第24話「悪役貴族、王女を論破する」
「エルゴ・サトゥーゴ前公爵は俺に冤罪をかけ、処刑しようとしました。法曹のトップである彼が黒と言えば、誰であろうと黒になります。その状況でどうすればよかったのでしょうね?結果的に処刑は成立しませんでしたが、もし成立していたとしたらどうすればよかったのでしょう?」
「そ、それは」
「黙って理不尽を受け入れて、と殺される家畜みたいに死を許容しろと?そんなの仮に助かったとしても死んでいるのと同じだろう」
「で、でも」
顔を青くした状態で何かを言おうとして、レジネリスは言葉が続かないようだった。本当に、何を言えばいいのかがわからないのだろう。
レジネリスのプロフィールを、大まかであるが知っている。善人であり、苦労を知らない。
親から虐待されたことも、不当な冤罪をかけられたこともない。
蝶よ花よと親や使用人からも愛され、可愛がられてきたと聞いている。
だからこそ、彼女は理解していない。
自分が悪人について、何も知らないということをわかっていない。
ゆえにアルバルゴの事情を突きつけられたとき、判断に迷う。
しのいだ、とアルバルゴは確信する。
レジネリスには、「相手の嘘を見抜く」魔法がある。
それを、ゲームの知識でアルバルゴは知っていた。
そもそもアルバルゴが警戒したのも、レジネリスが彼女の能力を使って隠し事を暴こうとしているのではないかと思ったからだ。
しかし、この魔法には一つの攻略法がある。
それは、「相手が嘘をついていなければ見抜けない」こと。
つまり、嘘は言っていないが、肝心なことを隠したり、相手が誤解するような言い方をすればバレることはない。
そこまで考えて。
「危ないっ」
「きゃっ」
とっさに、アルバルゴはレジネリスを突き飛ばす。
「何を」
レジネリスは、言いかけて気づく。
窓を突き破り、攻撃魔法が飛来し。
つい先ほどまでレジネリスがいた場所を――アルバルゴの上半身を丸ごと消し飛ばしていた。
「な、なんで?」
悪いことをしているのなら、当然暴かれ、裁かれるべきだ。
そう思ったから、親殺しの疑いのあるということを知ったとき、自分が出向くと主張した。
レジネリスの持つ「嘘を見抜く魔法」なら、相手が嘘をつけば魔法が反応する。相手がごまかそうとすれば、長年の経験で見破れる。
そして会話してみた感想は。「変な人ではあるが、悪い人ではなさそう」というものだった。
確かに何かを隠している雰囲気はあったが、彼の態度には悪人特有のやましさとか卑しさというものが全くない。
まるで自分に悪いことはないと心から思っているようだった。
加えて、隣にいる使用人が緊張しないようにずっと気配りをしている様子からも、彼の優しさが伝わってくる。
そもそも、冤罪で父親が彼を殺そうとしたことからも父親殺しに関しては正当防衛が適用される可能性は高い。
「許すべきなのではと、許されてもいいのではないでしょうか」
と、レジネリスは考え始めていた。
少なくとも、今この場でアルバルゴを処断する権限がレジネリスにあるとは思えなかった。
不当に息子を処刑しようとした悪徳貴族が逆に返り討ちにあってしまった。
これはただそれだけの話であり、王家が干渉することではないと思う。
そもそも、アルバルゴが処刑されるときは王家がかかわっていなかった。
それが、知らず知らずのうちに進められていたゆえに気づけなかったのか、あるいは知っていて見過ごしていたのか。
どちらであるのか、レジネリスにはわからない。
少なくとも、アルバルゴの処刑を知らず、止めることもできなかった自分がアルバルゴを裁いていいのか。
そう悩んでいたのに。
「そんな、そんな……」
「…………」
ピオナという少女はうつむいたまま、微動だにしない。
余程ショックだったのだろうか。
情を通わせていたのか、二人の間に信頼関係があるのは聞かずともわかっていた。
レジネリスのせいで、こんなことになってしまった。
どうすればいいのかと、途方に暮れかけて。
「やれやれ、こういう感じか」
ゆっくりと、起き上がるアルバルゴを見たことで彼女の混乱は最高潮に達した。
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