第23話「悪役貴族、王女を出迎える」

「じゃあ、お出迎えと行きましょうか」

「は、はい」


 ピオナががちがちに緊張している。

 顔色は蒼白であり、今にも倒れそうだ。開いていた門をくぐって、一台の竜車が入って来る。



「大きいな……」


 サトゥーゴ家にも豪奢な装飾を施された竜車はあるが、目の前にある竜車はさらに一回り大きい。

 加えて、それを引く四体の竜もはるかに大きい。

 竜車は、アルバルゴの前で停止した。

 扉が開き、メイド服に身を包んだ女性がぞろぞろと降りてきた。

 メイドたちを見た瞬間、ピオナが背筋を伸ばす。

 何かしらの対抗心が働いたのかもしれないし、恥をさらしたくないとおもったのかもしれない。

 ちなみに彼女以外の使用人はアルバルゴに会うことを恐れてか、出迎えに参加していないため、この場にいるサトゥーゴ家の関係者はアルバルゴとピオナだけである。  ゆえに自分の家でありながらアウェー状態だった。

 ともあれ、メイドたちの奥から、一人の少女がゆっくり出てくる。




「…………」

「綺麗……」



 ピオナが思わず言葉を漏らす。

 口にはしなかったが、アルバルゴも同意見だった。腰まで伸びたストレートロングの金髪。

 澄んだ海を連想させるエメラルドグリーンの瞳。体つきはしなやかでありながら、出るところは出ている完璧なプロポーションをしており。着ている純白のドレスもよく似合っている。

 端的に言えば、「王道を行く正統派ヒロイン」という印象だった。

 ピオナも間違いなく美少女であるが、「不遇系ヒロイン」や「薄幸系ヒロイン」と言える。

 というかゲームでもそんな扱いだった気がする。

 閑話休題。



「王女殿下、本日はわざわざお越しいただいて申し訳ない」




 アルバルゴは、馬車から降りたばかりのレジネリスにひざまずく。



「いえ、こちらこそ急な訪問を受け入れていただき感謝いたしますわ」



 レジネリスもまた、スカートをつまみ恭しく礼をした。



「本日は、異例にうかがってくださったとのことですが」

「ええ、エルゴ・サトゥーゴ前公爵の慰霊に参った次第ですわ」

「なるほど。きっと父もお喜びになるでしょう」


 サトゥーゴ公爵家は王族の分家でもあり、親戚である彼女がエルゴーーアルバルゴの父親の死に対して一言言うのは無理のない話ではあるだろう。

 間違いなく、他に意図があるのだろうが。


「申し訳ありませんが、すでに葬儀は内部で終えてしまいまして……」

「内部で、ですか」

「何か問題でもあるのですか?」

「先日、エルゴ様はアルバルゴ様を謀叛の罪で処刑すると突然発表なさいました。確たる証拠もなしに、一方的に」

「まあ、そうですね」



 アルバルゴは否定しない。

 先日行われた彼の処刑は民衆も見ている中で行われた。当然彼女の耳にも入っているはずだ。



 「しかし、処刑当日にエルゴ様が亡くなり、第一子である貴方が跡を継いだ」

「ええそうですよ」


 事実、アルバルゴは公爵の椅子に座っている。



「ところでなのですが、アルバルゴ様はあの日の処刑に大勢の方が来ていたのをご存知ですか?」

「ああ、それはもちろん。この目で見ましたから」

「ではあの日の観客が全員行方不明になっていることについてはご存知ですか?」「そうなんですか?」

「ええ、ご存知ありませんでしたか?」

「逆にそれをいちいち俺が覚えていると思いますか?」

「……話を変えましょう。公爵夫人のタルラー・サトゥーゴと処刑人を務めた貴方のいとこ叔母であるヒルダ・サトゥーゴ様も亡くなっていますね」

「はい、彼女たちの葬儀もすでに終わっていますよ」

「彼女たちの死因は何でしょうか?」

「サトゥーゴ家の主治医が死亡診断書を出しています。ご覧になりますか?」

「いえ、既に拝見していますよ。『突然死』と乱雑に書き殴られたものですね」



 じっとレジネリスはじっとアルバルゴを見ている。

 その視線の意味がわからないアルバルゴではなかった。

 おそらく、アルバルゴが脅して偽の診断書を書かせたことまで見抜いている。

 彼女は、いや王族は確信しているのだ。

 アルバルゴが父を、義母を、親類を、庶民を虐殺して公爵の椅子の座に座っているのだと。

 目撃者はあらかた消したはずだ。

 まだ裏切り者がいるのだろうか。

 あるいは、彼女か。



「これは仮定の話ですが」


 レジネリスが切り出す。

 あるいは言葉で切り掛かる。


「もしも貴方がエルゴ様を含めて多くの人を殺しているのであればーーそれは万死に値する罪です」

「ふっ」


 思わず吹き出してしまう。


「な、何がおかしいんですの!」

「いや失礼。ちょっと思うところがありまして」


 彼女が狙って言ったのかどうかはわからないが、彼を処断したいのであれば一万回殺すしかない、と言うのは正解だったからだ。

 もう一つ、理解できたことがある。

 目の前にいるレジネリスは善人だ、ということ。

 どんな理由があれ、殺人は悪。そう言い切れるだけの善性がある。

 きっと幸せな人生を送ってきたのだろうな、とアルバルゴは推測する。

 親に、友に、仲間に、愛に恵まれて生きてきたのだろう。



「仮にそうだったとして、どうすればよかったのでしょうね」



 アルバルゴは、言葉をはさむ。

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