぶのは、狙撃手が目を開けると、そこは檻の中だった。
「う……」
「ああ、起きたか」
鍵を開けて後ろ手に金髪の少年が入ってくる。
「っ!」
咄嗟に魔法を放とうとしてそれができないことに気づく。
「呪い、か」
狙撃手の体にはツル植物のような紋様が刻まれている。
「そうだ。その拘束の呪いでお前は動けないし得意の攻撃魔法も撃てない」
「なるほど。それで?」
「うん?」
「俺を生かしたということは聞きたいことがあるんだろう?訊けよ」
話すつもりはない。
そもそも暗殺者というのはそういうものだ。
情報をいちいち漏らしていたら仕事にならない。
体は動かせないがこれからの交渉次第ではまだ生き残る道もある。
「何か勘違いしているみたいだな」
「?」
狙撃手は何を言われたのかわからなかった。
そして何を言おうとしているのかもわからなかった。
これでも海千山千の暗殺者として幾多の修羅場を潜り抜けてきた。
故に相手が何を狙っているのかを見抜いて、切り抜ける交渉術も彼の特技ではある。
だがアルバルゴからは何も読み取れない。
強いていうなら状況証拠から考えて情報を抜き取った後に殺すつもりなのだろうということ。
他の三人がいないのは適当なことを言っていないか確認するために別の場所で擦り合わせする必要があるからだということは分析できる。
尋問においての定石だ。
だが、それ以上のことは読み取れない。
「お前は俺から聞かれたことに答えるんじゃあない。むしろお前から俺に聞かせたいことを進んで話すんだ」
「…………」
狙撃手が感じたことを端的にまとめれば「こいつ頭おかしいのか?」である。
魅了の呪いでもかけるつもりだろうか。
だがあれは秘匿された術式だし、そもそもかけるのに一ヶ月以上かかる。
奴隷相手にしか使えないのは一ヶ月の拘束が必要だからという倫理以前の技術的な問題もあるのだ。
そもそも呪術の使い手をどうやって用意したのか。
事前情報によれば、アルバルゴ自身は魔法を碌に使えない無能であり、呪いだって使えるはずがない。
それもあって公爵に疎まれていたのだと聞いている。
「まあ、とりあえず、お前には何回か殺されてるし、その責任はお前から取り立てないと気が済まないな」
「何を」
「とりあえず、一回死んでもらおうか」
「は」
歴戦の暗殺者としての勘が告げている。こいつは本気で俺を殺そうとしている。情報もまだ聞き出していないのに。
「待ーー」
「黙れ」
ナイフが狙撃手の喉を掻き切り、血が吹き出す。肉体が痙攣して、やがて動かなくなった。
◇
「はっ」
狙撃手が目を上げると、目の前にはアルバルゴがいた。
彼の手に握られたナイフには、血がついていない。
そして、起き上がると、床にも血はついていない。
ましてや彼の喉にあったはずの傷がついていない。
ありえない。
先程、彼は確かにアルバルゴに首を割かれて死んでしまったはずなのに。
「どうなってるんだ?」
ふと気づく。
体が動く。
拘束の呪いが解除されているのだ。
「ああ、そうか、死んだから呪いが解除されてるんだな。俺の時と同じだ」
「……?」
アルバルゴは失敗したな、という顔をした。
だが、僥倖だ。
動ける。
すなわち、こいつを――
「【雷槍」
「遅い」
右腕をアルバルゴに向けると同時、彼もまた反応していた。
魔法が腕を通じて射出する前に、腕を切り落とす。
「が、あああああああああ!」
「遠距離だろ、お前の得意分野は」
アルバルゴが何度も狙撃手に殺されたのは、あくまでも遠距離狙撃だったから。
身体強化魔法しか使えないアルバルゴの得意分野は近距離である。
それ以外の魔法が使えないアルバルゴが、無能と周囲から呼ばれたのも遠距離攻撃手段がないからだ。
銃で殺しあう戦場に、剣士を一人放り込むようなもの。
それこそ、残機がなければ最初の不意打ちで死んでいる。
逆に言えば、刃の届く間合いにおいては、その不利はなくなる。
むしろ、身体能力の分だけアルバルゴが有利。
身体強化魔法は人類共通で使える魔法ではある。
少なくとも、腕を切り落とされて狙撃手が意識を保っていられるのも、屋根の上を走れたのも、手加減があったとはいえアルバルゴに殴られてミンチにならなかったのも身体強化魔法のおかげである。
ちなみに、便利な身体強化魔法だが、とある欠点がある。
それは、魔法の習得数に応じて、出力が低下していくということ。
例えば、魔法を三十個取得している人間は、三個習得している人間の十分の一の出力しかない。
そして、アルバルゴが身体強化魔法以外の魔法は一つたりとも習得していない。
それが、アルバルゴが接近戦で無類の強さを誇っている理由でもある。
「俺の能力は、命のストックをぽんぽんと作り出して、それを蘇生に使用するというものだ」
嘘はついていない。
ただし、ストックを作るためには人間を殺す必要があり、当然ストックに限りがあることは言っていないし、無尽蔵にあると誤解されるような言い方をしている。
「不死身、か。それは勝てないはずだ」
「さて、話はここからなんだが、蘇生させられるのは俺自身に限らない」
「……え?」
「他人に命のストックを与えて、蘇生させることもできる」
「さて、ここで問題だ。俺に命のストックを使ってもらう手間の対価として、お前が払える情報は何だろうな?」
狙撃手自身のことではない。
なぜなら、彼は既に復活している。
ちぎれた腕も、時間さえあれば魔法で修復できる。
ゆえに、彼自身の命は脅しにならない。
脅迫材料となりえるのは。
「まさか……」
「ああ、お前の弟たち三人をよみがえらせてほしければ、知っていることを全て話せ」
血に濡れたナイフを喉に突きつける。
◇◇◇
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