第17話「悪役貴族、少女を勧誘する」
「な、何をおっしゃっているのですか?」
「いや言葉通りだけど、わからなかった?」
「あ、いえあの、決して公爵様のお言葉を理解できていないわけではなくて、決して否定したいわけでもなくてですね」
「うん、わかったよ」
「あの、でもこの男をアルバルゴ様は殺したいのでは?わ、私が殺してしまっては横取りになりませんか?」
「うーん、まあそれは否定しないんだけどね?」
殺したいかと言われて、首を横に振れば、それは嘘になるが。
「僕はね、敵に回った相手は全部殺すと決めている。けど、殺し方に幅があってもいいと思ってる。だから、君がこいつを殺しても横取りされたとかそんな風には思わない」
「な、なるほど」
ピオナに殺させるという形であっても、彼にとってはそれでいいと考えているのだ。
「でもな、ピオナに殺させるのはピオナの為でもあるんだ」
「え?」
「???」
執事長が意味がわからないと言わんばかりに見てきた。
不愉快だったので、アルバルゴは彼の頭を掴んで床に押し付ける。
「ごぼえっ」
鼻が折れる鈍い音がして、じんわりと鼻血が床に広がっていく。
それを鼻で笑いながら、アルバルゴはピオナに向き直り、話を続けた。
ピオナは、明らかに戸惑っていた。
ぼろぼろの服の裾をぎゅっとつまんで、震えていて。
それでも、彼女はアルバルゴから目をそらさなかった。
いや、逸らせなかったのかもしれない。
それほどに、彼の言葉はピオナの心に突き刺さった。
「僕は前世で、父から虐待を受けていた。そして、当時はそれが普通だと思っていたんだ。それは仕方がないことなんだと、変えられないことなんだと」
「…………」
誰も言葉を返さなかった。
執事長は、鼻が潰れた痛みと苦しみゆえに。
ピオナは、アルバルゴの境遇に衝撃を受けていたがゆえに。
自分と、ほとんど同じものだったから。
「けれど、酔っぱらった父親を風呂場で殺して初めて、僕は気づけたんだ」
アルバルゴは、血まみれの手でそっとピオナの手を握る。
ピオナは拒絶しなかった。
「何に、気づけたんですか?」
「僕が不自由だったことと、そして敵を殺せば自由が手に入るってことを」
キラキラと、目を輝かせてアルバルゴは語る。
口にする内容は異常者の妄言であるはずなのに、どうしてだろうか。
ピオナは、彼の言葉を聞かずにはいられなかった。
彼の顔から眼を逸らすということが出来なかった。
胸が高鳴り、彼に触れられた手がじんわりと熱くなっていくような感覚さえも覚えていた。
彼の言葉は、どうしようもなく間違っていた。
けれど、それはピオナにだけは響く言葉だった。
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