第15話「悪役貴族、執事長を蹂躙する」

「が、あああああああああああああああああああああ!」



 執事は右腕で左の肩口を抑え、牢の石畳の上をのたうち回る。

 一方アルバルゴは、表情を変えずに、手に着いた血を袖で拭っていた。




「これでも、蘇生を防げないのか……」



 執事長は、うめく。

 悪夢としか言いようがないだろう。

 執事長は、アルバルゴが復活する所を直接見てはいない。

 ただ、アルバルゴ本人の語りから、一つの仮説を導き出し、攻略法を練った。

 常人離れした再生力が、不死身のタネだと。

 無論事実とは大きく異なる。

 完全にただの勘違いだ。

 アルバルゴの不死身は。



「悪いけど、僕の不死身ってゲームのコンティニューだから、死体をどうにかしても意味ないんだよね」



 敵を殺せば残機が増える。

 そして死ねば残機を消費して肉体を再構築する。

 魔術とも異なる埒外の仕組みゆえに、再生を封じるなどの小細工は通じない。 



「さて、と」



 死んでいる間の記憶は、アルバルゴにはない。

 何が起こったのかわからないが、多分切り離された頭と体が勝手に動いてくっついたんだろう。

 そう、アルバルゴは直感した。

 その考えは正しい。



「不死身……」



 ピオナは、見ていた。

 空中に縫い留められたアルバルゴの頭部と胴体。

 それらが、急速に引き合った。

 縫い留められた肉体が耐えきれずバラバラになるほどに。

 そして、死後さらなる損壊を咥えられた肉体は空中で復元され、一つの体に戻り。

 アルバルゴは執事長に腕の報復を果たしたのである。

 だけど、そんなことはどうでもいい。

 執事長は、なおも残った右腕をピオナに向けていた。

 切断魔術を使い、またしてもアルバルゴを人質にとるつもりなのだ。

 そして、ピオナのことも殺すつもりだろうと、アルバルゴには理解できた。

 もっともアルバルゴも、そんな理不尽を許容するつもりはないが。



「その子も、殺す気だったのか。見下げ果てたやつだ」

「仕方がないだろう……目撃者は消すものだ」

「本当に不快だね、どいつもこいつも、本当に碌でもない」

「親殺しに言われたくない!」



 顔から脂汗を流し、息を切らせながら、それでも目を憎悪に血走らせて。

 執事長は、アルバルゴを睨んだ。



「そんなこと言われても、子殺しをしようとしたんだから子供に殺されても仕方なくないかな?」

「黙れ黙れ黙れ!」



 執事長は、口から唾を飛ばしながら、憤怒の形相でアルバルゴを睨む。



「【切り開――」



 切断魔術を行使、ピオナを斬ろうとする。

 アルバルゴに、ピオナは人質として有効だ。 

 故にアルバルゴがピオナを庇おうとすればそこが隙になる。

 執事長はそう考えた。



「読めてるよ」




 そしてアルバルゴもまた理解していた。 

 全力で跳躍。

 ピオナを抱えて斬撃から彼女を逃す。

 


「わ、きゃあ!」

「ごめんね」



 右手で抱き抱えながらピオナに侘びつつ、アルバルゴはさらに跳躍。

 左手を伸ばして。


「が、あ」



 執事長の右腕をもぎ取った。

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