第20話「悪役貴族、甘味を楽しむ」
「あの、紅茶とお菓子をお持ちしました」
「おっ、ありがとう。チョコケーキかな?」
「は、はい!が、頑張って作りました。あの、よろしければ召し上がっていただけると……いえ、別にご主人様に何か強いるなんてつもりはないんですが」
「いや、いただくよ」
書類仕事ばかりで、糖分が欲しくなるところだったのだ。
皿に乗ったケーキを一つ手に取ると、口に放り込む。口の中のスポンジ生地を咀嚼しようとして……アルバルゴは固まった。
「ねえ、ピオナ、これ、味見した?」
「え?」
ざりざりとした炭の感触をしたものを紅茶で飲み干しながら、アルバルゴは問う。 チョコケーキだと思っていたものはどうやらケーキ状の炭だったらしい。
「あ、ああああああああ。も、申し訳ありません。今すぐおさげします。首を切ります!」
「待って待って待って待って」
どこからかいきなり鋏を取り出した彼女の手を壊れない程度に優しくつかんで止める。
身体強化魔法は強力だが、加減が非常に難しいのが欠点だ。
一歩間違えると、制圧したい相手を殺しかねない。
「も、申し訳ございません、私ケーキを食べたことがなくて、厨房にあったレシピを元に作ってみたのですが、うまくできなくてごめんなさい!」
「いやまあいいよ、失敗は誰にでもあるし」
それに、食べれなくはない。
焦げに混じってほのかなチョコの香りをわずかに感じる。
だから大丈夫だろう、多分、きっと。
「で、ですがご主人様にそんなものを食べさせるだなんて、私の命を捧げても……こんなゴミを捧げても意味ないかもしれませんがせめて」
「どうどう」
アルバルゴは、ぽんぽんと頭をなでながらピオナを静止する。
「ごめんな。でも、取り敢えず落ち着いてくれ」
「ふ、ふぁい」
顔を真っ赤にして、ピオナは動きを止めた。
危険なので、そっと鋏を取り上げデスクの上に置いておく。
「いいっていいってそれはそれとして、ちょっとお願いしたいことがあるんだけど」「な、なんでしょうか」
「魔法とか、呪いについて勉強しておいてほしいんだ。そして、それが終わったら僕にも教えてくれ」
「わ、わかりました!呪いの勉強ですね」
これでいい。確か『ブレイブ・クエスト』においてピオナは呪術師として登場する。
つまり、彼女には呪いを扱う才能があるはずなのだ。
付け加えれば、彼女に魅了の呪いが効かなかったのも多分同じ理由。
だと推測できる。
これからどうなるのかわからないが、生き延びるためにも、彼自身の目的を達成するためにも戦力を拡大しておいて損はないはずだ。
「わかりました!不詳ピオナ、呪術を学んでいこうと思います!」
「頼りにしてるよ」
「は、はいっ!」
あと、何かしら役割を与えておいた方がいい。
少なくとも、アルバルゴはピオナに死んでほしくなかった。
「ああ、頑張ってね。教材はそこにあるものを使っていいから」
アルバルゴは、来客用のソファとテーブルに積まれた本を指さす。それは、死んだ呪術師の所有物だった。
魔術や呪術に関する本や論文が大量に積まれている。
彼女を見ると、素で二本に没頭していた。
やはり、彼女の性格的にこうやって仕事を与えておく方が精神が安定する。
暇になってしまうと色々と考え込んでしまって爆発する可能性が高い。
数少ない味方である彼女を、簡単には失いたくなかった。
「さて、僕も仕事をするか」
アルバルゴは紅茶を喉に流し込みつつ、デスクの上に積まれた書類に取り掛かった。
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