第18話「悪役貴族、少女を共犯者にする」

「さてと、じゃあピオナ。――殺せ」

「あ、う」



 アルバルゴが、耳元でささやかれる。




「殺せ、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ」

「あ、ああ」

「殺せっ!」

「うあああああああああああああああああっ!」



 ピオナの脳内に、封じ込められたはずの記憶が流れ始める。

 フラッシュバックする。

 両親からは虐待され、借金のカタに売られ。

 奴隷商からは目をつけられたのか、魅了の呪いが効かないせいで売り物にならないと思われたのか散々折檻され。

 他の奴隷からも、いじめのターゲットになり。

 呪術師に引き取られてからは怪しい術式の実験台にされた。

 解放、されるのだろうか。

 目の前のこいつを殺せば、敵をすべて殺せば。

 もう、自分は。



「自由になれ!ピオナ!僕と一緒に!」

「ああああああああああああああああああああっ!」

「ぴぎゅっ!」


 アルバルゴに命じられたからだけではない。心の声の望むまま、ピオナはナイフを振り下ろした。

 執事は、一度びくりとけいれんし、そのまま動かなくなった。



「おめでとう、ピオナ」

「はい、アルバルゴ様。にへ、にへへへへ」



 血まみれのナイフを持ったまま、引きつった笑いを浮かべて。

 抱きついてきた。

 とっさに、頭をポンポンとなでてやる。



「あう、にへへへへへへ」



 顔を真っ赤にしながらも、ピオナはどこか嬉しそうだった。



 ◇



「さてと、これからどうしようかな」



 執事長の遺体の始末を牢屋番に命じたアルバルゴは、公爵の執務室でくつろいでいた。

 あのあと、更に何人かの人間が公爵邸をやめた。

 おそらくは、執事長の派閥だろう。

 もしかしたらアルバルゴをはめたことに関与しているのかもしれないが……アルバルゴは彼らを殺そうとはしなかった。

 わざわざ殺すほどの価値も脅威もないと判断したからである。



「とりあえず、敵対したやつらは全員殺したはずだけど」



 ではやることが全くないかと言われればそんなことはないわけで。

 与えられた領地の運営に、サトゥーゴ家の役割である裁判など、当主としてやるべきことはいくらでもあった。

 だがまず、その前に片づけるべき問題がある。

 そうアルバルゴが考えていた時。



「し、失礼します」



 こんこん、と音がして。

 ドアを開けて、ピオナが入ってきた。

 ただし、ぼろきれではなく、執事服に身を包んで。


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