第14話「悪役貴族、執事長と対決する」
「まあ、何で僕を殺させようとしたかだけど、多分君も彼らと同じだね。主を殺した僕のことが憎くて仕方がないわけだ」
執事長は公爵――アルバルゴの父親に仕えていた。
彼を殺したアルバルゴを、憎いと思うのは当然かもしれない。
もっとも、だからと言ってアルバルゴが手心を加えることはあり得ない。
アルバルゴにとって、殺す基準は明確だ。
というより、明確でなくてはならない、
彼にとって殺人は理不尽への報復であり、彼の行動基準はすべて理にかなっていなければならない。
それが傍から見れば破綻者の妄言であっても。
「僕は、お前を許さない。僕を殺すために行動を起こしたやつを、敵以外の存在として考えることはあり得ない」
「…………」
殺気をみなぎらせたまま、アルバルゴは断言する。
加害行動の有無こそが、アルバルゴの定めし超えてはいけない一線なのだと。
「お前に選ぶ権利を与えよう。直接僕を害そうとしてきたわけじゃないからね」
「……何を?」
そうつぶやいた瞬間、締め上げる。
「す、すごい……」
多分執事長やピオナの視点だとコマ落としのように見えてるんだろうと、アルバルゴは推測する。
「ここで殺されるか、処刑されるかどっちかだよ。選びな?」
「ぐっ」
それは、意味のない二択だ。結果のみならず、過程すら執事長にとっては同じ。
彼にとって世界は生きるか死ぬかではなくなっている。
自分を雇ってくれていた公爵への恩義が最優先であり、彼の仇を討てないのであれば今殺されようが後で殺されようが同じことだった。
「【切り、開け】」
ふっとアルバルゴは手を離す。手の力を緩めたのではない、緩んだのだ。
執事長を掴んでいた腕が切断されて宙を舞う。
切断魔法によって、執事長がアルバルゴの腕を落としたのだ。
「きゃっ!」
いつの間にか、執事長はピオナを羽交い絞めにして、首筋にナイフを当てていた。
執事長が少しでも動けば、ピオナが死ぬ。身体強化魔法を使っているアルバルゴであっても、間に合わないだろう。
「人質か。卑怯だとは思わないの?」
「黙れ。そもそも、貴様の不死身の方がよほど卑怯だろう?」
「そんなこと言われましても。まあいいや、君がピオナを抱えている限り、僕は攻撃しないよ。それでどうするの?」
アルバルゴはナイフを手放し、床に転がす。
これでもう、武器はない。
「【切り開け】」
執事長は呪文を唱えて、アルバルゴの首を刎ねる。
切断魔術――魔力で風の刃を作り、相手を切断する高度な魔術だ。
薄れゆく意識の中、アルバルゴは彼が別の呪文を唱えるのを見た。
「【刺し穿て】」
空中から風の杭が出現し、首と胴をそれぞれ縫い留める。
これで、首と胴が繋がることはないというわけだ。
蘇生の可能性はなくなった。
あとは、このまま埋めてしまえば。
そう考えかけて。
「惜しいね」
五体満足に復活したアルバルゴによって、執事長の左腕が、引きちぎられた。
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