第22話「悪役貴族、忙殺される」

人を殺す手段には色々ある。

刺殺、絞殺、毒殺、撲殺などなど様々だ。

しかし、実はこれらの死因は割合としては多くない。

どちらかと言えば人を殺すのは病や老い、そして過労である。



「やることが多すぎる……」


 アルバルゴは青白い顔で机の上に積み上げられた書類の山と格闘していた。

 サトゥーゴ家は法曹に携わる貴族。

 故に処理しなくてはならない書類も膨大である。

 そしてそれは、はっきり言ってアルバルゴの手に余っていた。

 一応サトゥーゴ家にも文官はいる。

 だがしかし、彼らはあくまで公爵の補佐であり、彼らが受け持つ仕事は三割にも満たない。

 残った七割の仕事はサトゥーゴの父親ーーエルゴ・サトゥーゴがこなしていた。

 父親としては失格レベルだったが貴族、文官としてはかなり優秀であったらしい。  だとしてもその能力を使い、不正で息子を陥れるというのはいかがなものかと思うが。

 というか、家を伸ばす手段が主に不正だったことからもレベルの低さがうかがえる。

 ともあれ、ここでの問題はそういう超人的な能力をアルバルゴが持っていないことにある。

 要するに業務が滞っており、パンク状態であるということだ。



「お、お疲れ様です。アルバルゴ様……」



 おっかなびっくりといった様子で執事服に身を包んだピオナが、紅茶とクッキーの入ったお盆を抱えて持ってきた。



「ああ、ありがとう、ピオナ」



 正直まずい。仕事量が多すぎて忙殺されている。というか忙しさに殺されるのではないかというレベルで仕事が多い。



「うん、この手紙は」

「なんですか?」

「王家の紋章が入ってる」

「お、王家の紋章?」



 言うまでもなく、王家の紋章は、王族しか使えない。

 わざわざ王族が、こちらに書状をよこしたということだ。




「差出人は、レジネリス・アストレイ、か」



 アルバルゴは、その名を知っていた。

 レジネリス・アストレイ。

 アストレイ王家の第一王女であり、『ブレイブ・クエスト』に登場するヒロインの一人でもある。

 『ブレイブクエスト』は主人公が戦闘やヒロインの交流を通じて成り上がりを成し遂げるというのがストーリーの根幹であり、王女と結ばれ国王になりあがるルートがトゥルーエンドであるとされている。

 とはいえ、主人公に転生したわけでもないアルバルゴには関係のない話だ。

 問題は、彼女から届いた手紙の内容である。


「……エルゴ・サトゥーゴ様に対する弔問の意、ですか?このエルゴ様というのは、そのもしかして」

「ああ、前話した俺の父親だ」



 ピオナには、アルバルゴが冤罪で処刑されたこと、能力で蘇生したこと、そして報復として父親を含めて虐殺を決行したことなどを話してある。



「公爵が死んだ際に王族が介入してくるのは不自然じゃない。遠い親戚だし、何も言ってこない方が人として不自然なくらいだ。ただ、どうにも嫌な予感がする」




 根拠はない、ただの直感だが……なんだか妙な感覚がある。

 



「あの、もしかしてアルバルゴ様がぶち殺したのがバレてるんでしょうか?」

「その可能性もあるね」




 目撃者はいないはずだし、証拠もすべて消し去ったつもりだが、なにかしらの抜けがないとも限らない。

 いやそもそも、王家がもしを確保していたら……。

 


「なら、会うしかないか」



 リスクはあるが、会うしかない。

 アルバルゴは、理解していた。

 そうするしかないと、判断した。

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